パリのデパートが日曜日も営業を始めた理由

6月9日(金)6時14分 JBpress

パリのギャラリー・ラファイエットの内部。 Photo by Leandro Neumann Ciuffo via flickr, under CC BY 2.0.

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 マクロン新大統領誕生で注目を集めるフランス。日本では、人手不足や長時間労働是正のため、小売業や飲食業では24時間365日営業を見直す企業も出てきているが、フランスでは日曜営業の禁止を緩和する動きがある。その背景には何があるのだろうか。


欧州では「日曜日」の仕事は禁止

 もともと、欧州ではローマ帝国時代の西暦321年、コンスタンティヌス帝が「日曜日は休日」と定めて以来、ドイツをはじめ各国とも日曜日はキリスト教の「安息日」としており、仕事をすることを長い間禁じていた。

 フランスも同様に、日曜日の労働については法規制で原則禁止し労働者を保護している。例えば、警察などの公務のほか、空港、駅、ホテル、レストラン、カフェ、一部の繁華街や指定地区を除き、ほとんどの施設は定休日としなければならない。

 ところが、近年になって欧州の一部、特に高失業率の国を中心に、雇用対策の1つとして、営業時間の規制を緩和しはじめている。


通称「マクロン法」では8〜10%売上高が増加した店舗も

 実際に、最近、パリに行かれた方は「日曜日にデパートが開いている!」と不思議に思われたのではないだろうか。これまで、日曜日や24時間営業に慣れている日本からの旅行者の悩みの種は、「パリの日曜日をどうやって過ごしたらいいだろうか」ということだったが、その状況が変わりつつある。

 フランスでは2013年頃から、日曜の営業規制についての議論が活発化し、大手ホームセンターや化粧品店の日曜営業をめぐり、企業と労働組合間で訴訟を繰り返していたが、2015年8月、仏政府は「経済の機会均等・経済活動・成長のための法律」(通称「マクロン法」)を機に経済活性化を目的として規制緩和策を導入、業種ごとに日曜営業について見直すこととした。

 原則として日曜日は商店の営業が禁止されたままで、販売品目や特定地区などに限られているものの、一部については新たな道へと歩み出している。

 規制緩和措置では、オペラ地区やシャンゼリゼ地区など国内に21あるZTI(国際観光地区)では「労使合意の成立」を条件に、通年の日曜営業を認めている。

 百貨店でも労使交渉を進めたが、全体での合意はできず、個別に労使合意(産業別又は企業単位)を目指すこととなる。翌年には日曜営業を開始する店舗もみられるようになり、パリの百貨店BHVのマレ店では日曜営業を始めることで売上が8〜10%増加したという。同店舗の日曜勤務は、100%の割増賃金と託児支援金(1日当たり55ユーロ)の付与という条件が提示された。

 百貨店の交渉の内容は各店によって異なるが、多くは、日曜勤務の日数の制限を設けること、日曜勤務の割増賃金(おおよそ2倍から3倍程度)、託児費用の支払い(50〜100ユーロ程度)、その他タクシー代などの交通費支給といった、日本と比較すると破格の条件の提示がされている。


百貨店「ギャラリー・ラファイエット」の日曜出勤の報酬は3倍

 大手百貨店のギャラリー・ラファイエット、プランタン、ル・ボン・マルシェの3店とも労使合意に手間取り開始が遅れていたが、ようやく2017年からの日曜営業に踏み切った。中でも最も労使合意が早かったのはギャラリー・ラファイエットだった。

 パリ・オスマン通りにあるギャラリー・ラファイエット本店では、2017年1月8日から日曜営業を本格導入した。日曜日の営業時間は11時から19時まで。同店舗で結ばれた労使合意では、日曜勤務を希望する従業員は年間8日までを上限として働くことができる。同店舗によると、「日曜勤務を希望」した従業員は92%、また「8日間を希望」した従業員は62%と、従業員の多くは新制度を歓迎している。

 多くの従業員が日曜勤務を希望するのはなぜか。その理由は、労働条件の良さにあるようだ。

 同店舗の従業員の選択肢は3つあり、(1)通常の2倍の給与と1日間の代休、(2)通常と同じ給与と2日間の代休、(3)3日間の代休、の中から希望する待遇を選択できる。つまり、従業員の日曜出勤の割増は通常勤務の3倍の報酬となる。

 交渉では、当初は2倍の給与と年間12日の日曜勤務を提示したが、合意に至らなかったという。同店舗では年間に5〜10%の売上高増加を見込んでおり、企業と従業員がWin-Winの関係性へとつながったようだ。また、新たに500人を採用するなど雇用創出にもつながっている。


プランタン、ル・ボン・マルシェも日曜営業を開始

 パリ12区にあるル・ボン・マルシェは、1848年創業の世界最古の老舗百貨店である。同店舗も2016年11月25日に日曜営業に関する労使合意が成立し、2017年3月から日曜営業が実施された。

 同店舗の労使合意は、「日曜勤務は希望者のみ」「日曜勤務の賃金は2倍」「土曜勤務は通常の給与の25〜75%増し」である。週末勤務に伴う振替休日はない。また、合意には、150人の採用も盛り込まれているという。

 一方、ラファイエットと同じオスマン通りにあるプランタンの店舗でも、2016年12月30日に労使合意が成立し、2017年6月から日曜営業を実施する。同店舗の労使合意は、「日曜勤務の賃金は2倍」「代休」「託児手当(60ユーロ)」の付与であったという。


マクロン新大統領が掲げる“柔軟性”

 日曜勤務の導入について、2017年2月にリクルートワークス研究所が行ったインタビューで、フランスのPwCアソシエイトのフレデリック・プチボン氏は、「日曜労働の広範な解禁は、フランスの労働法制の歴史的大転換だ」と語った。

 法案可決が困難を極めたにもかかわらず、最終的に国民のコンセンサスが得られたのはなぜか。プチボン氏は、「労使交渉で、報酬面での厚遇や代休の確保が約束されたこと」「従業員に対する日曜勤務のプレッシャーをいかに軽減できるか」など、各企業における交渉段階でさまざまな配慮がされたことにあるという。

 通称「マクロン法」は、エマニュエル・マクロン新大統領が経済・産業・デジタル大臣だった時に提案し、制定された法律である。マクロン大統領の政策のキーワードは「柔軟性」。労働者の育成をベースに、週35時間労働制の一部撤廃などの労働市場の柔軟化を掲げている。

 一方、2016年に改正された「労働・労使間対話の近代化・職業経歴の保障に関する法律(通称「エル・コムリ法」)」では、情報技術の発展による仕事とプライベートの境界の曖昧さを区別するための配慮として、業務時間外に仕事のメールを見ない「つながらない権利」を規定するなど、労働に対する従来の価値観は変わっていない。

 日本では、365日24時間営業の商業施設も少なくなく、利用者にとって非常に利便性が高い。しかし、その裏でサービスを提供する労働者がいる。歴史や宗教観、文化的背景などから、フランスと単純比較することはできないが、日本でも「日曜日に働く」ことの価値が問われるときが来るかも知れない。

筆者:村田 弘美

JBpress

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