北朝鮮ミサイル大騒ぎの裏で米国が“本物”を試射

5月16日(木)6時4分 JBpress

5月1日にヴァンデンバーグ空軍基地から発射されたミニットマン3型大陸間弾道ミサイル(出所:ヴァンデンバーグ空軍基地、Photo by: Aubree Milks)

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(北村 淳:軍事アナリスト)

 北朝鮮は5月4日と5月9日に弾道ミサイルを試射した。いずれも飛距離300キロメートル前後の短距離弾道ミサイルではあったものの、北朝鮮の弾道ミサイル試射などの活動を禁止した「国連安保理決議1695」に違反したことになる。しかしながらこれまでのところ、アメリカ政府をはじめ国際社会では北朝鮮の決議違反は取り沙汰されていない。


トランプ大統領の本音

 5月4日に引き続き9日にも北朝鮮が弾道ミサイル試射を実施したことを受け、トランプ大統領は「誰もハッピーじゃないよ」と懸念を表明した。しかし、そのあとのPOLITICO(政治専門の米ニュースメディア)によるインタビューでは、北朝鮮が試射したのは短距離弾道ミサイルだから大した問題ではないと語っている。主なやり取りは以下の通りである。

POLITICO「ペンタゴンは北朝鮮が弾道ミサイルを発射したことを確認しましたが、これはあなた(トランプ大統領)と金正恩の間の信頼を反故にするものと考えますか? あなたはこれに対して怒っていますか? または失望していますか? そしてアメリカはどのように対応すべきと考えますか?」

トランプ大統領「いいえ(怒ってもないし)、いいえ(失望してもない)、全然そのようには思っていないよ。それらは短距離(弾道ミサイル)だった。それらは短距離だったから、私は信頼が崩れたとは思っていない。いつかは対抗措置をとるかもしれないが、それは今ではない。それらは短距離で取るに足らないミサイルだった。まったく取るに足らないものだよ」

POLITICO「あなたは、北朝鮮の弾道ミサイル発射を止めさせたことを大変誇りにしていましたが、これ(今回のミサイル試射)は挫折とは考えられませんか?」

トランプ大統領「・・・それら(試射した飛翔体)のうちのいくつかは、ミサイルですらなかった。北朝鮮が発射した(飛翔体の)いくつかは、ミサイルじゃなかったのだ。しかし、これ(ミサイルだった飛翔体)は短距離(弾道ミサイル)だったのだ。だから私は信頼が崩れたとは考えていない。何らかの措置をとるときにはあなたに伝えよう。つまり、ある時点で対抗措置をとる可能性はある。しかしながら、今ではないよ」

 このように、トランプ大統領にとって、北朝鮮が今回続けて試射したような短距離弾道ミサイルは「真剣に問題視するに値する弾道ミサイルではない」ということなのだ。


アメリカが警戒しているのはICBMだけ

 北朝鮮が短距離弾道ミサイルで攻撃できるのは韓国(距離的には中国とロシアも射程圏内であるが)だけである。当然、アメリカ本土はもちろん、アラスカやハワイやグアムも、短距離弾道ミサイルとは無関係だ。

 韓国内には米陸軍と米空軍の部隊が駐留しているが、準戦時状態にある朝鮮半島に展開している部隊である以上、短距離弾道ミサイル攻撃の危険性など織り込み済みである。よって、米軍にとっても米国民にとっても取り立てて騒ぐほどのことはないのである。

 要するに、トランプ政権が問題視しているのは「アメリカ本土が直接深刻な影響を受ける核弾頭搭載大陸間弾道ミサイル(ICBM)だけである」ということがトランプ大統領によって明言されたようなものである。


時を同じくして“本物”の弾道ミサイルを試射した米軍

 トランプ大統領が「短距離弾道ミサイルなど相手にしない」という姿勢を露骨に示してしまったのは、当然といえば当然なのかもしれない。なぜならば、北朝鮮が短距離弾道ミサイルを試射した前後に、アメリカ自身が“本物の弾道ミサイル”である大陸間弾道ミサイルの試射を3回実施したからだ。

 5月1日、カリフォルニア州のヴァンデンバーグ空軍基地からおよそ7000キロメートル離れた太平洋のマーシャル諸島に位置するクェゼリン環礁着弾地に向けて、米空軍地球規模攻撃軍団第90ミサイル航空団がミニットマン3型大陸間弾道ミサイル(弾頭は装着していない)を発射した。

 引き続き5月9日、北朝鮮が2回目の短距離弾道ミサイルを試射した直後、再び米空軍はヴァンデンバーグ空軍基地からクェゼリン環礁着弾地に向けてミニットマン3型大陸間弾道ミサイルを発射した。

 そして同日、空軍によるミニットマン3型発射に引き続いて、フロリダ州ケープ・カナベラル空軍基地沖海中から米海軍戦略原子力潜水艦ロード・アイランドが、トライデントII-D5型弾道ミサイル(弾頭は装着していない)を発射した。今回試射したトライデントII-D5の射程距離は2000キロメートル程度であったが、このミサイルの最大射程距離はICBM同様に1万1000キロメートル以上と考えられている。


北朝鮮の“取るに足りない”試射とは無関係

 米空軍による2度にわたるミニットマン試射も、米海軍によるトライデント試射も、北朝鮮の弾道ミサイル試射とタイミングを合わせるかのように行われたわけであるが、米軍当局は、米軍による弾道ミサイル発射テストは北朝鮮とは無関係であるとしている。

 実際に2018年の1年間だけでも、5月、7月(天候急変のため飛翔中に自爆させて試射は失敗した)そして11月に米空軍はICBMの試射を実施している。また、戦略原潜からの弾道ミサイル試射は、新造艦や大規模メンテナンスを実施した艦では必ず実施されるDASOと呼ばれているプログラムの一環であり、今回の試射で172発の弾道ミサイルを成功裏に原潜から発射したことになった。

 このように、ヴァンデンバーグ空軍基地からのICBM試射も、戦略原潜からの弾道ミサイル試射も、ともに前もって計画されていたミサイル発射であって、北朝鮮のミサイル発射に米軍当局が即応した行動と考えることは難しい。

 定期的に7000キロメートルもの遠距離に弾道ミサイルを撃ち込んだり、原潜から172発もの弾道ミサイルを発射したりしているアメリカにとって、300キロメートル程度の飛距離しかない北朝鮮の短距離弾道ミサイルなど、やはりトランプ大統領が語ったように「深刻に対処するに値しない」ミサイルにすぎないということなのかもしれない。

筆者:北村 淳

JBpress

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