早くも中国征伐へ舵を切った米国

6月26日(火)6時12分 JBpress

北京の人民大会堂で並んで歩くドナルド・トランプ米大統領(右)と中国の習近平国家主席(2017年11月9日撮影)。(c)AFP PHOTO / FRED DUFOUR〔AFPBB News〕


1 史上初の米朝会談

 6月12日にシンガポールで開催された米朝首脳会談は、敵視する国同士のトップが直接会談するという歴史上稀なものであった。

 日本や米国をはじめ大半の評価は、中国・北朝鮮が勝って高笑いする一方、ドナルド・トランプ大統領は詰めを欠いた政治ショーを演じ、曖昧な決着で終わってしまい、将来に禍根を残したというものであろう。

 筆者も4月号の雑誌「Voice(ボイス)」において、北朝鮮が核を放棄するはずはなく、直接会談でトランプ大統領はこれを見極め、いずれちゃぶ台返しをするだろうと予想した。

 しかしトランプ大統領が苦しい記者会見をやっている姿とスカスカの合意文書を見せられた。

 一方、金正恩が北朝鮮に到着するや否や、「段階的に見返りを受けながら朝鮮半島の核を廃絶していく」ことを共通認識とし「体制の安全の保障を得た」と言うに至って、トランプ大統領は完敗したと感じた。

 また、筆者は昨年6月に中国を訪問し安全保障に関する議論をしてきたが、その時中国側の要人は朝鮮半島問題については「米朝が直接話し合い、北朝鮮は核とミサイル発射を凍結し、米国は米韓合同演習を凍結する、ダブルフリーズが必要」と述べていた。

 まさにその通りになってしまったと感じ、中朝のクリンチ作戦で、トランプ大統領の退場を待つ策略が功を奏したと失望せざるを得なかった。

 米朝会談前に筆者は、昨年暮れに北朝鮮を米国が殲滅することは「金の斧」、次に会談を破談にし、北朝鮮を殲滅することが「銀の斧」、米国ペースで会談が進めば「銅の斧」、そして北朝鮮ペースで進めば「鉄くずの斧」であると指摘していた。

 この前提は、北朝鮮対処は「前哨戦」であり「本丸は中国」だということで、いかに早く対中国シフトができるかが評価要素であった。前述の評価からすれば、結果は最悪の「鉄くずの斧」になってしまったということだ。

 一方、もしこれらの評価が正しく、朝鮮半島が平和に向かっていると感じているなら、それは大きな間違いであろう。

 平和に向かっていると言うのは中国の見解だ。よりによって韓国はこの時期に、米韓合同軍事演習(以下、「米韓演習」)は中止しても竹島防衛訓練は実施し、また、慰安婦問題を蒸し返している。

 文在寅大統領に代表されるように大多数が親北・左翼になってしまった韓国は、いずれ反日、反米、親中勢力として中国にのみ込まれていくだろう。

 10年先を見れば、しぼむトランプ大統領と米国を後目に、核を放棄しない北朝鮮といよいよ軍事的覇権を拡大する中国が合体して、否応なく日本は最前線に立たされることになる。

 このまま行けば、より厳しい状況が、早く出現するということだ。

 それへの備えと覚悟を訴える論調は日本にはほとんどない。核をも装備した自主防衛議論が出てきてもおかしくないのに皆無である。日本にとって安全保障とは他人事で、米国の責任だと思っているのだろう。


2 合点がいかない会談後の流れ

 さて前置きが長くなったが、このたびの米朝首脳会談の流れは実に不可解である。

 まず会談の開催をトランプ大統領がキャンセルした時の金正恩の驚きと、面子を重んじる北朝鮮が醜態をさらして会談を懇願したことは実に不可解だ。金正恩にはこの時期トランプ大統領に話さなければならない何か重大なことがあったのだろう。

 また、あの厳しい米国の訴訟社会で生き残り、不動産王と言われたトランプ大統領が、あんなスカスカの文章を容認するだろうか。記者会見を独りで実施したが、何を言われても平気で金正恩を持ち上げた。

 そして、金正恩は帰国後すぐさま勝利宣言だ。トランプ大統領にとっては、ICBM(大陸間弾道ミサイル)によって自国の安全が脅威に晒される北朝鮮問題は喫緊の課題である。

 とても米韓演習を中止するなどあり得ないし、中国を相手に貿易戦争などできるはずもない。なぜなら米国と北朝鮮は水と油ほど考え方が違うことから、いずれ米朝は決裂し軍事行動へと発展することは間違いないだろうと考えるのが普通だ。

 しかし、トランプ大統領は、米韓演習の中止を命じ、韓国に駐留する米軍も本国に戻したいと本音を漏らしてしまった。さらに、その後の主要スタッフの発言は、にわかに信じられないものがある。

