名将パウエルが真似るあの映画の名セリフ

5月18日(金)9時15分 プレジデント社

2004年7月、ASEAN地域フォーラムに出席するためインドネシア・ジャカルタの空港に降り立つ国務長官当時のパウエル(写真=AFP/時事通信フォト)

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貧しい移民家庭の生まれから米軍トップに上り詰めたコリン・パウエル。その勇敢さは「伝説のリーダー」として知られているが、そんな彼にも苦しくてくじけそうになることがあった。そのときパウエルはどうしたか。鏡に向かって、ある映画の名セリフを唱えることで、自分を励ましていたという。パウエルが著書で紹介している「13カ条のルール」から2つを紹介しよう——。


2004年7月、ASEAN地域フォーラムに出席するためインドネシア・ジャカルタの空港に降り立つ国務長官当時のパウエル(写真=AFP/時事通信フォト)

※本稿は、コリン・パウエル/トニー・コルツ著、井口耕二訳『リーダーを目指す人の心得』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。


■ルール1:なにごとも思うほどには悪くない。翌朝には状況が改善しているはずだ。


こうなる場合もあるし、ならない場合もある。どちらでもいいだろう。これは心構えの問題であって予測ではないからだ。私は、状況がどれほど厳しいときも自信を失わず、楽観的な姿勢を保つように心がけてきた。何かに感染しても、一晩ゆっくり休めば8時間後にはその影響がやわらぐことが多い。夜、自分は勝利に向かって歩んでいると思いながら職場をあとにすると、自分以外にもよい影響を与えられる。部下にもその姿勢が伝わり、どのような問題でも解決できると信じさせることができるのだ。


陸軍兵学校では、陸軍士官にできないことはないとくり返したたき込まれる。「われわれに難しすぎる問題などない。われわれに乗り越えられない困難などない」という具合だ。英国は「決して、決して、決してあきらめない」と世界に宣言したチャーチルを思いだしてほしい。もっとくだけた表現をするなら「畜生どもにやられるな」というところだろうか。


「ものごとは必ずよくなる。自分の力でよくしていける」——そう信じてわれわれは陸軍兵学校を卒業したし、私はその後もずっとそう信じてきた。否定的な証拠を突きつけられることも多いのだが。


別パターンもたたき込まれた。「士官たるもの、死にそうなほどに空腹でも、そのようなそぶりを見せてはならない。食事は最後にとること。寒さや暑さでへばりそうなときも、そのようなそぶりを見せてはならない。怖くてしかたがないときも、そのようなそぶりを見せてはならない。士官はリーダーであり、兵は士官と同じ感情をいだくからだ」。状況がどれほどひどく見えても、自分たちのリーダーなら事態を改善してくれると、部下に信じさせなければならない。



名画『ハスラー』に学ぶ、逆転を呼ぶ姿勢

映画から得た教訓を紹介しよう。私は古い映画が好きで、そこからいろいろな教訓を得ている。


名作『ハスラー』の冒頭は、なかでもお気に入りのシーンだ。場所はニューヨークのビリヤード場。そこへ、当代随一とうたわれる達人、ミネソタ・ファッツ(ジャッキー・グリーソン)に挑戦するため、若きビリヤードの名手、エディ・フェルソン(ポール・ニューマン)がやってくる。店には、ビリヤード場の経営者で奸智にたけたバート・ゴードン(ジョージ・C・スコット)ほか、数名がいた。


試合が始まると、疾風(はやて)のエディというふたつ名を持つエディはすばらしいハスラーであることがわかる。ゲームをくり返し、夜が深くなるにつれ、エディが優位に立ち、ファッツは汗をかきはじめる。店にいた人たちも集まってくる。疾風のエディとそのマネージャーは勝利を確信。あと1歩でキングを倒せる、新しいキングに栄光あれ、と。


一方、負けを認めようと思ったファッツは救いを求めてバートのほうを見やるが、バートは「続けろ。そいつは負け犬だ」と言う。ギャンブラーなバートは疾風のエディに弱みがある、自信過剰でつけ込む隙があると感じたのだ。だが、ファッツももう限界のように見えた。


ファッツは洗面所に立つと顔と手を洗う。家に帰る用意をしているのだろう。店員に服を着せてもらっているのを見て、疾風のエディは勝利を確信し、満面の笑みになる。ところが、ファッツは両手を差しだすと汗止めのパウダーを手に振ってもらい、にっこり笑って「さぁ、始めようか(“Fast Eddie, let's play some pool”)」と言う。このあとは言わなくてもわかるだろう。エディをこてんぱんにやっつけるのだ。


厳しい会議や不愉快な事態、敵対的な記者会見、情け容赦のない連邦議会公聴会などに臨まなければならないとき、私は、準備の仕上げとして、洗面所に立って顔と手を洗い、鏡のなかの自分を見ながら、「さぁ、始めようか」とあの映画のセリフをつぶやくことにしている。かなわないことはあっても、あきらめはしない。陸軍士官にできないことはないのだ。


念のため最後に一言。この映画はポール・ニューマンが主人公だ。最後にファッツと再戦してたたきのめす。でも私は、この映画をそこまで観たことがない。



■ルール8:小さなことをチェックすべし


くぎがないので 蹄鉄(ていてつ)が打てない

蹄鉄が打てないので 馬が走れない

馬が走れないので 騎士が乗れない

騎士が乗れないので 戦いができない

戦いができないので 国が滅びた

すべては蹄鉄の くぎがなかったせい

有名なこのマザーグースは、ごく小さな問題が重大事を引き起こす様をうたったものだ。


最終的な成否を左右するのは、たくさんの小さなことだ。リーダーは小さなことまで感じられなければならない——小さなことが起きる組織の最深部がどうなっているのかまで感じられなければならない。出世すればするほど、虚飾とスタッフに囲まれてほかが見えなくなる。現場でなにが起きているのか、確認する必要性が高まるのだ。


