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ソニーが"エレキ復活"を強調しすぎる理由

プレジデント社6月20日(火)9時15分
画像:平井一夫・ソニー社長兼CEO
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平井一夫・ソニー社長兼CEO
業績の浮き沈みが激しかったソニーが変わりつつある。平井社長は、今期の営業利益は過去2番目の高水準となる5000億円を見込み、来季以降も継続して稼げる体制になっていると強調する。だが、その復活は本物なのだろうか。元ソニー社員でジャーナリストの宮本喜一氏が問う——。

■金融、プレステが利益を稼ぎ出す



平井一夫・ソニー社長兼CEO

5月23日、品川のソニー本社で開催された同社17年度経営方針説明会の冒頭、ソニーの平井一夫社長兼CEOはエレクトロニクス・ビジネスが好転し、今後継続して利益の出せる体制へと復活したことを強調した。


その復活の象徴として挙げたのがテレビ事業だ。2004年度から10年間で累計8000億円の赤字を計上していたが、2014年度には黒字転換。この年以降3年連続で黒字となり、昨年度の利益率は5%を確保した。高付加価値製品への転換を進めた結果、テレビ一台あたりの単価は、2014年度5万7000円だったものが2017年度には1万円改善し6万7000円へと上昇する見通しだという。


これまでソニーの連結営業利益は1997年の5257億円が過去最高だった。平井社長はこの説明会で、今期の連携営業利益5000億円の達成について「通過点にすぎず、持続的に発展していきたい」と述べ、継続的に5000億円規模の利益を稼いでいくことを強調した。


周知のように、ソニーの業績はこれまで激しい浮き沈みを繰り返してきた。5000億円規模の利益を連続して稼ぎ出したことはない。果たして今、平井氏のコメントをそのまま受けとって、「ソニーのエレキ事業は復活した」という評価をくだしてもいいのだろうか。


昨年度、実際の稼ぎ頭となっているセグメントがどこかを見てみよう。


稼ぎ頭の筆頭は金融セグメントで、その営業利益は1664億円。次いで1356億円を計上しているのがプレイステーションを核とする「ゲーム&ネットワークサービスセグメント」。この一方で、平井社長が強調するエレキ事業を担うふたつのセグメント、である「イメージング・プロダクツ&ソリューションズ(IP&S)」と「ホームエンターテインメント&サウンド(HE&S)」は、両セグメントを合計してやっと営業利益1058億円。


これらの営業利益の数字に水を差しているのが、映画、コンポーネントの両セグメントで、両者合計の赤字額1409億円。これは、エレキの営業利益では補いきれない金額だ。


こうした数字を見る限り、ソニー全体のビジネスを支えているのは、エレキよりも金融とゲームだと言ってもそれほど間違いではないだろうというのも(両セグメントの売上高は合計で2兆7373億円、同社の全売上高7兆6033億円の3分の1強という計算だから)、売上規模が全体の3分の1を占めるセグメントで残りの3分の2の事業を支えていることになるからだ。


今回の経営方針説明会は、「金融とゲームという印象を避け、エレキの存在感を際立たせたい」というのが、その目的だったのではないか。こうした受け止めをしたのは筆者だけなのだろうか。でなければ、平井氏が冒頭でテレビ事業の"黒字転換"を訴えるようなこともないだろう。



■「ソニーは規模ではなく、違いを追求する」


エレキの黒字転換を強調しながら、平井氏が背後にある大スクリーンに、昨年の同説明会で使用したソニーの設立趣意書のスライドを再度、大きく映し出していた。そこには「原点へのチャレンジ」とあった。つまり、テレビの黒字転換の背景には、彼らが原点へのチャレンジに務めた結果という含意がある。


平井氏が意図するように、原点へのチャレンジによって、果たして現在のテレビ事業は進化発展し、再びソニーの稼ぎ頭になるのだろうか。


ソニーは、テレビ事業のコスト削減のため、パネルを他社から調達する方針に転換している。5月8日に発表した65型と55型の有機ELテレビ(A1シリーズと呼ぶ)に採用したパネルも、この方針に従い韓国のLGから外部調達している。もともとソニーは業界ではじめて有機ELパネルを開発、製品化した企業だ。今から10年前、2007年に発売した11型の「XEL−1」は大きな話題となった。ところがその後、同種の製品の展開は見られなかった。これとは対照的に、LGは大型の有機ELテレビの開発に取り組みつづけた。そして2015年には、業界で初めてパネルサイズ55型という大型の有機ELテレビを日本で発売している。ソニーが調達したのは、そのLGが製造した有機ELパネルである。


