「うちの子がいじめられた」と騒ぐ母を、娘は冷静な目で見ていた…児童精神科医が「救うべきは親のほう」と直感したワケ

2024年5月14日(火)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ChayTee

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子育てをしていて不安が生じたとき、どうすればいいか。児童精神科医のさわさんは「どこからどこまでが自分の不安で、どこからどこまでが子どもの問題なのか、分けて考える必要がある。これを混同して苦しんでいる親子は多い」という——。

※本稿は、精神科医さわ『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/ChayTee
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■いじめについて話が一致しなかった親子


親御さんの中には、子どもの身に起こることを自分自身の不安としてとらえてしまう人もいます。


あるお母さんが「中学生の子どもがいじめられて苦しんでいるから、診断書を書いてほしい」と診察室に来られたことがありました。


子どもの診断書を書くためには子ども自身をみなければいけませんから、その中学生の女の子をクリニックに連れて来てもらったのですが、その子の話と、お母さんの話をよく聞くと、2人の話が一致しない点があったのです。


お母さんは「この子はとても傷ついていて、もう夜も全然寝られないし、ご飯も食べられていないんです」と言っている。


けれども、その子に「どれくらい眠れないの?」と聞くと、「いや、寝られてますし、ご飯も食べられています」と冷静な返事が返ってくるのです。


どういうことかとお母さんのほうを見れば、ずいぶん怖い顔をして子どもを見て、何か合図を送っています。


■傷ついて騒いでいるのは娘より母のほうだった


ちょっとおおげさに言って診断書を書いてもらおうとされていたのかもしれません。


ただ、話をよく聞いてみると、たしかにその子はいじめられていて、傷ついていないわけではありませんでした。


が、それよりはるかにお母さんが傷ついていたのです。「うちの子がいじめられている」ということに耐えられなかったのでしょう。


お母さんがいじめのことを切々と訴える横で、黙って話を聞いている女の子を見て、私は本当に救うべきは、このお母さんなのかもしれないと思いました。


実際にいじめの渦中にいて困っているのは子どものほうなのに、お母さんが傷ついて騒いでいる。


子どもが「この子はひどい目にあって傷ついているはず」と言うお母さんに振り回されているように私には映ったのです。


苦しみの境界線のようなものが、母子の間であいまいになってしまっている状態です。


また、そのお母さんは診断書を持って学校に乗り込んでいこうとされていて、話を聞いていると、お母さんのほうがやや物事をいろいろと大きく解釈されているように感じました。


これは子どもが大変だなと思わざるをえませんでした。


子どもが苦しんでいると大騒ぎしているお母さんを、とても冷静な目で子どもが見ている様子がとても印象的でした。


■子どもが自分と同様に傷ついているとは限らない


もちろん、そのお母さんにはお母さんの価値基準があるし、親としての感情もありますから、自分の子どもがいじめにあったことで、お母さんが傷ついたということを否定するつもりはありません。


お母さんは、わが子がいじめられたことが悲しく、つらかったということは、事実としてあるでしょう。


でも必ずしも、お子さんが自分と同じくらい傷ついているとはかぎらないのです。


自分が傷ついているのだから、子どもも同じように傷ついているにちがいないという発想は、少し冷静になって考え直したほうがいいと私は考えています。


クリニックに来る親御さんは、子どものことでなにかしら不安を持っていますが、中には、親御さんが勝手に(と言ったら怒られるかもしれませんが)不安になっているだけというケースもあったりするのです。


そして、「子どもの問題さえ解決してくれたら、私の悩みなんてなくなるんです」と言っているお母さんに、こう問いかけることがあります。


「その問題は、本当にお子さんの問題ですか?」と。


■「ねばならない」が多いほど子育ては苦しくなる


偏差値の高い学校に行かねばならない、友だちは多くなければならない、人に迷惑をかけてはならないとか、親御さんの中で「ねばならない」というものが多ければ多いほど、子育ては苦しくなるものです。


親御さん自身がそうやってがんばってこられた方であればあるほど、その「ねばならない」という思いが強くなり、「ねばならない」どおりにならない子どもを見て苦しく、また不安になるのです。


