衝撃、中国人の7割が武力による台湾統一を支持

6月17日(木)6時0分 JBpress

 主要7カ国首脳会議(G7サミット)は6月13日に共同宣言を出して成功裏に終了した。

 その共同宣言において「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」と中国に注意喚起している。

 この文言は菅義偉首相とジョー・バイデン大統領が欧州諸国の慎重論を押し切って盛り込まれたものだという。

 G7サミットで台湾海峡に関する宣言が出されたのは初めてであるが、この宣言に対して台湾政府は、「台湾海峡の平和と安定を重視するための具体的な行動を取ったことを大いに歓迎し、心から感謝する」とコメントしている。

 このエピソードは日米台の近年まれにみる親密さを象徴している。

 一方で、中国当局はこの宣言に激怒し、台湾統一について決意を新たにしているであろう。

 香港に引き続き台湾までも中国の力に敗北してしまえば、民主主義陣営にとって大きな打撃になる。

 特に台湾に隣接する我が国の安全保障や経済などに非常に大きな悪影響を及ぼすことになるだろう。

 本稿では、中国による台湾の軍事統一が絵空事ではなくて、現実のものになっているという事実を伝えたいと思う。


習近平主席の台湾統一への思いは強い

 習近平主席の台湾統一にかける意気込みは前任者たちとは違う。

 彼は、中国の夢である「中華民族の偉大な復興」の完成のためには台湾の統一が不可欠だと思っている。

 例えば、2017年には「完全な国家統一は中華民族の偉大な復興を実現するために不可避な要件である」と表明している。

 中国の指導者たちにとって、主な関心事は台湾軍事侵攻のコストではなく主権である。

 彼らはいつも自分たちのものだと信じるもののために戦う。そして中国が米国を打ち負かした場合、中国がアジア太平洋における新たな支配的勢力となれると思っている。

 中国にとって、台湾の平和的な統一を実現できれば理想的だが、言うは易く行うは難しい。

 そのため、習近平主席は、台湾併合のためには軍事力の使用を含むあらゆる手段を排除しないと明言している。

 その軍事的統一の裏付けが2015年末から習近平主席が主導してきた人民解放軍の大改革である。

 軍の大改革の主目的は台湾軍事統一に不可欠な米軍のような統合作戦能力を獲得することである。

 習近平主席は、台湾有事について、やり方によっては米軍に対抗できると思っている可能性が高い。

 彼が狙っているのは、米軍の対応ができない方法で奇襲的に台湾を占領することであろう。

 フォーリン・アフェアーズ2021年7月/8月号の「台湾誘惑:なぜ北京は武力行使に訴えるのか」という論考*1によると、中国の軍事力の増強を背景に、習近平主席のみならず、軍事関係者、メディア、一般国民も台湾の軍事統一に同意しているという。

 以下はその要約だ。

 退役軍人の中には、中国が待つ時間が長くなればなるほど、台湾を支配することが難しくなると公に主張する者もいる。

 米中関係の緊張が高まる中、環球時報などの中国国営メディアは中国の軍事力を称賛する声を強めている。

 環球時報は4月に軍事専門家の話として、「人民解放軍の演習は米軍等に対する警告だけではなく、台湾を統一するための実戦的な演習である。中国が侵略を選択した場合、台湾軍にはチャンスはない」と報じている。

 世論調査、例えば環球時報の調査によると、大陸中国人の70%が武力による台湾統一を強く支持しており、37%の人が3年から5年以内に戦争が起きた方が良いと考えている。

 共産党内部の穏健派でさえ、軍事統一を求める声が広がっていることを認め、自らも中国指導部に対して軍事行動を推奨しているという。

 特に習近平主席の軍事顧問が台湾の軍事統一は許容可能なコストで可能であると自信を持っている点には注目すべきである。

 この過信とも言える自信が台湾有事勃発の可能性を増大させている。

*1=Oriana Skylar Mastro, “The Taiwan Temptation: Why Beijing Might Resort to Force”, Foreign Affairs.com, June 3,2021,July/August 2021


台湾有事、中国有利は誤認識

 中国の軍事関係者は、台湾付近での米中の軍事バランスは中国が有利であると誤認識している可能性がある。

 この中国側の誤認識こそが危険で、台湾紛争の原因になりうる。

 私は、台湾有事における米軍と台湾軍対中国人民解放軍の軍事バランスは中国人が思っているほど中国側に有利だとは思っていない。

 その意味で、中国の台湾武力統一に関するこのような過信をさせないことが非常に重要だと思っている。

 中国が近年、統合作戦能力を大幅に向上させてきたことは誰もが認めるところであり、異論はない。

 しかし、台湾有事において、本当に解放軍が米軍と台湾軍の連合軍に対して勝利を収めるか否かについて、私は中国側の認識に同意できない。

 習近平主席の人民解放軍改革は、戦略支援部隊の新編などにより、中国の宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦の能力を向上させた。

