場の創出が要!続々登場オープンイノベーション拠点

5月16日(木)6時0分 JBpress

企業の「オープンイノベーション拠点」に出向く価値はあるか

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 数年前まで、コワーキングスペースというと、主に決まった職場を持たないフリーランスやリモートワーカー、起業家等がそれぞれ黙々と自分の仕事を進めるための場所、という印象が強かった。しかし、最近では単なる場所貸しに留まらず、バックオフィス業務の一部代行や、異業種企業・有望なスタートアップとの交流機会を提供し、協業を促進する施設が増えてきているようだ。

 今回はこうした潮流に着目し、「オープンイノベーション拠点」としての機能を備えた「新型」のコワーキングスペース・シェアオフィスを取り上げる。こうした施設は不動産の新たな活用法としても注目を集めているが、一体どのような取り組みが行われているのだろうか。


2018年、ついに日本へやってきた「黒船」WeWork

「新しい形のコワーキングスペース」というと、2018年2月に日本へ上陸した「WeWork」を思い浮かべる読者も少なくないだろう。ゆったりとしたソファが置かれた明るく開放感のあるフロア。ガラスの壁で仕切られた会議室に、ビールサーバーを備えたドリンクコーナーなど、目につく特徴を挙げていくだけでも、同社が手掛けるコワーキングスペースやシェアオフィスが、従来のそれらとは全く異なるコンセプトでつくられていることが分かる。

 しかし、ソフトバンクグループが多額の投資を行うことでも知られるWeWorkは、「先進的なコワーキングスペース」というイメージだけを武器に、世界中で多くの会員を獲得してきたわけではない。同社が手掛ける空間づくりやサービスには「各自の業務を効率的に進める」ためのオフィスという視点に加えて、オープンイノベーションを創出するための「場」づくりという視点が色濃く反映されている。

 各拠点に常駐するスタッフは日々のやり取りから利用者たちのニーズを見出し、それに即したイベントを開催する等して、利用者同士のコミュニケーションを促進させる手助けを行っている。さらに、同社は会員向けのアプリケーションを通じて、オンライン上でスタッフや世界中の会員たちと手軽にコミュニケーションを取る手段を提供している。このアプリには、解決したい課題を持つ会員と、解決するための手段を持つ会員をマッチングさせるシステムも搭載されていることからも、WeWorkの本質は物理的な場所を整備して貸し出すことではなく、オープンイノベーションを促進させるプラットフォーマーだという点にあることが分かる。

 同社のビジネスモデルは世界中で高く評価されており、近年では起業家やフリーランスだけでなく、マイクロソフトやIBM、KDDIやみずほ証券、日本経済新聞といった大手企業の法人会員が急増している。

 オフィスを単なる場所として捉えた場合、WeWorkの利用料金は割高に感じられるかもしれない。しかし、WeWorkの利用料金には各種インフラや家具・OA機器や備品といった業務に必要な設備に加えて、スペースの清掃や郵便の受取代行、来客時の受付対応といったオフィスとして必要なサービスの利用料金も含まれているため、ビルの一室の「賃料」と比べられるものではない。敷金や内装工事が不要で、入居後すぐに業務を開始できる上に、何より他企業やスタートアップとのコラボレーション機会が得られるというメリットは、イノベーション創出を急ぐ大手企業にとって大いに魅力的なものなのだろう。

 このように単純な入れ物としてではなく、ビジネスを加速させる出会いの「場」としての意味を持たせたコワーキングスペースやシェアオフィスは各地に増えつつあり、「コト消費」時代における新たな不動産の利用法としても注目されている。


先進企業が集まるオープンイノベーション拠点

 オフィスに出会いの「場」としての機能を持たせた「オープンイノベーション拠点」。不動産業界ではビジネスモデルとしての注目度も高く、2019年4月24日に国土交通省が業界を発展させていくための指針として発表した「不動産業ビジョン2030」でも、オフィスに対する企業ニーズの変化に触れられており、不動産業が果たすべき役割や期待される将来像の一つとして「人々の交流の『場』を支える産業」というものが挙げられている。

 その他の業界でも、主に自社の新規事業創出に繋げることを目的に、オープンイノベーション拠点の運営を試みる企業が増加している。具体的な事例を見ていこう。

●BASE Q
 三井不動産が東京ミッドタウン日比谷の6階に設置したオープンイノベーション拠点。2018年5月15日より本格始動。

 ベンチャー企業やNPO、官公庁や大企業のイントレプレナー等、多様な背景を持つ人々の協業を促し、新たな価値の創出や社会課題の解決を支援するための場として運営されている。イベントホールや誰でも利用できるカフェスペース、予約制のワークスペースに加えて、別途会員専用のコミュニティスペースなどを備えている。

