ノン金融出身者が挑んだ、銀行での「共感ビジネス」

6月14日(木)16時30分 Forbes JAPAN

大手企業での新規事業は、既存事業で結果を積んだエリートが中心となって進めているケースが多いと言われるが、必ずしもそうではない。今回は、異業種である広告代理店から銀行に参画し、フィンテックの新規事業を立ち上げた事例を紹介したい。

2012年、ソニー銀行のマーケティング部門に属していた中路宏志氏は、開業10周年記念行事のひとつとして「10年後のソニー銀行の未来(Kore10)」をワーキングチームメンバーとともに考えていた。

ソニー銀行はネット銀行として資産運用商品・サービスを提供しているが、単純な高金利・高配当だけではない、自分が応援したい企業に想いを込めて投資し、リターンを得られるような運用の仕組みを提供してはどうか──。そうして企画を練り上げ、投資型クラウドファンディング事業の原型となるアイデアを発表したが、記念行事の一貫としてほどなく終了した。

これで終えていいのだろうか。中路氏はずっと引っかかっていた。熱が冷めず、会社を終えると、クラウドファンディングを手がけている企業やイベント等に足繁く通った。話を聞けば聞くほど、共感・応援を掛け合わせた金融サービスは魅力的に映った。そして、起業家や新しい事業に挑戦する企業を支援する仕組みを創りたいという気持ちは日増しに大きくなっていった。

2013年11月、中路氏は「石井さん」と慕う当時のソニー銀行社長(現ソニーフィナンシャルホールディングス社長)石井茂氏に、投資型クラウドファンディング事業の可能性について直談判した。公式の経営会議でもなければ、形式ばったレポートラインでの検討を重ねた上でのアポでもない。それでも石井氏は快く迎え入れ、聞いてくれた。

同氏は山一証券時代、日本の個人向け金融を変えたいという信念のもと、上司に進言していたような人間。「空気を感じてきなさい」と中路氏に投げかけ、翌年シリコンバレーへの視察へと送り出してくれた。沢山の出会いと気づきを経た帰りの飛行機で、「新しい金融事業をやろう」と決意を固めた。

社長への提案がきっかけでソニーの新規事業メンバーに

2014年6月、当時のソニーの社長兼CEO、平井一夫氏がソニー銀行に訪れた。各部署への視察や現場社員との意見交換の場が設定されていた中で、中路氏は同氏に、温めていたアイデアであるクラウドファンディング事業の構想案を説明した。


当時のソニー社長兼CEO・平井一夫氏の背中越しに映る中路氏(ソニー銀行提供)

「今だから言えますが、実はこの提案はこの時点で正式に決まった事業企画ではなかったんです。まだ構想レベルでしたが、ソニーらしい面白いビジネスだと思ったので」と中路氏は振り返る。

時を同じくして、2014年4月にソニーで新規事業創出プログラム(Seed Acceleration Program)を運営する部が立ち上がっていた。出口戦略を考えているから合流できないか、と後日話が舞い込んできた。紛れもなく、平井氏に説明したことでの動きだった。

そうしてソニーに兼務出向という形で携わったのが、製品と支援者をつなぐクラウドファンディングとEコマース機能を合わせもつ共創プラットフォーム、「First Flight」の立ち上げだった。構想からわずか10カ月のスピードローンチ。「自社より大きな会社で事業のゼロイチをできたのだから、銀行でできないことはない」。想いは確信に変わった。

それでも、「まだやっているの?」「銀行でクラウドファンディングなんて無理だよ」と、直接的ではなく間接的に、容赦ない声が聞こえてきた。

ごもっともなご意見として受け止めつつ、「まだ自主的活動の域を出ていない。オフィシャルに認めてもらうには時間がかかる」と言い聞かせた。「いい波じゃなかっただけです。準備は進めつつも、追い風のタイミングに事業を浮上させるのが大事です」

新規事業は、計画を立てるものの、進めてきた中で見えてくるタスクや優先順位が変わることがよくある。計画は重要だが、計画至上主義ではうまくいかないことも多い。事業コンセプトのコアに紐づく課題なら、その解決を優先する必要がある。ゴールがなかなか見えない中、チームとしても個人としても気持ちが折れないようにするのも大事だが、そこで忘れてはいけないことがある。

「そもそも何のためにこの事業をやろうとしているか。その軸がブレてくると、先が見えづらい新規事業の事業化は続かないことが多いです」

2017年8月、仲間の協力を経て遂に国内銀行初※となる投資型クラウドファンディング事業「Sony Bank GATE」がスタートする。事業の原型となるアイデアを社内の記念行事で発表してから、草の根活動を含め5年の歳月を費やしていた。

Sony Bank GATEは、非上場の魅力あるベンチャー企業等へ小口から投資できる金融商品。通常のエンジェル投資なら個人でも最低数百万、数千万単位の投資を求められるが、Sony Bank GATEは5万円程度の少額から投資できる。

投資先である挑戦企業の顔が見えるよう、経営者や事業責任者の想いが伝わり、投資した後も事業の活動がわかる仕組みも取り入れている。「共感・応援」という、この事業における中路氏のこだわりの表れだ。「金融商品という無形なものに対して、投資するお客様が”手触り感”を感じられることを大切にしました」

嬉しいクレームと結果で社内の評価が一変

ローンチ当日、顧客から予期せぬ問い合わせがくる。「なんでこういう商品を事前に知らせてくれなかったんだ」。その後も、同じような問い合わせが続いた。「それだけ魅力的と言いたかったのかもしれません」

1号ファンドは事業開始とともに即日で売り切れ。その後も全ての案件で目標募集金額を達成。比較的短期間での完売が続き、手応えを感じている。

事業開始後、銀行や証券会社など金融各社から、新規事業のヒントを求めるヒヤリング・ミーティングの依頼が続いた。「よく社内を説得して事業化できましたね」「ソニー銀行さんらしいですね」「当社も投資型クラウドファンディングについて調査・検討しているので、話を聞かせて欲しい」……すると、どこか遠巻きに見ていた社内のメンバーからも「社内の元気印として、活性化のきっかけになった」という声があがるようになった。

それでも、「スタートラインに立ったばかり」と中路氏は控えめだ。「当社サービスに関心を持っていただける挑戦する企業や投資家のお客様を増やしていきたい。そのためにも、ファンドを継続的に組成していくことに加えて、投資型クラウドファンディングならではの魅力ある事業を手がけていきたいと思っています」

将来的には、資金調達ニーズと資産運用ニーズをつなぐ金融プラットフォームとして取り扱える事業のラインナップ拡張も進めていきたいという中路氏。道はまだまだ続く。


ソニー銀行 新規事業企画部 副部長・中路宏志氏

※投資型クラウドファンディングとは、ベンチャー企業等の資金調達ニーズと投資家の資金運用ニーズをインターネット上で結びつける仕組み。「Sony Bank GATE」は、銀行が企業の審査、ファンドの募集・管理などをワンストップで運営する投資型クラウドファンディングのプラットフォームとしては、国内銀行初の取り組みとなる(2017年8月8日、ソニー銀行調べ)。

Forbes JAPAN

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