夫婦の寝室は別々のほうがいい…アメリカで急速に広がる「睡眠離婚」という静かなムーブメント

2024年5月19日(日)7時15分 プレジデント社

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■アメリカ人の3人に1人が「別々の部屋で就寝」


パートナーと寝室やベッドを分ける「睡眠離婚」が注目を集めている。離婚とはショッキングな表現だが、平たく言えば「眠っているあいだは別々の部屋で過ごしましょう」という趣旨だ。お互いが熟睡できる環境作りを目指す、前向きな取り組みだ。


米睡眠医学会(AASM)が昨年実施したアンケート調査によると、約2000人の成人男女のうち、別々の部屋で「いつも」眠っていると回答した人が15%、「ときおり」を合わせると35%に上った。およそ3人に1人が「睡眠離婚」を経験していた。


調査からは、互いの生活サイクルに合わせるのに苦労している様子がうかがえる。半数以上にあたる58%の人々が、パートナーの睡眠を妨げたり、妨げられたりしないように、何らかの手段を講じたことがあると回答した。睡眠時間をずらして相手に合わせる(33%、複数回答)、アイマスクを着用する(18%)、耳栓を使う(15%)などとなっている。


2人で快適に眠ることは難しいようだ。米寝具レビューサイトのスリープ・オポリスがアメリカの交際中の成人1000人以上を対象に実施した調査によると、半数以上にあたる56%が、週に2晩以上パートナーに起こされていると回答している。


そんな中で注目を集めるのが睡眠離婚だ。スリープ・オポリスによると、およそ3人に2人にあたる65%の人が、睡眠離婚で「睡眠の質が大きく向上」したと回答。「多少効果がある」(27%)と回答した人を加えると9割が効果を実感しているという。「効果がない」はわずか7%だった。単に寝室を分けるだけの睡眠離婚だが、快眠に味方しているようだ。


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キャメロン・ディアス「睡眠離婚をふつうの習慣にすべき」


睡眠離婚は、セレブたちが実践していると告白したことで注目を浴びた。全米日刊紙のUSAトゥデイによると、米俳優のキャメロン・ディアス氏(51)は昨年12月のポッドキャスト番組で、「寝室を分けることをふつうの習慣にすべき」と語っている。


ディアス氏の場合、事情は少々特殊だ。夫婦それぞれの自邸のほか、共同生活のための家を所有している。共用の家で過ごしながら、状況に合わせ、各自の寝室で寝たり共同の寝室で寝たりと使い分けているという。


2012年にニューヨークで行われた『What to Expect When You're Expecting』のプレミアに出席したキャメロン・ディアス(写真=David Shankbone/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

カップルで3邸を使うセレブならではのエピソードだが、睡眠離婚自体のハードルはそれほど高くない。同じ1軒の家のなかで、寝る部屋を分けるだけで立派に睡眠離婚として機能する。寝室を2つ用意できれば理想的だが、そうでない場合はパートナーの片方が寝室、もう片方がリビングに布団や折りたたみマットレスを敷いて寝ることも可能だ。リビングで寝るのに抵抗がある場合は、同じ寝室内でベッドを2台に分けるか、布団を離れた位置に置いてもいい。


■「また一緒に寝るようになるかは分かりません」


5年間、睡眠離婚を続けているセレブもいる。米エンタメ誌のピープルは4月9日、トーク番組「ラスト・コール・ウィズ・カーソン・デイリー」の司会などで知られるカーソン・デイリー氏(50)も睡眠離婚に大満足していると紹介。デイリー氏は、映画プロデューサーで妻のシリ・ピンター氏(43)と週数回、別々の寝室で寝ていることを明かし、「非常におすすめできる」と語った。


睡眠離婚を始めた当時、デイリー氏は睡眠時無呼吸症候群を患っており、妻のピンター氏も第4子を妊娠中だった。お互いにベッドの上で苛立ちを覚え、眠れないことも多かったという。デイリー氏によるとある朝、目が覚めた2人は手を取り合い、こう語った。


