プロ野球選手も「試合がダラダラしすぎ」と思っている…「野球」が「ベースボール」に追い付けない根本原因

2024年5月27日(月)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jetcityimage

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日本の「プロ野球」とアメリカの「ベースボール」はなにが違うのか。元プロ野球選手でメジャーリーガーの井口資仁さんは「アメリカは積極的にルール改定などを行って『現代のスポーツ』であろうとしている。日本のプロ野球も見習うべきだ」という——。

※本稿は、井口資仁『井口ビジョン』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。


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■メジャーが2023年に行った大幅なルール改定


野球とベースボール。同じスポーツを表す名前ながら、プロ野球とメジャーリーグ、両方の解説をしているとその違いを感じずにはいられません。そもそも、アメリカで実施されたルールやフォーマットの改定が、数年後に日本でも採用される流れが定着していますが、2023年にメジャーが実施した改定のインパクトは絶大で、日米で違うスポーツをしているのではないかという錯覚すら覚えたほどです。


ここで2023年にメジャーで実施された主なルール・フォーマットの改定をご紹介しましょう。


○ピッチクロックの導入
投手は走者なしの場面では15秒以内、走者ありの場合は20秒以内に投球しなくてはならない
打者が交代する場面では30秒以内
捕手はピッチクロックが残り9秒以下になる前に、ホームベース後方に下がらなくてはならない
打者は残り8秒以下になる前に、打席に入らなくてはならない
投手側の違反は1ボール、打者側の違反は1ストライクが宣告される


○牽制球制限
プレートから足を外す行為も含め、投手の牽制は1打席につき3回まで。3回目の牽制球で走者をアウトにしない限り、以降はボークを宣告される


○守備シフトの禁止
内野手は二塁ベースを中心とした左右に2人ずつ位置しなければならない
内野手は内野のダート部分に両足を置かなければならない
違反した場合は1ボールが宣告される


○ベースの拡大
一塁、二塁、三塁ベースの大きさが15インチ(約38センチメートル)四方から18インチ(約46センチメートル)四方に拡大


■試合時間が長すぎてベースボール人気が低迷


かつては「The Great American Pastime(アメリカの一大娯楽)」と呼ばれ、国民的人気を誇った野球ですが、今ではアメリカンフットボールやバスケットボールなどの人気に押され、ファンと競技人口の減少が大きな課題となっています。そこで、メジャーリーグ機構が中心となり人気低下の原因を調査したところ、3時間を超える試合時間の長さが大きく関係することが分かりました。


メジャーリーグ機構のロブ・マンフレッド・コミッショナーは「時短」を急務の課題に掲げ、試合時間を長引かせる要因をさらに調査。その結果、投手によってまちまちな投球間隔、監督・コーチによるマウンド訪問、打者がたびたび打席を外す行為などを「無駄の省ける時間」とし、ピッチクロックを導入することで時短を図ることにしたのです。


また、ここ数年にわたり顕著となっていた「投高打低」の傾向を変え、より得点が入る試合を増やすために守備シフトを禁止したり、ベースを大きくしたりするなどルールを改定。エンターテインメント性を高めることで人気を回復できないか、試行錯誤を繰り返しています。そして、2023年シーズンを見る限り、新ルール導入の成果は十分に表れているのではないかと思います。


写真=iStock.com/gerenme
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■ルール改定で試合時間が30分も短縮された


2023年のオールスター戦開催時に行われたマンフレッド・コミッショナーの記者会見に先立ち、メディアに配布された資料があります。それによれば、2021年には9イニングの平均試合時間が史上最長となる3時間10分だったのに対し、2023年前半戦では2時間38分まで短縮されていたのです。およそ30分も短縮されたことには驚きしかありません。


また、データによれば、前半戦に行われた約6割の試合で、新たに導入されたピッチクロックに関わるルール違反があったものの、そのうち28%が1試合あたりの違反は一つ、9%が二つ、三つ以上あったのはわずか2%のみ。開幕から100試合目までは平均で1試合あたり0.87個の違反があったものの、前半最後の100試合では0.23個に減少していることから考えると、選手はプレーする中でピッチクロックに問題なく対応することができていたようです。


■勇気ある変化を起こさないと「時代遅れのスポーツ」になる


実際に僕が現地でオープン戦を視察した時は、まだルールに慣れていないため少しイライラした様子が見てとれる投手や、打席に入り忘れてしまう打者もいました。しかし、データが示す通り、シーズンが深まるにつれて定着し、全体的な印象として大きな混乱を招いているとは思えませんでした。


試合の時短にはルール改定だけではなく、ピッチコムの導入も大きく影響しているでしょう。投手と捕手のサイン交換を行うための電子機器で、従来の捕手から発信する指や体を使ったサイン交換では、ピッチクロックで定められた投球間隔に間に合わない心配を解消しました。


ピッチコムはバッテリーの他にも最大3人の野手が着用でき、バッテリー間のやりとりを音声情報として受け取ることができます。目に見えないサイン交換ができるので、サイン盗み問題も解決できるという機器です。


ともすれば、野球の本質を変えかねないルール改定や新ルールの導入です。正式採用される前はもちろん、採用された後も異議を唱える声が上がり大いに議論されたと聞きますが、それでもアメリカでは野球というスポーツを未来へつなぐためにも、勇気ある変化を起こしているのです。


