運転手が倒れた!完全自動運転バスだと何が起きるか

6月21日(金)6時0分 JBpress

商用車世界初、自動検知式ドライバー異常時対応システムを搭載した日野「セレガ」2019年モデル(筆者撮影、以下同)

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(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 高速道路に見立てたテストコースの直線路を走る大型観光バス。車内には筆者を含めてメディア関係者が30人ほど乗車している。すると、運転手が急に身体の調子が悪くなり、大きく姿勢が崩れた。

 運転手はハンドル操作が不能となり、バス全体が車線をはみ出してふらつき始めた。その時、車内天井の赤色灯が付き、乗客に異常事態を知らせた。

 それからすぐ、観光バスは車線内で自動的に軽く減速し始め、さらに強いブレーキがかかり完全に停止。後続車に対してはハザードランプを点灯して緊急事態を知らせた。


AIでドライバーの異常を検知

 これは、日野自動車が6月14日、同社の羽村工場(東京都羽村市)内で開催した最新安全技術試乗会でのひと幕だ。運転手が急に具合が悪くなったのは、緊急事態を想定した演技である。

 使用した車両は、大型観光バス「セレガ」の2019年モデル。自動検知式のドライバー異常時対応システムを商用車として世界初装備した。

 日野は、緊急時に大型観光バスを安全に停止させるシステムとして、2018年7月に「ドライバー異常時対応システム」(エマージェンシー・ドライビング・ストップ・システム:EDSS)を量産化している。運転手の異常を乗客が判断し、車内の天井部にある緊急ボタンを手動で押すことによってシステムが作動するというものだ。

 今回発表した最新モデルでは、運転手の異常をシステムが判断する。機械学習によるロジックを用いて、ドライバーの顔の表情や上半身の動きを車内カメラで検知するシステム「ドライバーモニターⅡ」である。

 その他、新開発の安全装置を、2019年モデルの中型、大型トラックに採用する。

 具体的には、見通しの悪い交差点で左右から進入する車両をミリ波レーダーで検知し、運転者に警告音で知らせる「サイトアラウンドモニターシステム」。車体の前面に装着した4つの赤外線ソナー、前方向けミリ波レーダー、カメラを用いて、アクセルとブレーキの踏み間違いに対応する「前進誤発進抑制機能」などだ。

 また、すでに販売されている車両について、警報装置を主体とした後付け装置の販売も今後さらに強化する。ただし、一般的に自動ブレーキと呼ばれる衝突被害軽減ブレーキの後付けについては、「新旧の制御システムの技術的なマッチングを十分に考慮する必要がある」(日野自動車技術幹部)として、導入に慎重な姿勢を見せた。


「ADAS」から完全自動運転へ

 日野自動車が導入を進める、事故を未然に防ぐための安全技術は、一般的に「先進運転支援システム」(ADAS)と呼ばれる。

 乗用車では軽自動車含めて広く採用され、経済産業省では「安全運転サポート車」(通称「サポカー」)として訴求しており、商用車についても今後はADASの標準装備が進む模様だ。

 日野自動車としては、中期経営計画「Challenge2025」の中で、2020年代に高速道路で死亡事故ゼロ、2030年代に一般道で死亡事故ゼロとすることを目指している。その目標を実現するための土台となるのが、「交通環境」「クルマ」、そして「人」が三位一体となった「トータルセーフティ」という基本概念だ。その中でクルマ(トラック、バス)については、ADASを拡充し、さらにその先の技術として自動運転に向かうとしている。

 ただし、いつ、どのように自動運転を達成するのかという具体的なロードマップは示していない。


課題は「通信」と「データ共有」

 トラックやバスの自動運転へのロードマップをなぜ具体的に描けないのか。その理由について、私見を述べたい。

 最も大きな課題は通信だ。道路インフラや他社車両との連携に相当な時間を要すると考えられる。

 自動運転技術は、レベル1からレベル5までの5段階に分けられている。レベル1と2はADASの範疇で、車載のカメラやセンサーを主体として自社の走行状況を把握し、そこに衛星測位や高精度な3次元地図が融合する形となる。

 それがレベル3になると、車両と道路インフラ、また車両間の通信が重要となる。通信はトラックやバスに限らず乗用車の自動運転においても必要不可欠だが、現時点で道路インフラとの協調について実証試験が始まった段階で、実用化に向けたコストを誰が負担するかなど、課題は多い。

 また、車両間の通信となると、位置情報だけではなくそれぞれの車両が持つ走行データを共有することが望ましい。トラックやバスの同業他社がこうした仕組みに同意するまでの道のりは長いように思える。

 国は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据えて、この6月から高速道路でのトラックの隊列自動走行の実証試験を開始する。2020年代の早い時期に実用化を目指すとしている。今回の試乗会では、「トラックの隊列自動運転実証実験にバスも加わらせてほしいという事業者の声があった」(日野自動車関係者)という。「トラック+バス」の自動運転を実現するためにも、通信インフラの整備とデータの共有問題の早期決着が望まれる。

筆者:桃田 健史

JBpress

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