「濃縮エキス」「ギュッと凝縮」に潜む未知のリスク…現役内科医が指摘する健康食品の意外な落とし穴

2024年5月25日(土)6時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yana Tatevosian

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小林製薬の紅麹サプリメントによる健康被害が話題となった。内科医の名取宏さんは「以前から医師の間では、健康食品やサプリメントによる健康被害の事例はよく知られている。必ずしも安全ではないことを知っておいてほしい」という——。
写真=iStock.com/Yana Tatevosian
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■小林製薬の紅麹による健康被害


小林製薬のサプリメント「紅麹コレステヘルプ」を摂取した人に腎障害などが起こり、これまでに5人が死亡、257人が入院したと報道されました。大変残念で、悲しいニュースです。


この紅麹はカビの一種で、古くから食品の発酵や着色に使用されてきたもの。ただし、味噌や日本酒に使用されている麹(こうじ)とは別種です。その後、小林製薬が自社製造の紅麹原料の成分分析を行ったところ、一部に意図しない成分が含まれている可能性が判明しました。現時点では原因物質の候補は上がっているものの、詳細は未だ調査中とのことです。


日本におけるサプリメントを含む健康食品の市場規模は約1兆円。毎日たくさんの健康食品の広告がテレビやインターネットに流れ、どうしてもメーカー側に都合のよい情報ばかりが目立ちます。そのせいで健康食品は効果的で安全だと思っている人も多く、今回のニュースに驚かれた人もいるのではないでしょうか。


■安全性を考えるなら「量」が重要


健康食品が安全だと思われがちな理由はそれだけではなく、食品であること、これまで長く食べられてきた実績があるためでしょう。紅麹も、中国や沖縄で昔から食べられてきた歴史があります。


でも、安全性を考えるときには摂取量が重要です。いくら食品として長く食べられてきたといっても、健康食品メーカーが推奨するほどの多量を摂取してきたわけではないでしょう。まして毎日、長期間にわたって摂取することによる影響はまったくわかっていません。さらに通常の摂取量では安全な食品でも、濃縮した成分を連用することで健康被害が生じるかもしれないのです。


健康食品が「濃縮エキス」「ギュッと凝縮」といったキャッチコピーで売られているのは消費者に少量でも効果があるかのように思わせるためでしょうが、私からみると濃縮されているからこそ未知の危険性があると思います。普通の食べ物の場合は同じものを食べ続ければ味や匂いに飽きますが、錠剤やカプセルには飽きることがないので、さらに危険性が増すでしょう。


■健康食品で病気になるケースも


健康食品やサプリメントなどによって健康被害が起きうることは、医師の間では以前からよく知られています。今回の紅麹の健康被害は、医師が腎機能障害による入院患者の健康食品摂取歴を確認し、報告したことで発覚しました。


私の専門は肝臓内科ですが、肝障害の患者さんを診るときにも、ウイルス感染、自己免疫、薬剤、飲酒などの他に、健康食品が原因の可能性もありますから、必ず摂取歴を確認します。健康食品による肝障害の多くは軽症で、その食品の摂取を止めればたいていは自然に回復します。しかし、もともと肝硬変といった重篤な肝疾患がある場合は肝機能の余力がないため重症になることもあり、死亡例もあるのです。


健康によい効果を期待して食べ始めた健康食品によって病気になったり、命を落としたりするようでは本末転倒です。何のための健康食品なのでしょうか。


写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kayoko Hayashi

■効果は不明なのにリスクだけはある


こうした健康食品のリスクを説明すると、「医薬品にも副作用はある」と反論されることがあります。でも、医薬品の場合はどんな副作用が起こりうるか調べられていて、問題があれば医師の判断で検査したり、服用を中止したりできます。しかし、健康食品の場合は副作用が見逃され、被害が深刻化する恐れがあるのです。加えて、医薬品なら有効成分は精製されていますが、健康食品にはさまざまな成分が含まれていて、どのような作用をもたらすか不明です。


また、医薬品の効果は証明されている一方、健康食品の多くは効果が証明されていません。すると効果があるかどうかは不明で、副作用のリスクだけがあるのです。証明されていない効果を謳って健康食品を販売すれば法律違反ですが、法律に触れないよう宣伝文句を工夫することができるので、効果があると誤認する消費者もいるでしょう。


