割安な韓国車・中国車があるのに日本車ばかりがベストセラーになる…ASEAN地域で日本車が圧倒的人気のワケ
2025年5月19日(月)16時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jetcityimage
※本稿は、鈴木ケンイチ『自動車ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
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■コスパのよさで日本車と対等に戦う韓国の自動車メーカー
世界には数多くの自動車メーカーが存在しています。どんなメーカーがあるのかを知るには、その販売数を見るのが一番わかりやすいでしょう。そこで、2024年の新車販売を調べてみると順位は以下のようになりました(筆者調べ)。
1位 トヨタ 1082万台
2位 VW(フォルクスワーゲン)グループ 903万台
3位 現代グループ(起亜を含む) 723万台
4位 GM(ゼネラルモーターズ) 600万台
5位 ステランティス 542万台
6位 フォード 447万台
7位 BYD 427万台
8位 ホンダ 380万台
9位 日産 335万台
10位 スズキ 325万台
数字を挙げてみれば、トヨタとフォルクスワーゲンが抜きん出ていることがわかります。トヨタは、北米、中国、欧州、日本、アセアンと世界中で一定のシェアを確保しているのが特徴です。フォルクスワーゲンは、欧州と中国を得意としています。
3位となる現代グループは韓国の自動車メーカーです。日本では苦戦しており、一時的に市場撤退していましたが、2022年から電気自動車(BEV)中心のラインナップで日本へ復帰しました。
とはいえ、いまも年間で数百台規模でしか売れていません。ただし、世界市場に目をやれば、現代グループのクルマはコスパのよさで日本車と対等に戦うという存在です。あなどれない相手と言えるでしょう。
■第二次世界大戦前の日本市場で高いシェアを誇るGMとフォード
ステランティスを間に、4位と6位になるのがGM(ゼネラルモーターズ)とフォードというアメリカの2社です。
かつてGMとフォードは、クライスラーと共にビッグ3と呼ばれており、世界最大級の存在でした。ところが、2000年代終盤のリーマンショックの直撃を受けて、経営はボロボロに。かつての勢いは消え失せてしまいました。
また、北米市場はまだしも、欧州や中国市場では振るいません。それでも、4位と6位にランクインしているのは、それだけ北米市場が強いということでしょう。ちなみに、第二次世界大戦前の日本市場では、GMとフォードが高いシェアを誇っていました。
写真=iStock.com/overcrew
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まだ、日本車が生まれる前でしたから、その当時の日本ではクルマ=輸入車の時代だったのです。つまり日本とGMとフォードの付き合いは長い歴史を持っています。ところが戦後は日本車の成長と共にアメリカ車の人気は低下。
結果、フォードは2016年に日本から撤退。GMも看板ブランドであるシボレーが、日本では数百台規模でしか売れていません。現代グループと同様に、日本では苦戦しています。
■2つの会社が合併したことで新しい世界5位の勢力が誕生
5位のステランティスは、2021年に誕生したばかりの自動車メーカーです。突然に世界5位が生まれたわけではなく、もともとあった2つの自動車メーカーのグループが一緒になって生まれた会社です。
以前の会社は、フィアット・クライスラー・オートモビルズと、グループPSAです。フィアット・クライスラー・オートモビルズは、フィアット、アルファロメオ、アバルト、ランチア、マセラティ、クライスラー、ジープ、ダッヂ、ラムトラックなどを傘下に持つ会社でした。
アメリカとイタリアのブランドを中心としています。そして、グループPSAは、プジョー、シトロエン、DS、オペルというフランスを中心にした欧州系の会社でした。
この2つの会社が合併したことで、アメリカ、イタリア、フランスのブランドをまとめた、新しい世界5位の勢力が誕生しました。
ひとつひとつのブランドの売れる数は少なくとも、ひとつに集まったことで、大きな力を発揮できるようになったのです。日本でもジワジワと販売を伸ばしています。
■インドで最大のシェアを誇る注目のブランドはこれ
そして7位にランクインしたのが中国のBYDです。1995年創業ですから、わずか30年で世界トップ10に届くまでの急成長を遂げています。
もともと電池メーカーですから、日本には電気自動車を携えて2023年に市場参入しましたが、中国本土では、ハイブリッドも数多く販売しています。エンジンを作る力も持った注目の存在となります。
8〜10位は、ホンダ、日産、スズキという日本メーカーが続きます。日本国内にいると、意外と自動車メーカーごとの力関係を把握しにくいもの。
「トヨタが売れている」というのはわかるでしょうけれど、それ以外のメーカーの力がどの程度かを把握するのは難しいのではないでしょうか。そういう意味で、現在のホンダ、日産、スズキは、同程度の規模感のメーカーと言えるでしょう。
国内にいると、もしかするとスズキのことを「軽自動車ばかりのメーカーで、ひとつ下」と捉えてしまうかもしれません。しかし、スズキは、コスパのよいクルマづくりで、インドで最大のシェアを誇るだけでなく、東欧やアセアンでも一定のシェアを確保しています。
2023年に発表した経営計画では、「2030年には21年度の2倍となる7兆円の売り上げを目指す」とぶち上げています。いまなお成長過程という、注目のブランドです。
ちなみに、スバルやマツダ、三菱自動車はベスト10に入っていません。また、日本で輸入車として知名度の高い、メルセデス・ベンツとBMWもありません。
それらが、どの程度なのかといえば、スバルとマツダ、そして三菱自動車は、それぞれ年間100万台前後といったところ。BMWはミニを含めて250万台ほど、メルセデス・ベンツは200万台ほどです。知名度と比較すると、意外と数が少なかったりするのです。
■世界中で売れるトヨタの価値はここ
トヨタは、世界一の販売台数を誇る自動車メーカーです。2024年は、トヨタ(レクサスを含む)だけで1016万台のクルマを販売しました。子会社であるダイハツと日野をプラスすると、1082万台にもなります。
その販売の地域別の内訳を見てみると、1016万台のうち、北米が273万台、欧州が117万台、中国が178万台、アジアで144万台、日本で144万台、中東とアフリカとオセアニアで112万台、中南米が49万台となっています。
どこかの地域に偏ることなく、世界各地でまんべんなく売れていることがわかります。世界のどこであっても売れるというのは、世界中の人が認める価値がトヨタにあることを意味しています。
では、トヨタならではの価値は、どこにあるのでしょうか?