ディスプレイパネルはカラーテレビの基幹部品中の基幹部品だ。平井氏は有機ELテレビ製品化の説明の中で、こんなコメントをしている。


「ソニーは規模ではなく、違いを追求する」


テレビの世界でもソニーは違いを追求し続ける、違いを生む能力があるのだ、というのがテレビ事業に対する姿勢の説明だった。だから"テレビ事業は、分社化はしてもソニーから切り離すことはしなかった"と付け加えた。同時にこの説明の中で、テレビとは反対にソニーから切り離す決断をした対象の事業として、パソコン事業「VAIO」をあげている。VAIOを切り離した理由については「(製品としての)違いを追求するのが非常に難しかったから」と語った。



■基幹部品を自社開発したから成功した



このコメントに筆者は、平井氏独特のレトリックを見る。


素直に考えれば考えるほど、基幹部品を外部調達すればテレビの違いを追求するのはそれほど簡単ではない。供給元も同種の製品、つまり競合品を開発し市場投入する場合、その供給元が打ち出してくる製品を凌駕しようとするそのハードルはさらに高くなる。


乱暴な議論を許していただければ、ソニーは基幹部品を自社開発製造することによって"違い"を追求してきた。その成功体験も枚挙にいとまがない。たとえば、テレビの例を挙げれば、1968年に完成した「トリニトロン」だ。これはソニー独創のカラーブラウン管で、ソニーの創業者の一人で、くだんの設立趣意書を書いた井深大が、あまりの開発費負担にソニー自体が音を上げそうになったとき、私財を投げ打つ覚悟すら示してこだわった画期的な製品だった。この「トリニトロン」は大ヒットし、ソニーが小型の音響機器メーカーから映像機器も手がけるエレクトロニクス・メーカーに発展する礎になった。


実は、1979年に発売された「ウォークマン」もまた、トリニトロン同様、基幹部品の自社開発によって成功した製品だ。一般的には携帯型のテープレコーダーの機能に創意工夫を施したことによってヒットした製品と解釈されている。しかし、実際には性能・機能面で画期的な技術開発が行われていた。具体的には、3V(乾電池2本。それまでは6V、乾電池4本必要だった)で動く駆動用モーターと集積回路を独自開発・製造したことで成立した製品だった。この事実はあまり語られてこなかった。


この画期的な技術に支えられていたため、他社が簡単に対抗できず、おかげでウォークマンは発売から2年間ほど、独走状態が続いたのだった。さらにこのときステレオヘッドホン用ミニジャック・ミニプラグも初めてウォークマンのために開発している。これがそのままで世界の業界標準になり、その後のポータブルオーディオの発展に貢献し現在まで続いている。こうした事実も、あまり語られることはなかった。


つまりソニーは違いを追求するために、本質的な基幹部品の開発に取り組んできた企業だったのだ。そして、それこそが井深の記した「設立趣意書」に込められた思いだったのではないか。



■消費者がソニーに期待するものとは


エレクトロニクス業界を取り巻く環境はもはやかつてのそれではない、と言われればそうかもしれない。ソニーの事業規模もまた、昔日のそれではない。とはいえ、 デザインの自由度が大きく、"液晶の次のディスプレイ"とも言われる有機ELというテレビの基幹部品を他社から調達し、その最終製品の違いを画像エンジンと音響に求めるという同社の姿勢に疑問を抱くのは、筆者ひとりだけだろうか。


テレビ事業とは対照的に、違いを生むのが難しいとして切り離されたパソコン事業について、ひとつ付け加えておきたい。創業以来パソコンの最終製品の開発製造は自社の役割ではないとして、いわゆるハードウェアベンダーに委ねてきたマイクロソフトは、2012年から「サーフェス」というタブレットPCを実際に製造・販売している。マイクロソフトがあえて「違いを求めるのが非常に困難」という領域に参入しているのには、それなりの意図、勝算があるからではないだろうか。


もうひとつ気になることがある。有機ELディスプレイと同じく、かつて製品として存在しながら、現在の製品ラインアップから姿を消したものに、ロボットがある。昨年6月の経営方針説明会で、平井氏は「ロボットへの再参入」を明言した。しかし、誠に残念なことに、今年の説明会の席上、平井氏がロボット事業に触れることはまったくなかった。かつて日米をはじめ世界的に大きな注目を集めた独創的なロボット「アイボ」をつくったソニーに対して、次の展開を期待している人は決して少なくないはずだ。


平井氏はある記者の「ソニーは何会社なのか」という質問に対し、「ひとことで言えば、ソニーは感動会社」と述べた。そして、エンターテインメント、生命保険、エレキの各領域を通じて「消費者に感動を与えることが一番の上位概念」と付け加えた。


あえて付け加えれば、感動という言葉には一方通行のイメージがある。


しかしアイボは感動を与える製品だったのだろうか? 筆者は初めてアイボをみたとき、「感動」よりも「共感」を覚えた。一方通行ではなく、会話に象徴される双方向の感覚があった。今の消費者がソニーに期待するものも、そうした共感ではないだろうか。


(ジャーナリスト 宮本 喜一)

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