ボルボ車が販売好調の訳 地味めな高級車的クルマづくりの妙

5月19日(日)7時0分 NEWSポストセブン

プレミアムクラスに区分けされるボルボのステーションワゴン「V90」

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 スウェーデンの小規模乗用車メーカーであるボルボカーズのセールスが好調だ。ボルボ車といえば、“四角いワゴン”のイメージが根強いが、近年は流行りのSUV(スポーツ用多目的車)投入や性能・乗り心地の追求で目覚ましい進化を遂げている。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏が、今どきのボルボ車に試乗しながらその魅力に迫った。


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 ボルボは昨年、世界販売が64万台と、同社史上初の60万台超えを果たした。日本市場での販売も1万7800台。日本法人のボルボカージャパン関係者によれば、新型SUV(スポーツ用多目的車)「XC40」を発売したことで受注ベースでは2万台を超えたとのこと。全盛期のボルボの年間販売台数は2万5000台。その水準への回帰はまだ遠いが、道は見えてきたといったところであろう。


 なぜボルボがこれだけの躍進を見せているのか。それはひとえに、世界的に流行しているSUV分野でイケてるモデルを立て続けに出せたことによる。


 2015年にラージクラスSUV「XC90」を、2017年のミドルクラスSUV「XC60」をフルモデルチェンジ。さらに2017年にはスモールクラスSUV「XC40」を新規発売と、3つのSUVを短期間のうちにデビューさせた。


 その3モデルはそれぞれ、世界でさまざまなアワードを総なめにするほどの勢いだった。XC40が2018年にプレミアムブランドとしてはアルファロメオ「147」以来、17年ぶりに欧州カーオブザイヤーを獲得。日本でも2017年にXC60、2018年にXC40と、海外ブランドとしては初めて2年連続で日本カーオブザイヤーの大賞を取った。販売台数が伸びるのも道理というもので、すでに工場の生産余力をすべて使い切るくらいの状態であるという。


 だが、プレミアムセグメントは、ダイムラー(メルセデス・ベンツなど)、BMW、アウディのいわゆる“ドイツ御三家”をはじめ強力なライバルがひしめき、顧客を激しく奪い合う厳しい世界。良いクルマであることは単なる前提でしかなく、それだけで売れるものではない。


 日本では、ボルボと言えば今日でも“四角いクルマ”というイメージが強い。今でも街中で時折、「740」や「850」など、四角デザインの古いボルボを見かけることがある。が、その時代はとっくに過ぎ去っている。特に2015年デビューの現行XC90以降の新型車は、それまでの地味な印象から一転、華やかさを持たせた高級車然としたたたずまいになった。


 そんな新世代ボルボは果たしてどのようなキャラクターになったのか──SUVではない普通の乗用モデル、V90を4000kmあまり走らせ、今どきのボルボ車の特徴を探ってみた。


 V90はプレミアムラージクラスに区分されるステーションワゴン。セダン版の「S90」が初期モデルを除き中国製になったのに対し、V90はスウェーデンのヨーテボリ工場製。テストドライブ車は「インスクリプション」という上位グレードで、パワートレインは最高出力190psの2リットルターボディーゼル+8速AT。


 さて、そのV90の印象を一言で表現すると、まさに“道具”であった。ボルボ関係者はよく、「クルマは移動手段」と口を揃える。あくまで主役は人間がクルマでどこへ行き、何を楽しむかということであって、クルマはそのための道具にすぎない。プレミアムセグメントは普通のクルマに比べて高価。その分、移動の時間をより素敵なものにするということに徹するべき──という思想だ。


 性能的にはプレミアムラージクラスとして十分なレベルにあった。パワーユニットはディーゼルだが、静粛性は全般的に良好。乗り心地はオプションのエアサス装備車に比べると固いが、それでも快適性は満足のいくものだった。全幅1890mm、自重1.77トンという大柄なボディだが、245mm幅のタイヤを装着することも手伝って、コーナリング速度が速い状態でも操縦性に破綻はまったく見られなかった。


 先にも述べたが、プレミアムラージクラスともなれば、とくに欧州市場ではこれらの基本性能が低いとそもそもユーザーに受け入れられない。その合格ラインを越えてくるのは当然のことだ。


 V90の特質は、そうした性能をバックボーンとしながら、ドライブフィールをエキサイティングさではなく、徹頭徹尾、リラクゼーション側に振り向けていることにあった。ドライバーズカーというわけでも、フォーマルな感覚でもなく、運転手を含めたパッセンジャー全員の緊張をできるだけ取り除くことで、皆が一緒にクルマでの旅を純粋に楽しむようなフィール。言うなれば、高級なファミリーカーというイメージだった。


