2018上期"失脚おじさん"の残念な共通点

6月7日(木)9時15分 プレジデント社

写真=iStock.com/cherstva

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2018年上半期、還暦前後の2人の男性による「不祥事」が世間をにぎわせた。片や財務省事務次官、片や日大アメフト部監督にして日大常務理事。要職中の要職にありながら、なぜ2人は失脚したのか。精神科医の片田珠美氏は「この2人には高い地位に就いた人ならではのダメな共通点がある」という。その共通点とは——。

■財務省事務次官(58)と日大アメフト部監督(62)の失脚


早いもので、今年も半分近く過ぎたが、これまでに「失脚したおじさん」が何人もいる。今回はそうした人々に認められる共通点を挙げて、分析したい。




写真=iStock.com/cherstva

2018年、失脚したおじさんの代表格といえば、やはり財務省の福田淳一前事務次官(58)と日大アメフト部の内田正人前監督(62)だろう。


福田氏に関しては、「週刊新潮」(4月12日発売号)がテレビ朝日の女性記者へのセクハラ疑惑を報道。「胸触っていい?」「手縛っていい?」と飲食店で1対1だった女性に発言したとされる音声データも公開された。結局、4月18日に辞任したが、本人は辞任会見でもセクハラ発言を否定した。


一方、内田氏は、日大アメフト部の守備選手が関西学院大学との定期戦(5月6日)で悪質タックルに及んだ問題での対応の遅さなどから「学内外に多大な迷惑をかけた」として、5月30日付で大学の常務理事職を辞任した。タックルした日大の宮川泰介選手(20)は、「監督やコーチから『相手QBを壊してこい、ケガさせてこい』という指示を受けた」と話した。内田氏らは、それを否定したが、関東学生連盟は最も重い「除名」の処分を下した。内田氏は日大では理事長に次ぐ、ナンバー2の立場だった。


▼2人のアラ還「失脚おじさん」の共通点5

この2人には、次のような共通点が認められる。


(1)自己保身

(2)強い特権意識

(3)想像力の欠如

(4)甘い現状認識

(5)自覚の欠如


(1)自己保身

まず、2人とも「たたかれたくない」「責任を取りたくない」という願望が強く、自己保身しか考えていなかったように見える。何よりも自己保身を重視したからこそ、福田氏はセクハラ発言疑惑を繰り返し否定したのだし、内田氏も会見や関学大への回答書で悪質タックルの選手への指示を否定したのだ。


このように否定したのは、2人とも自分の地位、そしてそれに付随する収入や名誉、権力や影響力などを失いたくなかったからだろう。何しろ、福田氏は財務省の事務方トップだったし、内田氏も人事担当の常務理事を務めていて、日大では理事長に次ぐナンバー2の座にあったのだから、その権力も影響力も半端ではなかったはずだ。



■「自分だけは少々のことは許される」という特権意識


一般に、失いたくないものが大きいほど、そしてそれを手に入れるために犠牲にしてきたものが多いほど、喪失不安は強くなる。だから、自分にかけられた疑惑を認めれば全てを失いかねない状況では、否定し続けるしかない。


もっとも、自己保身のために否定し続けたことが、むしろ裏目に出た。福田氏は辞任に追い込まれ、財務省もセクハラ行為を認定して退職金から減給20%6カ月分を差し引く処分を行った。内田氏もアメフト部の監督だけでなく常務理事も辞任したうえ、関東学生アメフト連盟から事実上の永久追放となる「除名」処分を受けた。本人は自己保身のために否定したのだろうが、結局、真逆の結果を招いたのである。




「週刊新潮」4月19日号より
(2)強い特権意識

あくまでも否定し続けたのは、(2)強い特権意識のせいでもあるように見える。特権意識が強いと「自分は特別な人間だから、普通の人に適用されるルールであっても自分だけは適用されない」と思い込みやすいからだ。


とくに、福田氏は東京大学法学部出身で、在学中に司法試験に合格した超のつく高学歴エリートである。しかも、日本で最も頭脳優秀な人たちの集団の1つだった大蔵省に入省し、大蔵省が解体されて財務省になった後も順調に出世して、次官にまで登り詰めたのだから、特権意識を抱くのも無理はない。


こうした特権意識は、「自分だけは少々のことは許される」という思い込みにつながりやすい。実際、財務省の事務次官という特権的な地位のおかげで少々のことは許されてきたのではないか。そういう経験が積み重なった結果、女性記者に少々セクハラ発言をしても許されると思った可能性が高い。


一方、内田氏は必ずしも高学歴というわけではない。それでも、関東学生アメフト連盟が日大アメフト部の体質を「監督の言うことは絶対だった」と評したように、内田氏は絶対的存在だった。


