まずは「コップ一杯の水」を飲むだけでいい…大学病院医師「全臓器をボロボロにする悪玉血液から体を守る方法」

2025年5月28日(水)18時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Doucefleur

健康で長生きするにはどうすればいいのか。国際医療福祉大学三田病院糖尿病・代謝・内分泌内科 部長/同大学医学部教授の坂本昌也医師は「悪玉血液は血管をボロボロにし、さまざまな臓器の病気リスクを高める。特に45歳からは生活習慣を見直し、善玉血液を育てていくことが大切だ」という——。(聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)
写真=iStock.com/Doucefleur
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■「悪玉血液」が無症状の動脈硬化を加速させる


前回(第1回)では、「無症状に進む動脈硬化」を防ぐために、50歳を過ぎたら「絶対に受けるべき検査」と取り組むべき「3つの習慣」についてお話ししました。今回は、その続編として「悪玉血液」の恐ろしさをお話しします。


「悪玉血液」とは、粘り気のあるドロドロした血液です。私が患者さんに「悪玉血液」という言葉を用いると、血液の状態を直感的に理解してくれます。正式な医学用語ではありませんが、非常に便利な造語です。「ドロドロの悪玉血液が流れてますよ」とお話しすれば、頑固な患者さんにも感覚的に「まずいかも」と思ってもらえる。生活習慣を変えなくては、という強い意志が芽生える。それが意識改革の第一段階です。


血液がドロドロになると血流が悪くなります。そして、血管の中に含まれるLDL(悪玉)コレステロールや脂肪がたまりやすくなります。これが積み重なるとやがてプラーク(血管の壁に付いた動脈硬化巣)になり、血管を狭くし、動脈硬化が進みます。また、ドロドロした血液は内膜にダメージを与え、血小板を刺激して血栓(血のかたまり)がつくられます。こうしてある日突然、心筋梗塞や脳梗塞が発症しやすくなります。


■ボロボロになった血管は元に戻らない


そもそも「血管がボロボロになる」とはどういうことでしょうか。例えば、動脈硬化の進行は6段階に分かれて説明できます。


1.血管の内膜がダメージを受け、炎症反応が起きる
2.コレステロールなどが蓄積し、プラークになる
3.プラークが大きくなって血管が狭くなる
4.カルシウムが沈着し、血管が石灰化・硬化する
5.内膜がさらに脆くなって破れやすくなり、血栓ができる
6.血圧がかかって血管がこぶのように膨らみ、最終的には破裂のリスクが高まる


私の感覚では、「ボロボロ血管」は10年、20年かけてゆっくり進行する「あなたの見えないリスク」です。60歳でピカピカの血管の人もいれば、40代でボロボロの人もいます。あなたの生活習慣が、あなたの血管をつくるのです。そして残念ながら、一度ボロボロになった血管は元には戻りません。劣化した輪ゴムと同じで、柔軟性を失い、伸ばせば切れてしまいます。


血管が詰まっても破れても、それは実は「突然発症した」のではなく、「ずっと進行していた結果が、ある日表に出た」のです。さらに怖いのは、自覚症状がないまま進行する点です。時限爆弾を抱えて生きているようなものだと、私は患者さんにお話しする事もあります。


私は糖尿病、内分泌、高血圧が専門の内科医です。「血管が詰まった」「血管が裂けた」「血管が破れた」といった、まさに命に関わる症状になる前に治療を行う専門家です。しかし、血管の中は見えないからこそ、症状がないうちはつい軽視されがちです。


血管がボロボロに壊れてからでは遅いのです。目には見えないけれど、血液と血管はあなたの命を支える最前線。あなたの人生がかかっているといっても過言ではありません。ぜひ「今」からでもサラサラな「善玉血液」を育てて、ボロボロ血管にブレーキをかけてください。


撮影=プレジデントオンライン編集部
坂本医師 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■臓器にも悪影響、病気リスクを高める


悪玉血液が引き起こすリスクは、たくさんあります。心臓、脳、血圧、腎臓、さらには糖尿病の合併症にまで影響を及ぼします。以下の疾患は、「突然死」や「寝たきり」を招く重篤な病気です