個人的にトヨタの最大の強みと見えるのは「品質」です。「品質」とは何か? というと、人それぞれ、いろいろなことを思い浮かべるはずです。
写真=iStock.com/Tramino
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ピカピカの仕上げのよさ、部品同士が隙間なくぴったりと組みあがっている様子、故障の少なさ、走行性能や機能の充実度までもが「品質」と考える人もいることでしょう。
それに対してトヨタは品質を「製品品質」「設計品質」「サービスの質」などを生み出す、「仕事の質」と定義しています(トヨタ自動車75年史「品質」より)。
また、「製品の品質の良し悪しは、お客様が判断するもの」を原点とし、「商品の品質は当然として、お客様との信頼関係、使用時の経費・燃費といった経済性をも含めて、品質保証と定義している」とも言います。
つまり、「お客様が満足する」ことが品質のよさとして、すべての面で努力するというのです。
■トヨタが一貫して品質にこだわっているワケ
また、トヨタ製品の品質のよさの具体的なメリットとして、「故障のしにくさ」があります。信頼性と耐久性に優れているのです。近年のクルマは、どこの自動車メーカーも信頼性と耐久が高まっていて、あまり差が出なくなりました。
しかし、昭和や平成の時代のクルマは、よく故障をしていたのです。特に、輸入車と日本車を比べると、その差は歴然としていました。そこに日本車の強さがあったのです。
欧米の自動車メーカーに比べて、日本の自動車メーカーは後発となります。第二次世界大戦以前は完全に日本の自動車メーカーが遅れていました。
トヨタは豊田自動織機製作所時代の1935年に最初のクルマである「G1型トラック」を開発しましたが、このトラックは故障に悩まされました。
あまりにも故障が多いため、当時のトヨタの社長である豊田喜一郎氏が、現場にかけつけて修理したそうです。その様子は、いまも豊田市にあるトヨタ鞍ヶ池記念館のジオラマに残されています。
そうした失敗を経験とし、豊田喜一郎氏は、「お客様第一」「現地現物」を謳い、再発防止にあたったとされています。具体的には、1937年のトヨタ設立時に、トップに直結した監査改良部を設置して、製品と業務を監査する体制を整えます。
その監査改良の業務は、その後も続き、現在でも品質保証部に継承されています。
つまり、トヨタは最初のクルマが故障続きだったことで、品質の大切さを思い知らされ、それから一貫して品質にこだわってきたというわけです。
■砂漠やジャングルで絶大な信頼を得ている2台
また、トヨタ車の品質のよさ=故障しないというクルマの象徴となるのが、現在のトヨタで最も長い歴史を誇る「ランドクルーザー」と、世界的ベストセラーピックアップトラックである「ハイラックス」の2台です。
どちらも砂漠やジャングルといった厳しい自然環境の地域で、絶大な信頼を得ています。過酷な環境において、クルマの故障は、即、命の危険に直結してしまいます。そこでは故障しないことが、最大の武器になるというわけです。
また、貧しく所得の少ない地域ほど、トヨタ車の人気が高くなるという現象もあります。所得の少ない人にとってクルマは、不動産と同様に、非常に高額な買い物となります。
だからこそ、壊れやすいクルマはほしくないのです。そして丈夫で長持ちするクルマほど、高く売り払うこともできます。耐久性の高いクルマは、資産価値が高くなるのです。
アセアン地域で、トヨタ車が人気となっている理由は、ここにあります。走行10万キロであっても、ほとんど新車同様に走ってくれるトヨタ車は、長く乗った後も高く売り払うことができるのです。
鈴木ケンイチ『自動車ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)
アセアンには、日本車よりも割安な韓国車や中国車も売っていますが、ベストセラーになるのは日本車ばかりというのが現状です。貧しいからこそ、クルマを選ぶ目が厳しく、その結果として日本車が選ばれているのです。
日本で本格的に自動車メーカーが発展したのは、1960年代のモータリゼーションの後からです。欧米の自動車メーカーから見れば後発だった日本車メーカーは、遅れてスタートした分、一生懸命に自身の技術を磨きました。
その努力が、欧米メーカーを抜き去る品質の高さを実現したのです。その結果が、1970年代後半からの日本車の世界進出の成功となりました。最初からすごかったわけではなく、不断の努力の成果がいまの日本車の地位を築いたのです。
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鈴木 ケンイチ(すずき・けんいち)
モータージャーナリスト
1966年生まれ。茨城県出身。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。年間3、4回の海外モーターショー取材を実施、中国をはじめ、アジア各地のモーターショー取材を数多くこなしている。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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(モータージャーナリスト 鈴木 ケンイチ)