冷めている部下はこうやって増えていく

6月16日(金)6時10分 JBpress

This picture taken on May 29, 2017 shows statues standing semi-submerged in mud, a symbol of the human toll of the 2006 disaster, at the mud volcano incident area in Sidoarjo, East Java./AFP PHOTO/JUNI KRISWANTO

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 私は公認会計士であるとともに、企業の経営を心理的側面から分析して経営改善を行う経営心理士として、経営コンサルティングを行っている。

 以前、15人ほどの従業員を抱えるIT系企業の社長がこんな悩みを話された。

 「人が増えて会社の規模が大きくなるにつれ、自分と部下の距離が遠くなり、冷めている部下が増えてきました。自分は孤独でオフィスがアウェーに感じます。出社するのがつらいんです」

 このような悩みを告白される経営者は少なくない。経営者のみならず、多くの部下を抱える上司であれば同じような悩みを抱える方もいらっしゃるかもしれない。

 こういった状況に陥っている場合、各メンバーとのコミュニケーションが不足していないかを考える必要がある。


ロバート・ザイアンスの提唱した単純接触効果

 米国の心理学者であるロバート・ザイアンスは、人間は接触回数が多いほど相手に好意を持つようになるという単純接触効果を提唱した。

 例えば、あまり好意を持っていなかったタレントでも、テレビのCMやドラマで繰り返し見るうちに次第に好意を持つようになったという経験はあるのではないだろうか。このように繰り返し何らかの形で接触する機会を持つことで、相手との距離は近くなる可能性は高くなる。

 もちろん空気を読まずに多くの接触の機会を持つことは逆効果になることもある。その点は十分な配慮が必要である。

 加えて、ザイアンスは、人間は知らない人に攻撃的、冷淡な対応をするという点、そして人間は相手の人間的な側面を知った時により強く好意を持つようになるという点についても言及している。

 これらの内容は「ザイアンスの法則」として紹介されることが多い。

 また、類似性の法則という心理学の法則がある。これは自分と共通点、類似点が多い人間に人は親近感や好感を覚えるという法則である。

 初対面同士でも、出身が同じ都道府県だったり、同じ趣味を持っていたり、共通の友人がいたりすると、親近感を覚え、会話に花が咲くことは多々ある。類は友を呼ぶと言うが、仲の良い友人は同じ考え方や価値観を持った者が多い。

 この法則は共通の敵や共通の目標を持った相手に対しても当てはまる。それほど仲良くなかった者同士でも、スポーツなどで同じチームメイトとして相手チームと戦ったりすると急に距離が縮まることはよくある。

 仲の悪い者同士がなりゆきでタッグを組み、同じ敵と戦う中で友情を育んでいくという映画のストーリーはよく目にする。相手と共通の目標を持ち、同じ方向を向くことで、相手に親近感や好感を覚えるようになり、そして、その相手は共通の目標に向かって共に闘う「仲間」となる。


部下との温度差が広がる手がかり

 このザイアンスの法則と類似性の法則を日常の職場にあてはめて考えると、経営者と部下との温度差が広がる原因を探る手がかりがある。

 人数が少ない時はほぼすべてのメンバーと毎日コミュニケーションを取れていた。そのため、単純接触効果が働くとともに、仕事の話のみならずプライベートの話などをする中で、相手の人間的な側面についてもお互いよく知ることができていた。

 このような好意が生まれやすい状況で、今後、会社をどういう方向に持っていきたいかという目標を共有することで、類似性の法則が働き、近い温度感で働いてくれる「仲間」を作っていくことができる。

 しかし、人数が増えるにつれ、個々のメンバーとのコミュニケーションの量が減っていくと、「仲間」の関係を築く、あるいは維持することは難しくなる。

 その状態で人数が増えていけば、さらに経営者と個々のメンバーの距離は遠ざかり、「人間は知らない人に攻撃的、冷淡な対応をする」というザイアンスの法則が働くようになる。

 役員や部長といった経営者と比較的たくさんコミュニケーションを取る相手とは「仲間」の関係を維持できたとしても、人数の増加に伴い冷めているメンバーの数が多数派になると、会社の雰囲気は冷めている方向に持っていかれる。

 ここでこんな疑問が生まれるかもしれない。

 経営者がすべてのメンバーと十分なコミュニケーションが取れなければ会社の雰囲気は冷めた状況にならざるを得ないのか、高い温度感を維持したまま人数を増やしていくことはできないのか。

 これは決して簡単なことではないが、不可能なことではない。


1日1回の声かけを辛抱強く実践

 経営者がすべてのメンバーと十分なコミュニケーションを取れなくとも、「仲間」となっている役員や部長がその下のメンバーと十分なコミュニケーションを取って「仲間」とし、その下のメンバーが更に「仲間」を増やしていくような展開を図ることはできる。

 そして、高い温度感で働くことが「当たり前」となれば、つまりそういう企業文化が根づけば、その展開は現実味を帯びてくる。そこまでの努力を高いエネルギーを持って継続的にし続けることが求められる。

 冒頭の悩みを話された社長にこの話をしたところ、従業員とのコミュニケーション不足を痛感されていた。

 そして、今のままではこの会社の未来はないと考え、意を決して1日1回はすべての従業員に声をかけるということを実践された。ただ、その実践は決して簡単なことではなかった。

 「自分はコミュニケーションが苦手でアドリブが利かないので、声をかけるネタ探しで苦しんでます。ネタが思いついたら部下ごとにエクセルにメモしています。こんなことまでしないと部下に話しかけられないんです。情けない社長ですね」

 部下ごとに話しかけるネタをエクセルにまとめる。これは時間も取られるし、非常に面倒くさいことでもある。

 しかし、それでもそれをコツコツと実践していくことは、今のこの会社にとって社長がやるべき重要な仕事であることを伝え、エクセルなしでも話しかけられるようになるコミュニケーション能力を少しずつ養っていきましょうとお伝えした。

 継続して努力すれば、そういったコミュニケーション能力は身についていく。

 加えて、社長はこう話された。

 「部下への話しかけを実践する中で、お互いに人間的な側面はほぼ分からないという部下がたくさんいることに気づきました。自分はそういった部下のことを知らず知らずのうちに作業する機械のように扱っていたんでしょうね。そんな社長のために熱意を持って働こうなんて気持ちにはならない。だから、冷めたメンバーが増えていくのも当然ですよね」


増えてきた「仲間」と呼べる部下

 この社長は今でも部下に対する話しかけを実践し続けている。そして、今ではそれぞれの部下の人間的な側面についてもずいぶん理解が深まり、エクセルにメモすることなく全員に話しかけられるようになった。

 少しずつ「仲間」と呼べる部下が増えてきた。それとともに冷めている雰囲気も少しずつ改善されてきた。

 こういった社長個人の成長が組織の成長となって実現していく。そんな状況を目の当たりにすることに、私はこの上ない喜びとやりがいを感じる。

 多くの経営者は会社の規模が一定の規模になると、同じような壁にぶち当たる。そして、そこで「経営は人である」ということを痛感される。

 その壁を乗り越えて、組織として長期的な成長を遂げられるかどうかは、経営者と従業員が、そして従業員同士が十分なコミュニケーションのもと、人間対人間の関係をしっかり作っていけるかどうかにかかっていると言っても過言ではない。

筆者:藤田 耕司

JBpress

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