不正発覚でも懲りずに癒着する医師と製薬企業

6月10日(月)6時0分 JBpress

医薬品の錠剤やカプセル(2017年3月23日撮影、資料写真)。(c)LOIC VENANCE / AFP〔AFPBB News〕

 ディオバン事件を覚えているでしょうか。

 日本の5つの大学(京都府立医科大学、慈恵会医科大学、滋賀医科大学、千葉大学、名古屋大学)とディオバン(一般名:バルサルタン)を製造するノバルティスが関わった研究不正を指します。

 この事件では、2000年代に臨床試験が行われたデータに不正があったり、ノバルティスの社員が公表なしに論文の統計解析に関わったりしたことが問題とされました。

 その結果、これらの臨床試験の論文は2013年から2018年にかけてすべてが撤回されました。

 今回、この事件に関わった医師への製薬マネーに関する調査を行い、JAMA Network Open誌という医学雑誌で発表しましたので、結果をお伝えします。

(https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2733427)

 研究不正の背景には金銭的なものを含めて、癒着がその温床になると考えられています。ディオバン事件はその好例で、それを受けて医学界および研究界にも大きな変化をもたらしました。

 まず、日本製薬工業協会(JPMA)に所属する製薬企業は2013年から透明性ガイドラインを独自に設け、医師や医療機関に支払った金額を公開するようになりました。

 また、臨床研究法が2017年に成立、2018年に施行され、製薬企業の資金提供の下で臨床研究を行う場合には、監査が義務づけられることになりました。

 では、実際にディオバン事件に関わった医師たちと製薬企業の金銭的な癒着はどうなっているでしょうか。

 実は、JPMAがガイドラインを制定してからも、各社が公開する金額には、横断的にどれほど金銭を授受しているか分からないなど、公開方法に問題がありました。

 そのため、これまでディオバン事件に関わった医師たちへの製薬マネーの全体像は分かっていませんでした。

 今回私たちとワセダクロニクルは共同して、2016年度の各製薬企業からの支払額をデータベース化しました。

(http://db.wasedachronicle.org)

 そのデータベースを用いて、ディオバン事件が発覚してから3年を経て、撤回された論文に携わった医師たちへの製薬企業からのカネの流れを調査しました。その結果は驚くべきものでした。

 2016年度、ディオバン事件が発覚してからわずか3年。

 まさに舌の根も乾かぬうちに、製薬企業から研究費とは別に、原稿執筆料、講演料、コンサルタント費などとして29人もの医師が金銭を受け取っていたのです。

 ディオバン事件に関わった臨床研究の論文著者は50人ですから、実に約6割にあたります。

 その総額は6418万円に上り、内訳は5418万円が講演料、673万円がコンサルタント費など、243万円が原稿料として支払われていました。

 受け取った金額の平均は128万円で、15人が50万円以上 、5人が500万円以上、3人が1000万円以上を受け取っていました。

 1000万円以上を授受していた3人のうちの2人は、東京大学教授の小室一成氏、名古屋大学教授の室原豊明氏で、それぞれ千葉大学のVART、名古屋大学の名古屋ハートスタディの研究責任者でした。

(小室氏は2012年から東京大学教授に就任)

 実はディオバン事件では5つの研究のうち、この2つの研究を除く3つの研究で責任者が引責辞任しています。

 不正な研究を行った責任を取っていない2人がいまだに製薬企業から多くの金銭を得ていることが浮き彫りになった形です。

 ディオバン事件発覚前にはもっと多額の金銭授受があった可能性がありますが、本研究からは2013年に発覚した事件の前後で著者への製薬企業からの支払いが変わったかどうかは不明です。

 しかし、製薬業界との論文著者の金銭的関係が依然として顕著であることは明らかで、特に責任著者への製薬企業からの支払いは多く、製薬企業と教授などの責任著者がそのネームバリューを利用し双方に利益がある関係を築いていると推測されます。

 一方、ノバルティスの研究者への支払いの総額は、2012年の15億5800万円から2016年には7億8700万円に確かに減少しました。

 つまり、今回の調査結果からは、ノバルティスがディオバン事件関係者以外の医師および研究者に継続的に支払いを行っていると考えられます。

 製薬会社と研究者たちの間のこのような根深い金銭的関係を懸念し、2018年に臨床研究法が改正され、製薬企業と研究者の双方が金銭的関係を開示が義務づけられました。

 米国では、研究の不正行為を助長する可能性がある製薬マネーの透明性を確保する目的で、すでに製薬企業から医師への支払いを開示する「Open Payment」というシステムが採用されています。

 日本でもこの議論を進めていくことが喫緊の課題です。

 ディオバン事件後、医師と製薬企業との間の利益相反は大きな批判を浴びました。

 その一方で、依然として医師と製薬業界との間の金銭的関係は根深い関係があり、医学界にはいまだに製薬企業と医師の関係を明らかにしようとすることをタブー視する声も根強くあります。

 実際、この研究を公開したところ、SNSでは一部の医師から「製薬企業からお金をもらって何が悪い」と非難を浴びました。

 また、遠方に住む父からは医学界での私の立ち位置を心配する連絡が来ました。

 確かに医師と製薬業界の間に金銭的関係が存在すること自体が必ずしも悪いわけではありません。

 しかし、不透明性が不正行為を助長する可能性に鑑みれば、可能な限り正確に支払いを開示することが重要です。

 ディオバン事件が発覚した当時、私は千葉大学の学生でした。世間を騒がせた事件に自分の母校が関わっていたことが衝撃的だったことをよく覚えています。

 その後、千葉大学で行われたVART研究の不正に関して、千葉大学の調査委員会は研究責任者だった小室氏に処分を下すように、東京大学に勧告しました。

 私は卒業生として、千葉大学の不正を認め、それを正そうとする姿勢を誇りに思います。

 しかし、東京大学は「研究不正はなかった」として、これをもみ消しました。

 さらに小室氏が主宰する東京大学・循環器内科では、2018年に医療事故を隠蔽しようとしたことが報道されています。

「過ちを犯すことは恥ずべきことではないが、その過ちを改めずにくりかえるのは恥ずかしいことだ」

 ルソーの言葉です。東京大学、千葉大学、名古屋大学は日本でも研究を多く行っているトップ校です。

 過去の過ちを認め、その汚名を返上すべく、小室氏らにはきちんと責任を取ってもらいたいと考えています。

筆者:澤野 豊明

JBpress

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