大谷の元通訳 その学生時代を追う 【水谷竹秀✕リアルワールド】

2024年5月18日(土)10時0分 OVO[オーヴォ]

水原一平容疑者が通っていたダイヤモンドバー高校=4月、米カリフォルニア州(筆者撮影)

写真を拡大

 米大リーグ、ドジャース大谷翔平選手(29)の元通訳、水原一平容疑者(39)=銀行詐欺の疑いで訴追=の違法賭博疑惑は、発覚から2カ月近くたつ。4月に、私は水原容疑者が学生時代を過ごしたというカリフォルニア州南部へ飛び、取材した。

 拠点にしたのは、ロサンゼルスの中心部から東に約40キロの「ダイヤモンドバー」と呼ばれる都市。人口約2万3千人の半数以上がアジア系で、中国、韓国の出身者が中心である。移動に車は欠かせず、日本の地方都市のような所だった。

 北海道苫小牧市出身の水原容疑者が両親とともにその土地へ移り住んだのは1990年ごろで、まだ6歳だった。以降、彼は米国社会でバイリンガルとして育っていく。異国の地で、どのような学生だったのか。卒業した高校は「ダイヤモンドバー高校」と地元紙に掲載されていたので、まずは同校へ行ってみた。平日午後の下校時間、総務室のドアを開けると、担当者が現れた。来意を告げ、水原容疑者の名前を出した途端、担当者の表情が曇った。

 「その件に関しては何もお答えできません」

 同校のホームページには以前、活躍中の卒業生の1人として水原容疑者が紹介されていた。ところが現在、そのページは事件の影響からか、削除されている。そう伝えると、担当者は言った。

 「水原さんがホームページで紹介されていることすら知りませんでした」

 当時の水原容疑者を知る同窓生探しも難航した。なんとか見つけ出し、電話をかけたが応答しない。留守番電話にメッセージを残しても、折り返しの電話がかかってきたためしがなかった。そのうちの1人は現役の高校教師だったため、その高校にも足を運び、来意を告げると、校長が代わりに対応してくれた。

 「申し訳ないが、話をさせるわけにはいかない。あなたの仕事は理解しているが、誰もあの騒動には巻き込まれたくない」

 そう語る表情は険しかった。

 同窓生の自宅に行っても不在の場合が多く、そこから別の同窓生の家までも車で数十分は離れている。日本の住宅街で次々に聞き込みを行うような「ローラー作戦」が通用しない環境で、1人の同窓生を捕まえるのにはるかに手間と時間がかかった。そうしてやっと出会えても、こう言われるのがオチだった。

 「もう20年以上前の話だ。同級生だったことは認めるが、コメントは一切できない」

 日本と同様、騒動は米国でも大きく報じられたため、関係者の口は一様に堅かった。それを拙い英語でこじ開けなければならない。諦めずに同窓生たちの家に通い続けると、何人かが話を聞かせてくれた。そこから浮かび上がったのは、学生時代の水原容疑者はおとなしく、影の薄い存在だったということだ。

 そんな非効率な取材を1人で3週間近く続けていたため、途中から逃げ出したくなった。日本に戻った時にはさすがに心がすり減っていた。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.20 からの転載】

水谷竹秀(みずたに・たけひで)/ ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、「日本を捨てた男たち」で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。

OVO[オーヴォ]

「通訳」をもっと詳しく

「通訳」のニュース

「通訳」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