「老後2000万円問題」で今やるべき5つのこと

6月15日(土)6時14分 JBpress

 以前『「資産寿命」を安心して伸ばすためには』で取り上げた「高齢社会における資産形成・管理」報告書(案)が正式に公表され、いわゆる「老後2000万円問題」となって大きな騒ぎになっています。

 ことの発端は、大手メディアが本報告書の内容を「平均寿命まで暮らすには公的年金だけでは2000万円不足する。これは年金政策の失敗であり、自助努力で賄えというのはいかがなものか」という論旨で扱い、大きな反響を呼んだことでした。

 それを受けて、政府与党は報告書の受け取りを拒否するし、野党は「民主主義の危機」とまで言い出す事態に。すっかり政争の具となった感があります。政治家の発言や行動はまずはさておき、本気で老後資金の準備を考えている人はどう考え、どのような行動をとるのがよいのかを考えてみましょう。


「2000万円不足」はあくまで参考の一例

 金融庁の金融審議会がまとめた報告書はこちらです。
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf
そのほか、2つの資料がついています。
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/02.pdf
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/03.pdf

 報告書では、定年退職後に必要とされる金融資産の推計が示されており、夫が65歳以上、妻が60歳以上の無職世帯が年金に頼って暮らす場合に、毎月約5万円の赤字が出ると試算。この後、30年間生きるには約2000万円が不足するとしています。

 確かにそう書かれていますが、これはあくまで平均値を参考として取り上げた一例です。公的年金の不安はずっと以前から、数字をもとに論理的に指摘されており、個人投資家のあいだでも「より充実した老後をより安心に暮らすためには公的年金だけでは難しい。だから個人での資産づくりが必要」という認識が広がっていました。


提言の本質的な内容はごく一般的

 報告書をまとめたワーキング・グループの有識者とは、各省庁の担当者や運用会社を含む金融機関、学者やFP(ファイナンシャル・プランナー)など。個人を相手にしたFPが含まれているのがポイントで、彼ら・彼女らが示したのは「公的年金だけに頼った老後生活は難しいので、退職金を含めた長期の資産形成による備えが必要だ」ということです。

 今回の件は、国の諮問機関が公的年金の現状を数字を例に明言したことで不安が顕在化し、メディアの取り上げ方によって火に油を注いだ格好です。年金政策への強い不信感が根底にあるのも事実でしょう。しかしながら、提言の内容は資産運用の世界ではごく一般的な内容といえます。

 ただ、今やろうとしていた仕事を上司から「あれ早くやって」と催促されるような、癪な気分になるのは確か。公表後の対応も悪手の連続で腹が立ちます。ここはぜひとも冷静になって、今やるべきことに集中しましょう。5点を以下にまとめました。


(1)自分で、本報告書をオリジナルで読む

 まずは、本報告書(金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」令和元年6月3日)を自分で読むことをお勧めします。しかも抜粋ではなくオリジナルで。A4判で51ページになりますが、たいした量ではありません。表やグラフなどもあり、会社などでよく目にするビジネスレポート程度です。

 話題になっている「老後2000万円」については、16ページと21ページあたりに言及されています。その前後をしっかり読みましょう。特に21ページには以下のような記載があります。

「この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。(中略)重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである。」


(2)「付属文書1」と「2」だけでも必ず読む

 報告書全体はちょっと・・・という場合は、報告書の最後にある「付属文書1」と「付属文書2」だけでもぜひ読んでください。付属文書1は「高齢社会における資産の形成・管理での心構え」として、個人投資家向けの提言が7ページにわたって展開されています。本報告書の本来の趣旨はここにあると、筆者は考えています。

 付属文書2は「高齢社会における金融サービスのあり方」として、金融機関に対する提言となっています。老後資金の準備は個人の自助努力だけでなく、受け入れ側である金融機関のあり方や姿勢も問われることを示しています。個人投資家にとっては金融機関選びの指針として参考になると思います。


(3)「ねんきん定期便」を確認して老後収支を棚卸し

 毎年の誕生月に届く「ねんきん定期便」。それに「老齢年金の見込額」が年額として記載されています。実際にもらえる年金額とは違うことが多いのですが、ひとつの目安にはなります。その金額を12で割って、月額を計算してみましょう。何度もやったことがあるかもしれませんが、この機会に改めて。

 思ったより少ないですか? 多いですか? そのくらいの金額ならそこそこ暮らしていけそうですか? 住居費や食費、光熱費、医療費、通信費、遊興費などなど。「最低ライン」「そこそこライン」「贅沢ライン」の3通りの支出を想定して、収支の棚卸しをしてみます。夫婦や家族で一緒に考えると、より現実的な試算ができるでしょう。


(4)収入を増やす・維持する手立てを考える

「そこそこラインでは厳しい、最低ラインでギリギリ」「最低ラインでもとても無理」という人は、今から収入を増やす、もしくは老後も収入を維持する手立てを考える必要があります。転職や副業も検討したいですね。退職後も長く働くために、手に職をつける準備を始めてもよいかもしれません。

 老後資金の準備は仕事が主、投資が従です。現役世代が働きながら収入を得る一方で資産づくりに取り組むことができるのが、投資のメリットのひとつ。ここでは、つみたてNISA(少額投資非課税制度)とiDeCo(個人型確定拠出年金)を最大限に活用することが基本になります。


(5)すべての準備を整えたうえで抗議の声をあげる

 報告書を最後まで読んで、老後資金の棚卸し試算をやって、収入拡大・維持の方向性も決める、つみたてNISAやiDeCoでの資産運用も始めた(続けている)——そうしたら国や政府への抗議の声をあげましょう。デモに参加してもいいし、SNSで活発な書き込みをしてもいい。

 老後資金は人生を最後まで楽しむためのものです。多くの人は資産運用そのものが目的ではないので、投資にあたっては合理性を追求することが成功の可能性を高めます。具体的には収入の拡大・維持に努めながら、「長期」「分散」「低コスト」を徹底した資産運用です。金融機関は豊かで充実した生活を送るための道具ととらえ、低コスト志向の“儲からない客”になってトコトン利用しましょう。

 最も非合理な行動は、国や政府への非難・抗議の声をあげて何もしないこと。かの報告書が撤回されようが政権が変わろうが、老後は時々刻々と近づき、世界の投資市場は24時間いつも動いています。人は感情で動く生き物ですが、こと現在の資産運用に関してはいつも以上に冷静かつ合理的に行動することを心がけたいですね。

筆者:小島 淳

JBpress

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