「雇われ」と「フリー」どちらを選ぶかで悩んだ天才音楽家モーツァルト<希代の音楽家に「稼ぐ力」の秘訣を学ぶ:その1>

2024年6月7日(金)6時0分 ダイヤモンドオンライン

「雇われ」と「フリー」どちらを選ぶかで悩んだ天才音楽家モーツァルト<希代の音楽家に「稼ぐ力」の秘訣を学ぶ:その1>

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多くの名曲を残したモーツァルト。天才音楽家の名をほしいままにした彼の音楽家としての人生に、実は私たちビジネスパーソンが学ぶべき教訓が散りばめられているのです。『会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカーー500年の物語』など多くの著書がある会計士で、音楽をこよなく愛する田中靖浩氏の分析です。

天才もキャリアに悩む

ウィーンの王宮庭園内にあるモーツァルト像(Photo:Adobe Stock)

数々の名曲を生んだモーツァルト。天才の誉れ高い彼も、キャリアについて悩む時期がありました。それは「雇われ」のまま生きるか、「フリー」になるかの選択。

「雇われ」を選べば、生活は安定しますが自由がありません。「フリー」を選べば、自由になれますが収入が不安定です。

雇い主とケンカ別れして“脱サラ”を果たした天才音楽家は、手にした自由と引き換えに「お金の苦労」を背負うことになりました。

会社を辞めた人がやらねばならない2つのこと

「会社に残るか、それとも辞めるか」いまも多くの勤め人が悩んでいます。ここでモーツァルトは「フリー」になる道を選びました。当時としてはかなり思いきった決断です。なぜなら彼が生きた時代、音楽家は「雇われ」で働くのが「常識中の常識」だったからです。そんな空気の中、モーツァルトは未知なる世界へ向けて一歩を踏み出しました。

「雇われ」からフリーランスになった人間には、やるべきことが2つあります。それは「売り物をつくる」こと、それを「金に換える」こと。18世紀の天才音楽家であれ、21世紀のコンサルタントやネイリストであれ、独立開業したフリーランスは「売り物づくり」と「金に換える工夫」の2つを行わねば金が稼げません。

幼少期から神童と呼ばれたモーツァルト、前者の「売り物づくり=曲づくり」については何ら問題なし。素晴らしい楽曲を次々と創作し、演奏する技術も併せ持っていた彼の課題は「金に換える=マネタイズ」のほうです。もともと芸術家たちは銭勘定が苦手で、できれば「お金に関わらずに生きていきたい」と思っています。そんな「お金が苦手」気質に加え、音楽業界は「マネタイズが難しい」という事情を抱えています。

画家には絵画というアウトプット作品があり、その実物を売る場所や方法を工夫すればいいですが、音楽家のつくる楽曲は無形資産。よって演奏会やイベントを開催するとか、楽曲を楽譜にして出版するとかといった「無形資産で稼ぐマネタイズ」を工夫せねばなりません。これが本当に難しいのです。

私たちが知る有名音楽家の多くは「売り物づくり」、つまり作曲を得意としています。しかし楽曲を「金に換える」ことについては苦手。楽器のチューニングはお手のものでも、お金を稼ぐための「マネタイズ・チューニング」は苦痛だったようです。だからこそ、その苦労を回避するために「雇われ」を選ぶわけですね。

「稼ぐ」ために書き換えられた楽譜

改めてモーツァルト。若かりし頃のモーツァルトには「マネタイズの苦労」を引き受けてくれたありがたい人物がいました。それが実の父親レオポルトです。音楽教師でもあった父はいちはやく息子の才能を見抜き、あちこちに「神童」の評判とともに売り込みました。イタリアをはじめ各地を転々と親子巡業して知見を広めつつ、有力者との友好関係を築いていきます。

しかし故郷ザルツブルクの大司教と相性が悪くトラブルが発生。理不尽に我慢ならなかったモーツァルトはここで「雇われ」の身を脱して新天地ウィーンに向かいます。ウィーンでは華やかな活躍を見せますが、その才能や活動を「ブランド」として維持するにはかなりの金がかかります。きらびやかな活動の裏側で金の苦労は絶えず、自らコンサートを主催したり、ピアノの家庭教師をやってみたりと、マネタイズに奔走。しかしヨーロッパでの戦争や景気低迷で音楽需要が縮小し、金儲けはうまくいきません。知り合いに頭を下げて借金をする日々。あふれんばかりの才能をもてあまして、最期は35歳の若さで亡くなりました。死の直前に借金の無心を続けてしまったせいか、参列者は少なく葬儀はさびしく行われたようです。

「もし」モーツァルトがマネタイズの上手な人物であったとしたら。金の苦労がなく、健康で幸せであったとしたら。彼はもっと素晴らしい楽曲を残せたのでしょうか?

——私はそう思いません。

モーツァルトは死の直前の数年間、素晴らしい短調作品を残しています。自身の大病、親友・父・わが子の死。彼の書いた短調作品には悲しみを通り越して怒りが含まれているように感じます。長調が光であるなら短調は闇。フリーランスとして生きた孤独の闇を美しいメロディに昇華させたのが彼の楽曲であるように思うのです。

貧困や病の苦しみがあったとしても創造はできる。あるいは苦しみがあるからこそ生み出せる曲がある。その楽曲は後に続く者たちに勇気を与えてくれます。事実、モーツァルトのあと、ベートーヴェンをはじめフリーランス的に活躍する音楽家は少しずつ増えていきました。

若い頃の彼は手紙や楽譜に「うんち」や「お尻」といった言葉を多用しています。彼の死後しばらくたってから、楽譜業者によって別のきれいなフレーズに書き換えられました。名曲を売るにあたって作曲者を神格化するには、“マネタイズ上”そのほうが良いと判断されたのでしょう。モーツァルトの楽曲が「稼ぐ力」は本人の死後、業者によって高められます。死後200年以上たつと「モーツァルトは胎教に良い」と宣伝されるまでになりました。おそらく天国の彼は、ちゃめっ気たっぷりに笑っているにちがいありません。

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。生きた時代もフリーランスの先駆者でしたが、死後もなお、音楽ビジネスに大きな影響を及ぼしています。

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