日本流「自分らしさを極める」組織のあり方とは?

5月18日(金)18時0分 Forbes JAPAN

「制度を手本にしたい」「ノウハウを持って帰りたい」

今年1月に発売された組織マネジメントの本『ティール組織』(英治出版刊)にポイントサイトを運営するオズビジョンの2つの施策が掲載された。

朝礼前に従業員がお互いの良いところを言い合う、年1回家族を食事に招待して社内ブログに書いたら特別休暇と2万円がもらえる。社員間の絆を深めようと2009年ごろに実施した施策で、今はやっていない。しかし、出版後、様々な会社から問い合わせが相次ぐ。2月にはロシアの銀行最大手「ズベルバンク」極東支社の幹部5人がはるばる視察にやってきた。

「あの2つが切り取られて広まるのは少しもどかしいんです」と社長の鈴木良は切り出した。同社は組織改革のために何十もの施策を試行した。「そのうちのたった2つ。他の会社が真似しても意味がないと思う。組織改革の本質は会社の存在意義そのものです」。

なぜ自分は働くのか。会社の存在目的は何なのか。当時、経営方針に悩んでいた鈴木が振り絞って出した答えが「自分と従業員の可能性を最大限、具現化できる会社をつくりたい」という思いだった。

鈴木は、一人一人の可能性を最大限引き出すには、「全人格的」なコミットメントが必要だと考える。だから従業員が仕事のことだけでなく、お互いのプライベートもさらけ出せる関係性を目指して、仕組みをつくってきたという。誰が何に共感しているのか

ティール組織、ホラクラシー、人間性経営など、企業の情報を従業員にオープンにして個人の裁量や自由を重視し、上下関係のないフラットな組織にするマネジメント方法や働き方の書籍が増えている。上述のティール組織の日本語版は592ページの分厚い本だが、アマゾンのビジネス・経済書の週間売り上げランキング上位に入った。全国で関連する勉強会やワークショップも頻繁に開かれている。

埼玉大学経済経営系大学院で組織論を研究する宇田川元一准教授はこう語る。「誰が何に共感して売れているのか。実践してきた人に共感が広がっていることは素晴らしいことです。一方で、今の組織に対する不満や怒り、嘆きをティール組織に託している人もいるでしょう」

ティール組織では、著者の米コンサルタント、フレデリック・ラルーが「組織の進化」の段階を色で表す。1段目からレッド、アンバー(琥珀色)、オレンジ、グリーン、ティール(青緑色)の順で、最後のティールが最も進んだ組織形態だ。今の日本の民間企業の多くはオレンジ(達成型組織)に該当する。競争に勝つことが目的で、利益と生産性の向上が追求されるトップダウンのヒエラルキー型だ。最後のティール(進化型パラダイム)に進化すると、個人の自主性と組織の存在目的が重視され、組織構造はオープンでフラットな形になる。

宇田川氏は、実際の組織現象では逆のことが起きていると指摘する。「普通に考えると最初はベンチャーなどティールに近いような組織が、その後に規模が大きくなるなどして効率を求めて機能分化が進むと、徐々にオレンジになっていっています」

一方で、「重要なのは、想定していない問題が起きた時に、その組織での立場にとらわれずに必要に応じて話し合って決められる組織です。ティール組織の本が目指す方向性も同じです」と話す。

今回、既存の上司や部下、組織と従業員との関係性を踏襲しない、ユニークなマネジメント方法を試行錯誤する企業10社を取材した。彼らは、会社の外部や内部で発生する問題に対処するために、知恵を絞って今の形をつくってきた。

フリーランスや副業が増え、雇用形態の自由化が進む中で、会社に所属する意味は何なのか。創業者の多くは、自分らしく働けない現状に直面し、自分や自分のビジョンに共感する従業員が「一緒に働きたい」と思える会社を自らつくり上げた。なぜここで働くのか。その答えを突き詰めると、「働く」を超えた自分らしさと社会との関わり方が見えてくる。

本社オフィスを撤廃

朝9時になるとパソコンを立ち上げて会社のコミュニケーションツールにログイン。「おはようございます」と自分のタイムラインに書き込む。毎朝配信される社長の音声メッセージを朝礼代わりに聞き、画面に並んだ同僚の顔写真(2分毎に自動更新される)をクリックして「最近どう?」と雑談する。

同僚は広島、浜松、神戸、東京と各地に散らばるが、掲示板で各自の仕事の進行具合もわかる。プライベートや仕事であったことを日記に書いてアップロードし、午後5時には「お疲れ様でした」と入力してログオフ。家に帰ってくる子どもを待つ。

