TOPIX連動の投資信託で"損した人"の誤解

6月15日(金)9時15分 プレジデント社

写真=iStock.com/bee32

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相場は上昇と下落を行ったり来たりします。上昇局面であれば、日経平均や東証株価指数(TOPIX)に連動する「ベンチマーク運用」の投資信託でも成果が出ます。しかし下落局面の場合、そうした投資信託では必ず損が出ます。損が出るとわかっていても、株式を持ち続けなければいけないというルールがあるからです。ファイナンシャルアドバイザーの福田猛さんは「ベンチマーク運用とフル投資ルールについて理解する必要がある」といいます——。

※本稿は、福田猛『投資信託 失敗の教訓』(プレジデント社)の一部を加筆・再編集したものです。


■信じて託すと損をする「フル投資型」


毎日仕事も家事も忙しい中村裕子さん・47歳(仮名)は、大学進学を控えた子どもの教育費や老後資金のために資産運用を前向きに考えていました。しかし、資産運用といっても定期預金から株式、FX、不動産など多種多様な方法があります。中村さんは、「どれがいいのかわからない」と思って踏み切れずにいました。




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そんなとき、友人から「投資信託はプロの担当者に運用を任せられる。銘柄選びや管理は自分ではできないけれど、プロが代わりにしてくれるから安心」と聞き、2015年6月、ネット証券を通じて人気ランキング上位の「日本株式で運用する投資信託」を購入しました。


ところが、1年後の2016年6月、運用成績は約マイナス20%だったのです。「投資信託はプロが運用しているのに、なぜ損をするのだろう?」。そんな疑問を持った中村さんは、弊社のセミナーに参加されました。


中村さんと同じ疑問を持ったことのある投資家は多いのではないでしょうか。日本株で運用をする投資信託なら、日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)が大きく下落すると、同じくらい下落する投資信託がほとんどです。「相場が悪くてもプロが運用するなら、(プラスは無理かもしれないけれど)大きなマイナスにはならないのではないか?」と期待して投資信託を購入したのに、結果は“相場が悪ければプロがやっても損する”と知った中村さんは、ガッカリしてしまいました。


実はここに、投資家が運用会社に求めていること(投資元本を増やしてほしい)と、運用会社の考え方にズレがあります。そのことを理解せずに運用会社に「信じて託す」と、その先に失敗が待っています。


投資信託は、商品ごとに運用ルールが決められています。そして運用ルールは自由に決められるわけではありません。たとえば投資信託協会が定めるガイドラインのひとつには、「投資信託の信託財産の総額の2分の1を超える額を有価証券に対する投資として運用することとする」という文言があります。


わかりやすく言えば、こうなります。仮に日本株に投資する投資信託であれば、資産の50%以上を常に日本株で運用しなければならないのです。


逆に考えれば50%までであれば、投資家から託されている資産を現金で持っていてもいいということになります。相場が悪いときに資産の100%を日本株に投資していれば、大きく目減りしてしまいます。そのようなときには、50%までを現金化して様子を見る(投資家から預かった資産を守る)ことができるのです。



■価格が下がっても“優秀”と言われるベンチマーク運用


相場が図1のAのように動いた場合で考えてみましょう。もしあなたがファンドマネージャーとして運用を担当していたら、投資家から託されているお金をどのように運用しますか。相場がAのように下がる場合、資産の50%を運用せずに現金化しておいたほうが損失を回避できます(図中の1)。100%を運用していた場合と比較すれば、損失を半分に抑えることができるのです。



現金を持っていると、もう1つメリットがあります。それは、相場が下がり切って上昇に転じるときに、持っている現金を利用して株価が安いときに株式を買うことができる点です(図中の2)。相場が再び下がる局面になれば、再び50%を売却することで下げ幅をまた半分でとどめることができます。結果的に投資信託の価格はBのような動きになります。


しかし、実際の投資信託を見ると、Aと同じような値動きをしてしまうのがほとんどです。相場が下がると、それに合わせて投資信託の価格も下がってしまうのです。


その裏には「フル投資ルール」があります。前述のように投資信託協会のガイドラインでは資産の50%までを現金化できることになっていますが、ほとんどの投資信託は投資家から託されている資金のほぼ100%を投資すると社内規定で決めているのです。


一見、投資家のメリットにならないフル投資のルールを社内規定でわざわざ設けているのか? フル投資型投資信託は投資家から100万円託されたら100万円以上に増やすことを目指すのではなく、投資対象の市場平均(ベンチマーク)を上回ることを目指しているからです。


ベンチマークとは、日本語で「基準」あるいは「指標」を意味する言葉です。日本株に投資する投資信託の場合、TOPIX(東証株価指数)などをベンチマークに設定します。ファンドマネージャーはTOPIXの値動きを指標として、それを上回ることを目指して運用するのです。