 例えば、電子戦を使い米軍の早期警戒システムの機能を不全にすることも考えられる。サイバー攻撃により、重要インフラに局地的かつ一時的な破壊的影響を及ぼす可能性もある。

 弾道ミサイルや巡航ミサイルを含む中国の攻撃兵器は、数日のうちに西太平洋の米軍基地を破壊する可能性がある。

 結局のところ、中国が武力を行使するかどうかという問題は、中国指導部の勝利の可能性に対する認識にかかっている。

 中国の軍事アナリストや政治指導者が、「人民解放軍は、台湾をめぐる米国との軍事的衝突に対して十分な準備ができている」との自信を示すようになっていることは悪いニュースである。

 中国の戦略家は米国の全般的な軍事的優位性を認めているものの、中国は台湾により近く、米中の力の均衡は中国に有利に働くと考えるようになっているという。

 しかし、実戦と訓練は違う。実戦経験のない解放軍が簡単に実戦経験豊かな米軍に勝利するとは思わない。

 最近、米国のランド研究所などが実施した米中戦争に関するウォーゲームの結果がメディアに漏れ、「米国防省とランド研究所が最近行った軍事演習では、米中間の軍事衝突が米軍の敗北を招き、数日から数週間のうちに台湾全面侵攻が完了する可能性が高いことが明らかになった」などと報道されている。

 例えば、米国の国防ウエブサイト「Defense News」は、次のように伝えている。

「2018年に実施された南シナ海シナリオに関する米中戦争ウォーゲームにおいて、米軍はほぼ現在の戦力で戦ったが、記録的な短時間で大敗北を喫した」

「2019年に実施された台湾シナリオでは、米軍のインサイド部隊(第1列島線に配置された部隊)とアウトサイド部隊(第1列島線の外側から戦力を発揮する米海軍や米空軍など)の効果を比較する形式で行い、敗れはしたが、インサイド部隊とアウトサイド部隊の最善の組み合わせを考える資となった」

「これら2回のウォーゲームの結果を踏まえ、2030年を想定したウォーゲームにおいては、まだ具体化されていない装備等を含め、様々な施策を実施した想定で米軍戦力を準備した結果、米軍が解放軍に勝利した」

 これらの報道が中国人の誤認識の要因になっているかもしれない。

 ウォーゲームの内容が簡単に漏れること自体が問題であるが、それぞれのウォーゲームには目的があり、その目的のために編成・装備などの条件を変えて行う。

 その目的や条件を子細に分析しないと、報道されているウォーゲーム結果を鵜呑みにはできない。

 特に米軍や米国のシンクタンクは、予算を獲得するために、米軍が不利になるウォーゲームを行うことがあることを指摘しておきたい。


全領域戦=ハイブリッド戦

 中国は、台湾問題の最終的解決のために、台湾の完全な降伏を追求し、大規模な軍事作戦に着手する可能性がある。

 しかし、そのアプローチは、平時からあらゆる領域(戦う空間)で実施される漸進的なものになるであろう。

 何カ月にもわたってゆっくりと行われる中国の漸進的なアプローチは、米国が強力な介入をすることを困難にする。

平時の重要性と領域(ドメイン)について

 ここで、強調したいことは、以前は「平時」と思っていた期間は決して平和な時ではなく、情報戦、宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦などが普通に行われる期間だということだ。

 この考え方は、中国の孫子の兵法以来の伝統的な考え方である「戦わずして勝つ」という原則に通じるものがある。

図表1「様々な戦い」

 領域は戦う空間のことだが、「自然に存在する領域」と「人工的な領域」に区分することができる。

 例えば、陸・海・空・宇宙領域は「自然に存在する目に見える領域」で理解しやすい。

 一方、「人工的な領域」には、サイバー・情報・認知(cognition)・技術・政治・外交・経済・文化・宗教・メディア・歴史など多数の領域がある。

 特に人間の頭脳などを含む認知領域はヒューマン領域とも呼ばれ、最近非常に注目されている。

 各々の領域を舞台とする戦い(warfare)があり、陸戦、海戦、空戦、宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦などと呼称される。

 情報領域での戦いは「情報戦」だが、その中には政治戦、影響工作(Influence Operation)、心理戦など広範囲な戦いがある。

 認知領域での戦いは(認知において人間の脳をコントロールする意味で)「制脳戦」や「認知戦(cognitive warfare)」と呼ぶ。AI同士の戦いを「アルゴリズム戦」と呼ぶ。