16年に本社オフィスを「撤廃」し、全従業員がリモートワークで働くソニックガーデンは、上司も部下もいない。「私はプログラマーの仕事が好きです。自分を曲げずにそれを一生続けられるようにしたかった。管理するのもされるのも嫌いで、今の会社はそれを突き詰めた結果です」と社長の倉貫義人は話す。

倉貫がシステムインテグレーターの大手企業に新卒で就職した1999年当時、プログラマーは3Kの過酷な仕事だった。「言われたコードを書くだけの人夫。周りはもうやめたい、コンサルタントになりたいと言う人ばかり。働き方を変えたかった」。

好機がきたのは09年。社内ベンチャーのソニックガーデンを立ち上げた。しかし、トップダウンで命令しても、計画は進まず売り上げも伸びない。「プログラマーは職人の仕事。命令していいプログラムが書けるわけではないし、生産性は上がらない」。

悩んでたどり着いたのがセルフマネジメントだ。「管理して統制するよりプログラマーの自主性を重んじた方が生産性は高いというアジャイル開発の考え方です」。セルフマネジメントのため、社の情報は全てオープン。有給休暇取得も経費精算も自由裁量で承認がいらない代わりに全従業員に共有される。リモートワークを推進し冒頭のコミュニケーションツールを開発した。

ビジネスモデルは月額定額の受託開発にし、プログラマーが客のコンサルティングから開発まで担当する体制だ。

このような会社の仕組みや自身の考え方をブログに書いていると、問い合わせや開発依頼、入社希望者から連絡が舞い込むようになった。11年にMBO(経営陣買収)を実施し設立。売上高は非公開だが、大手企業からの依頼も増えているという。

同社は給与がほぼ一律、ボーナスは山分けという報酬体系。どうやって優秀な「職人」を維持するのか。「給料はベーシックインカム。時間が報酬です。腕が上がって仕事が短時間でできるようになると、残りは勉強の時間にできます。技術者は将来を見据えて勉強をしないと、数年後には仕事がなくなってしまう。勉強して生産性が上がれば、さらに自由な時間ができます」。

プログラマーの理想の働き方は、現代の働き手の多くにとってもメリットがある。

「不公平はやりたくない」

「誰かが損するような不公平は絶対やりたくない。許せないんです」と語気を強める武井浩三が社長を務めるダイヤモンドメディアは肩書も役割も各々が決める。「管理しないのではなく、仮想通貨のようにマネジメントが社内に分散している。代表役員も毎年社外の人も交えて投票で決めます。お祭りみたいですよ」


ダイヤモンドメディア代表取締役 武井浩三

武井は起業で失敗した苦い思い出がある。米国に音楽留学して帰国後、22歳で友人を誘って創業したが「大失敗」した。大学や大手企業を辞めて手伝ってくれた友人の人生をめちゃくちゃにしてしまったと悩んだ。経営書を読み漁り、出会ったのがブラジルのコングロマリット「セムコ」だった。

「皆同じ権利を持ち、階級や役職の違いがなく、お互いを補いながら仕事する。周りに迷惑をかけなければ自由。そういう会社をつくりたい。失敗した自分だから、やらないといけないと思った」。

創業すると、集中した権力が発生しないように気を配った。情報は徹底的に開示。給料は半年に一度の「お金の使い方会議」で従業員同士が相場を話し合って決める。「新卒1年目のアウトプットしか出してない」など率直な意見も飛び交うが、全従業員が社の金の使途を真剣に考える場になっている。

売り上げ目標もない。しかし、独特の組織が社の成長に貢献している。不動産業界向けのITサービスなどを提供する同社は、業界の情報透明化や健全化に10年近く取り組んできた。「この組織だから価値あることに投資できる。共感するお客さんや社外の人が増え、業界団体からの信頼も得ています」と武井は微笑む。

「今後、人口減少とともに日本経済は縮小します。売り上げ増を会社の存在目的にしても持続しない。自然の摂理に任せた自然体の経営スタイルを広めたいと考えています」


株式会社CRAZY

会社の理念をサービスにする

新しい働き方を実現するサービスを提供したり、「会社の成長」を通じて「自分らしい働き方」を広める動きもある。急成長を遂げる3社を紹介しよう。「世界の働き方を変える」を会社のビジョンに掲げるチャットワークは、在宅勤務の導入のほか、長期休暇制度や出産立会制度など、社員が発案した数十ものユニークな制度がある。同社のビジネスチャットアプリは米国以外にアジアでも事業展開し、導入企業は16万7000社に上る。

完全オーダーメイドのウエディングなどを手がけるクレイジーは、社員の健康を経営の優先順位の第一に掲げ、子連れ出勤や昼食制度など「生きる」と「働く」を分けない働き方を実践。ウエディング客のヒアリングでは、人生の歩みを深く聞き取り、「人生が変わる結婚式」を目指す。「もっと挑戦したい自分に気づいた」と客から社員になる人(全社員の2割)も多い。「創業10年で売り上げ100億円、社員400名」を掲げる。

