一流のリーダーが「厳しいことを言わないといけない時」にあえてやっていること

2024年6月7日(金)6時0分 ダイヤモンドオンライン

一流のリーダーが「厳しいことを言わないといけない時」にあえてやっていること

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人の上に立つ立場になると、「アンガーマネジメントを身につけた方が良い」と言われることが多い。アンガーマネジメントというと、「怒りを抑える」ことを想像しがちだが、元東北楽天ゴールデンイーグルス社長であり、現在は、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の社長にして、日本企業成長支援ファンド「PROSPER」の代表として活躍中の立花陽三氏は、初著書である『リーダーは偉くない。』の中で「あえて『怒り』のボリュームを上げることもある」と語る。立花氏が行う「アンガーマネジメント」とはどのようなものか。本記事では、本書の内容をもとに立花氏の「怒り」の扱い方について紹介する。 (構成:神代裕子)

Photo: Adobe Stock

リーダーは、「怒りを表現すること」も必要

「アンガーマネジメント」とは、怒りや苛立ちといった感情と適切に付き合うための心理教育や心理トレーニングとして生まれたものだ。

 有名なのが、「腹が立ったりイラッとしたりしたら、6秒間だけその気持ちが表に出ないように我慢する」という方法だ。そうすることで、一時的に高まった感情がおさまってくるというわけだ。

 このように「アンガーマネジメント」は、一般的にはカッとなってしまう強い感情を抑えることで、過剰な怒りや不要な怒りを相手にぶつけてしまわないようにすることを目的としていることが多い。

 しかし、立花氏は「アンガーマネジメントとは、怒りを抑える技術ではなく、怒る必要があるときに、適切な表現で相手にその感情を伝える技術であると考えている」と語る。

特に、リーダーにとって、このアンガーマネジメントは不可欠ではないでしょうか。
怒りの感情を制御できなければ、組織内に「反発」「恨み」などの感情が鬱積して機能不全に陥りますが、一方で、必要なときに怒りを表現できないようでは、組織の規律はあっという間に崩れ去るのではないでしょうか。(P.239)

 立花氏が「リーダーの生命線を握っているといっても過言ではない」とまで語るアンガーマネジメントだが、どのようなときに怒りを表現する必要があるのだろうか。

リーダーは、「怒りを表現すること」も必要

 立花氏が「怒る」のは、「ネガティブな感情が湧き起こったことを伝えることこそが、人間関係を建設的なものにするためには大切なこと」と考えているためだ。

 そのため、怒るというエネルギーをかけるのは、「継続的な関係性のある相手」に関してだけだそうだ。

 とはいえ、怒りをそのままぶつけてしまうと組織は壊れてしまう。そのため「置かれた状況に応じて、その感情をさらに増幅させて怒ってみたり、抑制的にそれを伝えたりといった形で感情をマネジメントする」のだと語る。

 そして、立花氏のアンガーマネジメントで注目すべきは、「オープンな場所で怒る」ということだ。

 一般的に、誰かを怒るときは、その人のプライドを守るためにも、人前で怒ってはいけないと言われている。そのため、「他の人がいる場で怒るというのは、NG」と思っている人は多いのではないだろうか。

 一見、「そんなことして大丈夫?」と思ってしまうような立花氏の行動だが、彼が意識していたのは「公開性」という。

僕は、よほど機密性の高い事柄でなければ、基本的に職場のみんなに聞こえるように「怒り」を表現するようにしていました。
もちろん、僕が直接怒るのは部長級の人間であるうえに、怒られることに耐性のある相手にしか「怒り」を表現することはしませんでした。(P.241-242)

 立花氏がこういった行動に出るには、次のような理由があった。

リーダーが絶対に許さないことは「怒る」

 理由の一つは、リーダーが「何に対して怒るのか?」を明示することで、組織の方向性をみんなに共有できるからだと言う。

 立花氏は、「お客様や取引先から苦情が入った」といったネガティブ情報を隠したり、「嘘」をついたりしたときは、「激しい怒り」を演じたそうだ。

 それは、放置すると間違いなく組織を危機に陥れることになるからだ。

 一方で、ネガティブ情報が上がってきたら、原因究明や責任追及は後回しにして、即座に問題解決に集中するようにしていた。

 それは、誰かを怒る暇も余裕もないからだけでなく、「なんでこんな問題を起こすんだ!」と怒ってしまうと、社員の中に「ネガティブ情報を報告するのを躊躇する気持ち」が生まれてしまうから、と指摘する。

ネガティブ情報を「隠蔽」したり、「嘘」をついたりしたときには全員が見聞きしているオープンな場所で「強い怒り」を伝え、ネガティブ情報を躊躇なく「報告」してくれたときには、同じくオープンな場所で「感謝」を伝えることによって、「ネガティブ情報は即座に報告する」のが当たり前の企業文化を育まれていくのだと思うのです。(P.244)

 その際、重要になるのは「一貫性」だ。「隠蔽」や「嘘」が発覚した時には、必ず「怒る」というのが不可欠。

 一貫性があるからこそ、メンバーはそこにリーダーの明確な意思を読み取って、対応しようとしてくれるようになるのだ。

他の人の心情に寄り添い、あえて怒る

 立花氏が人前で怒るもう一つの理由は、「一部の社員の心情に寄り添うため」という。それは次のようなケースだ。

 ある外国人選手の獲得交渉をスカウト部長に任せたところ、最終交渉の際に立花氏が事前に了承していた年棒に無断で金額を上乗せして、口頭合意に成功。喜び勇んで帰国した彼は、「いやあ、予算をちょっとオーバーしちゃいましたけど、なんとか口頭合意に取り付けました!」と報告したのだそうだ。

 これを聞いて立花氏は、自分に相談もなく金額を大幅にオーバーさせたことにムッとしたそうだが、それ以上に、「日々売り上げを立て、利益を出すために必死で走り回っている事業部の人間が不信感を抱くのではないか」と思ったという。

 そこで、立花氏はスカウト部長に対し、「その金額のどこが『ちょっと』なんだ!『ちょっとオーバーしちゃったけどまぁいいか』程度に考えているのなら、お前がその金額を稼いでこい!」と怒ったのだ。

 その結果、スカウト部は事業部と連携しながら、チケットを売ったり、獲得した外国人選手のグッズを企画したり、無断で上乗せした金額の「穴埋め」をしようと努力してくれたのだそうだ。

 立花氏は、「このような姿勢を目の当たりにした事業部は、スカウト部に対して信頼感を持つようになった」と語る。

 これは、「怒り」のボリュームを上げて一喝したことが、功を奏したのではないかと立花氏が密かに思っている一件だ。

「怒り」を通して、自分が大事にしていることを伝える

 立花氏のように、あえて「怒り」の内容を人に聞かせることで、リーダーが大事にしていること、組織に求めることを伝えていくというのも、一つの「アンガーマネジメント」に違いない。

 あくまでも「怒り」を意識的にコントロールしているのであれば、怒られている側に理不尽な思いをさせることはないからだ。

 もちろん、怒りに任せて怒鳴ってしまうのはNGだろうが、「あえて怒ってみせる」という技を使いこなせるようになるのも、リーダーに必要なことなのかもしれない。

ダイヤモンドオンライン

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