世界初!中高生が世界最高クラスの加速器J‑PARCでミュオンビーム実験

2025年5月23日(金)15時17分 PR TIMES

 2025年5月5日〜6日、大強度陽子加速器施設J-PARC※1の物質・生命科学実験施設(MLF)ミュオンD1エリアにおいて、加速キッチン合同会社(宮城県仙台市 代表:田中香津生)※2の探究支援を受ける4名の中高生がミュオンビーム実験を行いました。J-PARCで中高生がビーム実験を行うのは今回が初めてです。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/158894/5/158894-5-a9020278f08ab5cd9a514bd09d383924-1920x1440.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]実験を行うD1ビームラインの説明を受ける中高生 (C) KEK IMSS
概要
 J-PARC(https://j-parc.jp/)(茨城県東海村)は世界最高クラスの大強度陽子加速器であり、中性子・ミュオン・中間子・ニュートリノなど多様な量子ビームを備えています。量子ビームは素粒子・原子核物理、物性物理学、化学、材料科学、生物学など幅広い研究に利用されています。本実験は、加速キッチン合同会社(https://accel-kitchen.com/)と高エネルギー加速器研究機構(https://www.kek.jp/) 物質構造科学研究所(https://www2.kek.jp/imss/)(J-PARCセンター 物質・生命科学ディビジョン(https://mlfinfo.jp/)兼務)の梅垣いづみ助教、西村昇一郎特別助教が協力して企画・実施しました。加速キッチンでは支援中の中高生からミュオンビーム実験提案を募集し、採択された3課題(4名)について、5月5日〜6日にD1エリアで実験を行いました。大学生・大学院生スタッフ(齋藤隆太〈東北大学 博士1年〉、柳澤祐太郎〈東北大学 修士1年〉、能勢千鶴〈東北大学 修士2年〉、貫輪美博〈東京科学大学 学部1年〉)が、設置や測定をサポートしました。
 参加中高生は1日目にミュオン科学実験施設(MUSE)(https://www2.kek.jp/imss/msl/)※3のビームラインの見学・実験準備を行いました。2日目にそれぞれ3つの中高生の提案実験を行い、予定通り必要なデータを収集できました。放射線管理区域内での検出器設置等の準備は放射線業務従事者登録をしている大学生・大学院生スタッフによって行われ、中高生は施設内の会議室から遠隔でデータ収集の準備を行いました。
参加中高生の実験内容
課題1.:2次元ビームモニタの性能評価:松下千穂里さん(女子学院高等学校 高校3年生)
女子学院高等学校の松下千穂里さんは、2024年に日本人高校生として初めてCERNでビーム実験を行ったSakura Particles(https://accel-kitchen.com/sakura-particles/)のメンバーの一人です。今回は、CERNで性能評価を行った2次元ビームモニタを用いたビーム実験のさらなる検証を行いました。CERNでの実験で用いた連続ビームとは異なり、J-PARCではおよそ100 ナノ秒(1000万分の1秒)という短い時間に集中してミュオンが到来します。そこで、松下千穂里さんはビーム到来中の信号波形を全て取得することにより信号収集するような工夫を行いました。今回のビーム実験では検出器上の異なる3点にビームを照射し、それぞれどのようにイメージングできたかをこれから解析していきます。大学生スタッフの貫輪美博もSakura Particlesとして昨年CERNのビーム実験に参加したメンバーです。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/158894/5/158894-5-2a2715ea4057375a4a3618273d02af44-1439x1079.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]自作の2次元ビームモニタをビームライン上に設置[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/158894/5/158894-5-a168221b2c252f021cc2687b31e55fdd-2185x1639.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]大学生スタッフと議論をする松下千穂里さん(右から3人目)
課題2.:ミュオンビームの速度測定:川道かのんさん(名古屋大学教育学部附属中・高等学校 中学3年生)、淺野颯良さん(名古屋大学教育学部附属中・高等学校 高校3年生)
名古屋大学教育学部附属中・高等学校の川道かのんさん、淺野颯良さんは宇宙線ミュオンの速度をTime of Flight(TOF)法で観測する探究に取り組んでおり、2024年に大阪公立大学で行われた放射線に関する高校生発表会「ハイスクールラジエーションクラス」では最優秀賞(https://housyasen-fukyu.com/event/pdf/2024_1.pdf)を受賞しました。今回のビーム実験でビームライン上の前方検出器と後方検出器の2つの検出器間の距離を変えながら、ミュオンの到来時間差を測定しました。このデータを解析することで、D1エリアから供給されたミュオンの速度を明らかにしていきます。
[画像4: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/158894/5/158894-5-940bc9f013bcca89509930a6a9d0be47-1440x1079.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]ビームライン上に前方検出器と後方検出器を並べて設置、2つを通過するミュオンの速度を測定する[画像5: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/158894/5/158894-5-159d7092ed8e2c630877f0cba30ec6db-996x747.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]検出器をリモート操作する淺野颯良さん(左)、青野真優さん(中央)、川道かのんさん(右)
課題3.:コンクリートによるミュオンビームの遮蔽効果:青野真優さん(東京学芸大学附属高等学校 高校3年生)
 東京学芸大学附属高等学校の青野真優さんは加速キッチンで「学校の天井の厚みを宇宙線で計測する」探究活動を行っています。ここから着想して今回のビーム実験では自宅でセメントを固めて作成した「自作コンクリート」を用意して、その前後に検出器を設置してビーム実験を行いました。2つの検出器の信号強度からミュオンビームがコンクリートでどの程度遮蔽されるかを解析していきます。
[画像6: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/158894/5/158894-5-e03b30b6e0f96fbf2c1b1da39db304c9-3842x2162.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]自作のコンクリートをアクリルボックスに入れて検出器の前に設置[画像7: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/158894/5/158894-5-dabb700e6620a29a3f7d27f2d30743ae-1600x976.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]コンクリート設置時の検出器のデータを確認する青野真優さん(中央)
今後の中高生の活動・成果発信
 J-PARCで実験を行った中高生4名はこれからデータ解析を行い、得られた成果を学会や論文などで公表する予定です。例えば松下千穂里さんは、5月25日(日)に千葉市の幕張メッセで開催される「日本地球惑星科学連合 2025年大会(JpGU2025) 高校生セッション」で「2次元ビームモニタの性能評価」を発表する予定です。
[画像8: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/158894/5/158894-5-fe3e7858b9d7b21a1f7376ac6b803b13-1663x1108.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]MLF(物質・生命科学実験施設)の前で記念写真 (C) KEK IMSS
※学校名や肩書きは 2025 年 5 月時点のものです。