● 心筋梗塞
● 脳梗塞・くも膜下出血
● 高血圧
● 慢性腎臓病


これらの兆しをつかむため、脂質(LDL・HDL)、血圧、eGFR(腎機能)——この3つの検査結果は私が最も注意して見ている数値です。患者さんにも、「これだけは絶対に見ておいてください」と強調しています。一つでも引っかかったら、それは「イエローカード」。二つなら「レッドカード」。三つ当たったら「即アウト」です。


そしてこの「即アウト」の基準には、医学的な根拠があります。例えば糖尿病患者さんにおいてはガイドライン上でも、LDL(悪玉)コレステロールの基準値はどんどん厳しくなってきており、かつて140mg/dLだった基準は、120とされ、そして現在では100mg/dL未満が推奨されるようになっています。


つまり「以前は大丈夫だったから今も大丈夫」と思っていたら時代に取り残されてしまいます。基準は進化し続けているのです。ですから、健康診断は習慣化してください。意外ですが、「見た目が健康そうな人」も意識して注意してほしいと強く思います。体型や年齢ではなく、目には見えない「血液の質」がリスクを決めるのですから。


■健康診断では見抜けない


健康診断を受診することは大変重要なのですが、正直なところ健康診断ではわからないこともあります。実際、血糖値やコレステロール値が正常でも、血液の質そのものが悪化しているというケースがあります。いわば、「隠れ悪玉血液」の状態です。


よくあるのは、「健康診断でA判定だったから大丈夫だと思っていた」という反応です。A判定はあくまで“その一瞬”の値にすぎません。たとえば、食後高血糖やインスリン抵抗性は空腹時の血糖値では見抜けない。見えないところで血管や内臓がダメージを受けているかもしれないのです。


体調のサインにも注意してほしいです。以下のような症状は、隠れ悪玉血液の兆候かもしれません。


・食後すぐに眠くなる
・なんとなくいつもだるい
・肌荒れが治らない
・睡眠時間を取っても疲れが抜けない


こうした体のサインは、血液の質が落ち、酸素や栄養の運搬がうまくいっていない可能性を示しています。


さらに、私が注目しているのは「炎症の指標」です。たとえば、CRP(C反応性タンパク)やESR(赤血球沈降速度)といった値は、血管や全身で静かな炎症が進んでいるかどうかを反映します。これらの数値が微妙に高い状態が続くと、悪玉血液が血管を傷つけ、動脈硬化が進行している恐れがあります。


「健康診断で何も言われなかったから大丈夫」と安心してはいけません。むしろ「気になる体調変化」があるなら、それは自分の体からのサインです。


私は月に700〜800人の患者さんを診る傍ら、日本全国各地の12万人の患者データを検証、追跡しています。その立場から私が患者さんにお伝えしているのは、「数字の正常よりも、変化や違和感の方が大切」ということです。数値はあくまで目安。自分の体の声を聞く力、血液の状態を疑う視点を持つことが、悪玉血液を防ぐ第一歩です。


■まずは「コップ一杯の水」から


血液の質は、日々の生活の積み重ねで決まります。そして、悪玉血液は放っておいて自然と善玉血液(サラサラ血液)に変わるものではありません。血液にも「投資」が必要。お金や筋力を若いうちから蓄えるように、善玉血液も日頃から育てていく意識が大事です。以下に、私が推奨する善玉血液を育むための5つの生活習慣を紹介します。


1.水分をこまめにとる(1日1.5〜2L)
2.食事のリズムと質を整える
3.毎日30分の軽い運動
4.良質な睡眠(6〜7時間)
5.ストレスマネジメント


写真=iStock.com/AJ_Watt
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AJ_Watt

急に全部を始める必要はありません。むしろ、急激に始めると続きません。大切なのは、「小さな一歩」を継続すること。たとえば、


・まずは毎朝の水1杯から
・夕食の時間を出来る時は1時間早めてみる
・エレベーターを時々階段に変える
・誰かと一緒に始めてみる
・ストレスを流れる雲のように眺める


