トヨタの決算報告に見た、いま電動化戦略を描くことの難しさ

5月14日(金)6時0分 JBpress

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 トヨタ自動車は2021年5月12日、2021年3月期決算説明会をオンラインで実施した。

 説明会は第1部「決算説明および質疑」と第2部「当社の取組みおよび質疑」という2部構成で行われたが、どちらにも豊田章男社長は出席しなかった。トヨタの社長が本決算説明会に出席しないのは異例である。

 その理由について質疑の際に記者から質問があったが、「日本自動車工業会での会長職としての発言が注目されることが多いこともあり・・・」と豊田氏の最近の活動に触れつつも、決算報告に出席しない理由についての明確な説明はなかった。

 少し前を振り返ってみると、トヨタが2020年11月6日にオンラインで実施した第2四半期決算説明会では豊田社長が出席した。中間決算の記者会見に社長が出席するのはトヨタでは異例である。

 その6カ月前、新型コロナが自動車市場に多大な影響を与えていた2020年5月時点で、トヨタ以外の日系自動車メーカー各社が「コロナ禍で社会情勢の先行きが見通せない中、通期見通しの公表を差し控える」情勢だったのに対して、トヨタは「危機的状況だからこそ、裾野が広い自動車業界にとって基準が必要」という判断から、トヨタ・レクサスの販売台数800万台、営業利益5000億円という目標を掲げた。結果的に販売は下期以降、南アジアなど一部の地域を除きグローバルで段階的に回復し、通期実績は販売台数が908万7000台、また営業利益は当初の基準の4倍以上となる2兆1977億円を達成している。

 それだけに豊田氏には、自工会会長の立場ではなくトヨタ社長として、この激動の1年を振り返ってもらいたかった。さらに、“トヨタの未来についていま改めて思うこと”を、自らの言葉で説明してほしかったところだ。


電動化戦略というより「ESG投資」対策?

 さて、トヨタの未来を考える上で最も大きなテーマは、やはり電動化だろう。

 この点について第1部では、決算説明後の記者との質疑応答の中で「2030年 電動車販売比率・見通し」に関する資料を公開した。それによると、2030年にグローバルで電動車800万台、このうちBEV(バッテリー型電気自動車)とFCEV(燃料電池車)の合計は200万台とした。

 さらに販売地域を4つ分けて、それぞれの地域でも、電動化率と、そのうちの「BEVとFCEVの合計」の割合を示した。具体的には、日本は95%・10%、北米は70%・15%、欧州は100%・40%、そして中国では中国政府の2035年目標に沿う形で100%・50%と設定した。

 続く第2部では、取締役・執行役員のジェームス・カフナー氏が「カーボンニュートラルに向けたトヨタの技術と戦略」についてプレゼンを行った。「2050年までのカーボンニュートラル達成を世界的な目標として、トヨタとして100%コミットする」という基本姿勢のもと、これまでに広報発表している技術や事業を整理する内容であり、どちらかといえば抽象的な表現が多かった。おそらくこのプレゼンは、近年の企業経営では必須となっている「ESG(環境・社会・ガバナンス)投資」対策としての意味合いが大きいのだろう。

 最後の記者との質疑応答では、トヨタ側が事前に用意していた資料を用いて、各分野の執行役員が回答した。

 電動車については、「ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車などでトヨタがこれまで蓄積してきた研究開発による知見と、トヨタ生産体制(TPS)のさらなる進化により、国や地域での規制や社会状況の変化を見据えながら、顧客にとって利便性が高く継続的に使用できる電動車のあり方を考えていく」という点を強調した。

 また、研究開発の詳細ついては、例えば次世代電池として早期の量産化が期待されている全固体電池に触れ、「まだまだ開発途上であり、現在開発中の材料では電池の安全性や耐久性が(トヨタの社内基準等を)クリアできず、こうした課題解決に向けて今後も対応している」と説明した。

 さらに、開発環境のデジタル化の重要性も訴えた。「デジタル開発は、1人が図面を描くという従来型の自動車部品開発とは違い、複数の開発者が1つのソフトウエアを共同で使って作業する。こうした分野でもTPSを活用し、全体としてコスト削減や開発リードタイム低減を進める」という。実際、デジタル開発の強化により、2021年4月の上海モーターショーで世界初公開したBEVの「bZ4X」(2022年にグローバルで発売)では、従来の新車開発に比べて開発リードタイムを30%短縮している。今後は電池開発によってさらに10%のリードタイム短縮を進めるという。


今、電動化戦略を示すことの難しさ

 トヨタには、このような電動化に関する技術詳細も含めて電動化戦略の詳しい開発ロードマップを示してほしかった。

 だが、2021年5月時点の、電動車を取り巻く世界的な社会環境を鑑みると、「EV普及」という文脈だけで電動化戦略をロードマップ化して説明することは難しいのだろう。各国・各地域での環境規制の強化、そしてESG投資との絡みなどから、社会における電動車のあり方は、国や地域によって大きな差が生じている。そうした状況のなかで電動化戦略を具体的に描くことは決して容易ではない。

 トヨタとしては当面、電動化に限らず、各方面で多様な研究開発を効率的に同時進行させながら、“大きな変化に対応するための小さな変化”を積み重ねていくことになるのだろう。筆者はそれを、トヨタの言う“改善”ではなく“進化への準備”であると捉えたい。

筆者:桃田 健史

JBpress

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