 その特質を特に強く感じたのは、友人家族を含め5人で南九州をドライブしたときのことだ。大人4人に子供1人。車幅が広いため、後席に大人2名+子供1名が乗っても、パッセンジャー同士の体が接触するようなことはない。


 室内は上等なタン皮のレザー張りだが、華美な装飾は施されておらず、非常にシンプル。高級車にもいろいろなタイプがあり、中にはちょっと汚れがついただけでいちいち大騒ぎして拭き取らないとみっともなく感じられるクルマもあったりする。V90は、筆者が知る限り、プレミアムラージクラスのモデルの中では最もクルマへの気遣いの要求度が小さかった。


 よく、ボルボを表現するのに北欧調という言葉が使われるが、アールヌーヴォ調、ロココ調といった様式と異なり、北欧調には実は決まったフォーマットがあるわけではない。あるのは人間を常に家具や機械より上位に置き、人間に対するフレンドリーさを徹底重視するというスピリットだ。


 各部のタッチの良さ、室内の明るさ、静かさ、フラットな乗り心地を持たせつつ、乗り味も室内デザインもまったく威圧的ではなく、まるで大衆車に乗るように気軽に使う気にさせられるというのが、V90の最も北欧的なところと言える。試乗車の価格は815万円と大変高価な部類に入るが、それを乗る人に意識させない。


 もうひとつ、V90のツーリングで感じられたことは、一見非常に華麗なイメージの外装デザインが、実は余計な装飾をほとんど持っていないことだった。


 1世代前のボルボのデザインはそれこそ飾り気がほとんどなかった。見かけはノンプレミアムと言ってもよかった。そのボルボがXC90以降、にわかに華やいだイメージを持ちはじめたことについて、筆者はユーザーのプレミアムセグメントに対する過剰性の要求が強まっているご時勢だから致し方ないと思っていた。


 だが、実際に風景の中に置いてみると、新世代デザインのV90は旧世代のボルボ車と同様に、風景に溶け込んでしまい、存在感をどーんと主張するようなことがなかった。各部に配された光り物であるモール類も実はとても細かく作られており、ちょっと距離を置いて見ると目立たなくなるようにデザインされていた。


 もともとボルボは純粋なプレミアムブランドではなく、北欧の小国スウェーデンで作られる毛色の変わったクルマというイメージを抱かれていた。その特別さをプレミアムに転化できると踏んだのは、ボルボが中国の吉利汽車の傘下に入る前の親会社、米フォードだった。


 環境技術、デジタル設計技術など、フォードの技術資産を移植したことで、ボルボのクルマづくりは一気に近代化された。一方で、デザインは常にライバルより地味で、プレミアムイメージという点では抑制的だった。


 新世代ボルボのデザインも、実はその点についてはほとんど同質で、近くで見たときだけちょっぴり華やかに見えるようになったことだけが変化したポイントだ、


 地味めだが高級車的なクルマづくりを貫いたことが、結果としてプレミアムセグメントのトレンドである過剰性に対するカウンター勢力という独自性を発揮し、それがブレイクのひとつの要因になっているのではないかと推察された。泣いても笑っても限られた台数しか生産する能力を持たないメーカーとしては、格好のニッチポジションを見つけたといったところだろう。


 今後の課題は、知る人ぞ知る的なニッチ勢力であることを維持しながら、より多くの人にボルボはヒューマンセントリックな思想でクルマづくりをする素敵なブランドなんだと認知してもらうことだ。


 特に日本市場では、ボルボはジャーマン系に比べて認知度が著しく低いうえ、イメージも昔のスウェーデンブランドのままだ。認知度が高まり、新車価格が高くて手は出ないができることならそういうクルマが欲しいというユーザーが増えれば、課題である中古車相場の低さも次第に解消することだろう。


 日本でボルボが年間2万5000台を売っていたのは、変わった輸入車というだけである程度ちやほやされていた時代だっただけのことで、それよりビジネスが格段に難しくなった今日、販売をその水準、あるいはそれ以上に持っていくのは、もとより困難な道だ。


 それができるかどうかは、ディーラーの顧客満足度引き上げも含め、これからどういう手を打つかにかかっているが、成し遂げるだけのポテンシャルをボルボ車が持っていることは十分に感じ取れたドライブだった。

NEWSポストセブン

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