成功する起業家が思いを馳せる「見えない世界」

6月15日(金)6時8分 JBpress

 前回の記事(「米国の大学がゴールとして掲げる最強の動機付けとは」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53194)で、いろいろな種類の動機付けの中で「イントリンシック・モチベーション」(Intrinsic Motivation:内在的な動機付け)が最上の動機付けであるということを書きました。イントリンシック・モチベーションとは、「やむにやまれぬ関心」「心の底からの興味」のことです。

 それでは、そうしたやむにやまれぬ興味・関心はどうやって出てくるものなのでしょうか?


ロジカルシンキングだけでは競合に勝てない

 結論を述べると、筆者は「見えない世界」に関心があるかどうか、が非常に重要だと思っています。

 企業の経営戦略は、ロジカルシンキングだけで論理的に客観的に導き出されるものではありません。もしも論理的に誰が見ても正しい戦略、細部まで詰めることのできる戦略があったら、ほかの競合他社がやっているはずです。結局、最後はみんながそれに飛びついて差別化ができなくなります。

 経営の世界では、実はロジカルシンキングで論理的に判断するだけでは判断を誤ります。日本企業の衰退パターンの一番典型的なものは、社内の多くの部門の大人数の合意を優先して陳腐な戦略をとり続け、業界横並びでジリ貧になるというものです。

 戦略というのは、大胆なものほど不確かな部分が増えて、人によって評価が異なってきます。しかし、そういう戦略でしか勝てないのが現実です。ラディカルな面白い戦略を意思決定するには、全員一致ではできません。

 これが起業となると、さらに不確定要素が増えます。どんなにいい着眼で、チームが良く、事前にリサーチを重ねてしっかりと計画を練り、成功確率をある程度上げることができても、結局のところは「やってみないと分からない」面が残ります。

 起業に際しては、自分のよく知っている領域からスタートし、よく知っている環境でビジネスをしようとする人がほとんどでしょう。

 しかし、私の知っている京都大学の元院生はイスラエルで起業し幅広く活動していますが、イスラエルで起業すると決断した時は、本を通してイスラエルに関心を持っていたものの、実際には行ったこともなかったそうです。

 起業では、創業者が「見えない世界」(ビジネスの将来の姿)についての強い興味や関心を持っていることがきわめて重要です。いくらイノベーションだ社内起業だと旗を振っても、見えない世界への興味・関心がないとどうにもならないのです。


創造的な人は見えない世界を大事にしている

 筆者は、創造力のある人は見えない世界への関心が高いと思っています。

 例えば麻雀は、将棋や碁に比べて「運」がかなりの比重を占めるゲームですが、そこには「デジタル派」と「オカルト派」がいます。

 デジタル派とは、データと確率論から、統計的にどのような役づくりが上がれる可能性が高いか、残りの牌の数や待ちの多さなどを定量的に比較衡量して、その場その場で最適な選択を行えば勝てると唱える人たちです。いわばロジカルシンキングの信奉者です。一方、オカルト派は、ツキを呼び込むための心構えとか、流れや勢いを察知しコントロールするセンスが重要だと説いています。

 私を含め凡人には流れや勢いなどは分かりませんので、理詰めで打つしかありません。理詰めで判断できないところ(実はこういう局面がほとんどです)はランダムに適当に牌を切って、結果として大負けする、というのが普通です。

 しかし伝説の雀鬼と言われる桜井章一さんや、最強位のタイトルを持つサイバーエージェントの藤田晋社長などは、見えない世界を重視しています。おそらくどの世界でも、創造的な仕事に従事している人は、見えない世界への興味・関心が大きいのではないかと、筆者は最近考えています。


自分の「MDQ」を探せ

 見えない世界への関心は、目的・目標の形ではなく、よく「問い」の形となって現れます。言い変えると、何か新しい取り組みをするときには、「問い」があることが大きな力となります。

 ここで言う「問い」とは、例えば「こういうことが可能だろうか?」「もしこうなったらスゴくない?」「このサービスがあればみんな喜ぶのでは?」「こういう人はたぶん今は少数派でも、どんどん増えるはずだよね?」といったものです。

 過去のデータについては統計的にロジカルに分析できますが、未来については想像するしかありません。ですので、見えない世界に対する問いかけが重要になるのです。「もしこれが実現したら、世の中はどうなるのだろう?」という興味・好奇心が、新しいことにチャレンジをする時の核心になります。

 観客を飽きさせない面白い映画には、「MDQ」(Major Dramatic Question)と言われる「問い」があると言われます。MDQとは、ストーリーを通底して最後まで観客の関心の核になる「問い」のことです。

 例えば犯罪モノならば「真犯人は誰なのか?」とか「人質は解放されるのか?」というものです。MDQがしっかりしている映画は、観客が興味・関心を最後まで持ち続けることができ、2時間をフルに楽しめます。

 多くの欲望が既に満たされている現代では、ハングリーな野望や目標を持っている人は少数派です。しかし、基本的な欲望が満たされている現代だからこそ、本当に興味のあることを追求できるチャンスです。何か新しい取り組みをするときは、「目標」ではなく、自分の「MDQ」(根元にある興味・関心)を自覚することのほうが有効かもしれません。

(*)著者の最新刊『新・君主論 AI時代のビジネスリーダーの条件』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)ではビジネスパーソンにとっての権力の正しい捉え方を詳しく解説しています。自分の取るべき道が、はっきり理解できるようになるはずです。ぜひご一読ください。

筆者:木谷 哲夫

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