「will」がないビジネスパーソンの問題点|松嶋啓介 x 岡島悦子

6月14日(木)8時0分 Forbes JAPAN

年間200人の経営者のリーダーシップ開発を手がけ、”経営者のかかりつけ医”の異名を持つ岡島悦子氏と、フレンチの世界で早くから頭角を現し、フランス芸術文化勲章を授与された松嶋啓介氏。

旧知の仲の2人が、松嶋氏の新刊『「食」から考える発想のヒント』(実業之日本社)を肴に、俯瞰した視点から現在の日本のビジネス界の問題点について語り合った。何が悪くて、どうしたら良くなるか。そこには”ルーツ”に遡る独自の方法論があった。

松嶋:よく会うのに、こうして対談するのは初めてですね。何から話しましょうか? 

岡島:改めてイノベーションについて話したいと思っています。イノベーションは昨今、どの日本企業でも求められていますが、気をつけないと単なるプレゼンテーションに終わってしまう。

松嶋:岡島さんは大小さまざまな企業を面倒みていますよね。どれくらいあるんですか?

岡島:経営者でいうと200人くらいかな。時価総額3兆円くらいの大企業からベンチャーまで、規模はさまざまですね。

松嶋:小さい会社にはアイデアを活かしてほしいし、そのアイデアを伸ばしていくためにどう組織を作っていくか……岡島さんはそういう編集能力が高いですよね。そのための「場」と「間」の作り方もとてもうまい。「経営者のかかりつけ医」って言われているけど、実は目利きの、キュレーションの割合が多いのかな、と思いました。

岡島:たしかに、四半世紀ほどかけて、粒度高く3万人ぐらいを見てきたから、目利き力は相当鍛えられているとは思う。”数”だけでなく、”深さ”においても。各経営者の子供の頃まで遡って話を聞いて、自分が彼らに憑依するくらい細かく見ているから(笑)。

松嶋:人の”ルーツ”にまでたどり着いている。会話をしながらそこまでいくから、その人の発想を引き出せるんじゃないかな。

岡島:そうですね。”何かあったら原点に戻る”ってことをしないと本質がズレちゃうから。表面だけなぞると、見た目ばかりの話になる。だから経営者を見るときは「この人はなにで形成されているのか」って成分表を見るような感じで向き合うことにしています。
 
松嶋:その人の目線にまで入り込む作業をまずやるってことですね? 

岡島:そう、俯瞰しながらも完全に憑依する(笑)。これは、松嶋さんが食材や料理の原点に遡る発想法にすごく近いと思う。「この人の不安やコンプレックスはどこから来るのかな」って幼少期まで遡って興味を持っちゃう。人フェチなんだよね。だから天職だと思います。

今はグローバルでも、何か変化が出てきたときに”その時だけのアンサー”を渡してもダメっていう考えになって、コンサルタントが経営者に寄り添うスタイルに変わってきています。

変化に強い人は”アウェー”を知ってる

松嶋:編集能力が高いってことは料理する能力が高いってことなんだよね。例えば海外に行ってた時期に和食を作ろうとかした経験とかある?

岡島:ある! アメリカ留学時代、イタリア人の魚屋さんと仲良くなって、家で手巻き寿司やるときは全部おろしてもらっていた。

その頃の気づきはもう一つあって、アウェーに行ってこそ自分のことが分かるというか、無意識のバイアスを外すというか……「あ、手巻き寿司はトロじゃなくてロブスターでもいいんだ」みたいな(笑)。”当たり前と思っている枠を外す”機会があったのは、自分にとってチャンスだったかな。

あとは、父の実家が留学生受け入れボランティアをやっていたので、子供のころから外国人に囲まれるある意味アウェーな環境だった。だから変化適用型になったんだと思います。

松嶋:海外で和食を作りたいと思っても、すべての食材は手に入らない。そこでどうにかしようという発想が、日々の生活の中から身についたのかな。そういう”違う環境”を体験してない人たちは、切り替えがあまりうまくないなって思う。

岡島:今ビジネスの現場では”非連続のイノベーション”をしていかなくては生き残れないと言われるけど、新しいことをやるのはみんな怖いんですよね。

例えば、富士フィルムが化粧品や薬を作るって、フィルム事業をしていた人たちにとっては怖いわけじゃない。でも、今後フィルムの先細りが見えているうえでは、誰かが情熱を持ってやるしかない。

困っちゃうのは、優等生的な人は案外こういうチャレンジをできないこと。セミナーや講演会をしていて感じる今の若手の一番の問題は、スキルが高くてやるべきこともやっている、つまり「will」「can」「must」で言うとcanとmustはあるけれど、「will」がないこと。「何をやりたいかわからないから教えて欲しい」って言われたりしますが、私は占い師じゃない(笑)。