ひとつの方法は、高級感にあふれた役員専用フロアを出て、階下の現場に降りること。これから行くなどと予告をしてはならない。予告などすれば、大急ぎで掃除をされたり必死で準備をされたりして、パワーポイントのプレゼンテーションを見せられるのが落ちだ。


もちろん、十分に告知をして、まるで売り物のようにきれいな状態で受け入れられるようにしてやらなければならないこともある。しかし私は、ふらっと立ち寄り、ぶらぶらと見て歩くほうが好きだ。整備工場をのぞくなら、工作機械は汚れたままで部品がちらばっているほうがいいし、そこかしこに士官が待ち構えていて、正式な報告書にも記されているような 整備の現状について細々と説明するといったことはないほうがいい。


兵舎の視察では、寝棚と壁際のロッカー、そして、寝棚の脇に置かれた小型トランクをチェックする(今は状況が違う。最近の兵舎は学生寮のようなものになってしまった)。洗面所へも直行する。チェックするのはきれいかどうかだけではない。トイレットペーパーが不足していないか、鏡が割れていないか、シャワーヘッドがなくなったりしていないかなどもチェックする。


なにか不具合がある場合、だいたい、維持管理費が不足しているか、こういうことを調べて修正する体制ができていないか、あるいは、兵士の監督が十分におこなわれていないかだ。どこに問題があるのかを確認し、正さなければならない。



通路の両側に水しっくいが塗られていると、私は残念な気分になる。ペンキがにおうのも、私が来ると聞いてあわてて用意した証拠だ。古びていないクッキーもよくない。


昔、太平洋方面を指揮する海軍大将が韓国への駐留軍を視察し、私の大隊がいるあたりを通る予定だと言われたとき、私は大喜びした。そのときわれわれの兵舎はぼろぼろの古いもので、暖房器具の部品も手に入らないし、外壁のペンキもない状態。海軍大将の通り道に食堂があったが、ペンキが不足していたので前面にしかペンキを塗れなかった。ここを通った海軍大将はペンキが塗り立てなのに気づいたはずだ。ほかと違ってあまりに鮮やかで、ごまかしようがなかったからだ。今ふり返ると、海軍大将に探偵のまねごとなどさせず、われわれが抱えている問題を正直に話すべきだったと思う。


部下の生きている世界を把握せよ

部下というものは「小さなこと」ばかりの世界で生きている。リーダーは、公式でも非公式でも、なにがしかの方法でその世界を把握しなければならない。私の場合、突然立ち寄るという方法以外に、普通なら私のところまであがってこない子細を私に直接伝えてくれる非公式ルートを利用する。私が大まちがいをして「裸の部隊長」になってしまった場合も、このルートが教えてくれる。


軍隊時代は従軍牧師や准尉とその知り合い、監察官、下士官などが「立ち入り自由な」夜に私を訪れてはいろいろと教えてくれた。国家安全保障会議など政府関連組織で働いていたときは、組織外については信頼する友人から、組織内については職員から現場の情報を得るようにしていた。リーダーは、報告書や幹部の言葉だけでなく、現場の本当の姿を知らなければならないのだ。


例えば国務省時代、午後2時ごろに廊下を歩いていたら、退出しようとする若い女性に出会ったことがある。彼女は私が誰なのか気づいていないか、気づいていたとしてもそれをおくびにも出さなかった。ともかく、どうしてそれほど早くに退勤するのかをたずねてみた。


「フレックスタイムですよ。朝は7時から働いています」



「これはいい制度で、もっと充実させる必要がある」

この回答に私は興味を引かれた。フレックスタイムとはどういうものかよく知らなかったからだ。彼女と並んで歩き、どういう具合に利用されているのか、彼女から話を聞き、スタッフから聞くよりよほど多くのことを学んだ。これはいい制度で、もっと充実させる必要がある——そうわかったのだ。ちなみに、それほど話しても、彼女は私が誰かわかっていないようだった。




コリン・パウエル/トニー・コルツ著、井口耕二訳『リーダーを目指す人の心得』(飛鳥新社)

ちょっとからかってみることにした。


「私もフレックスタイムにしたいと思うのだけれど、どうすればいいのかな」

「直属の上司に申請すればいいんです」

「ありがとう。月曜日にキャンプデービッドから上司が戻ってきたら、頼んでみるよ」

「認められるといいですね」


びっくりした様子もなく答えると、彼女はドアから出ていく。私は、もしかしたら嫌われたのかなと思いつつ、その姿を見送った。ともかく、フレックスタイムについては多くを学ぶことができた。私にとっては小さなことだが、あの女性をはじめとする多くの職員にとっては大きなことだ。


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コリン・パウエル(Colin Powell)

1937年、ニューヨーク市生まれ。ニューヨーク市立大学卒、ジョージ・ワシントン大学大学院修了。1958年にアメリカ陸軍に入り、2度にわたってベトナム戦争に従軍。レーガン政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めた後、ブッシュ(父)政権下の1989年、米軍制服組トップの統合参謀本部議長に史上最年少で就任、湾岸戦争などの指揮を執った。2001〜05年、ブッシュ(子)政権の国務長官。現在は政界を引退し、バージニア州在住。

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(元アメリカ合衆国国務長官 コリン・パウエル 写真=AFP/時事通信フォト)

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