私が言いたいのは、ここでもそれは子どもの問題ではなく、親御さんが問題だと感じていて不安になっているだけという可能性があることです。


もちろん、さきほどのお母さんのように、わが子がいじめられたとか、仲間はずれにされたなどと聞くと、親として心配になるのは当然です。


ただ、子どもより親のほうが狼狽してしまうと、子どもが「お母さんを心配させちゃうから次から言うのをやめたほうがいいかな」と、言い出しにくくなってしまうことが児童精神科医としてはとても心配です。


■どこからどこまでが自分自身の不安か、分けて考える


子どもに関する不安があるときは、どこからどこまでが親である自分自身の不安で、どこからどこまでが子どもの問題なのかということを分けて考える必要があります。


写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

これまでは、偏差値の高い学校に行かせなければならないと思い込んで、成績の届かないわが子のことが不安だったけれども、よく考えてみたら、自分がそのように育てられてきたから、そう思い込んでいるだけだった。


子どもの問題ではなくて、自分自身の問題だったと気づけば、子どもに対する行動も変わってきます。


無理に偏差値の高い学校に行っても、入学後についていけずに自信をなくしてしまう可能性もあります。


それに単に偏差値の高い学校という基準でなく、子ども自身が好きなことを学べる学校や、性格に合った校風の学校という選択肢もあるかもしれません。


考え方はさまざまですが、まずお母さんが自分の不安の正体に気づくことが大切です。


漠然とした不安を具体化するというのは、不安を安心に変える方法のひとつとしてとても有効です。


そうすることで、自分自身の気持ちが楽になり、子どもへの接し方も変わってくるのです。


お子さんに漠然とした不安を感じている方は、まずは自分自身の不安と向き合ってください。


自分はなにがそんなに不安なのか、その不安はどこからきているのかな、と。親が自分自身と向き合う習慣をつけることで、子どものことで過度に不安にならず、冷静に問題に対処することができるようになります。


■「私は傷ついたけど、娘はそうでもなさそう」


長女は自閉スペクトラム傾向があるので、「お友だちと遊んでいても、うまく場になじめていないなぁ」と私から見て思う場面が何度かありました。


子どもというのは、とても素直な生き物です。


長女と友だちのAちゃんとBちゃんの3人で遊んでいたときのことです。


AちゃんがBちゃんに向かって「○○ちゃん(長女のこと)って、なに考えてるかつかめないよね」と長女の前で言ったことがありました。


私もその場にいたので、ちょっぴり悲しく、思わず、「そんなこと言わないで一緒に遊んであげてよー」と言いたくなったのですが、その気持ちをぐっとおさえて、長女の表情を観察しました。


そうしたら、長女は表情をとくに変えることなく、なにごともなかったかのようにその場にいるのです。


それを見て、「あ、私はちょっぴり傷ついたけれど、長女はそうでもないみたい」と冷静にその場をやりすごすことができました。


そして、少し時間がたつと長女もまじえて、みんなで仲よさそうにまた遊んでいました。


あのとき、下手に口を挟まなくてよかったと思った出来事でした。


■子どもが傷ついていないか、見極めるのが親の役目


子どもというのは、ときに残酷(に親が聞こえてしまうだけなのかもしれませんね)な言葉を放つことがあり、親である大人のほうが傷ついてしまうこともあります。



精神科医さわ『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)

でも、そんなときこそ、一度冷静になってお子さんをよく観察してみてほしいのです。


本当にお子さんが傷ついているのか、そうでもないのか。そこを見極めることは親として、とても大切なことだと私は思っています。


子どもにとって、どういう出来事が傷つくのか、それとも、そうでもないのか。子どもが自分にとってネガティブな出来事をどう受けとめて、対応するのか。


「親である自分が傷ついたから、子どもも傷ついたにちがいない、守ってやらないと」と、すぐに子どもたちの中に介入することはおすすめしません。


出来事の自分自身の感じ方、とくにネガティブな出来事であった場合、その避け方や乗り越え方というのは、子どもが自分で見つけ、乗り越えていくことによって、「自分の力で生きていく力」につながるのです。


これは児童精神科医としてというよりも、1人の母親として、わが子の成長をとおしてそう強く感じていることです。


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精神科医さわ
児童精神科医
1984年三重県生まれ。藤田医科大学医学部を卒業後、精神科の勤務医として、アルコール依存症をはじめ多くの患者と向き合う。自身がシングルマザーとして発達特性のある子どもの育児を経験したことをきっかけに、名古屋市に「塩釜口こころクリニック」を開業。毎月約400人の親子の診察を行っている。
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(児童精神科医 精神科医さわ)

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