国内アパレル産業のラストチャンス

6月14日(木)7時30分 Forbes JAPAN

日本繊維輸入組合が5月に発表した「日本のアパレル市場と輸入品概況」によると、2017年の衣料品の国内生産量は前年比約8%減の9840万点となり、数量ベースの国産品割合はついに2.4%にまで落ち込んだ。

バブルの頃は数量ベースで約10億点あったことを考えると、国産品はこの30年間で数量ベースで10分の1になってしまったことになる。金額ベースではまだ約20%あるとはいえ、このニュースのインパクトは流石に大きく、各種メディアで報道されたことは記憶に新しい。

このようなことが起きている背景には、一義的にはファストファッションの浸透やデフレの影響による衣料品の単価下落に対応すべく、多くの国内アパレルが生産を海外に移転してきたことにある。また、工場側では工賃が伸びない苦しい経営が続く中で、労働者不足や後継者不足に伴い、廃業を選択してきた工場が多いことも要因だ。このままでは国内生産背景は、文字通り風前の灯といった状況である。

それでは、国内の生産背景をもう一度活性化させるためには、何を解決すれば良いのだろうか。あくまで私見であるが、解決すべき国内アパレル産業の課題は、海外で売れる付加価値の高い国内生産ブランドが育っていないことにある。

下記の図は、主要国におけるアパレル輸出額の構成比を図示したものである。これをみると、日本が非常に特殊な構造となっていることが一目瞭然だ。それは、衣料品の最終製品輸出が極端に少ないことにある。

イタリアは約2.4兆円、フランスは約1.1兆円の衣料品を輸出しているのに対し、日本は400億円弱しか輸出できていない。中国はブランドではなくOEM/ODM製品の輸出なので話は別だが、製造業の空洞化が叫ばれるアメリカでさえ約5600億円の衣料品を輸出できているにも関わらずだ。

国内にアパレル企業は沢山あり、巷には国内ブランドが溢れかえっているにも関わらず、約9兆円の国内市場に頼り、海外には輸出できる国内生産ブランドは殆ど育っていない(あえて説明する必要はないと思うが、ユニクロや無印良品は国産ではないので、製品輸出額にはカウントされない)。



一方で、生地に目を向けると話は変わってくる。国産生地の輸出額は約3250億円であり、イタリアの約半分でフランスやイギリスの生地輸出額を上回っている。

実際世界最大の生地見本市、フランスのプルミエールビジョンにおいても、最近多くの国内テキスタイルメイカーが出展しており、日本の生地は間違いなく世界で高く評価されている。東レや帝人のような大手化繊メーカーの素材だけでなく、国内産地の中堅・中小企業の生地がそのクオリティや独自性において評価されている。和歌山のエイガールズや福井の第一織物などはその代表例だ。

しかしながら、衣料品のコスト構造を分解してみると、原材料費は価格の10%〜30%程度に過ぎない。従って、産業全体でみると最終製品の輸出で稼いだほうが遥かに効率が良い。要は、日本国内には海外に注目され直接取引されるほど高品質の産地、工場があるにも関わらず、それを付加価値の高い最終製品、ブランドに変えられるデザイナーや企業があまりにも少ないのである。

大きい国内市場に甘えガラパゴス化し、国内産地を活用できる企業やデザイナーがおらずバリューチェーン上で製販の分断が起こってしまっている、これが日本のアパレル業界の構造的な問題である。

海外でその独自性が評価され成長しているブランド、ビズビムのクリエイティブディレクター中村ヒロキ氏は次のように言う。

「日本の産地には素晴らしい職人と技術があるにも関わらず、残念ながら活かしきれていない。僕らクリエイターがもっともっと頑張らなくてはならない」

中村氏は産地に足繁く通い、産地に継承されている伝統技法を自身のブランドで新たな価値に変えている。例えば、奄美地方に伝わる泥染めや福島の真綿の製法技術を活用して、独自性の高い新製品を作り出し世界で高く評価されている。

実際、ビズビムに限らず、これまで世界で評価されてきたコム・デ・ギャルソンのような日本のデザイナーブランドは、デザイナーやクリエイティブチームが産地に赴き、工場や職人と対話を行う中で、協働で新しい素材を開発しクリエーションの質を高めてきた歴史がある。

デザイナーと産地が身近な関係を保ち、お互いを刺激しながらコラボレーションしていくことは、クリエイティブが肝のラグジュアリーブランドに近いほど重要だ。実際、ルイヴィトンやエルメスなどフランスのラグジュアリーブランドは、オートクチュールの生産で重要なアトリエと呼ばれる工房を早くから保護し、職人を大切にしてきた。ブランドビジネスにおける産地、生産現場の重要性を昔から理解していたからである。

また、付加価値の高いデザイナーズ/ラグジュアリーブランドが育ち取引量が増えると、生産背景側にも大きなメリットがある。工賃が上がり、小ロットで低単価・短納期の仕事から解放され、よりクリエイティブな仕事に集中できる。職人の心身が健康となり、仕事の誇り、プライドも高まり、後継者も現れやすくなり技術継承に繋がるだろう。

経済産業省は今年「若手デザイナーコンソーシアム」を立ち上げ、日本人デザイナーの育成に本腰を入れて取り組み始めた。また、先日発表された世界的な若手クリエイターの登竜門であるファッションコンテスト「LVMHプライズ2018」では、日本人としてはじめてダブレットのデザイナー井野将之氏が栄冠に輝いた。次を担う若手デザイナーは間違いなく出てきている。

我々業界に関わる人間は、このような次代を担うクリエイターと国内背景・産地を繋ぎ、全力でグローバルで売れるブランドに育て、最終製品輸出額を拡大し産業構造の歪み・断絶を解消していくことが必要だ。こうしている間にも貴重な技術を持った職人が一人また一人と現場から退いている。時は誰にも平等に流れていく。これからの5年、10年は貴重な国内生産背景を次代に残せるかのラストチャンスとなるであろう。

連載:数字で読み解くファッション業界の現在
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