 また、大企業のイノベーション創出を支援することを目的に提供されている「BASE Qイノベーション・ビルディングプログラム」にも注目したい。2015年4月にベンチャー共創事業部を設置して以来、ベンチャー支援に力を入れてきたことの知見が活かされており、戦略整理から社外パートナーの探索、協業という一連のプロセスを専任のコンサルタントが一気通貫で支援するサービスや、最新のベンチャー企業の動向、新規事業の進め方といった、オープンイノベーションの実践に不可欠な知識を学べる教育カリキュラムを提供している。

●SENQ
 日本土地建物が運営するコワーキング・シェアオフィス型のオープンイノベーション拠点。

 2016年11月の「京橋」オープン以来、「青山」「霞が関」と拠点を拡大しており、2019年5月には「六本木」拠点をオープンさせている。各拠点には地域性に応じたテーマが設定され、それぞれテーマに基づいたイベントを実施しているほか、拠点内や拠点間における会員同士の交流やマッチングも支援。加えて、メンターやアライアンスパートナーが事業成長や課題解決をサポートする仕組みを提供している。

 それぞれの施設テーマは、京橋が「FOOD INNOVATION」、青山が「CREATOR'S VILLAGE」、霞が関が「LEAD JAPAN」、六本木が「CHANGE THE THEORY」となっている。

●シティラボ東京
 2018年12月6日に東京建物が東京スクエアガーデン6階にオープンした、持続可能な都市・社会づくりを行うためのオープンイノベーション拠点。

 コワーキングスペース等の提供のほか、SDGsやESG投資、テクノロジーなどをテーマとした各種イベントの開催に加え、サステイナビリティを軸としたスタートアップコミュニティの立上げや、社会起業家育成プログラムの提供などの実施を予定している。

●LODGE
 2016年11月1日、ヤフーが千代田区の自社オフィス内に開設したことで話題を呼んだオープンコラボレーションスペース。

 ヤフー社員と利用者の接点の場として協業の機会を生むだけでなく、利用者同士を結び付けて、情報交換や新たな協業機会の創出をサポートする取り組みも行われており、2017年には「DMM.Africa」と「タイガーモブ」のコラボレーションを生む等の実績に繋がっている。

 1330平方メートルにも及ぶ広大なコワーキングスペースであるため、イベントも数多く実施されているが、コンセプトにそぐわないイベントや貸切のイベントは行われていない。同様の理由で、個室の貸出も行なっていない。

●hoops link tokyo
 2017年9月1日、スタートアップや大企業、自治体、大学等様々な立場の人々が集い、社会的な価値を創出する場として、ITベンチャーが集中する渋谷に三井住友フィナンシャルグループが開設した、会員制のオープンイノベーション拠点。

 同グループが運営するアイディエーションプログラム「SMBC Brewery」の拠点でもあり、2019年3月25日にはこの共創プログラムの成果として、SMBC日興証券とHEROZが共同で開発した「AI株式ポートフォリオ診断」サービスの提供開始が発表された。

 打ち出しているコンセプトの違いによって、集まる企業や団体の性質も異なってくる。こうしたイノベーション拠点に足を運ぶ際は、それぞれのコンセプトや運営母体、パートナー企業等を確認しておくと良いだろう。


今後も増加が予想される、共創の「場」

 サブスクリプション型ビジネスモデルの台頭にも代表されるように「モノからコトへ」の移行が仕事をする場=オフィスにおいても主流となってきている。オフィスの定義すら変わりつつある中で、今やあらゆる業界で必然性が叫ばれる共創の「場」は今後も増加が予想される。

 協業を成功に導くには、協業相手と相互理解を深めていくことが必要不可欠だ。しかし、大企業とスタートアップにおいては、企業文化や意思決定速度が全く異なる。それを理解していないと、せっかく理想的な協業相手を見つけられたとしても、良い関係性を構築できずに終わってしまう危険性が高い。

 特に、大企業に長く席を置く人にとって、スタートアップ経営者やそこで働く人々が持っている独特の熱気やスピード感は、実際に接してみないと想像し難い部分が大きいだろう。具体的な協業相手の目星をつけるまでに至らなくとも、「スタートアップを理解する」という意味において、こうした「場」に足を運んでみるのは非常に有用だ。スタートアップ側も、日頃からこうした場で、多様な人々と接触し、大企業の文化や組織体制、意思決定プロセス等を把握しておけば、いざ特定の大企業との協業が決まった際も、担当者の立場を理解し、スムーズに事業を進めていくことが容易になるだろう。

 意欲的なスタートアップや大企業のイノベーション事業部が集中するオープンイノベーション拠点は、新たな価値の創出を試みるビジネスマンにとってたいへん魅力的であり、刺激的な「場」だ。特定の協業先を見つけ出すという目的でなくとも、異なる文化に触れて知見を広げ、組織の枠を越えた人脈を作るための「場」として、一度足を運んでみてはいかがだろうか。

筆者:松ヶ枝 優佳

JBpress

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