「血液の質を変えれば、人生の質が変わる」——特別な医療技術を必要とする話ではありません。朝の1杯の水、夜の食事のタイミング、たった10分の散歩——そんな「チリツモ」の小さな行動の積み重ねで、あなたの血液は必ず変わっていきます。それで病気の芽を摘むことができ、健康に過ごせる時間が増えます。つまり、人生の質が変わります。今すぐ行動を始めることを強く勧めます。


■「45歳を過ぎたら血液への投資を始めて」


私は、血液をきれいに保ちましょう、ということを「善玉血液を育てましょう」と伝えるようにしています。それは、善玉という言葉が持つポジティブなイメージが、「健康を自分で育てる、健康に投資する」という意識づけにもつながるからです。



渡邊剛(著)、坂本昌也(監修)『世界一の心臓血管外科医が教える 善玉血液のつくり方』(あさ出版)

30代で悪玉血液の兆候があっても、40代で生活習慣を変え、50代で何一つ薬を使わずに健康を維持している患者さんもいます。一方で、70歳から健康に目覚め、さて頑張ろうと思っても、いざ検査してみたら、もはや行動変容のスタート地点ではないほどの判定結果だった、という厳しい現実もあります。老化にあらがうのに早すぎることはありません。


だからこそ私は、「45歳を過ぎたら血液への投資を始めてください」と強く呼びかけています。金融ではNISAをやるのに、なぜ健康には投資しないのか。健康な老後は、40代・50代の選択でつくられるのは、間違いありません。どうか皆さん、ご自身の血液に関心を持ち、「善玉血液」を育ててください。「血液は、人生の設計図そのものです。」


※次回は、健康意識の高い人ほど無意識にやっている「健康になる食品」の残念な食べ方・習慣を紹介します。テレビや雑誌で話題の「健康にいい食材」——しかし、それをいつ、いかに、どれだけ食べるかまで考えている人は意外と少ないです。医師としての視点から「一見健康的に見える習慣の落とし穴」について掘り下げます。


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坂本 昌也(さかもと・まさや)
国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 部長
国際医療福祉大学 医学部教授。国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科部長。東京都出身。東京慈恵会医科大学医学部卒。東京大学・千葉大学大学院時代より、糖尿病、心臓病、特に高血圧に関する基礎から臨床研究に渡るまで多くの研究論文を発表。日本糖尿病学会認定指導医・糖尿病専門医、日本内分泌学会認定指導医・内分泌代謝専門医、日本高血圧学会認定指導医・高血圧専門医、日本内科学会認定指導医・総合内科専門医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本医師会認定産業医、厚生労働省指定オンライン診療研修、臨床研究協議会プログラム責任者養成講習会を修了。現在も研究を続けながら若手医師や医学部生の指導も担当している。
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高橋 誠(たかはし・まこと)
医療・健康コミュニケーター 病院広報コンサルタント
1963年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。ミズノスポーツ広報宣伝部、リクルート宣伝企画部、米国西海岸最大の製函会社でのパッケージ・デザイン営業・マーケティング(LA12年)、ゴルフ場経営(山梨2年)、学校法人慈恵大学広報推進室長(東京16年)を経て、2020年より現職。日米複数法人通算40年の広報宣伝業務を通じ、メディア・医療関係者と幅広い交流網を構築。現職にてメディアと医師をつなぐ。プレジデントオンライン「ドクターに聞く“健康長寿の秘訣”」、月刊美楽「幸せなおじいちゃん、おばあちゃんになろう」、月刊源喜通信「食と健康」で医療・健康コラムを連載中。主な出版プロデュースは『世界一の心臓血管外科医が教える 善玉血液のつくり方』(2025年、渡邊剛著、坂本昌也監修、あさ出版)、『心を安定させる方法』(2024年、渡邊剛著、アスコム)。趣味はゴルフ、ワイン(日本ソムリエ協会ワインエキスパート#58)。
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(国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 部長 坂本 昌也、医療・健康コミュニケーター 病院広報コンサルタント 高橋 誠 聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)

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