世界最大"アマゾンのクラウド事業"の秘密

5月31日(金)9時15分 プレジデント社

アマゾン ウェブ サービス ジャパン社内にある、顧客サポートのスペース「AWS Loft Tokyo」(撮影=石橋素幸)

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クラウドコンピューティング企業として世界最大の売り上げを誇る「AWS」は、ネット通販のアマゾンの子会社だ。日本法人を訪ねたノンフィクション作家の野地秩嘉氏は「もはやアマゾンはネット通販企業でもIT企業でもない。『アマゾンという業種』を作り出したのだ」と分析する——。


アマゾン ウェブ サービス ジャパン社内にある、顧客サポートのスペース「AWS Loft Tokyo」(撮影=石橋素幸)

■クラウドコンピューティングのサービスを提供


最初に断っておくけれど、本稿の文章は以下に挙げたカタカナ言葉がわからなくとも、ちゃんと理解できます。


たとえば……。


「データクエリ」「オンプレミス」「セキュアなデータレイク」「オーケストレーションサービス」「チャットボット」「HTTPオリジン」……。


アマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)のホームページにはこうしたカタカナ言葉がいくつも躍っている。しかし、しつこいようだけれど、こうした言葉の意味を理解していなくとも、本稿を読めば、彼らの仕事、彼らがこれからやろうとしていることは「ああ、そうか」と理解できる。


AWSはクラウドコンピューティングのサービスを提供する会社だ。インターネットを利用して、コンピュータとそのシステムが行う数々のサービスを顧客に提供している。


AWSの親会社はAmazon.com, Inc.(以下、アマゾン)だ。GAFAと呼ばれるグーグル、フェイスブック、アップルと並ぶ巨大企業である。アマゾンの創業は1995年。ウインドウズ95が出た年で、インターネットが一般化する年でもあった。


■AWSの年間売り上げはクラウド企業として世界最大


これまでアマゾンはネット通販の会社、IT企業とされてきた。しかし、近年の様子を見ると、ひとつの業界にとどまっている会社とは到底、思えない。どのジャンルからも、はみ出した企業だ。たとえば、アマゾンはすでに実店舗を持っている。Amazon Goというレジ無し店舗にも取り組んでいる。物流会社としても巨大だ。


そして、2006年に始まったAWSの年間売り上げは2018年で256億6000万ドル。クラウドコンピューティング企業としては世界最大である。


このように、もはやアマゾンはネット通販企業ではない。IT業界の中の一社でもない。アマゾンはアマゾンという業種を自らつくりだした。


AWSの日本法人であるアマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWSJ)の本社ビルは目黒駅前にある。


説明役として現れたのは同社代表取締役社長である長崎忠雄。美丈夫で小顔である。彼はAWSがやっている仕事をさらに詳しく、そしてわかりやすく教えてくれた。


「クラウドコンピューティングサービスは電力事業にたとえることができます。かつて電力は発電機を持っていた会社だけが使えるものでした。ところが、中央発電所、送電線、送電網ができたことで、発電機を所有していなくとも、電力というサービスを誰もが安価に受けられることになったのです」



■1カ月1000円以内の課金で事業をスタートした企業もある


「クラウドコンピューティングも同じようなものです。私どもは非常に多くのコンピュータを所有、管理しています。お客さまは初期投資をしなくとも、必要な分だけ、使った分だけコンピューティングサービスを受けることができます。しかも、事業の必要性に応じて、最新のコンピュータを即座に1台から数千台まで使うことができます」(長崎)


同社が提供するコンピューティングサービスの特徴は安価ということだろう。


たとえば、ある起業家がITシステムを使った独自のサービスを始めようと考える。


「そうだな、エンジニアを雇って、サーバーを契約して、従業員にPCをもれなく用意して……」


そんなことをやっていたら、大事な資金がすぐに枯渇してしまう。AWSはそんな需要を見越してスタートアップ企業のためにサービスをしている。




アマゾン ウェブ サービス ジャパンの長崎忠雄社長(撮影=石橋素幸)

同社広報担当者はこんな例を挙げた。


「従量課金制のため、サービス料金はどれくらい使うかによります。例えば、仮想サーバーで1時間1円というのもありますし、データ保存1GBあたり1カ月で2円ほどという料金設定もあります。あるスタートアップ企業は1カ月1000円以内の課金でビジネスをスタートしています」


確かに安い。


■キヤノン、キリンなどの大企業も顧客に名を連ねる


ただ、顧客はスタートアップ企業だけではない。大企業だってAWSのクラウドコンピューティングを利用している。そのほうがコストを下げられるだけではなく、最新鋭の多様なシステムを利用することができるからだ。


