毒舌マツコ・デラックスが自己中なのに愛され続ける理由…言いたい事を言って嫌われる人と"決定的な差"

2024年5月23日(木)18時15分 プレジデント社

晴香葉子 Yoko Haruka 心理学者・作家。早稲田大学オープンカレッジ心理学講座講師。専門は心理学・コミュニケーション学。研究を続けながら様々な角度から情報を提供する。メディアでの解説・監修実績多数。著書に『人生には、こうして奇跡が起きる』ほか。

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■毒舌でも好かれるスゴい心理作用


自分を中心にした考えで生きている「自己中」、そこにはポジティブな面とネガティブな面があります。自己中でもモテる人は、それが裏目に出ていない人。つまり、ポジティブな面だけが印象に残る人です。


晴香葉子Yoko Haruka 心理学者・作家。早稲田大学オープンカレッジ心理学講座講師。専門は心理学・コミュニケーション学。研究を続けながら様々な角度から情報を提供する。メディアでの解説・監修実績多数。著書に『人生には、こうして奇跡が起きる』ほか。

ネガティブな面は、たとえば周囲に迷惑をかけることが挙げられます。自分を優先するあまりに、遅刻をしたり、約束を反故にしたり、といったことがあると、「単にわがままな人だな」と信用を失ってしまいます。また、自己主張が過ぎて、他人を言葉で傷つけてしまうような人も、ネガティブな面だけが印象に残ってしまうタイプの「自己中」です。身体的特徴など、誰しも表には出さなくても、気にしているコンプレックスが一つや二つあるもの。率直な意見や感想のつもりでも、相手にとっては、「毒舌」に感じ、「あの人パワハラ気質だな」と嫌われて、距離を置かれてしまいます。


一方、自己中のよい面は、たとえば主体的に決断できること。そして、自分の意見を堂々と言えることが挙げられます。インターネットの普及も背景に個人主義が広がり、コロナ禍も経て、自分が関与したことの結果の責任は自分におかれる「自己責任社会」の傾向も進む現代ですが、それでも人は同調圧力には弱いもの。迷いや悩みを抱えている人も多い中で、周りに流されず意見を言う姿は、自信に満ち溢れているように見えて、ポジティブな面として印象づきます。また、それでいて、自分の意見や考え方を人に押し付けないのもポイントです。


複数人で日程を合わせる場面を想像してみてください。自分の希望を真っ先に言う人は、不思議と好感を持たれやすいものです。ただ、先陣を切って「私、火曜日は無理だから!」とだけ言う人と、「私は火曜以外がいい。その日は母の病院に付き添いたいから」と理由を添えて言う人とでは、雲泥の差があります。前者はワガママな雰囲気が漂う一方、後者のほうは「協力してあげよう」という気持ちさえ起こさせます。なぜなら後者の発言からは、その人が大切にしていること、「価値観」も伝わってくるからです。自分の大切なものを理解したうえで、それを「優先したい」「大事にしたい」と言葉にする姿は素敵に映ります。理由がわかると安心できるので、尊重してもらいやすくもなります。


もちろん、自分の価値観だけでなく、相手の価値観も尊重する必要があります。自分を中心にした考えで生きつつ、相手も自分を中心にした考えで生きることを尊重できる人は、「自己中」でも好かれるのです。


モテる「自己中」の人を見てみると、基本的な社会のルールはしっかり守っている人が多いものです。それを踏まえての、自己決定した発言であれば、周りから「社会性が欠如した、一方的な発言ではない」と認識されます。自己中のメリットばかりを上手に表面化し、デメリットに関しては前に出ないように、ちゃんとコントロールできているといえます。好かれる人たちは、自己中の捉えられ方を無意識に理解できているのかもしれません。


■代弁してくれる人は気持ちがいい


では、私たちはなぜ「自分を持っている自己中心的な人物」に惹かれるのでしょうか。理由として、様々な心理的要因が挙げられます。


1つ目は、「理想像」として他者に影響を与える「参照影響力」。たとえば尊敬する上司の考え方や判断基準を参考にするなど、憧れの人が取った行動を模倣したり、意見を取り入れたりすることを指します。「自分をしっかり持ち、大事にしていて、意見をストレートに言う」姿は、参照影響力を持つとも考えられるでしょう。


2つ目は「確証バイアス」。人間には、自分の考えや価値観などを支持する情報ばかりを集めようとする傾向があり、同じ意見を持つ人には好感を抱きがちです。また、自分が言えない本音を、代わりに言ってくれる代弁者がいると、自己正当化願望も満たされて、その人を支持したくなります。


これらは会社の中や仕事の場面だけでなく、恋愛や人間関係など社会のあらゆる面でも効果が発揮されます。たとえば、恋愛関係における3ステップ「SVR理論」というものがあります。第1に「刺激」、第2に「価値観(共感力)」、第3に「役割(相互性)」の3つのステップを経て、関係は醸成されると考えられているのですが、これは恋愛だけでなく、自己中の人が好かれる人間模様にも当てはめることができそうです。


自己中な人は、その態度から頼もしさや自分を持っているという印象を「刺激」として与え、同じ考えを代弁してくれることで「共感力」を発揮、さらに内容によっては一歩引き、相補的な「役割」も担います。自己中な人が、魅力的な人物として認識されるとき、このような流れもプラスに働いているのかもしれません。


自分を中心に考えていても、自分の意見だけを押し通すのではなく、「自分はこう思う。みんなはどう?」「私は、これは苦手。得意な人はいる?」など、補完的な人間関係を築こうとする人は、恋愛でも一般的な人間関係でも支持を集めやすい傾向があります。


