藤川球児の「説得力満点」野球解説、菅首相は見習っては?

6月15日(火)6時0分 JBpress

(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)


G7サミットで「力強い支持」など得ていない

 菅義偉首相は、G7サミット(先進7カ国首脳会議)が閉会した6月13日、記者会見で「各国首脳から東京オリンピック・パラリンピックの開催に、力強い支持を得た」と語った。だが本当にそうだろうか。

 G7の声明は、「新型コロナウイルスに打ち勝つ世界の結束の証しとして、今年の夏に安全・安心な形で、開催するという日本の決意を支持する」と述べているに過ぎない。支持されているのは、「安全・安心」に開催しようという「日本の決意」なのだ。アメリカのバイデン大統領も、「あらゆる公衆衛生上の対策をした上で進めていくことを支持する」と述べているだけである。「力強い支持」をしたのは、3年後にパリ五輪が決まっているフランスのマクロン大統領くらいのものだった。

 片方でG7サミットでは、発展途上国への10億回分のワクチン提供を決めた。世界中でパンデミックは終わっていないというのがG7の認識ということだ。このパンデミック下でオリンピック・パラリンピックを開催するというのは、どう考えてもあり得ない。


気味の悪い展開になってきた

 半月ほど前までは、五輪の開催か中止かということが焦点になっていた。どの世論調査でも中止・再延期が圧倒的に多かった。それが、開幕日が近づくにつれて、微妙に変化してきている。

 何よりも不気味なのはIOC(国際オリンピック委員会)という存在だ。バッハ会長は、「犠牲を伴ってもやる」という。コーツ調整委員長は、「菅首相が反対しても中止にはならない。緊急事態宣言下でもやる」と明言した。まるで日本を植民地扱いだ。この暴言に日本の指導者なら、大反論すべきである。ところが菅首相は、「私は主催者ではない」と逃げ口上を述べるのだから、もはや救いようがない。

 IOCはそれほど偉いのか。アメリカの新聞がバッハ会長のことを「ぼったくり男爵」と痛烈に批判したが、要するに金儲けの利権組織がIOCということだ。作家の星野智幸氏が朝日新聞6月12日付で「強権IOCと五輪」という一文を書いている。その中で次のような指摘がなされている。

〈日本はIOC帝国の植民地か、という批判があったが、その表現はもはや比喩ではない。IOCによる「不平等条約」のために住民たちが拒否できないという状況は、支配者が自分たちの利益のために植民地を踏みにじってきた歴史を繰り返している。世界中で治外法権を持つかのようにふるまうIOC幹部たちは、まるでSF映画の宇宙からの侵略者のようだ〉

 まさしく指摘の通りであろう。

 G7の生命でも「世界の結束の証」ということが言われ、日本も丸川珠代五輪相が東京五輪の開催意義について「コロナ禍で分断された人々の間に絆を取り戻す」などと語った。この点でも先に引用した星野氏は、「主催側は『コロナで分断された世界を一つにする』と説明するが、嫌だという住民を無視して開催するという決定ほど、世界を分断する行為はない」と断罪している。


菅首相よ、藤川球児さんの野球解説に学びなさい

 話は少し飛ぶ。阪神タイガースの投手だった藤川球児さんの野球解説が評判になっていることをご存知だろうか。故野村克也さんのようにキャッチャーだった人は野球を分析的に語ることができるが、ピッチャーは“お山の大将”的な人が多く、きめ細かな解説はできないというのが、野球の世界ではほぼ常識だった。

 6月6日の日曜日に巨人と日本ハムの試合があり、NHKのBSで中継された。解説者は、藤川さんと元巨人のエースで大リーグのレッドソックスでは抑えのエースとして活躍し、ワールドシリーズでも優勝投手になった上原浩治さんだった。年齢も実績も上原さんが藤川さんを上回っていたが、解説の中身は断然藤川さんが上だった。実は、以前にも藤川さんの野球解説を聞きながら、あまりにも説得力があることに驚いたことがある。

 この日もそうだった。巨人はエースの菅野智之が故障から復帰した試合だった。NHKの夜のスポーツニュースでドキュメント風に2人の解説の模様を放映していたが、藤川さんは放送席に来るなり、「今日、先発は菅野でしょう。心配ですね。王(台湾出身の野手)にホームランを打たれそうな気がします」と言うのだ。ズバリ的中だった。菅野は2回表に王にホームランを打たれ、負け投手になった。

 藤川さんは、解説のために詳細なデータとメモを作ってきていたのだ。上原さんにはそういったデータはなし。基本的に経験と勘による解説なのだ。何回だったか、巨人の亀井選手が三振をした場面でも、「ここで落ちるボールを投げれば三振でしょうね」と言うと、これもその通り。インコースの落ちるボールに手を出して、亀井は三振した。藤川さんのあまりにも的確な指摘に、上原さんも「もう野球解説は球児にまかせる」と言ったほどだ。

 菅首相は東京五輪にまっしぐらだが、藤川さんのような説得力がまったくない。政府分科会の尾身茂会長は、「今の状況で(五輪を)やるというのは、普通はないわけですよね、やるということであれば、オーガナイザー(主催者)の責任として、開催の規模をできるだけ小さくして、管理の態勢をできるだけ強化するというのは、私はオリンピックを主催する人の義務だと思う」「そもそも、今回のオリンピック、こういう状況のなかで、一体何のためにやるのか。目的ですよね。そういうことが、ちょっと明らかになってないので。このことを私はしっかりと明言することが、実は人々の協力を得られるかどうかという、非常に重要な観点だと思う」と語っている。

 この提起は、「平和の祭典」とか、「安心安全」などという抽象的な言葉で済まされることではない。「平和の祭典」というなら、人権弾圧の激しい中国やベラルーシ、ロシア、ミャンマーなどの参加を拒否すべきだ。あるシェフが「私には『塩胡椒』という熟語はありません。『塩』、『胡椒』です」と言っていた。「安心安全」などという熟語もない。安心するかどうかは、人それぞれの主観だ。


パブリックビューイングなど、もってのほか

 オリンピック・パラリンピックは、夏休みやお盆の時期とも重なる。東京などの緊急事態宣言もおそらく20日で終了するだろう。何が何でも東京五輪はやるというのが菅首相だ。だったら、なぜパンデミック下で強行するのか、その理由を語る責任がある。「安心安全」などという無意味な言葉を並べ立てている場合ではない。

 世界でのパンデミックは終わっていない。どうやって日本に持ち込まれることを防ぐのか。菅政権の水際対策は、佐藤正久自民党外交部会長でさえ、「水漏れでなく、水道管が破裂して水浸し」の状態と表現するほどお粗末なものだった。これをどう完璧なものにするのか。PCR検査をどう飛躍的に増やしていくのか。

 ワクチン接種に力を注ぐのは良い。だが高齢者ですら7月いっぱいはかかる。私は1回目が6月23日なので7月中旬頃には終わる予定だ。だが私が住んでいる川越市は、まだ70歳以上だけである。65歳以上の人はまだ予約ができない。オリンピックが始まってから打つことになる。その他の人はもっと後だ。

 東京都の小池百合子知事にも言いたい。いまだにパブリックビューイングの全面的な中止を決めないのはどうしたことか。ステイホームを何度も叫び、「東京に来ないでくれ」とまで言ってきたのが小池知事だ。ラグビーワールドカップの際のパブリックビューイングを思い出してほしい。大勢の人が酒を飲み、大騒ぎをして歓声をあげるためにやるものだ。黙ってマスクをしてのパブリックビューイングなど無意味である。今こそステイホームを言うべき時だろう。

筆者:筆坂 秀世

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