62%の「好き」が、新しい経済と社会をつくる

6月5日(月)6時10分 JBpress

個人の「好き」が社会に伝わって力になる。

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 私の在籍している博報堂生活総合研究所は、1981年の設立から現在に至るまで、「生活者発想」に基づいて生活者の行動や意識、価値観とその変化を見つめ、さまざまな研究活動を行ってきました。

 本稿では、世の中で生じている事象に対して、研究所に蓄積された研究成果やそれらに基づく独自の視点により考察を加えていきたいと思います。読者の皆様にとって、発想や視野を広げるひとつのきっかけ・刺激となれば幸いです。


成長するフリマアプリと個人の「好き」

 日本経済の「低成長」がうたわれて久しい昨今。ですが、どんな局面でも成長領域が全く無いのかと言えば、決してそんなことはありません。

 たとえば、スマートフォンを利用したフリマアプリ。皆さんの中にも「使っている」という方がいらっしゃるかもしれません。

 今年4月に経済産業省が発表したレポート「平成28年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」によれば、個人間の電子商取引の拡大により、フリマアプリの市場規模は約3000億円におよぶと推計されています。

 たとえば、国内最大手のフリマアプリでは、2013年にサービスを開始した後、2015年前半には国内1000万ダウンロードを突破。以降、2016年に3000万ダウンロード、2017年4月時点では4000万ダウンロードを突破したと発表されています。現在、1日に出品される商品点数は100万点、月間の流通額は100億円超にのぼるなど、ここ数年の急速な成長が見て取れます。

 一時、法律に抵触する疑いのある現金などの出品が問題となったこともありましたが、裏を返せばそれほど多くの人が利用し、かつ注目を集めているサービスである証左とも言えるでしょう。

 そんなフリマアプリ。実際にどんな商品が売られているのか見てみると、出品者のほとんどは、自分が使わなくなった中古の物品を売りに出しています。もちろん「フリマ」なので、それは当たり前といえば当たり前。ですがそんな中にあって、自分が手作りしたアクセサリーなど、いわゆる「ハンドメイド品」を販売し、収益を上げている人たちの姿もちらほらと見受けられます。

 先述した最大手のフリマアプリでは、商品を区分けする大カテゴリに「ハンドメイド」がしっかりと存在。毎分毎秒という単位で、数多くのハンドメイド品が出品されている様子を眺めることができます。

 品物の種類も実に豊富。先述したアクセサリーをはじめ、刺繍や化粧ポーチ、カードケース、ペンケース、フォトフレーム、ストラップ、ぬいぐるみ、コースター・・・と、枚挙にいとまがありません。そしてそれらの品物が、すべてではないにせよ、毎日きちんと誰かに購入されているのです。

 趣味でハンドメイド品を作っていた人にしてみれば、フリマアプリの規模が拡大したことによって、「趣味と実益を兼ねた」の言葉どおり、自分の好きなことを生かして収益を得やすくなりました。

 決して大きな金額ではないかもしれませんが、フリマアプリは生活者にとって、趣味など「自分の好きなこと・熱中できること(以下、「好き」と呼びます)」を生かして経済活動を営むための強力な基盤としての役割を果たしていると言えるでしょう。

 昨今ではフリマアプリ以外にも、個人が自分の「好き」を活かして収益を得ることができるプラットホームが次々と立ち上がっています。

 写真撮影を趣味にしている人が自分の撮った写真を素材として提供し、購入されれば一定の対価を受け取ることができるWeb上のサービス。

 3000種類以上のアクセサリーパーツを好きなようにスマホ上で組み合わせて、それを自分オリジナルのアクセサリーとして販売することができ、購入されれば対価を受け取ることができるスマホのサービス(しかも実際の製造・配送は事業者まかせで大丈夫だそうです)などなど。

 一昔前は個人の「好き」を収益に結びつけようと思ってもそう簡単には行かない状況でした。しかしネット環境の急速な発達と、それに基づく新たなサービスが登場したことにより、そのハードルは大きく下がっています。まさに、好きなこと・熱中できることを持っている人がその力を発揮しやすい時代が、本格的に到来したと言えるでしょう。


「好き」を持つ生活者は62%

 わたしたち博報堂生活総合研究所では、人が何かに打ち込み熱中する「好き」という気持ちの持つ可能性に注目し、研究を重ねています。昨年末に「好き」に関する生活者調査を行なったところ、全体の62%が「大好きで熱中していること・はまっている物事がある」と回答しました(図1)。

 その好きなことを生かして収益が得られているのかを尋ねると、そのうちの14%が「熱中している物事を生かして、小遣い・副収入を得ている」と答えてくれました。

 ではそんな皆さんの「好き」とはどんなものなのでしょう。具体的に聞いてみたところ、先に挙げたようなハンドメイド品の製作や写真撮影のほかにも、イラスト製作、電子回路基板製作、パン作り、小説執筆、毛筆書道、お米作りなどなど・・・想像を上回る、実に多様な「好き」の世界が広がっていました。

 得られる金額の多寡はありますが、小遣い・副収入の存在は個人の消費意欲にポジティブに作用するでしょう。そして何より、自分の「好き」がお金に変わった(=誰かにとっての価値として認められた)という実感は、生活者に気持ちのハリや充足感、活力をもたらしてくれるでしょう。


「好き」はこれからの日本を動かす社会資本

 先述の調査では、今後の意向として「熱中している物事を生かして小遣い・副収入を得ていきたい」という意欲を持っている人は32%にのぼり、すでに収入を得ている14%からの拡大ポテンシャルが見て取れました(図2)。

 もちろん、強い「好き」の持ち主たちは、収益を得ることだけを考えているわけではありません。

「他の人にも勧めることで、熱中する人を増やしたい」46%
「熱中している物事を、他の人や世の中のために役立てたい」32%

というように、他の誰かや世の中にポジティブな影響を与えたいという、熱意や善意も持ち合わせているのです。

 くしくも現在、厚生労働省が中心となって策定している「働き方改革実行計画」では「柔軟な働き方がしやすい環境の整備」が大きなテーマとして設けられ、その中で「副業・兼業の推進に向けたガイドラインや改訂版モデル就業規則の策定」が具体的に盛り込まれています。その狙いは別のところにあるにしても、個人が自分の「好き」を生かしやすい方向に国全体が向かおうとしている流れがはっきりと見て取れます。

 フリマアプリなどの成長、そして副業・兼業を推進する国の流れは、生活者の「好き」を解き放ち、経済や社会をポジティブに動かす絶好の機会です。

 好きなものに熱中する生活者の意思や行動の力を、単に趣味の領域の話として捉えるのではなく、これからの日本を前進させるための重要な「社会資本」であると捉えなおすこと。そして個人の多種多様な「好き」エネルギーがいかんなく発揮できる場や仕組みを、社会にもっと構築できないかと考えてみること。これから先、そんなことがさらに重要になってくるように思います。

筆者:三矢 正浩

JBpress

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