実際、大学内の人事担当の常務理事で人事権を握っていた内田氏に「大学の職員は誰も意見を言えない」状況だったという日大関係者の証言もある。こういう状況にどっぶりつかっていると、どうしても特権意識を抱きやすい。この特権意識ゆえに「黒いものでも、自分が白と言えば白になるはず」と思い込んだからこそ、悪質タックルを選手に指示したことを否定し続けたのだろう。


(3)想像力の欠如

この2人には、(3)想像力の欠如も共通して認められる。


まず、福田氏は、辞任を表明した後も、「全体を見てくれれば(セクハラ疑惑に)該当しないとわかるはず」と主張している。この時点ではすでに「胸触っていい?」「手縛っていい?」といったセクハラ発言の音声データが公開されており、福田氏の声と酷似していた。


にもかかわらず、自分の主張を世間が信じてくれると思ったのなら、甘すぎる。こんな主張をすれば、むしろ世間の反感と怒りを買うだけなのに、そのことに思いが及ばないのは、よほど想像力が欠如していると言わざるをえない。


内田氏も、羽田空港での会見で、宮川選手への指示の有無に関する質問に対して「ここでは控えたい」「文書を出す」と繰り返したことが、被害者の選手の父親の怒りを一層かき立て、警察に被害届を出す事態になるとは、思ってもみなかったのではないか。


まして、宮川選手が記者会見で監督とコーチの指示にもとづいて反則を犯したと主張するとは、想像もしなかったはずだ。内田氏は、宮川選手の試合に出たいという気持ちにつけ込んでいたように見えるので、その宮川選手が競技から引退する決意をしてまで、監督の指示があったと証言するなど、想定外だったにちがいない。



■2人の失脚おじさんはSNSの威力を軽視していた


そもそも、人が日々の生活で想像力を働かせるのは、そうしなければ困る弱い立場にあるからだ。上司や先輩などの目上の人、取引先、妻や恋人などの反感を買ったらどうしよう、怒らせたらどうしようなどと気にせざるをえない立場だからこそ、相手の反応を想像する。そして、自分が困るような反応が返ってきそうだったら、わが身を守るために言動を慎む。


一方、特権的な地位にいて、少々のことは許される立場であれば、そんなことを気にする必要はない。必要がなければ、想像力を働かせるという面倒くさいことはしないのが人間という生き物だ。自分の立場がまだ弱かった頃は想像力をある程度働かせていた人でも、相手の反応や感情を気にする必要のない立場になれば、想像するのをやめてしまう。


だから、福田氏も内田氏も、自分の言動が大衆の反感と怒りをどれほどかき立てるかも、批判をどれほど浴びるかも想像できないのは当然だ。いや、そもそも想像してみようとさえしないだろう。




「週刊文春」6月7日号より
(4)甘い現状認識

甘い現状認識のせいで墓穴を掘る点でも共通している。これは、主に(2)強い特権意識のせいだと考えられる。どうしても、自分の権力と影響力を過信してしまい、反感、怒り、批判などのネガティブな反応が返ってくることを予想できない。


また、ネガティブな反応もそのうち収まるだろうと楽観的に考え、時間稼ぎをしているうちに、全てが後手後手に回り、気づいたときには“炎上”状態になっている。とくに、最近は情報がSNSであっという間に拡散するので、早めに手を打たなければならないのだが、何もせずに眺めているうちに、手遅れになる。2人のおじさんはSNSの威力を全く軽視していたとも言える。


(5)自覚の欠如

最大の問題は、これまで挙げてきた共通点を本人が自覚していないことだ。自覚していなければ、直すことができないので、どうしようもない。


ただ、福田氏と内田氏が典型だが、地位が上がって、権力を握る立場になるほど、自己保身に走りやすいし、特権意識も強くなる。また、想像力を働かせることもしなくなる。過去の成功体験が逆にわざわいして、現状認識が甘くなるのもよくあることだ。


だから、偉くなるほど、自分自身を振り返るまなざしを持ち、ここで挙げた共通点が自分にもあるのではないかと問いかけるべきである。ところが、実際には、自分自身を振り返ることができずに暴走して、墓穴を掘るおじさんが少なくない。


そういうおじさんの典型が福田氏と内田氏だった。世間はあきれたが、本人は世間の反応に無頓着で、こうした無頓着さが反感と怒りをさらにかき立てたように見受けられた。この手のおじさんを反面教師にして、自分自身を振り返るまなざしを持ち、自滅しないように気をつけたいものである。



(精神科医 片田 珠美 写真=iStock.com)

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