チャーハンに「冷やご飯」は正しいのか?

5月18日(金)9時15分 プレジデント社

定番の家庭料理のひとつ、チャーハン。誰もが作り方にこだわりがあるだろう。よく聞くのが、「チャーハンには冷やご飯を使うとうまく作れる」という説。果たして、その説は正しいのか。『男のチャーハン道』(日経プレミア新書)で、材料や調理法はもちろん、鍋の種類や最適な温度まで、おいしいチャーハンの作り方を徹底的に調べ上げた土屋敦氏が、その謎に迫った——。

※本稿は、土屋敦『男のチャーハン道』(日経プレミア新書)を再編集したものです。


■最大の敵は「鍋の温度低下」


チャーハンを作るとき、どんなご飯を使えばいいだろうか。



まず炊きたてを使うという選択肢がある。しかし、歴史をさかのぼれば、そもそもチャーハンとは、余った冷たいご飯を温かくしておいしく食べる調理法であり、むしろ、冷やご飯を使うのは当たり前の時代が長く続いていた。


ただ日本では、保温ジャーや保温機能付き炊飯器が一般化した戦後以降、保温したご飯を使う、という選択肢が生まれ、温かいものを使ったほうがよい、という主張も生まれたのだ。


家庭でパラリとしたチャーハンをつくろうとするときの大きな障害のひとつが、具材を入れた際におこる鍋の温度低下である。これを防ぐ工夫のひとつとして、投入するご飯の温度を上げておくという手もある。アツアツのご飯を使ったら、温度低下を抑えられるはずだ。そこで、まずは炊きたてのご飯を使ってみた。


なお今回の比較では、「ご飯の状態」以外の、鍋や材料、調理工程などの条件は同一にしている。


■炊きたてご飯は炒めやすい、しかし……


中華鍋のもっとも熱い部分が350度になったところで卵、そしてご飯を投入すると、180度まで下がる。ちなみに冷やご飯のときは140度程度、かなり温度低下を避けられている。


実際、炒めているときの感覚からして違う。冷やご飯よりほぐれやすいのだ。中華おたまの底で押すと、簡単にほぐれる(ただし、飯粒ひとつひとつがきれいに分かれるというわけではなく、ところどころくっつき、パラパラ感はあまりなかった)。


お米を炊けば、デンプンの構造が崩れて糊(のり)のように柔らかくなる。しかし、冷める過程で元のデンプンの構造に戻ろうとして、だんだん硬くなるのだ。これを「老化」という。飯粒がくっつき合ったまま硬くなっていくため、隣の飯粒としっかり固着してしまう。冷やご飯をほぐすのは、炊きたてのご飯をほぐすより大変なのである。


となれば、炊きたてを使ったほうがパラパラになったのかというと、実はまったく違う。ほぐれやすくはあるのだが、仕上がったチャーハンはご飯が柔らかく、ベタつく感じがする。冷やご飯を使ったほうが飯粒に弾力があり、ほぐれきらないところがあったとしても、全体の食感はパラリと感じるぐらいだ。


たしかに炊きたてご飯で温度低下は抑えられたが、冷やご飯のように水分が飛んでいないため、ベタついたのだろう。


■冷やご飯のメリット「水分が飛ぶ」


そこで冷やご飯はどれくらい水分が飛んでいるのか調べてみた。米2合(300グラム)を洗い、水に20分間つけた。この浸水時間はごく一般的なものだろう。米は水を吸って374グラム。それを内釜に入れ、ちょうど目盛りまで水を加えると700グラム。それを炊くと、660グラムのご飯になった。



炊飯器から取り出し、室温と同じになるまで5時間、放置すると、643グラムにまで減った。つまり、炊きたてのときより2.6%も水分が飛んでいる計算になる。やはり炊きたてよりは水分が飛んでいないと、炒めても飯粒が柔らかく、ベタついてしまうのだ。


それなら、保温したご飯を使ったらどうだろうか? 保温しても水分は飛ぶ。しかも温かいので冷ご飯を使ったときのように鍋の温度は下がらず、ほぐれやすいはずだ。


■保温ご飯のほうがパラパラになりやすい?


