日本人が加熱式たばこの実験台にさせられている

6月11日(月)6時0分 ダイヤモンドオンライン

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6月5日、東京都は政府の健康増進法改正案よりも厳しい受動喫煙防止条例を公表した。慶應義塾大学准教授の中室牧子氏、UCLA助教授の津川友介氏は「都民の方を向いた政治をしている」と評価する一方、「なぜか加熱式たばこには甘い」と指摘する。


両氏は加熱式たばこの有害性を調べた研究が少なく、規制がゆるいのをいいことに、「たばこ産業は日本人で人体実験をしているのでは」と懸念を示している。詳細を聞いた。


加熱式たばこには甘い

東京都の受動喫煙規制



 東京都は6月5日に受動喫煙防止条例案を公表した。従業員を雇っている飲食店内を、面積にかかわらず原則禁煙としており、都内の84%の飲食店は屋内禁煙になると推定されている。違反者には罰金(5万円以下の過料)もあり、これは政府の健康増進法改正案よりも厳格な規制だ。


 受動喫煙によって周りの人の健康が害されているというエビデンス(科学的根拠)は確立しており、日本では受動喫煙によって毎年1万5000人もの人が命を落としていると推定されている。これは実に35人に1人の命が失われている計算になる。これは受動喫煙だけの影響であるので、喫煙そのものの害を加えたらより大きなものになる。


 これらのエビデンスを根拠に、小池百合子都知事と「都民ファーストの会」は受動喫煙防止条例案を策定したのだと考えられる。この決断は、政治家がたばこ業界などの既得権益層ではなく、妊婦や子どもをはじめとした都民の方を向いた政治をしているという点で評価されるべきだろう。


 ただ一点だけ気になる点がある。加熱式たばこの立ち位置である。


 東京都は、加熱式たばこは健康被害が明らかになっていないとして、罰則を適用しないとした。また、加熱式たばこ専用の喫煙室も認めたうえで、飲食もできるように緩和した。


アメリカでは

加熱式たばこは販売できない


 はたして本当に「加熱式たばこの健康被害は明らかになっていない」のだろうか。いわゆる通常のたばこ(紙巻たばこ)は刻んだたばこの葉を燃焼させて、その煙を吸引する。一方で、加熱式たばこは葉たばこを加熱することでエアロゾル(空気中の微量な液体・固体)を発生させるか、もしくはエアロゾルにたばこ粉末を通過させる。


 つまり、紙巻きたばこと加熱式たばこの主な違いは、たばこの葉を燃やすのか、それとも高温で熱するのかという点しかない。加熱式たばこの例として、日本のJTが販売しているプルームテックやフィリップモリスのiQOSなどの商品がある。


 実はアメリカでは加熱式たばこはまだ販売許可が下りていない。FDA(アメリカ食品医薬品局。医薬品や食品の販売許可や違反頻の取締りなどを行うアメリカの国の機関)の諮問委員会は、2018年1月に、加熱式たばこが紙巻たばこよりも害が少ないというエビデンスは不十分だと結論付け、「紙巻たばこよりも害が少ない」と宣伝することを禁止したのだ。


 日本では、たばこ会社が「紙巻たばこよりも害が少ない」と大々的に宣伝しているが、実はこれは科学的根拠がないということで、アメリカでは国が禁じている行為なのである。


加熱式たばこは

本当に害が少ないのか?


 確かに加熱式たばこは新しい商品であるため、受動吸入による健康被害のエビデンスは少ない。実際に肺がんになるかのデータを今から収集していたら、その影響が明らかになるまで数十年かかってしまうだろう。


 その一方で、加熱式たばこの受動吸入の実験をすることも倫理委員会が許可しないと考えられる。エビデンスが十分ではないと言いながらも、ほとんどの人が「おそらく有害である」と考えているものを、何の罪もない被験者に吸わせることには倫理的な問題があるからである。


 だからといって加熱式たばこに関して何もわかっていないわけではない。紙巻たばこの受動喫煙による健康被害の一部は、喫煙者の呼気中の有害物質が原因であると考えられている。加熱式たばこによる受動喫煙に関するデータは限られているが、主流煙に関してはいくつか研究されている。


ニコチンの量はほとんど変わらない


 では加熱式たばこの蒸気の中にどのようなものが含まれているのだろうか。これに関する過去のデータのほとんどがたばこ会社に資金提供を受けて行われたものであったため、信頼できるデータが存在しなかった。


 2017年12月、アメリカの権威ある医学雑誌であるJAMA Internal Medicine誌に掲載された論文によると、加熱式たばこ(iQOS)に含まれる有害物質は、紙巻たばこ(ラッキーストライクブルーライト)と比べてそれほど少ないわけではないということが明らかになった


 加熱式たばこに含まれるニコチンの量は、紙巻たばこの84%であり、発がん物質であるホルムアルデヒドも74%であった。ホルムアルデヒドは世界保健機関(WHO)の専門組織である国際がん研究機関(IARC)が鼻咽頭がんのリスクを上げる十分な科学的知見があるとして、「人に対して発がん性がある」(グループ1)に分類している物質である。さらには有害物質であるアセナフテンに至っては紙巻たばこの約3倍も含まれていた


その他の有害物質の量は図表2に示す。



 韓国の食品医薬品安全処(食薬処)が行った解析でも、加熱式たばこの蒸気にはがんを誘発する可能性がある有害物質が複数含まれると確認されている。中国で行われた研究でも同様の結果が得られている。


規制のゆるい日本が

加熱式たばこの実験場にされている


 加熱式たばこの実に9割は日本で売られており、たばこ業界は日本を加熱式たばこの「実験場」としているという意見もある。つまり、日本でまずイメージ戦略や健康への影響を実験してみて、その知見を元に世界展開しようとしているということだ。


 紙巻たばこは医学の世界において最も有害性が確立しているものの一つであるので、これと比較したら多くの有害物質は「それほど健康被害が大きくない」という結論になるだろう。もちろん加熱式たばこも紙巻たばこと比べたら「まだまし」という評価になる可能性は高い。


 しかしこのような基準で判断していたら、公害など世の中にある多くの有害物質は「それほど悪影響はない」という評価になってしまう。


 多くの先進国では、「安全性が確認されるまでは販売を認めない」と言うスタンスを取っているにもかかわらず、日本ではなぜか「健康被害が確認されるまでは販売し続けてよい」という立場をとりつつある。これはたばこ業界にとっては都合のよい政策であることは明らかであるが、もし数年後に加熱式たばこの受動吸引の有害性が明らかになろうものなら、日本人を使って人体実験をしたようなものである。日本でも公害や薬害の歴史から、このスタンスに問題があることは議論の余地はないだろう。


 WHOは加熱式たばこを紙巻たばこと同様に規制するべきだとしている。東京都も、ガラパゴス的な「加熱式たばこは例外」という日本独自のルールを適用するのではなく、世界水準に合わせて「安全性が確認されるまでは、加熱式たばこは紙巻たばこと同様に扱う」べきであると私達は考えている。





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