私はそこで、原体験に遡ることが大事だと思っています。例えば親に褒められたとか、そういう経験に基づくもの。それに発露しているような「will」でないと、辛いことを乗り越えられるほどの強さがない。

かわいそうなのは「こう言ったらカッコイイと思われる」というものを自分の「will」として言わなきゃいけないと思っている人。結局は承認欲求なんだよね。

自分で自分のことがわからない人たち

松嶋:田舎出身の友人と「自分たちが東京に出てきてやってこられているのは何故なのか?」って話していて、ふたりに共通していたのが子供の頃に秘密基地を作っていたことだった(笑)。ゼロから基地を作ったことのある人はモノを作る能力があると思う。



岡島:あー、作ってた。私は都会っ子だったけど。いまどきは”基地のキット”とか渡されちゃうけど、それじゃダメなんだよね。

松嶋:そう。自分たちで考えた「秘密の言葉は何?」みたいな経験をしていないと。

岡島:やっぱり、子供の頃に自分たちで作り出すことやその楽しみを経験しているかは大事なんだろうね。だから今は多くの企業に、「若手に機会を与えてください」って言っています。ゼロからやってみないと、何が好きなのかわからないから。

松嶋:最初から決め事をして仕事を与えてるのがダメだね、きっと。それじゃ情熱を傾けられるようにならない。趣味をビジネスにしたい、とか考えないのかな? 夢が何かを言わない人も多い。

岡島:夢については”言わない人”と”言えない人”がいて、どちらかといえば後者が問題。そういう人は、相手が求めているものに合わせていくマインドセットになってしまっていて、そのうち自分が本当に何を好きなのかわからなくなっちゃう。

松嶋:自分が好きなことで遊ぶってことをしていないのかな。遊ぶ余裕がないのもあると思うけど、余裕なんて自分で作るもので。僕は余裕がなくても遊んでる(笑)。

岡島:それは私も同じだけど、そうできるのは、「その方が結果として良い」って知ってるからじゃない? 煮詰まったら”場所を変える”とか、”時間を変える”とか。それが結果的に良かったね、ってなることが多いけど、そういう成功体験がない親に育てられると、「いつまでもサッカーなんてやってないで、いい加減勉強したら?」みたいになる。

松嶋:子供の時に「あなたには才能ないから」って親に言われたら悲しいよね。

岡島:イノベーションはだいたい「好き」や「遊び」から生まれてくるわけで、熱狂的に「これが楽しい」と思う人たちが作るものでしょ? それでいうとやっぱり遊びは大切だよね。私たちは普段から全然違う領域の人たちと遊ぶけど、そのとき”遠いもの同士の掛け算”の方が面白い。

松嶋:その先になんとなくヒントがあるんだよね。岡島さんは遊ぶ仲間づくりも上手。それが仕事の結果にもつながっていると思うけど。

イノベーターというよりリノベーター

岡島:単純に自分と違う人が好きなんだよね。"外付けハードディスク"みたいな。「この人凄い」って思ったら「友達になりたい!」って思う。そこで年齢とか属性は関係ないです。

そういう意味ではミーハーだと思うし、自分でコツコツ内省して勉強するより、知りたいことがあれば、それを一番知っている人に教えてもらいたいタイプ。そうして自分の世界観を広げる感じかな。ものごとの抽象度を上げていくと、違う領域の人たちとも共通項があって、一緒に歩める気がする。

松嶋:それもキュレーションですね。色々な人と色々とやってる方が解決策がいっぱい出てくるんですよね。僕は”食”という全ての人に関わる原点のところで、さまざまな分野の人の話を聞きながらそれをシャッフルしている感じです。

岡島:私の場合はそれが”ビジネス体験”で、これまで診て来たカルテ数がすごく多いんだよね。たくさん診てるから「この人とこの人の症状は同じだ」って気がつく。

松嶋:僕もまったく同じですね。

岡島:私たちはプロデューサー気質というか、キュレーター気質というか、色々な具象を見て、抽象度を上げてもう一回料理し直す、みたいなことをひたすらやっている。そういう意味では似ているんだと思う。私も経営チームを入れ替えてもう一回作り直す、みたいな仕事を結構しているし。しかも”生き物”を扱っているのも同じ。ほっとくと腐っちゃうからね。



松嶋:扱う対象は違うけど、発想的な部分は似ていていますよね。

岡島:あと、二人とも元来の職種的な区分の中でやっていないよね。異領域の架け橋的なことも多い。私は社員に、職業を訊かれたら、「”岡島悦子です”って答えて」って言っているくらい(笑)。組織開発コンサルタントとか言っても分かりづらいし、それにあてはまらない仕事も多くしてるから。そういう意味では新しい領域の仕事、働き方を切り開いていっている感じはある。

