「車好きの聖地」をどうするつもりなのか…大黒PAに「閉鎖命令」を出すことしかできない首都高と警察の無策

2024年6月21日(金)16時15分 プレジデント社

大黒PAに集まる外国人ら - 撮影=加藤博人

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首都高の大黒PA(横浜市鶴見区)が外国人観光客の集まる人気スポットになっている。彼らのお目当ては日本製スポーツカーとドリフト見物だが、首都高が禁止している迷惑行為が相次いでいるという。自動車生活ジャーナリストの加藤久美子さんがリポートする——。

■オープンから35年、「車好きの聖地」に


首都高の休憩施設「大黒パーキングエリア」(以下、大黒PA)は1989年9月27日、横浜ベイブリッジの開通とともにオープンした。バブル真っ盛りのころで、ベイブリッジ〜大黒PAはすぐに人気のデートスポットになった。


開通から1年を経ても周辺道路は週末になると大渋滞。首都高「新山下」ランプから入ってベイブリッジを渡り、大黒PAに入ろうとする車で大さん橋付近から数キロにわたって渋滞していたことを思い出す。


大黒PAに車好きが集まるようになったのは90年代半ば以降で、インターネットの普及とともに増えていった。90年代後半からはパソコン通信のネットワーク「ニフティサーブ」が運営する「フォーラム」と呼ばれるコミュニティが無数に存在し、車関係も車種別に活発なフォーラムが数多くあった。


愛車と一緒に仲間とリアルで集う「オフ会」が箱根や伊豆、房総半島など各地で開催されるようになり、その集合場所に大黒PAが選ばれることが増えてきた。やがて大黒PAそのものを目的地として集まることも増え、それが現在の「車好きの聖地」としての大黒PAにつながっていくことになる。


■集まりやすさは「海ほたる」より上


何しろ大黒PAは、東京・千葉方面からでも神奈川方面からでも合流して同じスペースに駐車できるので集まりやすい。


撮影=加藤博人
大黒PAに集まる外国人ら - 撮影=加藤博人

2020年にはK7(首都高速神奈川7号横浜北西線)と呼ばれる新しい路線も開通し、東名高速とも直結しアクセスが格段によくなった。なお、東京湾アクアラインにある「海ほたる」も千葉と東京の両方向から合流でき、Uターンも可能で車好きが集まる場所として人気があるが、駐車フロアが千葉方面と東京方面では異なるのがやや使いにくい。


■「輩」が増え、週末は閉鎖されるように


大黒PAは近年、土曜日は毎週、最近では金曜日の夜も閉鎖されることが増えてきた。駐車場が混んで爆音空ぶかしのランボルギーニなどの「輩」が増えてくると、大型車枠に止める改造車が増え始める。


撮影=加藤博人
ド派手な電飾で注目を集める改造車。PA内なら問題ないがこれで公道走行は違反となる - 撮影=加藤博人

この状態になると通報を受けて神奈川県警のパトカーが「追い出し」にかかり、最終的には「閉鎖」となる。なお、閉鎖で締めだされるのは一般小型車のみ。大型車は対象外だ。


撮影=加藤博人
PA閉鎖が始まると、首都高のパトロールカーが出動してPAからの退出を促す - 撮影=加藤博人

閉鎖といってもトイレやEV充電器の利用は可能で、その際、大黒PA内にあるローソンで買い物する程度は許されている。PA入口の係員かパトカーの警察官に告げれば中に入ることができるが通常の駐車スペースに停めることはできずローソン前のスペースに停めるよう案内される。


閉鎖時間は午後8時半ごろから長いときには翌日午前2時ごろまで続き、朝になって開放というケースも珍しくない。午後8時半ごろから閉鎖が始まるのは、午後9時に閉まるフードコートの営業に影響しないようにという配慮もある。


■日本車人気に合わせて外国人観光客が増加


大黒PAをオープンから35年見てきた筆者の印象だと、大黒PAに外国人観光客(以下、外客)が集まるようになったのは2016〜17年ごろからである。


それまでも、Yナンバーを付けた米軍基地所属の個人車両を見かけることは珍しくなかったが、日本に観光で訪れた外国人が大黒PAに増え始めた時期と、海外で日本車(JDM)人気が急拡大し始めた時期は重なっていると思う。


