シャープと東芝、何が運命を分けたのか

6月18日(月)6時12分 JBpress

 シャープが東芝のパソコン事業を40億円で買収することになった。

 シャープも東芝も、会社存亡の危機に瀕していた。しかし、シャープは完全復活し、一方の東芝はまだ危機から立ち直れていない。その立場の違いを象徴する出来事が、今回のシャープによる東芝パソコン事業の買収だ。

 このような差はなぜ生まれたのか?

 大きな要因の1つに、危機に陥った時に他社との提携をどのように行うか、の経営判断の違いがあった。国際派、つまりグローバル提携か、国内派、つまり日本連合かの選択である。

 もっと具体的に言えば、「官民出資の投資ファンド」と言いながら実質的に経済産業省が監督する「産業革新機構」とどう付きあったか、の違いだ。


「技術流出防止」が東芝の足かせに

 2016年2月初め、危機的状況にあったシャープは、出資を争った2社のうち、「技術流出防止」を目的とする産業革新機構を蹴って、「グローバル競争」に展望が持てる台湾の鴻海精密工業を選んだ。

 対する東芝は、2016年10月に米国の子会社であるウエスチングハウス社の7000億円の赤字が表面化。その損失の穴埋めのため、儲け頭であった半導体メモリ事業を売却することを余儀なくされた。

 紆余曲折の末、売却先に選んだのが、米国ウエスタンデジタル(WD)、米国投資ファンドのベインキャピタル、韓国のSKハイニックスなどが出資する受け皿会社だ。そしてそこには「技術流失防止」を目的とし産業革新機構と日本政策投資銀行も一枚噛んでいる。

 このスキームには、「技術流出防止」のためにさまざまな仕掛けがなされている。SKハイニックスの議決権を10年間制限する、東芝とHOYAで51%の株式を持つ、産業革新機構と日本政策投資銀行は「指図権」を16.7%ずつ持つ——。ちなみに「指図権」とは、将来的に出資するとして、東芝が持つ議決権の一部を間接的に行使できる権利である。

 このように、幾重もの複雑な仕組みを駆使し、技術流出を阻止しようとしている。

 しかし、SKハイニックスは将来的には議決権を有するので「技術流出」のリスクは皆無ではない。またベインキャピタルはあくまで投資ファンドであり、3年後の新規株式公開を目指す方針を持っている。そのため短期的な利益確保に傾くリスクもある。「技術流出防止」にこだわったおかげで、売却のタイミングは遅れ、今後の経営判断にも多くの利害関係者の意向を無視できなくなる体制となってしまった。

 一方のシャープは、鴻海による買収後、不死鳥のように復活した。2018年3月期の連結決算では、売上高が前年比18%増の2兆4272億円、営業利益が44%増の901億円で、6年ぶりの復配も達成した。

 こんな劇的な復活がなぜ可能だったのか。

 その答えを探るべく、シャープが危機的状況にあった当時、買収に手を挙げた鴻海と産業革新機構が提示した支援案を整理してみた(図1)。

 鴻海と産業革新機構のスキームを比較してみると、最も重要な点は、「成長戦略」である。

 産業革新機構の案では、シャープの液晶部門とジャパンディスプレイ(JDI)を統合するという案であった。JDIとは、その設立当初、産業革新機構が70%出資して、東芝、ソニー、日立の液晶部門を統合した企業である。同種企業の「日の丸液晶連合」であり、規模を大きくすることによりコストを抑えるという「規模の経済」が中心で、成長戦略については不透明だった。

 これに対して、鴻海の支援案では、鴻海とシャープが同業ではなく補完関係にあることが明確になっている。ひと言で言うと、シャープは研究・開発に強く、鴻海は生産・販売に強い。このため、両社の強みを生かした「国際垂直分業」によりグローバル競争に展望を持てる。さらに、単なる分業だけでなく、お互いの長所を生かし共同で価値創造する「共創」が期待できる。

 今回シャープが東芝のパソコン事業を買収した理由は、シャープと鴻海の「国際垂直分業」と「共創」により、パソコン市場のグローバル競争でも十分な勝算があると判断したからに他ならない。


