裏金問題で引退した「自民党のドン」の三男が出馬…和歌山新2区の"二階家世襲"が批判を集める当然の理由

2024年5月30日(木)8時15分 プレジデント社

二階俊博氏(左)と和歌山新2区に出馬表明した三男の伸康氏(写真左=内閣官房国土強靱化推進室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons・写真右=時事通信フォト)

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次期衆院選の和歌山新2区に、二階俊博氏の三男、伸康氏が出馬を表明した。法政大学の白鳥浩教授は「俊博氏は自民党の裏金問題の責任を取り不出馬を決めた。その俊博氏と同じ選挙区を息子が世襲しようとする行為は、国民の理解を得られないのではないか」という——。
二階俊博氏(左)と和歌山新2区に出馬表明した三男の伸康氏(写真左=内閣官房国土強靱化推進室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons・写真右=時事通信フォト)

■二階氏の「裏金」はトップクラスの3526万円


現在、国民の政治不信は頂点に達している。今国会の最大のテーマといってもよい「政治とカネ」の問題についても、与党から提示された案は、連立のパートナーである公明党との溝が埋まらず、自民党「単独案」ということとなった。


そもそもこの「裏金」については、安倍派だけに光が当たりがちであるが、二階派や岸田派といった他の派閥においても、パーティー券を巡り行われていたことが明らかだ。その中でも、今回不問に付されているが、立件された政治家を除いて最大の金額が報じられているのは二階派の領袖である二階俊博氏である。


党の調査によると5154万円の大野泰正参議院議員、4826万円の池田佳隆衆議院議員、4355万円の谷川弥一元衆議院議員に次ぐ多さであり、「裏金」の額は3526万円となっていた。


■三男が「父の選挙区」に出馬した意味


二階俊博元幹事長の派閥の「裏金」事案の発覚の時の公設秘書であり、三男の伸康氏が5月17日、次期衆院選で和歌山新2区への出馬を表明した。日本政治におけるこの出馬の意味を考えるというのがこの記事の課題である。


この二階氏の三男の出馬表明には、「政治とカネ」の問題が大きな影響を与えている。自民党の派閥を巡るパーティー券の「裏金」にまつわる「政治とカネ」の問題は、岸田首相の「二つのサプライズ」を引き出した。


「第一のサプライズ」は、岸田首相による自民党の派閥の解体へと繋がる発言(2024年1月18日)であり、「第二のサプライズ」が、「政治とカネ」をめぐる現職首相の政治倫理審査会(政倫審)出席によって他の「裏金」議員の政倫審への出席を促した行動(2月29日)だ。


「第一のサプライズ」は、結果として「岸田派」だけではなく、「安倍派」、「二階派」と立件された派閥の解体を招き、その結果として、二階氏には、二階派という「派閥」の防護壁がなくなってしまった。


しかしながら、二階派の結束が、二階派が解散を決めた後も非常に強いものであることは、「第二のサプライズ」で明らかになった。「岸田派」の岸田首相に続いて、「二階派」を代表して政倫審に登壇した武田良太元総務相が「二階氏は一切、事務や経理などに関わることはなかった」と答弁したのだ。


〈参照記事〉
武田元総務相の弁明・質疑 政倫審(時事通信、2月29日配信)


■二階氏を政倫審に引っ張り出さなかった理由


自民党議員のうち、政治資金収支報告書に対する不記載で会計責任者が逮捕されるなどした議員以外で、「裏金」の金額が最も多かったのは二階氏であり、国民の間から政倫審への出席を求める声すらあった。しかし、こうした声に対しては二つの意味で岸田首相は懸念を持っていたと考えられる。


まず、二階氏を政倫審に出席させると、結束の固い二階派から恨みを買う可能性があったこと。そうなった場合には、二階派の会員の面々からは今年秋の自民党総裁選において支持をもらうということは夢物語となる。


さらに二階氏が政倫審に出席したとして、与野党からの質疑に対してベテランの二階氏がどういったことを話し、どういったことを話さないか、という答弁内容のコントロールが利かないことだ。予測のできない答弁が二階氏から飛び出した場合、政権に重大なダメージを与える可能性がある。


いずれにしても、こうした懸念がある中では、二階氏を政倫審に登壇させられない、というところがあり、二階氏については何らかの対応が必要となった。


■岸田首相「自分が処分されないよう処分を下す」


さらなる懸念は、岸田氏自身にもかかわることであった。


岸田氏はこの「政治とカネ」の問題の一つの帰結として、「裏金」問題に関与した議員を処分すると表明していた。しかしそこで新たな問題が出てくる。


つまり、「裏金」問題に関する処分をどの点まで拡大するか、という問題である。その処分の範囲を拡大していけば、場合によっては首相である自分にもその処分の対象は及ぶことになる。


そうなってくると、場合によっては「処分された首相では、政権を維持する資格はない」という意見も出現する可能性がある。それでは政権を維持するために「けじめ」として処分を行うのに、自分の政権を失ってしまうことになってしまう。


