大臣も夢中、VR「月面やり投げ」はどこが凄いのか

6月12日(水)6時4分 JBpress

「宇宙ですること」を体感できる技術が、人類と宇宙の距離を近づける。(写真提供:Yspace)

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 来月7月でアポロ月面着陸から50年。そして来年2020年には東京五輪が開かれる。この2つの話題を結びつけるような「未来の五輪を想定した月面スポーツの体験」技術がある。日本のベンチャー企業「Yspace」が、月面データや人工現実感(VR)などを駆使して開発したものだ。宇宙体感技術が切り拓く、宇宙資源利用の可能性と課題を探った。


大臣が「すごい! 面白い!」と驚嘆

 6月8日と9日、茨城県つくば市で開かれた「G20茨城つくば貿易・デジタル経済大臣会合」。会場内の企業・団体出展ブースに、Yspaceが「月面スポーツ体験」をできる技術を展示した。大臣会合の合間に視察に来た河野太郎外相が、顔にゴーグルをはめ、手にスティックを持ち、競技に挑む。「すごい! 面白い!」と時間を忘れ、夢中になっていた。

 同社が展示したのは、「Yarinage MOON」。仮想現実技術で再現した「月面」で「やり投げ」を行い、時間内に標的バルーンを破裂させて得点を争う競技だ。

 頭部装着ディスプレイをかぶると360°の月面風景が現れる。利き手に持つスティックを振りかざし、指をボタンから離すと「矢」が放たれる。

 だが、ここは地球の重力の6分の1の月面。感覚よりも矢が遠くに飛んでしまい苦戦する。そうしているうちに今度は「地上モード」に切りかわり、放った矢が失速してしまう。

 月面と地球の違いを、身をもって体験できた。


「宇宙にいる」感覚を科学的根拠を持って追求

 Yspaceは2017年創業。日本ヒューレットバッカード主催の、火星で100万人が暮らすためのアイデアを競わせる大会「HP Mars Home Planet」で最優秀賞を獲得した参加者有志たちが起業した。「人類の火星移住実現に貢献すること」を究極的なゴールとし、その第一歩として宇宙体感技術の開発に着手。六本木ヒルズで「月面VR展」を開催し、「Yarinage MOON」のほか「月面マラソン」も展示するなど、実績も築き始めた。

「(VR技術などを使って)地球で面白い競技を作り、それらをまず月面での競技にしたい。民間企業には2040年までに1000人を月に移住させる計画もある。月面で実際に競技することを私たちは本気で考えています」と、共同代表の一人、田中克明氏は話す。

 月面などの宇宙体感を実現するには、人に「いま自分は地球でなく宇宙にいる」というリアルな感覚をできるだけ抱かせることが重要となる。そのために同社は「科学的根拠を持たせること」を重視している。

 たとえば、月面の映像は、創作のコンピュータ画像でなく、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月周回衛星「かぐや」のデータを解析した3次元画像を材料にしたもの。リモート・センシング技術センター(RESTEC)との共同開発による。月面には、直射日光で100℃を超える場所もあるが、 「かぐや」のデータからはそうした月面の温度などデータも得られる。そこで、標的バルーンが熱膨張するなどのリアリティも追求した。

 また、身に着けるデバイスについては、HTC NIPPON社から仮想現実システム「VIVE」の提供を受けたもの。バルーンや矢などの高解像度映像を実現している。

 Yspace自体も、独自に科学的根拠を持ったリアリティを追求した。「VR体験できる娯楽施設で客たちに出口調査をしたところ、自分の身に何かが迫ってくることや、360°切れ目なく世界が見えること、また体を大きく動かすことなどが、『これはVRだ』という先入観を取り除くのに効果的と分かりました。これらを設計に生かしています」(田中氏)。


「楽しむうちに学んでいた」を実現させたい

 地球にいながら宇宙を気軽に体感できる。そうした技術を、今後どのように役立てていこうとしているのだろうか。

 田中氏は、1つめに「教育目的」を掲げる。

「友だちとゲームで競い合いながら、日なたのほうがバルーンが大きくなるから矢を当てやすいといったことから熱膨張の原理を覚えていく。学ぼうとして学ぶのでなく、気づいたら学んでいたといった学習の仕方を提供したい」

 競技中に「地球モード」が現れるのも、地球との重力環境の違いなどを身をもって学習してもらう狙いがあるからだ。

 現在は、教育系企業からのオファーで、体験学習塾に「Yarinage MOON」などを試験導入してもらっている。また、ショッピングモールの子ども預かりスペースに置き、親の買いもの中に子どもが遊んで学べるといった形でのサービス提供を大型流通企業に提案してもいる。今後、Eラーニングの進む学校での採用があれば、教育での効果は大きなものになるだろう。

 もう1つ、宇宙体感技術活用の柱としているのが、宇宙開発の効率向上という「エンジニアリング目的」だ。

「たとえば宇宙機の開発では、何段階もの工程を踏み、莫大な時間とコストがかかります。しかも、世界では、情報伝達ミスで宇宙機パーツの寸法が合っていなかったといったことがいまも起きています。試作工程の途中までは、私たちの宇宙環境再現技術によって進められるといった状況を実現させていきたい」(田中氏)

 同社は5日、茨城県の「いばらき宇宙ビジネス支援事業」に2018年度から2年連続で採択された。交付金は、宇宙体感イベント事業のほか、宇宙開発シミュレーションツール開発の関連事業にも充てられる。「太陽観測衛星を活用したコンテンツ、月探査シミュレーションツールの開発に挑みます」(同社ツイッター)としている。


地球での宇宙体験が、宇宙資源をより活用可能なものに

 宇宙空間で人や物体が浮いたようになる「微小重力」を、どう再現するかなどの技術的課題はあろう。だが「地球にいながらにして宇宙を実感する」という発想のもと、日本の民間ベンチャー企業が事業を始めたこと自体、意義深いことととれる。「民に開かれた宇宙時代」の象徴にもなりうるからだ。

「これまで宇宙のことは国が主導してきました。けれども将来の宇宙展開を考えると、一般の人びとの理解が必要です。私たちのような技術で、より多くの一般の人たちに宇宙を体感していただき、そのフィードバック成果を月や火星などの宇宙開発に生かしていきたい」(田中氏)

 ベンチャー企業による宇宙体感技術が、人類にとっての「宇宙」という資源を、より活用可能な状況にしようとしている。

筆者:漆原 次郎

JBpress

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