早速試してみよう。炊いたご飯を炊飯器に入れたまま5時間保温した。これはおいしく保温する限界といわれている時間だ。5時間以上おいたものは、ご飯の劣化が気になる。臭みが出て、食感もポロポロして、色も変色し、味も悪くなってくる。チャーハンにすればそのまま食べるよりは気にならないが、おいしいチャーハンを作るうえでは避けたいところだ。



さて、肝心の「水分の飛び」である。5時間保温したご飯の重さをはかると655グラム。炊きあがりから1%しか減っていない。こんなに少し水分が減ったところで、炊きたてと違いが出てくるものだろうか?


疑念をもちつつチャーハンを作ってみた。ほぐれやすさは炊きたてと同じ感じだが、仕上がりはこちらのほうがパラリとしている。たった1%であっても、水分が減っていることに意味があるのだろう。


また、冷やご飯のチャーハンと比べても、こちらのほうがおいしく感じる。冷やご飯のほうが水分は減っているぶん、弾力があって、それがパラリとした印象につながる。しかし、保温ご飯は、より水分を含みつつも飯粒同士がバラけ、また高い温度で炒められて香ばしさもあり、全体的にはよりパラリとした印象なのだ。


■ほぐれやすさと鍋の温度の関係に注目


冷やご飯はほぐれにくいせいか、保温ご飯に比べると、ところどころで飯粒同士がくっついていることも、パラパラ感を減退させている。なお、卵、そして保温したご飯を投入したとき、鍋の温度は170度に下がった。炊きたてよりも低いが、冷やご飯よりはだいぶ高い。


つまり、ご飯が含む水分が多めであっても、ほぐれやすく、投入後の鍋の温度も高いので、しっかり炒めることができた。だから冷やご飯よりパラリと感じたのだろう。


ただ、炊きたてと比べると、投入時の温度は10度ほど低くなる。炊きたてご飯と保温ご飯そのものの温度をはかってみると、前者が100度近いのに対し、後者は70度とかなり低かった。その差が、炒めたときに出てきたのだろう。



だったら、保温ご飯の温度を、炊きたてご飯ほどまで上げてやればいいのではないか? 電子レンジを使うのである。よく、冷やご飯を電子レンジを使って温めろ、というレシピはあるが、ここでは保温ご飯の温度をさらに上げるために電子レンジを使うわけだ。電子レンジにかければ、温度が上がるだけではない。水分もさらに飛ぶから、一石二鳥である。


■チンした保温ご飯のあなどれない実力


さて、5時間保温したご飯230グラムを皿に広げ、600ワットの電子レンジにかけた。いろいろな時間で試したが、炊きたてのご飯と同じ100度近くまでもっていくには、1分40秒でいいとわかった。さらに長い時間をかけても、温度はそれ以上に上がらず、部分的に乾いて食感も悪くなるだけだった。


チンしたご飯の重さをはかると218グラム。水分が5%減った計算になる。この数字ならパラパラに貢献するに違いない。実際に炒めてみる。卵を入れ、ひと呼吸おいてご飯を投入しても、温度は180度までしか下がらない。炊きたてのご飯を入れたときと同じだ(まあ、電子レンジで同じ温度にしたのだから、当然だが)。


ただ、水分たっぷりの炊きたてご飯と違い、保温の過程で1%、チンする過程で5%の水分が飛んでいる。おかげで、これまでで一番パラリと仕上がった。


もちろん、180度という温度はまだパラパラのチャーハンをつくるには、まだ低い。とはいえ、電子レンジでご飯の温度をこれ以上は上げられないのだから、仕方がない。また別の方法を考えるとして、取りあえずはこれくらいの改善で満足しておこう。


