成功体験が足かせに、日本のDXを妨げる罪深き「ハード信仰」

6月7日(月)6時0分 JBpress

(花園 祐:上海在住ジャーナリスト)

 今年(2021年)に入って以降、日本では政府系のソフトウェアやシステムの不具合の発覚が後を絶ちません。中には、かねてより不具合が指摘されながら、長らく修正対応が放置されていた、などという呆れた例もみられます。コロナ対策でアプリを活用している台湾や中国と比べ、IT分野における日本の立ち遅れがコロナ禍を機に目立つようになってきました。

 ではなぜ日本のITは立ち遅れるようになったのか。理由は様々ですが、1つの原因として日本人の過度なハードウェア信仰、そしてそれに伴うソフトウェア軽視の風潮があるように見えます。

 今回は、日本のITがなかなか進展しない特殊な背景について見ていきたいと思います。


接触確認アプリ、ワクチン接種予約で混乱

 新型コロナ対策に関連するソフト不具合事件としては、接触確認アプリの「COCOA」と、ワクチンの接種予約アプリが真っ先に上がってくるでしょう。どちらも政府発注によって作られた官製ソフトですが、稼働当初より不具合が多数発生し、利用者およびメディアから多くの批判が寄せられています。

 筆者は特に「COCOA」について発表当初から強い疑問を感じていました。それは、陽性者自身が「COCOA」に自らの陽性確認情報を登録しなければ、濃厚接触者に情報が通知されないという点についてです。陽性者が自分で登録しなかったらそれまで、ということです。仮に登録したとしても、濃厚接触者の外出が禁止されるわけではありません。要するに、アプリの感染拡大防止の効果は、利用者の善意に大きく依存しているのです。これで感染拡大が食い止められると考えていたとしたら、頭の中がおめでたいにもほどがあるでしょう。

 そんな「COCOA」は今年4月、濃厚接触者へ情報が通知されないという不具合が報告されました。しかしこの不具合も昨年の時点ですでに明らかになっており、長らく放置されていたことが指摘されています。

 もっとも不具合以前に、設計段階で問題があったことは明らかです。発注前に止める人がいなかったという事実の方が、筆者にとっては衝撃でした。


日中間で差が開くIT活用

 上記の官製ソフトに限らず、日本のソフトは民間製品においても不満に感じられる点が少なくありません。たとえば、明らかに不要と思える複雑な機能が多い一方、欲しいと思う単純な機能が不足しているアプリをよく目にします。しかもそうしたアプリは、アップデートのたびに余計な機能が追加され、ユーザー目線が欠如している印象を受けます。今や中国製品のほうがユーザー目線で作られているといっても過言ではないでしょう。

 社会全般におけるシステムやソフトウェアの応用において、近年、中国に対する日本の立ち遅れが目立ってきています。

 最も身近なキャッシュレス決済用アプリの普及は言うに及ばず、ワクチン接種の予約アプリに関しても、中国は日本を遥かに上回る人口を抱えながら大きな混乱はなく、既に高齢者だけでなく一般向け接種が開始されています(ちなみに中国のワクチン接種予約サイトには外国人専用ページも用意されており、筆者もそのページから予約しました)。

「中国のことだから、不具合があっても発表していないだけだろう」という指摘もあるかと思います。もちろん、その可能性も否めません。とはいえ、このほかにも配車アプリや出前アプリをはじめ中国のデジタルサービスの急激な普及度合いと比べると、日本の遅れが年々大きくなっていることは確かでしょう。


ハードウェアありきで考える日本

 では、なぜ日本のITは後れを取るようになったのか。

 その理由の1つとして、冒頭でも述べた通り、日本人の根強いハードウェア信仰が挙げられるでしょう。つまりソフトウェアを軽視する風潮があるということです。

 筆者は中国で暮らすようになってから、そのことを実感するようになりました。検品などを行うPOS端末を例にとると、日系企業の店舗では専用の端末を使っているところが多く見られます。一方、中国企業の店舗では、型落ちのスマホなどに既製品の検品アプリを入れて使うのが当たり前です。

 また、キャッシュレス決済が普及し始めた頃も、中国の小規模店舗では、QRコード読み取りのために専用リーダー(読み取り機)をわざわざ導入する店はそれほどありませんでした。客側にスマホでQRコードを読み取らせて代金決済を行うのです。このように小売現場ではハードウェアへの投資をほとんどせずに、キャッシュレス社会へ移行していきました。

 当時、日本人の友人にこうした状況を話したところ、中国の店舗がハードウェアへの投資なしにキャッシュレス決済を行っていることに驚いていました。逆に筆者はその様子を見て、日本人はまずハードウェアへの投資から考える傾向があることに気が付きました。日本では新たなサービスや機能を追加する際、まずハードウェアありきで考え、ソフトウェアは二の次になっているように見えます。


DXに必要な「ソフトウェア軽視」からの脱却

 このような視点で改めて日本社会を見てみると、やはりハードウェアを「主」、ソフトウェアを「従」とする価値観が根強いといえるでしょう。ソフトウェアを入れ替えるだけでいいような機能にもわざわざ専用端末を作ったりするのはいい例です。また、日本人がもてはやす「ものづくり」という概念においても、システムやソフトウェアはなかなか入ってきません。大学の理系学部も、工学、理学系の学部に対して情報・通信系の学部はいまだに一段低くみられがちなのではないでしょうか。

 日本は昭和から平成の中期まで、「ものづくり」の力に支えられて経済成長を果たしてきました。そうした大きな成功体験が、1990年代後半以降の産業のデジタル化、IT化の足かせになっていることは否定できません。

 かくいう筆者も「パソコン」というとシステムよりマシンスペックを追いかけてしまう方です。しかし時代の趨勢は、間違いなくソフトウェア側へ比重が傾いており、このままでは中国との差が(もちろん米国との差も)開く一方です。昨今、あらゆる業界で「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が叫ばれていますが、まずはソフトウェアに対する軽視をはっきり認識することこそがスタート地点になるのではないでしょうか。

筆者:花園 祐

JBpress

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