「愛してる。でも、睡眠離婚のときが来たようだね。お互いにとって、それが一番いいはず」


以来、生活パターンの変化に合わせながら、2人は睡眠離婚を実践している。デイリー氏が遅くまでフットボールの試合を観戦して帰宅する場合や、早朝から番組出演する場合などに、事前に話し合ったうえで寝室を別にしてきた。いまでは「また一緒に寝るようになるかは分かりません」と語るほど、独りで眠る時間を気に入っているようだ。


■「おやすみ、また明日会おうね」


カップルが別々の寝室で眠ることに、ネガティブな印象を抱く人は多いだろう。だが、デイリー氏は睡眠離婚をとてもポジティブに捉えている。


「目的は、一緒にいること。それが私たちの望みです」。そこで、死ぬまで一緒に暮らすために、何ができるか。最善の手を逆算し、睡眠離婚の考えに至ったという。別々に寝る日も、思いやりの一言を忘れない。「おやすみ、また明日会おうね」とことばを交わし、それぞれの寝室に下がる。


夫妻には14歳の長男など4人の子がおり、デイリー氏は妻の料理の腕を誇らしげに語るなど、家族仲は極めて良好だ。睡眠離婚を選択したことで寝不足の悩みは解消され、かえって夫婦の絆は深まったと感じているという。


■いびきをかくパートナーの横で寝ると、不眠症リスクは3倍に


睡眠離婚は海外のソーシャルメディアでも流行するなど、トレンドになっている。米CBSニュースは昨年12月、「パートナーによる睡眠のトラブルを避けようと、別々に寝る『睡眠離婚』を始める人が増えている」と報じている。フォックス・ニュースも同年7月、「より良い睡眠を求め、夫婦共同のベッドをあきらめるアメリカ人が増えている」と報じた。


デイリー氏夫妻のように、どちらか一方が就寝中にいびきをかく場合、睡眠離婚を取り入れたほうがいいかもしれない。


いびきなどを伴う閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)の患者がパートナーに及ぼす影響を調べた2017年の研究によると、OSA患者のパートナーは、眠れなかったり夜中に目が覚めたりするなどの不眠症状を生じるリスクが通常の3倍高く、日中の疲労感などに悩むリスクも2倍高いという。


写真=iStock.com/Kiwis
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2009年の研究では、いびきをかく男性パートナーと共に寝ている女性を対象に、1晩だけ独りで寝た場合の睡眠への影響を調査している。眠りの質が向上していることは客観的に測定できなかったものの、中途覚醒の数と浅い眠りの割合については、有意に減少していることが確認された。週に数日別室で眠るだけでも、さわやかな朝を迎えられる機会は増えそうだ。


■睡眠離婚はポジティブな選択肢になる


パートナーの睡眠サイクルが乱れている場合にも、睡眠離婚は有効だ。アメリカ睡眠医学会のコンサルタントであるエリン・フリン=エヴァンス博士は昨年7月、CBSニュースに対し、「例えば片方が不眠症の場合、もう片方も同じタイミングで目が覚めてしまう傾向があります」と指摘している。「同様に、片方が夜型でもう片方が朝型というように、パートナー同士で睡眠のパターンが異なる場合にも、両者の睡眠に悪影響を及ぼすおそれがある」と指摘している。


信頼の置けるパートナーと一緒に眠ることは、本来であれば大切な生活の一部だ。しかし、一緒に眠ることでお互いが寝不足で険悪になるとすれば、本末転倒でもある。寝室を分けるだけで気持ちの良い毎日を過ごせるならば、睡眠離婚は検討に値するだろう。


もっとも、問題がない場合は無理に別室で眠る必要はないと指摘する専門家もいる。米医療NPO「アレゲーニー・ヘルス・ネットワーク」の睡眠スペシャリストであるダニエル・シェード医師は、CBSに対し、一緒に寝られるのなら「ぜひ同じベッドで寝たほうがいい」と語る。


「(肌の接触によって)私たちは、(神経ペプチドの一種で『幸せホルモン』とも呼ばれる)オキシトシンや、その他“抱擁ホルモン”と呼ばれる化学物質を分泌します。私たちの気分を向上させますし、一緒にいることを実感できるため、相手との距離を縮めてくれます」