思えば現在、同社が行っているサービスは通信企業や通信機器の製造販売企業がやるべきことだ。しかし、Amazonの創業者、ジェフ・ベゾスのほうが早くからクラウドコンピューティングの価値と将来性に気づいていたということなのだろう。


AWSは現在、世界190カ国以上でサービスを展開し、数百万の顧客がいる。


日本企業ではキヤノン、キリン、ソニー銀行、電通、資生堂、マツダ、毎日新聞、日本テレビ、中央大学、電気通信大学など10万以上の顧客を有する。スタートアップから成長した企業ではAirbnbをはじめ、メルカリ、ネットフリックス、スマートニュース、ビズリーチなどがある。


「大企業の場合はデータの分析、経理システム、バッチ処理、デジタライゼーションなどに利用されることが多いようです。一方、スタートアップ企業の場合はシステムの立ち上げから始まって、ありとあらゆることに当社のクラウドコンピューティングを利用されています」(長崎)



■社内のワンフロアは顧客サポートの場


同社はサービスを提供するだけでなく、顧客のサポートにも力を入れている。


社内のワンフロアには「AWS Loft Tokyo」(以下、Loft)というスペースがある。明るい、シンプルなデザインのフロアにデスクと椅子があり、平日の午前10時から午後6時まで利用できる。ホテルのラウンジと図書館の勉強スペースを足して割った感じの場所だ。




社内にある「AWS Loft Tokyo」(撮影=石橋素幸)

スタートアップ企業、デベロッパーはAWSアカウントに登録していれば誰でも無料で仕事をすることができる。仕事をしていて困ったことがあればLoftに常駐している同社のエキスパート(技術者)にアドバイスを受けることもできる。フロアの隅にはコーヒーや軽食を置いてあるカフェもある。コーヒーやホットドッグの値段はコンビニで飲んだり食べたりするよりも安い。


Loftなど、スタートアップ支援の責任者である畑浩史はなぜか「すみません、スノーボードで足を折りました」と頭を下げつつ、「野地さんも起業して登録していただければ毎日でも使えます」とのこと。




常駐しているエキスパート(技術者)にアドバイスを受けられる(撮影=石橋素幸)

■「最初の1日目だと思って仕事をしよう」


そして、続けた。


「無料のワーキングスペース機能だけではありません。最新技術を教えるレクチャーやミーティングなど、デベロッパー向けの各種プログラムを用意しています。同じ目的を持つ者同士が出会うことで事業の成功の確率が高まると思います」


そんなAWSJには現場の言葉がある。ひとつめはジェフ・ベゾスが創業の頃から現在に至るまで、口癖にしているものだ。「It’s still Day One」。


「つねに、最初の1日目だと思って仕事をしよう。どれだけ会社が大きくなっても、私たちはまだ1日目だ。まだまだ挑戦を続けようということです。挑戦の言葉でもあり、初心者の謙虚な気持ちを忘れない言葉でもあります」(長崎)



■カイゼンとイノベーションを大切にする


もうひとつの言葉は長崎自身が自らに向かって訓戒の言として語るもの。


「一歩、踏み出す勇気を持とう。挑戦は勇気がいることです。失敗を恐れずに一歩踏み出して、自信を持って挑戦していこうということです。


当社のサービスはカイゼンとイノベーションのふたつを大切にしています。トヨタのトヨタ生産方式から取ったカイゼン。これは今までできていたことを『より早く、簡単に、安く実現できること』です。実際、当社は仕事を始めてから71回、サービスの対価の値下げをしてお客さまに還元してきました。


もうひとつはイノベーション。『今まで実現できなかったことを実現できる』ということ。このふたつでお客さまの失敗のコストが下がり、ビジネスを加速させることができます」


AWSがやっていることはオンデマンド型、つまり、「こんなことはできますか?」という客側の問いかけから始まる。


つまり、AWSのサービスを使うには客もまた使いこなしを問われる。的確な問いを発することができれば効果は絶大だが、使う方向性を間違えれば、結果は出ないかもしれない。ただし、そういった場合はまずLoftへ行くことだ。Loftでエキスパートと話をするうちに、自分が目指しているもの、方向性をきちんと整理できるだろう。そうすれば解決法(ソリューション)は見えてくる。そのためには一歩踏み出す勇気と「It’s still Day One」という謙虚な気持ちがいる。(敬称略)


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野地 秩嘉(のじ・つねよし)

ノンフィクション作家

1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。

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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉 撮影=石橋素幸)

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