【用語の説明】
※1 大強度陽子加速器施設(J-PARC)
 高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が茨城県東海村で共同運営している大型研究施設で、素粒子物理学、原子核物理学、物性物理学、化学、材料科学、生物学などの学術的な研究から産業分野への応用研究まで、広範囲の分野での世界最先端の研究が行われています。J-PARC内のMLFでは、世界最高強度のミュオン及び中性子ビームを用いた研究が行われており、世界中から研究者が集まっています。
※2 加速キッチン
 加速キッチンは宇宙・素粒子分野を自分たちの力で探究できる世界をつくることを使命として、理工学系や様々な分野の大学生・大学院生を中心として活動しています。この活動は徐々に広がり現在では世界でも最大の素粒子探究ネットワークとなりました。素粒子を測定してその極小の世界の性質を調べたい中高生のために安価で手軽に使える素粒子検出器を配布し、研究者や様々な市民科学プロジェクトと中高生をつなぎ、世界中の研究者や中高生と共同研究をするきっかけを提供しています。
※3 ミュオン科学実験施設(MUSE)
 MUSEは、J-PARCのMLF内にある世界最先端のミュオンビーム実験施設です。高強度のミュオンを用いて、物質内部の構造や磁性、超伝導などを非破壊で調べることができ、物性物理や材料科学、生命科学など幅広い分野で利用されています。


【本件に関するお問い合わせ】
加速キッチン合同会社 広報担当:須藤舞子
TEL  :03-4500-0403(#)
E-mail:info@accel-kitchen.com

高エネルギー加速器研究機構 広報室
TEL  :029-879-6047(#)
E-mail:press@kek.jp

J-PARCセンター広報セクション
TEL  :029-287-9600(#)
E-mail:pr-section@ml.j-parc.jp

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