とりあえず「真ん中」はもう古い? メリハリある消費のススメ

6月14日(木)18時30分 Forbes JAPAN

各分野で一流の"B面"を持つメンバーが順次執筆する本連載。今回、満を持して登場するのは、Bチームの「富裕層」担当! 外資系金融に勤務していた彼女は、富裕層の消費動向をリサーチするなかで、商品の価格にまつわる「あるトレンド」に気づいたという。無難な選択をしない消費者をとらえた、新商品戦略を紹介。

友人とランチで、初めてのお寿司屋さんに入った場合のことを想像してみる。メニューは、並、上、特上。初めてのお店だから、特上が値段に見合ったものでなかったらイヤだが、並にするのもケチくさい。ここはやっぱり、「上ください」──。

こうした消費者の心理は、行動経済学で「フレーミング効果」と呼ばれる。性能・価格が高い順に3つの選択肢を提示されると、人は真ん中を選びがち、というものだ。だからこそ、販売側は中くらいのラインナップに力を入れるべきだ、と言われたりする。

いわばマーケティングのセオリーともいえるこの現象だが、近年少し様子が変わってきた。上は「中途半端」として選ばれず、並か特上のどちらかが選ばれる傾向が強くなっていると感じるのだ。

このラインナップの「並と特上化」は、日用品など安価な商品カテゴリーに高付加価値品を投入するケース(並にプラス特上)と、車や宝飾品など高価な商品カテゴリーに廉価版を投入するケース(特上にプラス並)の二つに大きく分けられる。

並にプラス特上〜ハレとケの使い分け

「並」の商品カテゴリーで、「特上」の付加価値と値段をつけて販売数を伸ばしている商品がある。まず、兵庫県にあるパン屋さん、レトワブールの「高級XO食パン」。お値段なんと1斤6500円。食材にこだわり抜き、さらに美容にいいとしてクレオパトラや楊貴妃も愛用したといわれる真珠粉を3グラム配合。セレブな女性の心をくすぐっている。

また、高知県の望月製紙が販売する3個5000円のトイレットペーパー「羽美翔(はねびしょう)」も驚きだ。シルクのような柔らかさで、どこでカットしても上品かつお洒落に見えるようデザインされた優雅なイラストをプリント。1ロール1ロールに、皇室献上品であることがわかるシールが貼られ、京都の和紙職人が手作業で作ったストックボックスに収められている。

こうした「並にプラス特上」の事例と関連性が強いのが、SNSの普及だ。SNSにアップして自分を飾る「ハレ」の状態と、アップしない気を抜いた「ケ」の状態の使い分けが進んだいまの時代。人々は「ハレ」のときに使うネタを常に探している。そんななか、超高級食パンも超高級トイレットペーパーも、話題性が高く非常にSNS映えするネタである。また、超高級とはいっても手が届く範囲の価格であり、反感を買いにくいのもいい。

こうした「ハレの日」需要で、特上商品をまず買ってもらう。そして商品の魅力に目覚めさせ、「ケの日」にも同ブランドの並の商品を選ばせる。この戦略は、競争の厳しい安価な商品カテゴリーでブランドに特色をもたせて顧客を囲い込めるうえ、特上で覚えたスペシャル体験から、並の商品も他ブランドより高めの価格設定でも売れるというメリットもある。

逆に、高級車や宝飾品など「特上」商品を取り扱うブランドで、「並」の品質・価格設定の商品を投入するケースもある。高級車の代名詞、メルセデス・ベンツのコンパクトクラスは、かわいらしさ、使いやすさを前面に押し出し、シティ・タウンユースに適したスタイルで販売台数を伸ばしているという。

ジュエリーブランドが提供する「DIYジュエリー」もその好例。「ケイウノ」には、カップルが職人のアドバイスを受けながらジュエリーを作るプログラムがある。自分たちで作るため職人の工賃を省くことができ、かつ材料をカスタマイズすることでコストも抑えられるため、安価にジュエリーが手に入ると好評だ。

こうした「特上にプラス並」の事例の背景には少子高齢化がある。若者の需要の取り合いになっているいま、特上ブランドとしては早い段階から将来の顧客を囲い込みたい。そのために、本来ターゲット外の若い顧客向けにエントリーモデルを販売。消費者をその瞬間の属性で切り分け、ターゲット外と切り捨てず、成長する将来の顧客として長い目でマーケティングする、という近年の流れに沿った戦略だ。

さらに、特上商品は高額だからこそ顧客との絆が弱くなりがちだが、並商品は日常を常に共にすることで愛着がわいたりと、ストーリーが生まれることも見逃せない。こうしてロイヤルカスタマー化を促し、顧客に購買力がついたころに特上商品へとステップアップしてもらえばよいのだ。

中途半端を切り捨ててシンプルなラインナップで勝負するほうが、消費者に受け入れられやすいのは、情報が氾濫する時代だからこそ。作り手がフルラインナップでユーザーを迎えずとも、ユーザーは自ら情報を集め、意思決定ができる。作り手にとってもそれが利益となることは、これまで見てきたとおりだ。

無難に上を注文することを前提につくられたメニューだな、と思いながらも上を注文するよりも、作り手のプライドを持った商品の二者択一を迫られるほうが絶対に楽しい。格差拡大が問題視され、一億総中流時代もいまは昔だが、思想・嗜好の総中流化はつまらない。「とりあえず真ん中」が選べない世界は、思考停止が許されず厳しくはあるが、自律的な消費者を育て、多様なモノサシの存在を認めるという意味で、いまっぽいのかもしれない。

連載:電通Bチームの「NEW CONCEPT採集」
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春原千恵◎電通Bチーム&ビジネスD&A局所属。外資系金融2社を経て、現職。前職で培った知見を生かし、Bチーム「富裕層」担当。富裕層向けビジネス開発、ブランド育成に取り組む。

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