■嫌われる人の残念すぎる特徴


言いたいことをそのまま言って好かれる人もいれば、嫌われてしまう人もいます。嫌われる要因となる行動の一つに、「理由を言わない」というものがあります。先ほど日程調整の例に出した「私、火曜日は無理だから!」とだけ言ってしまう人もこれですね。


個人差はありますが、私たちの心には「意味のないことはしたくない」「正しい判断をしたい」という欲求があります。理由がわからないことについては、行動の原動力にもならず、判断に自信も持てません。反対に、何らかの理由さえ言ってもらえれば、「自動性」という心理が働いて、カセットテープの再生ボタンを「カチッ」と押すと、その後に「サー」という砂嵐音が流れるように、自動的になんとなく納得してしまいます。このような効果は日本では「カチッサー効果」と呼ばれ、深く考えることなく理解や譲歩を得やすい無意識の反応であることがわかってます。自分の意見を言うときには、とりあえず何らかの理由付けをしてみてください。


「一貫性」の欠如も嫌われる要因になることがあります。私たちは、ある程度、相手に一貫性を想定する傾向があります。昨日優しかった人は、今日も優しいだろうと想定します。また、私たちは、相手に受け入れてもらうために、ある程度は自分の話し方のスタイルを相手に合わせるという傾向もあります。昨日は機嫌のよかった上司が今日は不機嫌だった、昨日はフレンドリーに話しかけてきた人が、今日は他人行儀に敬語で……、といった波があると、ストレスを感じてしまいます。自分を中心において、言いたいことをそのまま言っているようでも、話し方のスタイルや人に接する態度が一貫していれば、周りもそれに慣れ、合わせた反応を取りやすくなり、聴く姿勢も持ってもらいやすくなります。


そして鋭い「語彙力」も、ストレートな物言いをする人の印象を分ける大切なポイントです。思い浮かべているイメージにぴったりな表現をできる語彙力を持っている人は、相手を納得させやすいだけでなく「気持ちがいい」と好感を持たれます。


■心理学でマツコを読み解く


いわゆる「毒舌」でも人気とされる芸能人に、マツコ・デラックスさんがいらっしゃいます。たしかにズバッとした物言いではありますが、多くの世代から愛されている方です。どうしてマツコさんは人気があるのか、心理学的に紐解いてみたいと思います。


まず特徴的なのが、マツコさんがズバッと言い切ったその内容が、「ああ、私もそう思う!」と共感できるものや、「マツコさんだったらそう言ってもおかしくない」と思えるものが多いということです。先ほどお話しした確証バイアスや自己正当化欲求、同調や一貫性の心理も働いて、その明瞭な言い切りが気持ちよいくらいに感じられ、心も満たされ、楽しい気分にもなります。


また、マツコさんは豊富な語彙力を活かした言葉選びも絶妙。言語化されると思わず聞き入ってしまいますよね。自分を中心においた発言のようでも、確かな語彙力と傾聴力で、直接質問できない視聴者も置き去りにされることなく、安心してやり取りを見届けられます。


さらに、あれだけ切れ味鋭い物言いをするのに、会話の相手と意見が食い違ったときは、その意見を強く否定しません。これはとても重要なポイントです。「あなたはそうなのね。でも私は違う」と自分を中心において発言しながらも、相手も自分を中心において考え、発言することを当たり前のように想定し、尊重しています。


一見すると好き勝手言っているように思えますが、独善的ではない、とても魅力的な「自分を中心においた発言」なのだと思います。


■あなたも今日からモテモテだ!


これらを踏まえて「モテる自己中」になるポイントを考えてみましょう。まず前提として、自己中のマイナス面をなくすこと。これは外せません。社会や所属組織の基本的なルールやマナーは守り、社会や組織の一員として、いい意味で「自己中」な人を心がけましょう。


次に、自分らしさや自分の考え方について、深掘りしてみましょう。なかには「自分自身について、実はよくわからない」という人もいるかもしれません。そういうときは、好きなアイテムを思い浮かべることから始めてみてください。小説、映画、音楽、動物、色……具体的なモチーフから自分の好きなものを並べてみて、ときめくものを探してみてください。そうした「推し」をいっぱい集めてみた中に、「自分らしさ」「自分の価値観」のヒントが隠れています。周りの人の「その人らしさ」や価値観も大切に、尊重してみることも大切です。それが引いては、自分らしさの発見にもつながります。


最後に、何か主張するときは、必ず理由とともに発言してみてください。兎にも角にも、理由付けすることが大切です。また、「いきなり自己主張するのは、なかなかハードルが高い」という人もいるかもしれません。その場合、まずは、自分と同意見の人がいたら真っ先に「私もそう思ってました!」と表明してみることから始めてみてください。そのとき、自分の考えた理由を自分の言葉で付け加えることもお忘れなく。


ほかにも、ストレートな物言いであっても本質的に相手を傷つけないことは重要なポイントです。共感力や語彙力を磨いて、誰も傷つけない「表現の鋭さ」を育てていきましょう。


多くの人が「社会性と自己中(=自分を中心において考える生き方)は両立できない」という先入観を持っています。しかし実は、両立できます。特に、個人主義・自己責任的な社会の進む現代において、いい意味で自己中な生き方は、時代にもマッチした一つの道(=選択肢)でもあると思います。


※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月31日号)の一部を再編集したものです。


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晴香 葉子(はるか・ようこ)
心理学者
作家。「防災・危機管理と心理学」をテーマにした講演会をはじめ、メディアでの心理解説・監修実績多数。著書『人生には、こうして奇跡が起きる』ほか。
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(心理学者 晴香 葉子 構成=花輪えみ 写真=時事通信フォト(P3))

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