■「温めなおした冷やご飯」のデメリット


また温度低下の問題から少しズレるが、どうせ電子レンジを使って炊きたてご飯と同じ温度にもっていくのであれば、冷やご飯をチンしてみてはどうかと考えた。


冷やご飯は保温ご飯より、さらに水分が飛んでいるからだ。冷やご飯230グラムを、600ワットの電子レンジにかける。冷やご飯の温度は20度だが、これを100度近くまで上げるために、2分20秒必要だった。重さをはかると217グラム。水分は5%減ったわけだ。


前に見たように、ご飯が冷える過程で2.6%の水分が飛んでいる。チンする過程でさらに5%も水分が減るわけで、飯粒の含水量は保温ご飯よりさらに少ない。鍋に投入したが、温度はやはり180度に下がった。炒める過程で気づいたのは、ご飯のほぐれやすさだ。冷やご飯はあんなにほぐれにくかったのに、ウソのようだ。



ところが、チャーハンを食べてみると、パサつきを感じる。そして香りがない。パラパラ感はこっちのほうが少しあるようだが、保温ご飯をチンしたチャーハンのほうが、ご飯らしい香りもあり、おいしく感じられた。


ご飯は冷める過程で揮発性の香りが飛んでしまう。また、デンプンが老化して飯粒が硬くなる。この老化は60度以下で起こる。炊飯器から出して常温まで冷ませば、当然、老化してしまう。これが味の違いとして出てきたのだろう。


■解凍ご飯に立ちはだかる科学的な壁


では、冷凍したご飯をチンするのはどうだろうか?




土屋敦『男のチャーハン道』(日経プレミア新書)

デンプンはマイナス20度以下だと老化しにくくなる。だから、炊きたてのご飯を急速冷凍して、「老化しやすい温度帯(60度とマイナス20度のあいだということだ)」を一気に通過させ、マイナス20度以下にもっていけたら、ご飯の質が保持される。


ただし、業務用冷凍庫ならともかく、家庭の冷凍冷蔵庫の性能では急速冷凍は難しい。冷やご飯よりはかなりましだが、やはり炊きたてのおいしさは失われている。老化したデンプンも再加熱すればまた糊化(こか)するが、完全にもとに戻るわけではない。だから、冷やご飯や冷凍ご飯を電子レンジで再加熱したところで、決して炊きたてのご飯ほどおいしくはならないのだ。


70度以上で保温すれば、5時間ぐらいまでは、炊きたてとそれほど変わらないおいしさがたもたれる。炊飯器で保温したご飯がもっともチャーハン向き、ということになる。


■結論。チャーハンに最適なご飯とは?


ただし、保温時間が長くなると当然話は違ってくる。前日の夜にご飯を炊き、翌日の昼に、保温したままのご飯でチャーハンをつくるようなことがあるかもしれないが、ここまで長く保温するとご飯の劣化は著しいものとなる。


それだったら、炊きたてをすぐに冷凍したものを電子レンジで再加熱したものを使ったほうが(ご飯らしい香りにはないものの)はるかにましである。このとき、ご飯をステンレスのバットなどになるべく薄く広げて冷ましたあと、ラップをかけて冷凍庫に入れ、温度を下げる(つまみを「強」にする。急速冷凍のボタンのある機種もある)とより劣化しにくい。


チャーハンにおけるご飯の選択肢の第一は保温したご飯(5時間以内)、そして次が炊きたてをできるだけ急速冷凍したもの、ということになるだろう。


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土屋敦(つちや・あつし)

料理研究家、ライター。1969年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒後、出版社にて週刊誌の編集等に携わったのち寿退社。京都での主夫を経て中米各国の滞在、ホンジュラスで災害支援NGOを立ち上げる。その後佐渡島で半農生活を送りつつ、生活総合情報サイト「オールアバウト」の「男の料理」ガイドを務め、雑誌等で書評の執筆を開始。現在は山梨県に暮らしながら執筆活動を行うほか、小中高生の教育にも携わっている。著書に『男のパスタ道』『男のハンバーグ道』『家飲みを極める』などがある。

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(料理研究家、ライター 土屋 敦 写真=萬田康文)

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