妻を自社社員にした社労士 ねんきん定期便見て妻解雇の理由

6月12日(水)7時0分 NEWSポストセブン

社労士の木村昇氏

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 年金制度は「保険料の払い方」から「年金のもらい方」まで選択肢が多く、損得は定年前後の夫婦の働き方によっても変わる。税金や社会保険料負担まで含めたトータルで考えると、最も得する選択を見つけるのは容易ではないが、年金のプロである社労士は、制度をフルに活用している。


 年金にまつわる最初の選択は「繰り上げ」か「繰り下げ」か、だ。社労士の木村昇氏(65)が指摘する。


「国や年金機構は繰り下げ受給を選べば年金額が増えると推奨していますが、繰り下げを選んで年間211万円の住民税非課税の壁を越えてしまうと税金や健康保険料がハネ上がり、手取りが大きく減る。そうではなく、健康寿命までに受け取れる年金額が増える繰り上げを選びたい」


 木村氏は地方銀行の支店長などを経て日本年金機構に5年間勤め、60歳の時に独立。61歳から「特別支給の老齢厚生年金」(報酬比例部分・月額約12万円)を受給し、65歳になった今年から基礎年金を合わせて月額約18万円の年金を受け取っている。現時点でも収入があり、住民税非課税世帯の恩恵はないが、「それでも繰り下げしようとは思いませんでした」と言う。


 木村氏が年金を増やすために選んだのは別の方法だ。まず独立時に選択を迫られたのは、働きながら受け取る「在職老齢年金」の減額をどう避けるかだ。65歳未満の在職老齢年金は月給と年金の合計額が28万円を超えると年金カットが始まる。


 年金減額を避けるには、2つの方法がある。定年後に自営業(個人事業主)となって会社と業務請負契約を結んで仕事をすれば、厚生年金から外れるため、いくら稼いでも年金は減らされない。もう一つは、雇用延長などの際に年金減額されない金額まで給料を低くするやり方だ。木村氏が選んだのは後者だった。


「考えたのは年金と健康保険料負担の損得です。個人事業主となれば、収入が多くても年金カットは避けられる一方、保険料が高い国民健康保険に加入しなければならない。そこで会社員の身分の方が有利だと判断し、会社を立ちあげて自分自身が社員となり、給料を15万円にしました。年金(約12万円)と合計しても減額されない上、健康保険料は月7000円程度で、自分で払う会社負担分を合わせても国保の保険料より安い」


 自営業の道を選ぶ場合、「1人社長」と呼ばれる「社長兼社員1人」の株式会社を設立するのは難しくない。年金は減らされず、健康保険料も安い、60歳以降も会社員として厚生年金保険料を払うため、加入期間が延びて65歳からの年金受給額も増える。


◆妻の「働き方」も重要


 木村氏が次に考えたのは、年下の妻の年金だった。


「妻は当時50代で専業主婦、それまでは3号被保険者だったが、独立の際に私が個人事業主を選べば妻は3号の資格を失い、月約1万6000円の国民年金保険料を払わなければならない。しかし、会社を作って厚生年金に加入したことで、妻も3号を続けられた」


 妻の保険料を余分に払わなくて済む選択をしたのだ。


 政府は厚生年金への強制加入の条件を広げ、今まで夫の扶養家族(3号被保険者)として自分で保険料を払わなくても年金受給の権利を得られたパート主婦をどんどん厚生年金に加入させて新たに保険料を徴収している。しかし、パートの勤務時間や収入を多少減らしても、「3号」に残った方がトータルで得になる。


 もっとも、妻が60歳になれば夫が会社員でも自動的に3号の資格を失う。そうなれば、パート妻は逆に厚生年金に加入した方が年金額が増える。


 木村氏も、妻が60歳になる前に自分の会社の社員にして給料を払って厚生年金に加入させた。ところが、妻に送られてきたねんきん定期便を見て、妻を解雇した。「加給年金」をもらえなくなることがわかったからだ。


 これは年金の扶養家族手当に相当し、妻が年下の場合、65歳になるまで夫の年金に年間約40万円が上乗せされて支給される。


「加給年金には、夫の厚生年金加入期間が20年以上で、妻の厚生年金加入期間が20年未満という支給条件があります。妻は専業主婦になる前に会社員経験があり、ねんきん定期便を見ると、私の会社で働いた期間を合わせると厚生年金加入期間が19年になっていました。このまま社員として働かせると、加入期間20年を超えて加給年金をもらえなくなってしまう。だから仕事を辞めさせたんです」


 夫婦の年齢差が5歳以上あることから、加給年金をもらい損ねるとざっと200万円以上損してしまう。この判断があったから木村氏は65歳になった今年から自分の年金に加給年金を上乗せして受給している。


 もらえる年金は減額なしで最大化し、国に納める社会保険料や税金は最小限に留める——完璧な年金受給プランの実践といっていい。


※週刊ポスト2019年6月21日号

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