ロシア艦が米軍艦と衝突寸前、中国に加勢して突撃か

6月13日(木)6時10分 JBpress

ロシア海軍の対潜駆逐艦「アドミラル・ヴィノグラードフ」(出所:米海軍)

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(北村 淳:軍事アナリスト)

 6月7日、西太平洋のフィリピン海(あるいは東シナ海)でアメリカ軍艦とロシア軍艦が衝突寸前のニアミス事件を引き起こした。

 ヨーロッパ周辺の海域や空域では、NATO(北大西洋条約機構)軍とロシア軍の艦艇や航空機の間でニアミスや妨害行為がしばしば繰り返されている。しかし、太平洋方面でアメリカ海軍艦艇とロシア海軍艦艇がこのようなニアミス事件を引き起こしたのは、米ソ冷戦終結後初めてとなる。


真っ向から齟齬(そご)する米露の主張

 米海軍によると、フィリピン海で艦載哨戒ヘリコプターを着艦させるために直進を続けていた米海軍第7艦隊所属イージス巡洋艦「チャンセラービル」に、ロシア海軍太平洋艦隊所属対潜駆逐艦「アドミラル・ヴィノグラードフ」が衝突寸前の至近距離(15〜30メートル)まで急接近した。チャンセラービルは緊急回避行動をとり危うく両艦の衝突は避けられた、とアメリカ国防当局はロシア海軍を強く非難している。

 これに対してロシア側は次のように主張し、アメリカ側を強く非難している。アドミラル・ヴィノグラードフが東シナ海南東海域を航行中のところ、近接して航行していたアメリカ軍艦が突然針路を変更してロシア艦の針路を塞ぐように50メートル以内という至近距離に接近した。そのため、アドミラル・ヴィノグラードフは緊急回避行動をとり、衝突を避けた。アメリカ海軍がこのような危険な行動をとったのは、ロシアと中国の首脳による会談に敵対的圧力をかけるためである。

 そもそもアメリカ第7艦隊が「ニアミス事件が発生したのはフィリピン海(西太平洋南部)」としているのに対して、ロシア側は東シナ海で発生したとしている(東シナ海は極めて大雑把に西太平洋とされることもあるがフィリピン海と混同されることはない)。このような齟齬に関して、アメリカ海軍は明言を避けている。

 おそらく、チャンセラービルはロナルド・レーガン空母打撃群の一員としてパトロール任務に従事中であったはずであるから、空母打撃群の行動を公開したくないために、正確な事件発生位置を特定させたくはなかったものと考えられる。

 しかしながら、チャンセラービルとアドミラル・ヴィノグラードフの針路に関しては、アメリカ側が米海軍機から撮影した写真を素早くインターネット上に公開し、アメリカ側の言い分に正当性を持たせようとしている。アメリカ海軍関係者の中にも、今さら空母打撃群の位置など隠し通せるものではないのだから、事件に関係する事実は可能な限り公開すべきだとの意見もある(もちろんロシア側が妨害した場合であるが)。


明らかに政治的目的が存在している

 ロシア側は、「プーチン大統領と習主席の会談に合わせて、アメリカ海軍艦艇がロシア軍艦を危険な目に合わせた」と主張している。万が一にも、チャンセラービルが針路妨害を行った場合には(公開された写真を見る限りは、そのような可能性は低い)、ホワイトハウスが「機会があれば、中国軍艦やロシア軍艦を少々脅かしてしまえ」といった包括的指示を与えていた可能性も完全には否定できない(もちろん可能性は極めて低いが)。

 ところが、アドミラル・ヴィノグラードフが針路妨害をした場合には(写真からはそのように見受けられる)、逆にロシア政府が「機会を捉えてアメリカ軍を脅かせ」といった包括的な指令を発しているものと考えられる。だからこそ、逆説的に上記のような対米批判をしているのであろう。

 そして実際に、軍艦同士のニアミス事件が発生した数日前(6月4日)には、ロシア空軍SU-35戦闘機が、地中海上空をパトロール中の米海軍P-8海洋哨戒機の直前を横切るなど極めて危険な妨害飛行を繰り返しているのだ。


ハイレベルの許可が必要な危険な操艦

 米ソ冷戦中に、駆逐艦に乗り組んでソ連海軍艦艇と衝突寸前の威圧合戦を幾度となく経験した米海軍関係者によると、「演習ではない実戦(戦闘中という意味ではない)において仮想敵の軍艦に衝突すれすれの距離まで急接近して離脱する操艦はこの上なく危険である。艦長や艦隊司令官のレベルどころか海軍の独断では実施してはならないほど危険きわまる作戦と言ってよい。よりハイテク艦艇になった現在もこのような事情は変わっておらず、ロシア側も同様のはずである」という。

 したがって、ロシア側が自ら(おそらく逆説的に)口にしているように、今回のニアミス寸前の危険な操艦は政治的目的があるハイレベルの指令(おそらくは包括的な指令と思われるが)に基づいて、実行されたものと考えられる。

 この場合の政治的目的とは、首脳会談中のロシアと中国に経済制裁や関税攻撃を加えているアメリカに対して、「アメリカの力の象徴である米海軍、そして空母打撃群をロシアは少しも恐れていない」というデモンストレーションを行うことであろう。


敵の敵は味方、日本にも矛先が?

 とはいっても、ロシア極東艦隊の戦力は極めて弱体であり、とてもアメリカ太平洋艦隊と正面切って対峙することはできないのが現状だ。

 しかしながら、かつての米ソ冷戦時代と違い、ロシアにとっては頼もしい仲間が誕生している。中国海軍である。

 もちろん、親密な同盟軍というほど相互信頼が醸成されているわけではない。ただし、ロシア海軍にとっても中国海軍にとっても主敵はアメリカ海軍であり、共通の敵に対処するという戦術的レベルでは十二分に共同歩調を取ることが可能である。

 今後、トランプ政権による中国とロシアに対する経済的、そして政治的圧力が強化されるに従い、今回のような日本周辺海域でのアメリカ軍艦に対するロシア軍艦や中国軍艦による挑発的行為が頻発していくものと思われる。その矛先が、国際社会ではアメリカ海軍の付属物とみなされている海自艦艇に対しても向けられる可能性は否定できない。

筆者:北村 淳

JBpress

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