原発「再稼働」問題の終わりの始まり

6月15日(金)6時0分 JBpress

フランス北部シェルブールで、日本向けのMOX燃料が積まれた貨物船(2017年7月4日撮影、資料写真)。(c)AFP/CHARLY TRIBALLEAU〔AFPBB News〕

 新潟県知事選挙で、自民・公明の推薦した花角英世氏が辛勝した。原子力規制委員会が昨年末に柏崎刈羽原発6・7号機の設置変更許可を出したあとも、米山前知事は新潟県独自の「検証委員会」をつくって時間稼ぎをしてきたが、これで再稼働への道筋がついた。

 花角知事も検証委員会を継承し、再稼働する場合には「職を賭して信を問う」と公約したので、事態がすぐ動くことはないだろうが、「再稼働反対」で選挙には勝てないという流れができたことは大きい。これで民主党政権から続いてきた異常事態が終わるかもしれない。


「プルトニウム削減」という難題

 世界に「脱原発」政策を掲げる国はあるが、運転中の原発をすべて止めたのは日本だけだ。規制委員会は規制基準への適合性を検査しているだけで、「再稼働の審査」をしているわけではない。まして県知事には、原発の運転を許可する権限は何もない。

 原子力の問題は、こんな幼稚な論争をしている状況ではない。7月16日に日米原子力協定の30年の期限が来るが、アメリカは日本にプルトニウムの削減を求めている。北朝鮮の「非核化」が論議されているとき、日本は約47トン、原爆6000発分のプルトニウムを保有しているからだ。

 プルトニウムは核兵器の材料になるので、非核保有国が保有することは禁止されている。日本は日米原子力協定で例外的に使用済み核燃料の再処理が認められているが、原子力協定の期限が切れた後は、日米どちらかが通告すると協定は失効する。

 今のところアメリカは自動延長を認める見通しだが、核拡散を警戒する声は議会にも強い。平和利用の中心だった核燃料サイクルは、その要だった高速増殖炉「もんじゅ」が廃炉になり、行き詰まってしまった。

 このため今は再処理工場でMOX燃料(ウランとプルトニウムの混合燃料)をつくって燃やす「プルサーマル」でプルトニウムを消費しているが、いま日本で稼働しているプルサーマルの原発は3基しかなく、このままではプルトニウムは増えてしまう。

 プルトニウムのうち37トンは海外にあるので、原子力委員会は再稼働が遅れている電力会社が海外に保有する分を、再稼働済みの原発を持つ他社へ譲渡させるなどして消費を促す方針だ。


民主党政権のかけた呪い

 原子力の問題が政治的に利用されるのは、それが核兵器から始まったためだ。その基本的な技術開発は原爆の開発で進められ、その後も原子炉は原子力潜水艦が長距離航行する動力として使われた。このとき軽水炉が早く実用化したが、それは将来の主流とは考えられていなかった。

 日本の原子力開発は1950年代に始まったときから、核燃料サイクルを前提にして進められてきた。軽水炉は核燃料を1回使うだけで捨ててしまうが、それを再処理して有効利用できる高速炉が将来の主流と考えられていたからだ。

 しかしソ連だけでなく中国やインドが核実験に成功すると、アメリカは核拡散を警戒するようになった。1977年にはカーター大統領が核燃料サイクルの中止を表明し、世界の原子力政策は大混乱になった。

 日本はこれに対して核燃料サイクルを続ける方針を決め、10年越しの交渉の末、アメリカは1988年に日米原子力協定で「包括的事前同意」を認めた。これは日本の再処理を一括して承認する協定で、世界でも他にない。

 日本の原子力開発は「国策民営」と呼ばれ、国が計画を立てて電力会社が投資する方式でやってきた。それは2000年代まで、どちらにとっても好都合だった。国は財源なしでエネルギー開発を進められ、電力会社は「政府保証」で原発に投資できた。核燃料サイクルは先送りしていてもよかった。原発は儲かったからだ。

 こういう状況は、3・11で一変した。特に2011年5月に、菅直人首相が中部電力の浜岡原発の運転中止を求めたことが決定的だった。これは法的根拠のない「要請」だったが、中部電力は運転を中止し、他の原発も定期検査のあと再稼働できなくなった。

 民主党政権のつくった原子力規制委員会も「田中私案」と呼ばれるメモで、再稼働を認めない方針を決めた。この民主党政権の方針は既存の法体系にまったく対応していなかったため、原発は「無法状態」になった。


もう原発の政治利用はやめよう

 民主党政権の無軌道な政策が、核燃料サイクルの問題を混迷させた。2012年9月に野田内閣が「2030年代に原発ゼロ」という「革新的エネルギー・環境戦略」を閣議決定しようとしたとき、アメリカ政府が「日米原子力協定はどうするのか」と抗議し、閣議決定できなかった。

 当時の閣僚経験者によると、「最初は何のことか分からなかった」という。原発ゼロにすると、MOX燃料でプルトニウムを消費することもできなくなるので原子力協定は守れない。そういう問題の存在も知らない民主党政権が行き当たりばったりに原発を止め、原子力政策は破綻してしまった。

 本来は2012年12月に政権交代したとき、安倍首相が民主党政権の違法行為をリセットすべきだったが、彼はエネルギー問題を避けてきた。それは政治的には賢明だったのかもしれないが、民主党政権が間違って入れたスイッチは元に戻らなくなった。

 今回の新潟県知事選は、このスイッチを元に戻す第一歩だが、道のりは遠い。民主党政権で法的根拠のない行政指導が続けられ、原子力行政が大きく歪んでしまったからだ。今の状態を続けると、日米原子力協定も「2030年に温室効果ガス排出量26%削減」というパリ協定の約束も守れない。

 民主党政権のおかげで、原発は民間の投資プロジェクトとしては成り立たなくなった。電力会社が莫大な政治的リスクを負う状況では、経営者は原子力より安い石炭火力を選ぶだろう。使用済み核燃料も再処理するより、ゴミとして直接処分したほうがはるかに安い。

 原発の再稼働と新設は、切り離して考える必要がある。既存の原発を運転するコストは他の電源よりはるかに安いので、規制基準をクリアした原発は再稼働するのが当然だが、新規建設は経営的には無理だ。

 それが安全保障や環境保護のために必要なら、国が責任を持つしかない。電力会社の原子力部門を(再処理工場も含めて)統合して国が出資し、実質的な責任を負う道も考えられる。もう原発を政治的に利用するのはやめ、どうすれば国民負担を最小化できるのか考える必要がある。

筆者:池田 信夫

JBpress

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