■SNSで大注目の「スカンジナビア睡眠法」


ここまで睡眠離婚について見てきたが、スペースを必要とするなどの事情で、実践が難しいことがあるかもしれない。急に寝室を分けるには、心理的な抵抗もあるだろう。


そんな場合、代わりに検討したいのが「スカンジナビア睡眠法」だ。フィンランドなど北欧やイギリス・ドイツを中心に多く実践されている睡眠法で、同じ部屋で眠りながらパートナーが互いの睡眠の質を上げることができる。


やり方はシンプルだ。通常通り2人用のベッドの上で一緒に眠るが、掛け布団や毛布など身体の上に掛けるものだけを、それぞれ1枚ずつ独立して用意する。スカンジナビア睡眠法により、3つのメリットが期待できる。


第1に、寝返りを打った際の振動が伝わりにくくなるため、眠りを妨げられる心配が少なくなる。パートナーの寝相が悪かったり、片方が深夜に帰ってきたりする場合、すでにぐっすりと眠っていた他方の睡眠を妨げがちだ。


米マサチューセッツ州ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のレベッカ・ロビンス医師は、米CNNの商品レビュー部門「アンダースコアード」に対し、「睡眠中に動かない人がいるという認識は、正しくありません」と述べる。誰しも自然に寝返りを打っており、その動きは多少なりともパートナーに伝わるものだ。掛け布団を分けるだけで、動きに悩まされる機会はずいぶんと少なくなる。


写真=iStock.com/AzmanL
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■寝室を別々にしなくても安眠できる


第2の利点は、快適な温度を保てることだ。


体格や性別によって、睡眠中に快適と感じる温度は異なる。寒すぎると寝付きが悪くなるが、深部体温(脳や臓器周りの温度)がある程度下がらない場合も、かえって入眠に至りにくい。快適な眠りを迎えるうえで、体温が果たす役割は想像以上に大きい。


ところが、1枚の掛け布団を共有していると、どちらかの体温に合わせた厚さの布団を選択せざるを得ない。掛け布団を分け、それぞれ好みの厚さの掛け布団を選ぶことで、お互いに快適に入眠できるというわけだ。サイズはそれぞれシングルサイズで十分だ。


第3の利点として、掛け布団の奪い合いが起きない。


とくに寒い冬場は無意識に掛け布団を引き寄せてしまい、パートナーの身体が半分布団の外へ出てしまっているといったことも起きがちだ。深夜に寒気を覚えて眠りが中断したり、朝まで気づかずに風邪をひいたりしてはもったいない。それぞれの掛け布団があれば、こうした無意識の布団の奪い合いとも無縁だ。


このようにスカンジナビア睡眠法は、今ある1台のベッドを有効活用しながら、睡眠の質を高めてくれる。睡眠離婚のように新しい部屋とベッドを用意しなくても、シングルサイズの掛け布団を2枚用意するだけでよいため、比較的手軽に試しやすい。動きや寒さ・暑さによる中途覚醒を解消したい場合は、睡眠離婚よりも手軽に導入できるだろう。


■良好な夫婦関係には、良質な睡眠が欠かせない


米カルチャーメディアのリファイネリー29は、コペンハーゲンで夫と10年以上も別々の掛け布団を使っているという女性の声を紹介している。この女性は、「自分だけの掛け布団で眠るのが大好きです!」と語る。布団を奪われて寒さで目覚めることがなくなり、睡眠の質が向上したという。女性は夫婦で別々の厚さの布団を使っており、体温調整もしやすくなったとメリットを実感しているようだ。


睡眠離婚もスカンジナビア睡眠法も、特別なテクニックは必要ない。試すと決めれば、あとは実行あるのみだ。最も大切なのは、パートナーにしっかりと説明することだろう。急に部屋や布団を分けたいと切り出せば、否定された気分になってしまうかもしれない。相手を大切に思っていることを時間をかけて伝え、そのうえで眠りについて悩みがあることを打ち明けるなど、パートナーの気持ちに配慮しながら相談すると理想的だ。


お互いに気持ちよくエネルギッシュな毎日を送るためにも、適切な睡眠環境は重要だ。状況に合わせ、睡眠離婚やスカンジナビア睡眠法の導入を検討したい。


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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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