HRテックなどを手がけるアトラエ社長の新居佳英は就職活動中に感じた疑問が創業のきっかけだ。「なぜ会社員は楽しそうに働いていないのか」。同社には、肩書きも出世もない。「社員が生き生きと自己実現できる働き方にしたい」と言う新居の理想は、サッカーのように純粋な目的のために一致団結できるチームだ。同社は従業員のエンゲージメントを促進するサービスを開始。今年2月には7期続けての増収増益、過去最大の売上高となった。

昨年東証マザーズに上場した、ウェブ広告事業を行うフリンジ81も会社の危機をヒントに理想の働き方をサービスを通じて広げている。


Fringe81 田中弦社長

不協和音が聞こえ始めたのは15年ごろ。急成長とともに従業員が100人を超えると、社長の田中弦は「会社のことがわからなくなった」。営業成績が1番の従業員は目立つが、今週最も活躍したエンジニア、会社の行動指針をよく守れた従業員が誰だかわからない。離職者も多かった。

「会社と私は一心同体です」と公言する田中にはショックだった。過激や前衛的などの意味を持つ「fringe」を社名に使い、「一人一人の才能やとんがりを大切にする」という企業文化を大事にしてきた。社内MVP制度やワンフロアにこだわったオフィスで文化を体現し、育ててきたはずだった。

そこで自社用に開発したのがピアボーナスアプリだ。従業員がお互いのいいと思った行動などを見つけ、感謝の言葉を書き込んでポイントを渡す。やり取りはリアルタイムで公開され、共感したら拍手とポイントも送れる。1ポイントは3円で給与に還元(同社の場合)。30ポイント渡しても90円だが、トップが月末に手にするのは1万円分。感謝の言葉だけよりもやり取りが活発化し、社内ネットワークを強化できたという。

「今は人知れずに素晴らしいことをしてくれた社内のアンサングヒーローを把握しています」と田中は話す。アプリは17年に社外サービスとしてローンチし、メルカリなど急成長するIT企業に導入され、主要事業の一つになった。

このアプリには、権限委譲のツールとしての意味合いもある。上司が部下の給与を決めるより、その権限を社内に分散した方が効率的で、会社が強くなるという田中の考え方に基づく。「僕は一番この会社で過激だし、一番この会社っぽい人なんです」

自分らしく考えられる会社

思い切ったマネジメント方法を取り入れる会社は今に始まったわけではない。例えば故山田昭男氏が1965年に創業した岐阜県の未来工業。部下への命令禁止、報奨金付き社内提案制度などユニークなルールがある。根本にあるのは、従業員を管理するのではなく、一人一人が自分らしく、「常に考える」ことを大切にする姿勢だ。山田氏の死後も社会の変化に合わせて、これまでなかった従業員教育に力を入れているという。

創業32年の21(トゥーワン)は広島市を中心に、フランチャイズを含めて110の店舗を持つメガネチェーン店。社長は4年任期制、管理職廃止、従業員の給与を含め意思決定事項は全て社内イントラネットでオープンに決める、フラットな組織を続ける。「従業員の幸せ」「関係者の信頼」「いいものを安く売る」を徹底したところ、上記のような仕組みになったという。従業員は有利な利率の社内預金ができ、ほぼ全員が会社の出資者だ。

同社の創業メンバーで、相談役の平本清は、「よく勘違いされますが、従業員に優しい会社ではありません。実力主義の会社です。私も含めて、自分の幸せのために働いているんです。会社を潰したら出資者の自分が損をしますよね。だから必死に働くし、会社にとって最善を選びます」と言う。この組織で実現できる自分らしい働き方もあるだろう。

大企業でも人事の透明化や自由な働き方を進め、業績を向上させた例はある。カルビーは、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人社長から09年に転身した会長の松本晃の肝いりで働き方改革を実施。徹底した成果主義と同時に多様で自由な働き方を推進。個人の個性や能力を発揮できる取り組みは新商品の開発や堅調な業績に貢献している。

10社の自分らしい働き方ができる組織を紹介したが、組織の形は様々で、各組織で実現できる「自分らしさ」も様々だ。自分らしく働ける組織を見つけるには、「自分らしさが何か」を知らないといけない。

オズビジョンの鈴木はこう話す。「なぜ自分はティール組織に共感するのか。今の何に不満があって、何を求めているのか。どこに課題意識を持っているのか。改めて仕事の目的や生きる目的を考えるきっかけにすればいいと思います」

Forbes JAPAN

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