人材不足のパイロット LCCで「年収1200万円」がいまの相場

5月24日(土)7時0分 NEWSポストセブン

人材不足から10月までに2128便の欠航を決めたピーチ

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 一昔前なら、「将来なりたい職業」の上位に必ずランクインしていたパイロット。高給が保証され、社会的ステータスも高い憧れの仕事だったはず。それがいまや慢性的な人手不足からエアライン1社で2000便以上が欠航に追い込まれる事態となっている。


 日本に3社ある格安航空会社(LCC)の中で唯一の勝ち組だったピーチ・アビエーション。低価格運賃を武器に、平均搭乗率が損益分岐点とされる70%を超えて経営も軌道に乗っていた。にもかかわらず、4月に突如2000便超の定期便(5〜10月)を欠航すると発表した。


 同社によると、52人の機長のうち8人が病気などで長期欠勤。10人程度の中途採用や副操縦士からの昇格も見込んでいたが、アテが外れたのだという。おまけに、5月20日には追加で56便の欠航を発表。これも訓練中だった2人の機長が急きょ退職したためと説明している。


 重責を担うパイロットゆえに、「風邪薬を飲んだだけでも航空法の規定により乗務できない」(業界関係者)厳格さを求められるのは当然としても、国内・国際線の総便数の17%もの欠航を余儀なくされるほど人手が確保できない理由は何なのか。


 航空経営研究所所長の赤井奉久氏は、「世界中で人材獲得合戦が起きているから」と話す。


「世界で飛んでいる航空機のほとんどがボーイングかエアバス製なので、パイロットの運航技術は世界共通です。しかも、今の飛行機はたとえ着陸前にトラブルがあっても自動制御が働くほど性能がいいし、航路もきちんと整備されているのでパイロットの養成は以前よりもしやすくなっています。


 ところが、世界的な航空需要の高まりで、特に日本を含めたアジアで中・小型飛行機の数が爆発的に増えているため、パイロットの育成スピードが全然追いつかない。そこでパイロットの派遣や就職あっせん会社を通じて、世界中のパイロットの引き抜き合戦が行われているのです」(赤井氏)


 確かに国際民間航空機関(ICAO)の予測では、2030年にアジア・太平洋地域で必要になるパイロット需要は約23万人で、2010年の4.5倍も増える。


 航空評論家の秀島一生氏は、さらに深刻な数字を挙げる。


「現在、ボーイング社がオーダーを受けているすべての飛行機が2032年までに予定通りに納入されたとすると、アジアだけでパイロットが50万人不足すると言われています。足りないのはパイロットだけではありません。整備士も50万人、その他、空港スタッフやCAなどの人員も20万人不足すると危惧されています」


 これほど売り手市場のパイロットだが、日本のエアラインの報酬はJALの経営再建やコストカットで採算を取るLCCの台頭などもあり、低めに抑えられている。大手エアラインのパイロットが年収3000万円以上を稼いでいたのは過去の話。全日空でも1900万円、LCCなら1200万円そこそこがいまの相場だ(有価証券報告書記載の額)。


「専門課程のある大学や航空会社で厳しい訓練を受けてパイロットのライセンスを取得しても、機長になるには副操縦士として7〜10年のフライト実績を積まなければならない。それだけ苦労して人件費の安いLCCで乗務するくらいなら、待遇のいい海外のエアラインに転職したほうがマシと考える日本人パイロットは多い」(業界関係者)


 一方、「人材不足は個別のエアラインだけの責任ではなく、見通しの甘い規制緩和に突き進んだ航空行政の責任も重大」と指摘するのは、前出の秀島氏。


「国は水増しの需要予測で地方に赤字空港をつくり続けたばかりか、LCCを成り立たせるために低コストで飛べる規制緩和を際限なく行ってきました。次から次へと飛行機を飛ばすために、フライトとフライトの間の整備・点検は行わなくてもよくなりましたし、これまで禁止されていた搭乗中の給油もOKになりました。


 パイロットになる条件だって緩和されています。今はフライトシュミレーターを使った訓練が主流で、ライセンスを取得してから初めて実機に乗るパイロットも多い。つまり、安全と品質を蔑ろにしてまでイケイケドンドンの拡大策を推し進めてきたわけです。これでもし、重大事故が起きたら国の責任は免れません」(秀島氏)


 ローコストの過当競争で懸念される人材不足と空の安全。LCCをはじめ日本のエアラインは険しい“乱気流”をどう乗り越えていくのだろうか。

NEWSポストセブン

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