各段に上がったシャープのコスト競争力

 かつてシャープは、「メビウス」ブランドでパソコン事業を展開していたが、2010年に撤退している。この時はグローバル企業とのコスト競争に勝てなかったからだ。

 今回、東芝のパソコン事業を買収し再参入するわけだが、東芝本体が持つ中国・杭州のパソコン工場や欧米等の関連事業も継承することになる。

 シャープは今でもパソコンの開発技術を有している。さらに鴻海は、今や「世界のサーバの過半が鴻海製」と言われるほどの規模のメリットを生かし、安価に部材を調達することもできる。また、委託先からのコストダウンの要求に応じることで発展させてきた生産技術に強みを持つので、東芝から引き継ぐ杭州のパソコン工場の管理もお手の物だろう。

 つまり、かつてシャープが経験したようなコスト競争での敗北は考えにくい。

 また単なる「国際垂直分業」だけでなく、互いの長所を生かし共同で価値創造する「共創」も期待できそうだ。

 東芝のブランド「ダイナブック」は、かつてはノートブックPCでは世界トップに立っていたブランドである。ブランド価値は今でも高い。シャープ、鴻海、そして東芝の「国際垂直分業」と「共創」、さらに「ダイナブック」のブランドが加われば、パソコン市場ではかなりの存在感を示せることになるだろう。

 東芝のパソコン事業は2017年度に96億円の営業赤字だったが、シャープの戴正呉(タイ・セイゴ)社長は「必ず黒字化できる。1〜2年以内で黒字化して投資を回収したい」と語っている。その発言、決して大風呂敷を広げているわけではないのだ。


背水の陣で達成した「テレビ1000万台販売」

 ここで復活に至るまでのシャープの軌跡を振り返ってみよう。

 6年ぶりの配当にこぎ着けたシャープだが、2017年度で売上高および営業利益を最も増加させたのは、液晶ディスプレイ事業だった。売上高が前年比29%増、営業利益が前年比10.4倍と大きく増加している。これは、液晶テレビが、特に中国で好調であったためである。

 2016年9月に、シャープは、液晶で非常に挑戦的な計画を打ち立てた。2018年度の世界販売を、16年度見込み比で2倍の1000万台に増やすとしたのだ。シャープの液晶テレビは、2010年度に過去最高の1482万台を達成したが、その後は激減していた。1000万台は挑戦的な目標だった。

 シャープの液晶パネル工場は1000万枚の供給能力を持っている。亀山工場が稼働した時代は、自社液晶パネルを自社ブランド「アクオス」の液晶テレビに用いて、強みを発揮した。しかし堺工場が稼働すると、液晶パネルはアクオスの生産台数を追い越してしまい、液晶パネルを外部に売らざるをえない状況が続いていた。

 しかし、1000万台の液晶テレビを販売するとなると、シャープは自社生産の液晶パネルの全てを自社の液晶テレビに供給しなくてはならない。このため、それまでサムスンに供給することで一息ついていたパネルの外販を中止し、背水の陣で目標達成に臨んだのだった。

 この野心的な目標を達成する鍵となったのが、まさにシャープと鴻海の「国際垂直分業」だった。

 シャープは製造した液晶テレビを、鴻海の販売網をフル活用し、中国市場での販売台数を約400万台と倍増させ、ついに1000万台を達成したのだった。鴻海系の販社が主体となって安値攻勢で売場を確保し、中国メーカーからシェアを奪っていったのだ。


8Kテレビで挑む新たな市場開拓

 シャープは現在、さらに野心的な成長戦略に挑んでいる。高精細の8Kテレビの市場をシャープ主導で立ち上げようとしているのだ。

 8Kは、現在主流の4Kと比べ4倍の解像度、つまり画素数を持つ。8Kのテレビ放送はまだ始まっていないが、シャープは世界初の8Kテレビを2017年10月に中国に投入、日本では12月に販売を開始している。

 8Kテレビを市販するのは、世界を見渡してもシャープだけ。他社はまだ様子見の段階だ。NHKが、2018年12月1日に4Kおよび8K放送を開始する。これが8K液晶テレビの追い風になるのは間違いない。

