「農業ビジネス」参入企業の8割が失敗してしまう理由

6月18日(土)7時0分 NEWSポストセブン

農業をビジネスに育て上げるのは容易ではない(写真:アフロ)

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 6月15日、メガバンクの三井住友銀行が、秋田県の農業法人などと新会社を設立し、米の生産を開始すると発表したように、いま、“畑違い”の異業種から農業にチャレンジする企業が急増している。


 NTTドコモ、小田急電鉄、スズキ、日立キャピタル、JR九州……こうした大企業のみならず、地方の中小企業でも新規ビジネスの要として農業を掲げるケースが相次いでいる。参入企業数は1898社(2015年6月末)。2008年は400社あまりだったので、7年間でじつに4倍以上に増えた。


 なぜ、異業種がこぞって農業を始めるのか──。大きなきっかけは2009年、さらに今年4月に改正された農地法により、農作業従事者の数や農地を所有できる法人の要件が大幅に緩和されたことにある。つまり、本格的な農業ビジネスのハードルが低くなったわけだが、「自社都合」で足を踏み入れる企業も多いという。


 農業参入コンサルタントで、農テラス代表取締役の山下弘幸氏が話す。


「いま、団塊の世代より下の人たちも次々と定年ラッシュを迎え、従業員に再雇用の場を提供したいと考える企業は多いですし、30代、40代の子息を持つオーナー経営者の事業継承も盛んに行われています。そんなとき、既存のビジネスだけでは過当競争に陥って生き残れないかもしれないと危機感を募らせる中で、にわかに注目を浴びているのが農業です。


 農業は国も力を入れて改革に乗り出している分野。そのうえ今後はTPP協定の影響で国際競争力も激化してきます。国内マーケットだけでなく、世界の農業がボーダーレス化することで、逆に伸びしろのある産業だと期待する向きが多いのです」


 しかし、〈人もカネも余っていて、何となく儲かりそうだから〉などと安易な理由で参入して成功するほど農業は甘くない。山下氏によれば、「参入企業の8割はうまくいっていない」という。


 では、失敗する企業にはどんな共通点があるのか。山下氏に3つ挙げてもらった(以下、「」内は山下氏コメント)。


●3年、5年先まで辛抱できない


「農業は育てた農作物がお金に換わるまでタイムラグがあります。例えば、キャベツを栽培するにも種を撒く準備に5か月、収穫して販売するまでさらに5か月を要します。そして、実際にキャベツの代金が振り込まれたときには10か月分の設備費や人件費をペイしたうえで儲けを出さなければなりません。


 そんな緻密な資金計画や栽培計画を積み重ね、3年後にようやく事業の道筋が見えてくるものです。さらに、農作物の販路を拡大させてビジネスを軌道に乗せるまでには2年かかる。つまり、参入から5年先のビジョンや体力(資金)がない企業は、泣かず飛ばずのまま早期撤退を余儀なくされてしまうのです」


●社員が普通の「農家」になってしまう


「いまの農業は生産さえしていれば成り立つプロダクトアウト型のビジネスではありません。いくら鮮度がよく質の高い大根ができても、それを売るためには出口となる消費者に喜ばれるよう、プロモーションをかけてサンプルを出してと、マーケットインの視点がないと経営は長続きしません。


 ところが、これまで顧客第一でビジネスをしてきた企業でも、農業従事者になるとなぜか顧客や納期のことはすっかり忘れて、出来のいい農作物をつくることに集中してしまうのです。


 それは大手商社でも同じことがいえます。総合職の求人を出せば大卒で優秀な人材がたくさんエントリーしてくるのに、その商社が農業事業部や農業法人を立ち上げて募集をかけると、“農業”のキーワードに惹かれて入ってくる人ばかり。すると、会社の事業計画とはミスマッチな『おいしい大根づくり』が始まってしまうのです」


●“IT脳業”の本質をはき違えている


「現在の農業は機械化やIT化が進み、一度も田んぼに入ることなく米をつくることもできますし、オートメーション化で温度を一定に管理したり、台風の災害などに備えて最新の防護壁を設置したりするところもあります。農業から“脳業”への意識改革が行われていることは評価できます。


 しかし、農作物が育つ環境にばかりIT技術やお金を費やして利益が上がらなければ本末転倒です。農業ビジネスは1個のトマトをいくらで売るかではなく、〈半年の間に12トンのトマトを1200万円で納める〉といったスケール感です。いわば契約栽培という名の“先物取引”をしているわけです。


 そこで、トマトの鮮度管理よりも大事になってくるのが、タイムリーな情報です。農業のリスクヘッジはきりがないので、そこにIT技術を費やすよりも、「○月○日までのトマトの生産高は○トンになる」という収量予測を常に発信できる企業のほうが、マーケット側からの信用力が増し、次のビジネスに繋がりやすいのです」


──こうしてコンサルタントである山下氏のアドバイスを聞くと、「やっぱり農業は大変だから、参入するのはやめよう」と尻込みする企業が出てくるかもしれない。だが、山下氏は「奥が深いからこそチャンスがあちこちに転がっている」と話す。


「今後もトライ&エラーを繰り返して失敗する企業は増えてくると思います。しかし、勘違いしがちな農業の『本質』にさえ気づけば、一度失敗しても再投資で成功できる可能性は広がります。そうして10億、20億円のビジネスにしている中小企業だってたくさんいます」


 いずれにせよ、素早く成果を上げようと前のめりにならず、長い目で「農業ビジネス」を育て上げた企業だけが恩恵を受けられる世界といえるだろう。

NEWSポストセブン

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