後ろ倒しも失敗した夏のバーゲンセール、いまだ迷走中

6月6日(水)7時0分 NEWSポストセブン

夏冬2回の季節限定バーゲンは時代遅れか

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 百貨店などを中心に間もなく始まる夏のバーゲンセール。もともと夏本番の7月中旬よりスタートするのが恒例だったが、年々フライングする商業施設も相次ぎ6月下旬まで早まった。近年は三越伊勢丹ホールディングスやルミネが開始日の“後ろ倒し”を行うなど正常化を図ったが、目立った効果は見られない。そもそも、夏特定のバーゲンは必要なのか。ファッションジャーナリストの南充浩氏が解説する。


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 ファッションに多少なりとも関心のある人にとっては、夏と冬のバーゲンセールは待ち遠しいイベントの一つではないかと思う。1970年代・1980年代のバーゲンセールをご存知の方からすると、バーゲンセールの開始時期は年々早まっていると感じられるのではないかと思うが、その通りである。


 バーゲンの開始時期が早まった理由は様々あるが、一つには1997年以降の衣料品の消費不振がある。それまでのようには売れにくくなり、バーゲンでも売り切ることができなかったため、不良在庫が増えた。その在庫を売りさばくために、バーゲンでの値引き率を高め、バーゲン期間を長くする。できればバーゲン開始時期も早めたい。背に腹は代えられないというわけだ。


 だから2005年ごろからバーゲン開始時期は如実に早まった。1980年代のDCブランドブーム華やかなりし頃は、夏のバーゲンは7月20日くらいから、冬のバーゲンは1月20日くらいからだった。


 それが今では夏のバーゲンは6月下旬から、冬のバーゲンは元旦から、というのが標準となっている。体感気温でいうなら、6月下旬はまだ梅雨真っ最中で、蒸し暑い日が多いものの、梅雨寒という言葉もあるくらいヒンヤリする日もある。元旦はこれから寒さが増すタイミングである。


 このため、季節商品がこれから本格的な需要を迎える前にバーゲンで売るのはどうなのかという議論が衣料品業界にはあった。さらにいうと、バーゲンを早めることで衣料品業界は定価で売る時期を自ら短縮し続けて、企業の収益性を低下させ続けてきた。それによってワールドやTSIホールディングス(サンエーインターナショナルと東京スタイルの合併会社)、三陽商会などかつての大手アパレル各社は経営を悪化させてきた。


 こうした状況に歯止めをかけるべく行動を起こしたのが、三越伊勢丹ホールディングスの大西洋・前社長だった。2012年夏に「バーゲンセール開始時期の後ろ倒し」を掲げ、7月下旬に夏のバーゲンを開始した。1980年代のバーゲン開始時期に戻したのである。これにルミネも追随した。


 三越伊勢丹とルミネという二大有力流通がこの方針を打ち出したことから大きな話題となった。三越伊勢丹は「定価販売時期を長くすることで収益性の改善」を、ルミネはなぜか「産地保護」を、それぞれ謳った。


 個人的な感想をいうと、三越伊勢丹の掲げた理由はあまりにも業界寄りで自己都合でしかなく、ルミネの掲げた理由は意味不明だ。なぜなら、衣料品の75%(金額ベース)は海外生産品なので、海外の縫製工場を保護したいのか? ということにしかならないからだ。


 これらの商業施設に出店、納品しているアパレルメーカーやブランドからは歓迎の声が聞かれるかと思いきや、意外にもそれほどなかった。なぜかというと、「他の施設ではすでにバーゲンが始まっているのに、三越伊勢丹とルミネにだけ違う対応をしなくてはならなくて非効率」(アパレル関係者)だからだ。付ける値札一つ取っても三越伊勢丹とルミネ用だけは別にしなくてはならない。確かに想像するだけで面倒くさい。


 しかし、2017年春に大西前社長が電撃解任されたことで、このセール後ろ倒しは完全に潰えた。2018年1月の冬のバーゲンから三越伊勢丹もルミネも他の商業施設に合わせて1月4日からとなった。すでにルミネも2018年1月3日にバーゲンセールを開催しており、バーゲンセール開始時期の後ろ倒しを事実上撤回している。


 さらに今年の夏のバーゲンも三越伊勢丹は6月29日開始を発表している。これによって「バーゲンセール開始時期の後ろ倒し」という試みは完全に失敗に終わったといえる。


 バーゲンセール開始時期の後倒しがどうして失敗に終わったのか。アパレルメーカーの言う面倒くささや、ルミネ以外の他の商業施設、流通企業との足並みがそろわなかったほかに、インターネット通販の隆盛も大きかったのではないか。


 インターネット通販で物を買われたことのある方ならピンと来るかもしれないが、楽天やYahoo!ショッピング、Amazon、ZOZOTOWNにしても、常に何らかの値引き販売を行っている。


 AmazonやYahoo!ショッピングなら「タイムセール」「定期的な割引販売」が行われているし、楽天なら年に4回の「楽天スーパーセール」、ZOZOTOWNなら割引クーポン券の頻繁なバラ撒きである。別に夏と冬のバーゲンなんて待たなくても年がら年中値引きセールが行われている。


 アダストリアホールディングスの独自ECサイト「ドットエスティ」だって在庫過多なのか2017年後半から2018年5月にかけては頻繁にタイムセールを繰り返していた。ジーユーだってオンライン限定割引品がときどき存在する。いくら実店舗の店頭が値引きを控えたところで、ネット通販を探せば値下げ品はいくらでも出てくるから無意味だ。


 またSPA(製造小売り)ブランドの浸透も夏冬のみのバーゲンという売り方を無効化したといえる。


 GAPやユニクロは常に店内に「セール品コーナー」が置かれている。欲しい商品が品切れにならない限りは値下げまで待てば良いのである。しかも定期的に確実に値下げされる。


 これは他のSPAブランドでも同じだ。ジーユーもしかりだし、グローバルワークもH&Mも同様だ。こうなると、百貨店やそこに納入するブランドがいくら「バーゲンは夏と冬だけ」とか「バーゲン開始は7月下旬と1月下旬が望ましい」と吠えたところで、欲しい人はネット通販かSPAブランドかで値下がり品を買ってしまう。


 ネット通販とSPAブランドが存在しなければ、大西前社長の「バーゲンセール開始時期の後倒し」は成功したかもしれないが、SPAブランドが浸透して20年、ネット通販が急成長して10年である。伊勢丹といえども時流には勝てなかったわけで、今後は夏冬年2回のバーゲンセールではない実店舗の売り方を模索する必要があるだろう。

NEWSポストセブン

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