 高精細の8Kテレビは、大画面であればあるほどデジタルハイビジョンや4Kに対する画質の良さが際立つ。

 鴻海が総額約1兆円を投じる10.5世代と呼ばれる大型液晶パネル工場が、2019年度には稼働する。8Kテレビを中国で生産し、コストダウンにより、中国市場を開拓しようとしているのだ。


アップルの逆張りで成功したシャープ

 シャープは、スマホ市場でも、従来の課題を解決し積極攻勢に出ている。

 2010年代になって、中国のスマホ市場が急拡大した。シャープはここで勝負に出た。シャープは復活を賭けて中国のスマホメーカー「小米科技(シャオミ)」に営業をかけ受注に成功、2014年3月期には3期ぶりに黒字を計上した。

 この黒字を叩き出せたのは、シャオミが、同社のスマホ用液晶の約60%をシャープに大量発注したからである。

 シャオミは、2010年に初の製品を投入してからわずか4年間で世界シェア3位に躍り出た「勝ち組」だ。シャープがシャオミから大量受注できたのは、液晶技術とブランド力、そしてなによりシャオミとの「すり合わせ」によるスマホ生産が可能だったからだ。顧客の要求に合わせて特注品を作る能力に秀でていたのである。

 ところが、期待していたシャオミからの受注は長く続かなかった。シャープとシャオミの間で、タッチパネル等を組み立てる台湾企業が経営破綻したことがきっかけだった。

 転じて国内市場を見れば、売り込み先はスマホメーカーでなくNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクといった通信キャリアだ。シャープは、これらの企業と「すり合わせ」で特注品を生産していた。

 スマホメーカーやキャリアとの「すり合わせ」による特注品の生産は、多くの特注機種を開発・生産しなければならない上、彼らの販売状況に大きく業績が左右されるという課題があった。

 この課題を解決するため、シャープは主導権を取りにいった。図2に示すように、2017年に大胆な機種整理を行い、国内のキャリアに同一機種、同一ブランドで供給することを決めたのだ。

 機種整理は、リスクの大きい戦略だ。顧客からの支持が必要条件で、支持が得られなければ失敗する。

 結果はどう出たか。

 シャープは、独自の低消費電力技術「IGZO-TFT」を用いて、ハイエンドモデルの「アクオスR」と、低価格モデルの「アクオスセンス」の2機種に整理したのだが、「アクオスセンス」が人気を呼び、国内メーカーでは珍しいSIMフリーモデル「ライト」も用意することになった。「アクオスセンス」は、3万円前後の価格帯ながら防水とオサイフケータイの機能が消費者に支持された。「有機ELを用いて高値でiPhone X売る」というアップルとは逆の戦略だったが、これが奏功したのだった。

 その結果、2017年度のシャープのスマホを含めた携帯電話端末の国内出荷台数は、前年比4割増しと大きく躍進、ソニーを上回り国内2位に浮上した。

 さらに、2018年夏モデルとして、「アクオスR2」を投入する。「静止画用」と「動画用」2つのカメラを搭載しているのが大きな特徴だ。動画の撮影中に、静止画用カメラで静止画を撮ることも可能になる。SNSユーザーをターゲットとした機能だ。

 アップルへの挑戦状でもある。シャープおよび鴻海は、顧客に左右されない、顧客依存度を低下させるビジネスモデルへの転換を目指している。「アクオスR2」の戦略が、グローバルに展開されるか注目される。


シャープは「経費削減」の次の段階へ

 鴻海グループの副総裁も兼ねる戴正呉氏は2016年8月に社長に就任してから、まずはスピード経営と「経費削減」によって経営を立て直してきた。「経費削減」が最も早く効果が出るからである。

 しかし、シャープは「経費削減」を主な戦略とする時期はもう過ぎた。液晶テレビ、スマホ事業で積極的戦略に転換し成果が出ている。さらに今度はパソコン事業にも打って出る。

 鴻海の支援が決まった直後から私が予測していた、「国際垂直分業」と「共創」による価値創造が実を結んだ結果と言える。

 シャープは、2018年6月20日に、堺市の本社で株主総会を行う。戴社長の見解表明が注目される。

筆者:中田 行彦

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