TOPIXは100%株式で構成されていますから、TOPIXをベンチマークにする投資信託もフル投資型になります。TOPIXを上回る運用を目指すと言われれば、利益が得られるような気がするかもしれません。しかし、そうとは限りません。


TOPIXが30%下がったときに投資信託が27%下がったとしたら、その投資信託は成績が“優秀”ということになります。フル投資型の場合、相場が下がれば投資信託の価格も下がってしまいますが、下がり方がベンチマークよりも少しマシであれば、その成績は“優秀”になるのです。


つまり、相場が下がりそうなときには、投資信託を売却して自分で現金化しなければ、資産を守ることはできない、ということです。


多くの個人投資家は、投資信託を「プロのファンドマネージャーが運用してくれる」と考えて、一括投資で単独の商品を購入しているのではないでしょうか。しかし、フル投資型投資信託は相場が下がるときに市場と同じように下がるため、自分で買うタイミング、売るタイミングを考えないといけなくなることを念頭に置く必要があるわけです。



■運用会社と投資信託購入者に生じるすれ違いとは?


「フルインベストメント(フル投資型)」をさらに詳しくご説明します。その意味するところは、ファンドの資産(資金)をフル(full)に投資する。つまり、できるだけ現金を持たずに、ファンド資産の100%近くまで株式などを組み入れるという基本姿勢のことです。




福田猛『投資信託 失敗の教訓』(プレジデント社)

この基本姿勢によって、株式組み入れ比率は常時9割以上を維持しているケースがほとんどです。この比率は株式市況に関係なく、常に高い比率を維持しています。


そのため、多くの個人投資家の方たちは、「運用を担当するファンドマネージャーが株式市場の下落を想定する場合、なぜ株式投資比率を下げてくれないのだろうか?」と、運用会社に疑問を持つでしょう。その疑問に対する答えは、「投資信託購入者は投じた資金を増やしてほしいと望んでいるのに対して、運用会社はベンチマークを上回る運用を目指しているから」です。


多くの株式投資信託の場合、何らかのベンチマーク(日経平均株価・東証株価指数等)が設定されるのが普通です。「当ファンドは日経平均株価を上回る投資成果を目指します」などと書かれていた場合、ベンチマークは日経平均株価指数となります。運用会社はこのベンチマークを上回る運用を目指すのであり(相対的な上昇)、絶対値での資金の増加を目指すわけではありません。このため、運用会社と投資信託購入者に大きなすれ違いが生じるのです。


運用会社から見ますと、株式投資信託の購入者は「株式への投資」をすでに決めており、運用会社へ託したのは「ベンチマークを上回る成果を出すこと」になります。裏返せば、購入者は株式投資にかかるリスク(つまり市場下落リスク)も同時に負ったことになります。


そのため、運用会社はベンチマークを上回ればよく、ベンチマークが日経平均株価なら、日経平均がマイナス35%下落し、運用ファンドがマイナス20%の下落で済めば、差し引き「プラス15%勝った」ことになります。これがベンチマーク運用です。


運用会社がファンド内の株式比率を大胆に動かさないのは、株式自体への投資を決めたのはあくまで購入者であり、その意思通りに行動しなければならないと考えているからです。現金比率を運用会社が勝手に変えた場合(株式ウエートを下げる場合)、購入者の意思に反した行動を取ってしまうことになります。投資信託購入者は、この前提をよく理解する必要があります。


投資信託に疑問を持っていた中村さんは、「投資家は元本を増やしてほしいのに、『運用結果がマイナスでもベンチマークには勝っていますよ、良かったですね』では納得ができない」ということで、フル投資型投資信託を売却しました。その代わりに、相場環境にかかわらず、プラスの運用成果を目指す絶対収益型投資信託に投資対象を切り替えました。


「私にはベンチマークに勝つとか負けるとかは関係ないのよ」という中村さんには、フル投資型投信は向いていないということです。フル投資ルールとベンチマーク運用について理解できていないがために、「投資信託を買って損をした」という人がたくさんいます。購入する前に、正しい理解をしていただくことが求められます。


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福田 猛(ふくだ・たけし)

ファイナンシャルスタンダード代表取締役

大手証券会社を経て、2012年に金融機関から独立した立場で資産運用のアドバイスを行うIFA 法人ファイナンシャルスタンダード株式会社を設立。資産形成・資産運用アドバイザーとして活躍中。2015年楽天証券IFAサミットにて独立系アドバイザーとして総合1位を受賞。著書に『金融機関が教えてくれない 本当に買うべき投資信託』(幻冬舎)がある。

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(ファイナンシャルスタンダード株式会社 代表取締役 福田 猛)

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