松嶋:イノベーターというよりも、リノベーター的ですよね。作り直すことも多い。

岡島:そうかも。私の存在は、企業のスタートアップの時期にはそんなに必要がない。企業が成長してきて、”中2病”とかにならないと私のバリューが出ないというか……。

松嶋:ゴッドマザーですね(笑)。帰ってくる場所。

岡島:男性経営者って、女性っぽい人が少ないんです。だから、合理的な説明はできるんだけど共感力が弱い。そして、周囲に弱さを見せられない。だから悩みや孤独を受け止められる人という点で、私がいい相談相手なんだと思う。帰ってくる場所っていう意味でも。

松嶋:今回の本でも書いているんですが、(芸能事務所の)アミューズの大里会長にお会いした際、社員や役者に対してすごく愛情があって、人を動かすのは結局”情”なんだと思いました。友情も愛情も人情もそうで、情けが人を動かすガソリンになっているって気づいた。そういう点では情けをかけていますよね?

岡島:かける。弱っているときほど相手に近づきますね。そうしてお腹を見せ合わないと相手も見せられないでしょ。例えば何か事件が起きて、周りの人が遠ざかったときにこそ、私は全然遠ざからないことにしてる。おそらく自分の目利き力に自信があるからだと思う。

松嶋:だから結果として、その会社が良くなった時に、「ここにも岡島悦子がいる。いい会社とばっかりやって。仕事を選んでいるな」ってマイナスイメージになっちゃうことがあるけど違うよね。

岡島:「イケメンばかり選んで……」とも言われるけど、それも違う。結果として彼らの顔つきが良くなってきただけだから。その発掘が楽しいんだろうね、自分では。でも松嶋さんも、怪我をしたサッカー選手とか支えてあげるじゃない? その選手が復活して活躍したりするけど、別にいやらしい気持ちでやるんじゃなくて結果だよね。

松嶋:うん。人がハッピーになるのを見るのが嬉しいからかな。自分が作った料理で人がハッピーになるのを見るのも好きだし。そうすることで、自分の健康状態の良くなることを自分でもわかってる。

薬漬けにするより、体幹を治す

岡島:セロトニン(別名、幸せホルモン)出てるよね。それは結局スタイルなのかな? 一方で、「自分はこうだ!」みたいなのが強い人もいるでしょ?

松嶋:僕は意外とそう思われている(笑)。暴力的なキャラだろうって。「どうだ、俺の料理美味しいだろう!」とか全く思ってないのに。

岡島:松嶋さんの料理は暴力的じゃないよね。暴力的な料理は、塩がキツくてメリハリは効いているけど、愛情を感じないというか、うま味が足りない感じというか。松嶋さんのは毎日食べられる。

松嶋:コンサルタントの世界でも、同じように暴力的なタイプと中長期続けられるタイプがあると思うけど、岡島さんは後者だね。切れないでしょ、人の縁が?
 
岡島:そう、切れない。離れてまた戻ってきたりもする。だからやっぱり”かかりつけ医”なんだよね。手術が必要なほど悪くなって初めて来るわけじゃないし、調子のいい時は来なくていいいし。 

松嶋:治療というより整体師みたいな感じかもね。軸を整えておくみたいな。 

岡島:やっぱり本質が大事なんだよね。例えば「こういう組織改革をやりましょう」みたいな提案をして、薬漬けにして、手術をしてお金をもらうこともできるけど、そんなことをしても本質は良くならない。絆創膏をたくさん貼るより、痛いかもしれないけれど、大事なのは”体幹を治す”ことなんじゃないかな。


岡島悦子◎プロノバ社長。年間200名の経営者のリーダーシップ開発を手がける。三菱商事、ハーバードMBA、マッキンゼー、グロービス・グループを経て、2007年プロノバ設立。株式会社丸井グループをはじめ、複数社の社外取締役。世界経済フォーラムから「Young Global Leaders 2007」に選出。近著は『40歳が社長になる日』。

松嶋啓介◎KEISUKE MATSUSHIMA オーナーシェフ。フランス芸術文化勲章、農事功労章シュバリエ。高校卒業後、辻調理師専門学校で学びながら、酒井一之シェフの"ヴァンセーヌ"に勤務。20歳で渡仏。各地のレストランで働き、2002年25歳でニースにKeis passionをオープン。外国人シェフ最年少の28歳でミシュランガイドの星を獲得。新著に『「食」から考える発想のヒント』。

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