そこで岸田氏は、自分に責任が及ぶことないよう処分を下す、ということを考えたと推測できる。


■二階氏不出馬で2つの課題を同時にクリア


➀二階氏を政倫審に出席させないこと、②「政治とカネ」の問題への「けじめ」のための処分で自らに責が及ばないようにすること、という2つの課題を解消するために、岸田首相と二階氏が導き出した答えは、「二階氏の次期衆院選への不出馬」というものであった。


二階氏が次期の衆院選に出馬しないのであれば、説明責任を必ずしも果たさなくても、①の政倫審への出席を回避できる。さらに、岸田氏にとって好都合なのは、②派閥の領袖への責任の波及についても、安倍派の領袖であった安倍氏、細田氏はすでに鬼籍に入っており、二階派の領袖である二階氏の責任が回避されるならば、岸田派の領袖の岸田氏の責任は問われることはないという予測も成り立つことだった。


結果、二階氏は3月25日に次の衆院選への不出馬を表明した。結果として、この二階氏の行動は、岸田首相への責任論が波及することを阻むこととなり、岸田氏に二階氏は恩を売ることとなった。


■保守王国・和歌山で起きている“異変”


この「政治とカネ」の問題は、すでに候補者の決まっていた和歌山政界に対して大きな影響を与えた。4月4日に岸田首相は、自民党の参院幹事長であった安倍派の世耕弘成氏に「離党勧告」という処分を下し、世耕氏は即日、離党届を提出した。


これにより参院和歌山選挙区選出の国会議員は鶴保庸介氏だけとなった。ここで鶴保氏が参院を辞してしまえば、和歌山に自民党の参議院議員はいないこととなってしまう。


またこの和歌山県は「10増10減」により、次期総選挙から小選挙区が3議席から2議席に減少することが決定している。そこで2023年6月には、新1区には鶴保氏が参院からの鞍替え、新2区には二階氏が候補者として決定されていた。


衆議院小選挙区が3区から2区に減る和歌山県(総務省「衆議院小選挙区の区割りの改定等について」より

しかしながら参院議員がゼロになることを恐れ、鶴保氏は今回の鞍替えを断念した。さらに世耕氏は離党、二階氏は次期総選挙へ不出馬ということで、自民党の衆院選候補はいなくなり、自民党は両選挙区ともに新しい候補者を獲得する必要が出てきたのだ。


■「世襲」すべてが悪いわけではないが…


こうした中での三男・伸康氏の出馬表明である。和歌山県町村会など地元からの出馬要請があったことが決断の理由だというが、「裏金」議員の公設秘書として「政治とカネ」の問題が解決されない中での出馬、そして、「世襲」として引退する父親と同一選挙区からの出馬、と2つの意味でいう逆風が予想される。


本人もその点は自覚しているのか、5月17日の出馬会見では「世襲も含め、最後は有権者が選挙で審判を下す。そのスタートラインに立ちたい」と述べた。


〈参照記事〉
二階伸康氏が立候補表明 次期衆院選和歌山2区(紀伊民放、5月18日)


もちろん、政治家の秘書が「裏金」すべての責任を負う必要はなく、責任は限定的であり、「世襲」の議員がすべて問題だというわけでもない。しかし、「政治とカネ」の当事者であり、その説明責任も果たさない中での、議席の世襲には多くの批判もある。


■議席は私的に継承できるものではない


また、伸康氏は出馬会見で、「世襲も含めて有権者に判断してもらう」と述べるとともに、父の二階氏が病院に入院中であることを明かした。通例であれば、政治家の入院の公表は好ましくないものとされる。政治家として十分にその責務を果たし得ないということを有権者に示すことになるからだ。


〈参照記事〉
自民・二階俊博氏が入院 「風邪こじらせた」三男・伸康氏が説明(産経新聞、5月18日)


ところが今回の場合には、二階氏の入院を公表することによって、「議席の世襲」を正当化するという事由となると考えられる。つまり、二階氏が今後、議員として活動することに不安があるので、息子である信康氏が出馬するのは当然だ、というロジックになるということだろう。


ここで、この議席は「国民の税金によって成り立っており、私的に継承できるものではない」ということを、まず、頭に入れておく必要がある。今後、6月の和歌山の県連大会での自民党の動向が注目される。岸田首相は、果たして誰を「自民党公認」とするのだろうか。


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白鳥 浩(しらとり・ひろし)
法政大学大学院教授
1968年生まれ。博士(政治学)。日本学術振興会特別研究員、長崎県立大学専任講師、静岡大学助教授を経て、現在、法政大学大学院公共政策研究科教授。専攻は現代政治分析。ノルウェー王国オスロ大学政治研究所客員研究員、ドイツ連邦マンハイム大学客員教授、英国オックスフォード大学客員フェローなどを歴任。著書に『市民・選挙・政党・国家』(東海大学出版会)、『都市対地方の日本政治』(芦書房)など、編著として『政権交代選挙の政治学』『統一地方選挙の政治学』(ミネルヴァ書房)ほか。
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(法政大学大学院教授 白鳥 浩)

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