撮影=加藤博人
駐留する現役の米軍関係者やその家族が使う私有車を示す「Yナンバー」車両も多数。 - 撮影=加藤博人

JDMとは『Japanese Domestic Market』(日本国内市場)の頭文字で簡単に言うと、「日本オリジナルの車や車に関連する装備やグッズ類やルール」を意味する。「右ハンドル」に始まり、「前後オレンジ色のウインカー」(米国では後ろは赤が基本)や「サイドバイザー」「水中花シフトノブ」「車検ステッカー」に至るまで、日本独特の装備や仕様を総称した言葉だ。


狭義では、25年ルール(※)の適用によってアメリカに輸入が解禁された車のことをJDMと呼ぶ。


※25年ルール:製造年月日から25年が経過すると米国保安基準(FMVSS)の適用なく、右ハンドル車であっても米国への輸入が可能となる。


■スカイラインGT-Rは神格化された存在


JDMの人気は、映画『ワイルド・スピード』シリーズや日本製スポーツカーが多数登場するレースゲームの人気にも重なっている。


JDM人気が一気に拡大したのは、1989年に発売された日産スカイラインR32GT-Rが2014年に25年ルール適用で輸入解禁となったことだ。スカイラインGT-R(R32/33/34)は一度も正規で海外輸出されたことがなく、北米のJDMファンにとっては神格化された存在といっていいだろう。R32に続いてR33は2020年に、R34は2024年に解禁となった。それに合わせてスカイラインGT-Rの限定車には億を超える価格で取引される個体も存在する。


撮影=加藤博人
これらは3台とも外客に人気のレンタカー。このスカイラインGT-Rに乗って大黒PAに自ら運転してゆくことが海外の車好きにはぜひかなえたい「夢」なのである - 撮影=加藤博人

米国だけではなく今や世界中で、スカイラインに限らず80年代〜2000年初頭までの日本製スポーツカーが絶大な人気を誇っている。それらがたくさん集まる場所……ということでSNSなどを介して海外の車好きの間でも大黒PAが有名となり、コロナ禍以前から大黒PAに多数の外国人が集まるようになった。


撮影=加藤博人
「頭文字D」人気の影響もあり海外で大人気のマツダRX-7。日本国内での盗難も増えている。 - 撮影=加藤博人

■BBCの自動車番組も大規模ロケ


英国BBCなど海外の大手テレビ局も、何度か大黒PAで大規模なロケを行っている。2017年11月にはBBCの有名な自動車番組「トップギア」が100名以上のクルーを引き連れて大黒PAを拠点に数日間にわたってJDMを撮影していた。


取材許可を取っているのか首都高広報課に確認したが、どうやらこのロケは無許可で行われたらしい。


2017年11月、英国BBCの有名番組「トップギア」の司会者マット・ルブランと撮影

大黒PAに集まるのは日本車だけではない。フェラーリやランボルギーニ、ポルシェ……滅多にみることができないスーパーカーも間近に見ることができる。「日本に行くなら一度は大黒PAに行ってみたい!」と思う外国人が急増するのも無理はないだろう。


■塀をよじ登る、首都高上を歩く人が登場


大黒PAは原則として車以外の交通手段で訪れることはできない。タクシースタンドもバス停もない。多くは外国人向けの大黒PAツアー(おそらく未認可?)を利用するか、外国人でも貸してくれるレンタカーを使って自ら運転していくか、ということになる。


中にはタクシーで大黒PAの近く(一般道)まで来て、高い塀をよじ登って入る外客もいる。逆に何とかタクシーで大黒PAに来たものの帰りの足がない(タクシーを呼べない)ということで首都高上を歩いて非常口から出ようとする外客も存在する。


いずれも禁止行為であり非常に危険だ。そこで2023年に首都高は禁止行為をしてまで侵入しようとする外国人に向けて警告動画を出した。


今はどうなっているのか?