 そのほかにも金融戦、貿易戦、外交戦、文化戦、宗教戦、メディア戦、歴史戦、技術戦、デジタル戦など多数考えられる。

 現代戦は、戦いの目的に応じて、各種領域における戦いを融合した形式で行う。以上のような考え方を表現すると図表1になる。

 つまり、目標を達成するために、あらゆる軍事的手段や非軍事的手段、目に見える手段と目に見えない手段を組み合わせて戦うということだ。

中国の台湾攻略は全領域戦になる

 中国の「戦わずして勝つ」を現代的に表現すると、欧米では「ハイブリッド戦」であり、中国では「混合戦」だが、私は「全領域戦」と呼んでいる。

「全領域戦」は、米国防省や米軍が最近主張している全領域作戦(ADO: All-Domain Operations)からヒントを得ている。

 米陸軍の作戦構想は、陸・海・空・宇宙・サイバー空間を主たる作戦領域とする多領域作戦(MDO: Multi -Domain Operations)だ。

 米国防省や米軍(特に空軍)は最近、多領域作戦を一歩進めた全領域作戦を提唱していて、その具体化を進めている。

 米軍の全領域作戦は軍隊が行う軍事作戦であるが、筆者が提案する全領域戦は軍隊のみならず、政府を中心として多くの組織が参加し、あらゆる領域(陸・海・空・宇宙・サイバー・電磁波領域・情報・認知領域など)を利用して行う戦いである。

 中国の超限戦は実は全領域戦と呼ぶべき戦いであるし、中国の台湾攻略は全領域戦にならざるを得ないというのが筆者の考えである。

 中国が一番重視しているのが情報戦(特に影響工作)だ。

 通常の民主主義国家の情報戦は、主として軍事作戦に必要な情報活動を意味する。

 しかし、中国は情報戦を広い概念でとらえていて、解放軍の軍事作戦に寄与する情報活動のみならず、2016年の米国大統領選挙以来有名になった政治戦、影響工作、心理戦、謀略戦、大外宣戦などをすべて含むものだと理解すべきであろう。

 解放軍にとっては情報戦が現代戦の最も基本となる戦いになる。情報戦を基本として、宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦などが存在する。

 中国ではこれらすべての戦いを担当する非常に重要な戦略支援部隊(拙著「中国人民解放軍の全貌」を参照)が存在することは全領域戦の観点で特筆すべきことである。

 戦略支援部隊は、解放軍の台湾作戦においても重要な役割を果たすことになる。


台湾有事に予想される軍事作戦など

 全領域戦を中国の台湾統一のケースに当てはめると以下のようになるであろう。

 第1の作戦は、最も重要な平時における作戦だ。あらゆる手段を使って平和裏に台湾を支配下に置く算段を追求するであろう。

 例えば、情報戦(政治戦、影響工作、心理戦、外交戦、核の威嚇)、破壊・転覆(サボタージュ、誘拐、要人暗殺、暴力的デモ、浸透工作)は常に行われるであろう。

 また、台湾はあらゆる分野(政治・経済・軍事・メディア・アカデミアなど)に大陸からのスパイが浸透しているので、情報戦や破壊・転覆活動は頻繁に行われると覚悟すべきだろう。

 そして現在、中国が日常的に行っている台湾周辺での海空戦力を中心としたISR(情報・警戒・監視)や軍事演習は台湾軍を疲弊させ、解放軍の軍事行動を既成事実化し、台湾を守ることができないことを世界に示す効果がある。

 第2の作戦は、封鎖作戦である。

 昔の封鎖作戦は、海や空のみの封鎖であったが、現代の封鎖作戦では、あらゆる領域における封鎖(使用拒否)を覚悟せざるを得ない。

 サイバー空間の封鎖はサイバー戦、電磁波領域の封鎖は電子戦、宇宙の封鎖は宇宙戦によって行われる。

 第3の作戦は、離島攻撃(東沙島・太平島・澎湖島)だ。これらの島を占領し、「離島を諦めるのか、奪回するのか」などの難しい決断を台湾政府に強い、台湾国内を混沌とした状況にさせる効果があるだろう。

 第4の作戦は、火力打撃(ミサイル攻撃、航空攻撃)だ。

 解放軍のミサイル攻撃と航空攻撃により、台湾軍の主要拠点を破壊するのみならず、あわよくば台湾の武装解除(当初は軍と政府、その後は市民)を狙った作戦であり、それによって台湾が中国の要求に従うことを強制する。

 第5の作戦は、最終的な作戦で本格的な着上陸作戦を行うであろう。

 その際に、中国は台湾への段階的な侵攻の一環として、最初に台湾の沖合いの島々に上陸する可能性はある。

 中国の視点から見た本格的な台湾侵攻作戦の魅力は、奇襲の可能性にある。

 奇襲が成功すると、米国は軍事的に対応することが難しくなる。この場合、米国大統領が中国への攻撃を承認することは政治的に困難になる。


おわりに

 中国指導部が台湾を攻撃するのを阻止するためには、習近平主席をはじめとする中国人に台湾を軍事統一できるという過信を抱かせないことだ。

 最終的には、台湾に対する軍事行動により、中国の夢である「中華民族の偉大な復興」が犠牲になることを中国指導部に理解させることだ。

 これを米国だけで実現するのは難しい。日本を含む米国の同盟国や友好国との連携が不可欠になる。

 中国による台湾軍事統一を回避するためにはやるべきことが多いと言わざるを得ない。特に、中国の第一から第五までの作戦への対処については、別の論稿を提示したいと思う。

筆者:渡部 悦和

JBpress

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