健康食品の臨床試験を行って論文を発表している企業もありますが、その質は必ずしも高くありません。一般消費者が論文を読み込んで、研究の質を的確に評価するのは難しいこと。だからこそ権威付けを目的として論文が多用されるのです。


■健康飲料水の根拠にならない論文


以前、ある健康飲料水について、某メディアが「科学的に効果が検証されていないのに高額で販売している」と専門家による批判的な意見を掲載したところ、その水を製造・販売する企業から名誉棄損で訴えられたことがありました。


企業側は科学的な裏付けがあるとして論文を提示し、メディア側はその論文を検証してほしいと私に依頼。そのため論文を確認したのですが、一応はランダム化比較試験を行っているものの、事前登録された本命の評価項目では有意差がつかず、そのほかの多くの項目を測定し、改善した一部の項目だけを強調していました。


これは多くの項目を測定し、都合のよい結果が出た項目のみを発表する「粉飾」と呼ばれる手法であり、効果が証明されたとはいえません。むしろ本命の評価項目で有意差がないので、その健康飲料水に企業が想定したような健康効果がないことを示唆しています。


裁判の判決では「本件各論文の存在をもって、本件飲料水の効用が科学的に実証されているとみることはできない」「本件飲料水の効用は科学的に実証されていないものであることについては真実であると認めることができる」とされ、メディア側が勝訴しました。しかし、その健康飲料水は今でも普通に販売されています。


写真=iStock.com/flyingv43
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/flyingv43

■機能性表示食品もよいとは限らない


では、科学的根拠となる資料を提示することで機能性を表示できる「機能性表示食品」なら信頼できるのでしょうか。じつは、そんなことはありません。機能性表示食品は企業からの届け出制であり、国は安全性や機能性を評価していないのです。企業から届け出された資料については「報告の質、研究の質において不備が多い」「機能性のエビデンスにおいては注意を要する届出が多い」と指摘されています(※1)。


ちなみに、冒頭の紅麹サプリメントも「機能性表示食品」です。紅麹サプリメントには、確かにLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)を下げる「モナコリンK」という有効成分が含まれています。ただ、安全性はどうでしょうか。


モナコリンKは処方薬にも使われるスタチンの一種です。スタチンは、LDLコレステロールを下げ、心筋梗塞といった心疾患を減らす優れた薬ですが、一定の割合で肝障害などの副作用が起きます。紅麹サプリメントに臨床的に意味がある量のスタチンが含まれているなら、こうした副作用も起きるでしょう。副作用なしに有益な効果だけもたらすような都合のよい成分はありません。


※1 上岡洋晴「機能性表示食品制度の現状と課題 機能性のエビデンス


■健康食品で体調に異変があれば受診を


結局のところ、健康食品やサプリメントにもリスクはあり、万人におすすめできるものはありません。バランスのよい食事を摂っていれば特定の栄養素が不足することはなく、通常はサプリメントを摂取する必要はないのです。


例外は、妊娠初期の女性における葉酸、ベジタリアンにおけるビタミンB12といった特殊な状況に限られます。貧血や骨粗鬆症などがあれば病院を受診し、どのような成分が入っていて、どのような副作用が生じえるのかよくわかっている医薬品を摂取してください。持病がなく健康の維持・増進を目指すなら、健康食品やサプリメントを摂取するのではなく、バランスのよい食事や適度な運動といった生活習慣の改善をおすすめします。


そうはいっても生活習慣の改善は難しく、健康食品やサプリメントに頼りたい方もいらっしゃるかもしれません。リスクはあっても小さいので試してみてもかまわないでしょう。ただ、健康被害が起こる可能性があることを理解した上で、倦怠感やむくみといった異常を感じたら、すぐに摂取を中止して医師に相談してください。その場合は製品の外箱などを持参していただければ診療の参考になります。


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名取 宏(なとり・ひろむ)
内科医
医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。ハンドルネームは、NATROM(なとろむ)。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』『最善の健康法』(ともに内外出版社)、共著書に『今日から使える薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)がある。
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(内科医 名取 宏)

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