いい伝統は引き継ぎながらも、時代に即した変化を厭わない柔軟な姿勢を持たなければ、時代遅れとなり取り残されてしまいます。


■選手でさえ「試合が長い」と思っていた


日本でも、早ければ2025年シーズンにもピッチクロックやピッチコムを導入したり、牽制ルールなどを改定したりする議論がなされるでしょう。アメリカのように時代に即した対応をするべきですし、常に世界基準は意識しておくべきです。なぜなら、これまでWBCに代表される国際大会はメジャーリーグのルールに準じた形で開催されてきたからです。


おそらく2026年に開催される第6回WBCでピッチクロックが導入される可能性は高いでしょう。ただでさえ、日本の投手陣は公式球に慣れるために時間を割かなければなりません。さらなる負担を強いることのないよう、世界基準に合わせたルール改定は必要です。


試合時間の長さは、日本でもまた、懸念点の一つとされてきました。実際、僕もプロ野球の試合解説を行う時に「長い」と感じることが多々あります。正直に言えば、選手や監督としてユニホームを着ていた時も、試合が終わるとその長さに憔悴しきってしまうことがありました。


監督でも疲れ果てるのですから、プレーしている選手たちにとって試合時間が短くなることはプラスでしかありません。体への負担が減ると同時に注意力が散漫になることもなく、怪我のリスクが軽減されるからです。


■地上波放送も復活するかもしれない


また、試合時間が短縮されれば、テレビの地上波にプロ野球中継が復活する可能性が生まれるのではないかとも考えています。試合が夕方6時から9時までの3時間に収まれば、テレビ局に放送しやすいコンテンツとして考えてもらえるでしょう。


球場で観戦するファンにとっても予定が立てやすくなりますし、9時までに終われば子供たちも球場でナイター観戦しやすくなるのではないでしょうか。テレビであれ球場であれ、子供たちが野球を身近に感じる機会を増やす意味でも、試合時間の短縮は有効だと思うのです。


ちなみに、僕が経験した最も長い試合時間はホワイトソックス時代の6時間19分(延長19回)で、2006年7月9日の本拠地ボストン・レッドソックス戦でした。5-5の延長19回1死満塁の絶好機で僕は打席を迎え、カウント2-2からの5球目を強振。打球はレフト前へ抜けるサヨナラヒットとなりました。自分のバットで勝負が決まったこと以上に、試合が終わったことをうれしく思ったことを覚えています。


最も多いイニング数はパドレス時代の22回(6時間16分)で、開幕まもない2008年4月17日の本拠地コロラド・ロッキーズ戦。この時は1-2で敗れ、徒労感しか残りませんでした。


反対に、最も短い試合時間はホワイトソックス時代の2005年4月16日の本拠地マリナーズ戦。この時は9回までプレーして、わずか1時間39分で試合が終わったのです。ホワイトソックスのエース左腕マーク・バーリーはテンポの良い投球が持ち味でしたが、この日はマリナーズ打線を寄せ付けずに3安打1失点の完投勝利。許した3安打はすべてイチローさんだったことも印象深く残っています。


■セ・パ両リーグでのDH制導入も検討すべき


試合時間の短縮と同様に、セ・パ両リーグでの指名打者(DH)制導入や1リーグ制への移行といった話題も、これから議論が活性化するのではないかと考えています。この両者について、僕の意見をご紹介しましょう。


パ・リーグでは1975年から採用されているDH制を、セ・リーグでも採用すべきか否かという議論は今に始まったことではなく、長らく続いているものです。結論から言うと、僕は両リーグともにDH制とするべきだと考えています。


打線のつながりを考えてみても、投手が怪我を負うリスクを考えてみても、DHを起用する方が断然合理的。もちろん、投手の中にも打席に立ちたい人はいるでしょうが、その場合は先発投手がDHを兼務できる「大谷ルール」を適用すればいいと思うのです。



井口資仁『井口ビジョン』(KADOKAWA)

メジャーでは2020年に新型コロナウイルス感染症の影響による特例措置として、ア・リーグとナ・リーグ両方でDH制が採用されました。翌年にナ・リーグはDHを使わずに投手も打席に立つ従来のルールへ戻りましたが、2022年から正式に両リーグでDH制を採用することが決定。採用後の2シーズンを見ても特に大きな混乱はなさそうですし、むしろ選手にとっては、投手も打者も、移籍先の選択肢が広がったように思います。DH専門の野手や打撃が苦手な投手でも問題なく、ナ・リーグの球団に移籍できるようになったからです。


日本でも将来的には両リーグでDH制が採用されることになると思います。この変化の波は避けて通れないでしょう。そうであれば、メジャーに近いタイミングで、日本も早めに変化した方がいいのではないでしょうか。


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井口 資仁(いぐち・ただひと)
元プロ野球選手・メジャーリーガー
1974年12月4日、東京都生まれ。國學院久我山高校、青山学院大学を経て、1996年ドラフト1位で福岡ダイエーホークス入団。走攻守の三拍子がそろった選手として活躍。2001年、03年には盗塁王を獲得した。05年にMLBのシカゴ・ホワイトソックスへ移籍し、ワールドシリーズ制覇に貢献。フィラデルフィア・フィリーズ、サンディエゴ・パドレスを経て帰国すると、09年より千葉ロッテマリーンズでプレー。13年に日米通算2000本安打を達成。17年限りで現役を引退しロッテの監督に就任。22年限りで退任し、現在は野球評論家として活動中。
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(元プロ野球選手・メジャーリーガー 井口 資仁)

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