「現在も歩道から塀を乗り越えてPA内へ入ってくる事象は発生しております。違法行為を見つけた際は、警備員による口頭での厳重注意や警察への引き渡しを行っております。」(首都高広報課)


■なんとしてでもドリフトを見たい輩たち


もう一つ、外客絡みのトラブルといえば「ドリフト見物」である。これは大黒橋通りで夜な夜な行われるドリフト走行を見る行為である。こちらも、大黒PAを訪れる外客が増えてから悪質行為が増加した印象がある。かつて美しい夜景が望めた展望エリアは、近年、違法ドリフト走行を見物できる場所として人気を集めるようになってしまった。


ごくまれに通報を受けた鶴見警察署のパトカーが出向くこともあるが、動画などを見ていると警察はドリフト族から完全に舐められている雰囲気だ。大黒ふ頭内には一般の民家が存在せず、苦情が入りにくいという事情もあるのか。取り締まりがまったく追い付いていないようだ。


対策としてまずは昨年12月にブロック塀の上にフェンスが設置されたが、すぐにブロック塀の上に立ってみる人が続出。その後、コーンやテープで囲って立入禁止としたが、これも即刻突破し見物人が集まるように。ついには階段自体を大がかりに封鎖して2階の広場に上がれないようにしたが、それでもまだ横の隙間などから上がる輩が現れた。


撮影=加藤博人
ドリフト見物できないように階段下からバリケードを設置したが効果なし… - 撮影=加藤博人

結局、階段そのものの封鎖はやめて、再びフェンス周りをブロックしたのだが、ここもまたすぐさま突破されてなんと、屋根に上がって見る輩が多数登場したのだ。


撮影=加藤博人
屋根に上るドリフト見物客たち - 撮影=加藤博人

■首都高は「ドリフトへの対応が必要」


ホントに「いたちごっこ」が繰り返されているが、首都高ではこの状況をどのように考えているのか


「これらの行為の詳細な理由までは分かりかねますが、ドリフト行為を見たいという理由での行為であり、フェンスについても所管の鶴見警察署と調整の上設置しております。ドリフト行為については、PA外の一般街路で鶴見警察署の所管であり、状況改善のためには根本的な原因となっているドリフトへの対応が必要と考えます。


ドリフト行為がなくならない以上状況は改善されないと考えるため、今後も鶴見警察署と調整の上、対策を講じていきたいと考えております。」(首都高広報課)


■一番の被害者は「普通のドライバー」である


日本の車好き、世界の車好きが一度は訪れたいと思う大黒PA。筆者も都内で取材の帰りには必ず訪れる。爆音ランボや違法改造のバイク、危険でうるさいドリフトや大型車枠に平気でとめるスーパーカーなどは善良な利用者にとって本当に不快な存在だ。


撮影=加藤博人
大黒PAの「音響族」 - 撮影=加藤博人

しかし、警察の対応は「閉鎖命令」を出しまくるのみ。大黒PAを本当に利用したいドライバーが長時間閉鎖で利用できない(閉鎖中でもトイレや充電器の利用は可)のは連帯責任を取らされているのと同じだ。悪いヤツだけに厳しいペナルティを与えて追い出すわけにはいかないのだろうか?


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加藤 久美子(かとう・くみこ)
自動車生活ジャーナリスト
山口県下関市生まれ。大学時代は神奈川トヨタのディーラーで納車引き取りのバイトに明け暮れ、卒業後は日刊自動車新聞社に入社。95年よりフリー。2000年に自らの妊娠をきっかけに「妊婦のシートベルト着用を推進する会」を立ち上げ、この活動がきっかけで2008年11月「交通の方法に関する教則」(国家公安委員会告示)においてシートベルト教則が改訂された。育児雑誌や自動車メディア、TVのニュース番組などでチャイルドシートに関わる正しい情報を発信し続けている。「クルマで悲しい目にあった人の声を伝えたい」という思いから、盗難・詐欺・横領・交通事故など物騒なテーマの執筆が近年は急増中。現在の愛車は27万km走行、1998年登録のアルファ・ロメオ916スパイダー。
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(自動車生活ジャーナリスト 加藤 久美子)

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