【スポーツメンタル】メンタルはスキルなのか?
2023年6月18日(日)11時0分 ココカラネクスト
スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。
「メンタルはスキルですか?」
という質問を受けることがあります。
本当にメンタルがスキルだとしたら、この世の中に「メンタルダウン」をする人がいないはずだと思うのです。
うつ病などの精神疾患の人にスキルを学ばせれば世の中の精神疾患患者は減っていくはずです。
それがなぜ減らずに増えるのか?
その私なりの理由をお伝えしたいと思います。
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メンタルスキルを持っていてもメンタルダウンする人がいるのは何故か?
2011年からスポーツメンタルコーチとして活動してきました。
昔は「メンタル」と言ってもピンとこない人が多かったです。
ここ最近では、数多くの場面でメンタルコーチやメンタルトレーナーの活躍が報じられるようになりました。
その中で様々なメンタル面における考え方がある事に気付きました。
その上で、「メンタルはスキルなのか?」とお問い合わせを頂くことがあります。
私としては数多くのアスリートを支え、科学的にも言えることが一つあります。
それは、「メンタルはスキルとは言い切れない」です。
つまり、「メンタルスキル」として捉える事でメンタルをよくしていける人もいれば、「メンタルスキル」を伝えてもメンタルがどうにもならない人が一定数はいるからです。
その最大の理由の一つに、「同じ人はいない」になります。
例えば、私たち日本人と欧米人では身体の作りが違ってきます。
骨格に限らず筋肉も違います。速筋繊維と遅筋繊維の割合が違うそうです。
さらには考え方も違います。個人主義の欧米人に対して全体の輪を重んじる傾向が日本人にはあります。
考え方の差は文化的背景や地政学的な背景もあります。
しかし、その中でも特に着目すべきは「遺伝子情報」です。
遺伝的な要素を抜きにして語れないことが多いのです。
例えば、一卵性双生児は一つの卵から2人の胎児が生まれます。
なので、遺伝子情報は限りなく似たものになるからです。
しかし、双子の性格は必ずしも一致するのでしょうか?
この分野について研究しているのが遺伝子学やパーソナリティー心理学になります。
遺伝的な要素も大切なのですが、それ以上にどんな環境で過ごしてきたか?
共有環境と非共有環境が重要になることがわかっています。
つまり、
どんな環境で育ってきたのか?
どんな人達が周りにいたのか?
どんな気候で過ごしたのか?
などが性格に影響してくるのです。
なので、環境面を無視したらメンタルはスキルだと言えます。
しかし、メンタルがスキルにならないのは環境から私たちは少なからず影響を無意識に受けるからです。
その環境に適応する為に私たち日本人が進化の過程で得たのがセロトニントランスポーターです。
脳科学的にとても重要なのがセロトニンです。
このセロトニンを届けるセロトニントランスポーターが日本人は遺伝的に欧米人との違いがあると考えられています。
セロトニントランスポーターとは?
”セロトニントランスポーター(serotonin transporter)遺伝子(SLC6A4遺伝子)において、日本人と欧米人の間には特定の遺伝的な違いが存在します。この遺伝子には、セロトニンの再取り込みを担うタンスポーターの遺伝子型に関連した多型があります。この多型は、セロトニンシステムの機能に影響を与える可能性があります。
最もよく研究されている多型は、5-HTTLPR(セロトニントランスポーター長/短多型)と呼ばれるものです。この多型は、5-HTTLPR遺伝子座のアレルの長さによって定義されます。長いアレル(Lアレル)と短いアレル(Sアレル)の2つがあります。
研究によると、一部の報告では日本人集団においてSアレルの頻度が比較的高いとされています。これに対して、欧米人集団ではLアレルがより一般的であるという報告もあります。
この5-HTTLPR多型は、セロトニンシステムの活性やセロトニンの再取り込みに関与するため、個人の行動、情緒、および精神的な特性に影響を及ぼす可能性があります。ただし、この遺伝子多型と個人の特性との関連性は複雑であり、他の遺伝子や環境要因も重要な役割を果たすことが示唆されています。”
メンタルをスキルで補う別の形を求めて
現代社会においては食生活などの急激なライフスタイルの変化によってメンタルダウンする人が増えました。
環境の変化によってうつ病になどの精神疾患に罹る確率が高くなっています。
また私たちを取り巻く環境においては、発展途上国よりも日本を含む先進国における精神疾患も多いと言われます。
自殺者だって先進国が圧倒的に多いのです。
だからこそメンタルをスキルとした場合に、個人ではどうにもならない環境からの影響を私たちは少なからず受けることがわかっています。
その上で、メンタルはスキルだと捉えることができる人は比較的に遺伝的にも環境的にも恵まれメンタルのスキルを学べる人たちに限られるのではないのか?と思うのです。
では、環境的にも遺伝的にも恵まれていない人はどうしたらいいのでしょうか?
そこで必要になるのが、メンタル面を改善に導く指導者、親御さんへの普及、さらにはメンタルコーチを増やしていく必要があると私は思っています。
私自身、うつ病を経験してます。
母親もうつ病を経験してます。
スキルではどうにでもならない世界を身をもって感じてきました。
知識を知っていても、変われない人はいます。
だからこそ、知識を伝えるのではなく寄り添える人を増やしていきたいのです。
メンタルスキルを必要としない、そんな社会を私は目指したいのです。
[文:スポーツメンタルコーチ鈴木颯人のメンタルコラム]
※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。
一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人
1983年、イギリス生まれの東京育ち。7歳から野球を始め、高校は強豪校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後の社会人生活では、多忙から心と体のバランスを崩し、休職を経験。
こうした生い立ちをもとに、脳と心の仕組みを学び、勝負所で力を発揮させるメソッド、スポーツメンタルコーチングを提唱。
プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。世界チャンピオン9名、全日本チャンピオン13名、ドラフト指名4名など実績多数。
アスリート以外にも、スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象にした『1人で頑張る方を支えるオンラインコミュニティ・Space』を主催、運営。
『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』など著書8冊累計10万部。