ロンドン惨事は対岸の火事か 日本のタワマンに潜む欠陥性

6月23日(金)7時0分 NEWSポストセブン

タワマン居住者が尊敬される価値観は見直される?

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 6月14日、ロンドンのタワーマンションで大規模な火災が発生した。多くのメディアで報道されたので、あの衝撃の映像を見た人も多いはずだ。当然「日本でも同じことが起こるのでは?」という疑問も湧いてくる。


 テレビの情報番組などで防災や建築の専門家が解説していたのをご覧になった方はそれなりに納得されたと思うが、日本では建築基準法や消防法などによって防火構造に関する厳しい規制が設けられている。


 その規制が守られている限りにおいて、たとえタワーマンションの高層階で火災が発生したとしても、あのロンドンの建物のような激しい延焼は起こり得ない。火災はその住戸もしくはそのフロアの一画に閉じ込められることになっている。さらには、スプリンクラーも作動するはずだ。


 しかし、だからといって100%安心できるわけではない。


 例えば、東京近辺で直下型の大地震が発生したとしよう。激しい揺れによって火災が発生する可能性も高い。直下型の阪神淡路大震災では、同時多発的に火災が発生していた。


 当然、消防隊員たちは火災現場に駆けつけてくるはずだ。しかし、優先されるのは役所や学校、病院などの公共施設だ。直下型地震が起きた場合、東京都内には火災が発生する公共施設は何か所くらいあるのだろうか。23区の各区で4か所ずつ起こっても92か所になってしまう。この他に都下の市町村がある。


 タワーマンションは分譲と賃貸を合わせて首都圏だけでも30万戸に迫っている。1棟250戸とすると約1200棟。その5%で火災が発生すると60か所。そのほとんどが東京だと推定できる。


 当たり前だが、火災が発生するのはタワーマンションだけではない。板状型マンションや戸建て、木造アパート、オフィスビルでも火災が発生する。最悪の場合、東京の23区だけで同時に数百か所の火災が発生するかもしれない。


 東京都消防庁に所属する消防隊員は約1万8500名。地震時には死者や負傷者が多数出るから、救急救命に多くの人員が割かれる。自宅その他で休んでいる隊員を集めるにも時間がかかるだろう。さらに本部要員も必要だ。


 全消防隊員の3分の1が消火活動に出動するとして約6200名。1か所に30名が向かうと想定しても、約206か所の火災現場でしか消火活動を行えないことになる。


 いくらタワーマンションには厳しい規制によって延焼を防ぐ構造になっていようと、火災発生後何時間も本格的な消火活動が行われなければ、大きな火災へと発展する可能性は否定できない。


◆タワーマンションは建築工法・材料の壮大な耐久実験?


 タワーマンションがこれほど増殖した理由は1997年の建築基準法改正だと言われている。第52条6項に「建築物の延べ面積には、共同住宅の共用の廊下又は階段の用に供する部分の床面積は、算入しないものとする」という一文が加えられたのだ。


 さらに、2001年に発足した小泉内閣の「構造改革」によって、タワーマンションの開発が強力に後押しされた。その急増したタワーマンションが、この先次々と大規模修繕工事の適齢期を向かえることになる。ところが、そこにはタワーマンションならではの様々な問題が生じている。


 ひとつ言えることは、このタワーマンションという超高層の集合住宅の建築技術はまだ完成の域に達していないということだ。各ゼネコンが様々な工法を生み出し、各々の建築現場で採用してきた。言い方は悪いが、「試作品の山」みたいなものなのだ。


 例えば、タワーマンションは荷重を軽くするために壁や床にALCパネルを使用している。そのパネルとパネルの間やサッシュなどの開口部との接着面にはコーキング剤が使われている。このコーキング剤が劣化すると雨漏りなどの原因となる。


 どのコーキング剤がどれくらいで劣化するのかは実際のところよく分からない。あるいは、接着面が直接風雨にさらされないように外壁部分から後退させているのか、ガラスウォールのように剥き出しで露出しているのかによっても、劣化の速度が変わってくると考えられる。


 言ってしまえば、タワーマンションとは様々な建築工法や建築材料の壮大な耐久実験をしているようなものだ。


 だから、大手ゼネコンが大規模修繕工事を行うにしても、他社が施工した建物だとそもそもどうなっているのかよく分からないという。大規模なタワーマンションの修繕工事費用は数十億円にも上るが、施工を担当していないゼネコンに管理組合から見積もり参加の依頼があっても辞退するケースがよく見られる。その背景には、こういった事情があるのだ。


◆階数ヒエラルキーという厄介な副産物


 あの火災が起こったロンドンのタワーマンションは、低所得層が暮らす公営住宅だった。イギリスでは、ああいった高層住宅は「低所得者向け」ということになっている。イギリスの富裕層は日本のように高いところには住みたがらないのだ。


 アメリカでは富裕層が暮らすトランプタワー(ニューヨーク)のような超高層集合住宅もあるが、それは都心に住まねばならないほど忙しい人々向けの特殊な住形態、という捉え方が一般的だ。


 ところが、日本ではタワーマンションは「成功者の住まい」と見做されている。その一番の理由は、普通のマンションよりも価格が高いから。それを買えるのは一部の富裕層だけだ、という発想である。


 しかし、こういった表面的な見方の裏側には歓迎されない現実も潜んでいる。


 例えば、東京の湾岸エリアはほとんどが埋立地だ。タワーマンションがニョキニョキと立っている。価格は山手線内で買える築10年くらいの中古マンションと大差ないレベル。それらを買っているのは、主に地方出身者でITやその周辺産業の新興企業経営者や管理職が多い。


 彼らには自らの成功を、住んでいるタワーマンションの階数で世間に示したいというやや歪んだ発想があるらしい。2016年の秋に放送されたTBSドラマ「砂の塔」では、その階数ヒエラルキーをひとつの伏線としていた。


 同じ間取りでも、階数が高くなれば分譲価格も上がっていく。また、高層階と低層階では使用するエレベーターが分けられている。子どもを通わせる幼稚園に階数によって微妙に違ったり……タワーマンションに暮らすと、否応なくこれらの格差を感じずにはいられないのだ。


 私が聞いたところではノイローゼになって他所へ引っ越してしまったり、買い替えで徐々に階数を上げていく、といった笑えないエピソードがいくつもある。


 この問題は、どうにも解決しようがない。そういう厄介なことに巻き込まれたくなければ、タワーマンションには住まないことだ。世界的に見て、タワーマンションに住むということは必ずしも万人から尊敬されることではない。むしろ、今後は日本国内でもタワーマンションを巡るこれまでの「礼賛型」以外の価値観が浸透していくはずだ。


■文/榊淳司(住宅ジャーナリスト)

NEWSポストセブン

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