 まず、韓国大使に任命された対中・対北朝鮮強硬派のハリー・ハリス前太平洋軍司令官は、米朝首脳会談で状況が劇的に変化したとして「北朝鮮が交渉に真剣かを見極めるため、米韓演習を『一時』中止すべきだ」「多くの米軍幹部が朝鮮半島より深刻な脅威となる中国への対処に資源を振り向けるべきだと考え始めている」と述べている。

 さらにジェームス・マティス国防長官は米海軍大学の講演で「中国は他国に属国になるよう求め、自国の権威主義体制を国際舞台に広げようとしている」「既存の国際秩序の変更が中国の宿願であり、他国を借金漬けにする侵略的経済活動を続け(一帯一路)南シナ海を軍事化している」「我々が中国に関与し、中国がどう選ぶかが大切」と述べている。

 また、マイク・ポンペオ国務長官は中国を訪問して、南シナ海での軍事拠点化に言及し「他国の主権を脅かし、地域の安定を損ねている」と指摘し、マティス国防長官と同じように、眼前の脅威だとしていた北朝鮮問題には一切触れていない。

 中国は北朝鮮の後ろ盾として影響力を行使することと引き換えに、貿易摩擦の緩和を狙ったが、米朝首脳会談の3日後には米国は中国への制裁関税を発表し、さらに追加制裁にも発展している。

 この裏には対中強硬派のピーター・ナバロ通商製造業政策局長の発言力の復活がある。

 これら一連の動きは、今年1月に発表された米国防戦略が指摘した「中国は地球規模で米国の主導的地位にとって代わろうとしている」「米国が最も重点を置くべきはテロではなく大国間競争だ」とし、中国を「主敵」としたその戦略の発動であり、いよいよ「本丸」への攻撃をまず経済から始めたということだ。

 しかし、そのような大転換をするには、北朝鮮が本当に安全保障上の脅威にならないという確信がなければできないであろう。

 それならば、北朝鮮に対する押さえは何か。その1つは、ハリー・ハリス氏の駐韓国大使への配置である。

 恐らくトランプ大統領は、ハリス氏を最も信頼できる右腕として、韓国、北朝鮮、中国北部戦区の目付役とし、情勢判断を委ねたのだろう。彼が危ないと判断したら、トランプ大統領はすぐさま北朝鮮壊滅の準備にかかるだろう。

 一般的に自衛隊・米軍とも人事異動は2〜3年なので、1年あるいは1年半で主要な幹部の半分は変わる。そのため米韓演習の中止期間は1年が限界であろう。特に今は太平洋正面の米軍の主要指揮官が交代しているので、動く時ではない。

 トランプ大統領も、「対話が中断すればすぐに演習を開始できる」と警告している。ポンペオ国務長官は、2年半以内に完全な非核化ができると言っているが、それでは次の大統領選挙には間に合わないし、軍事行動の再起動には問題がある。

 トランプ大統領がABCテレビのインタビューに答えて、「1年後に私は間違っていたかもしれないと言うかもしれない」と発言した意味は、軍事行動を起こすかどうかの見極めは、1年以内だということであろう。

 もう1つのカギは、近々ポンペオ国務長官と死神と恐れられるジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が北朝鮮に入り、米朝間の非核化に向けた詳細な協議を行うことだ。

 「死神」を受け入れる北朝鮮には並々ならぬ決意があるのだろう。

 ポンペオ国務長官は中国の動きも念頭に「北朝鮮の完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を要求すると述べ、北朝鮮との協議の場では核計画の全容を数週間以内に申告するよう求め、検証のため米国以外の関係国からも専門家を呼ぶとしている。

 そして非核化の中に核だけではなく、生物・化学兵器やミサイルなどを含めたと説明している。

 もし北朝鮮が公約通り、非核化に向けて目に見える形で具体的行動をとらなければ、1年以内、早ければ今年の暮れには北朝鮮に対する見切りをつけるだろう。そういう意味で、米国の軍事的選択肢はなくなってはいない。

 このように経緯をたどると、米国は北朝鮮問題は解決済みとし、すでに対中国へとシフトしたと見るしかない。なぜなのか。よほどの確信がなければそんな行動に出ることは無謀であり、ここまでの説明でもまだ不十分だろう。

 結局、米朝首脳会談では、文書化されていない重要な約束事があるのではないかという疑念が湧く。

 事実、ポンペオ国務長官は6月23日の米MSNBCテレビのインタビューの答え、金正恩は「完全な非核化をする用意がある」と発言した。

 12日の米朝共同声明に明記されなかった米朝間の取り決めに関し、詳細を明らかにしなかったものの、「合意した多数の原則があり、双方がレッドラインを認識している」とも述べている。

 そもそもトランプ大統領は従来の大統領と異なり、言ったことはやる男だ。

 もし、米国が北朝鮮の後ろ盾になってやると言い、金正恩一族の「体制の安全を保証」するから核を廃棄し、民主化でなくとも開国し、少しでも繁栄する国家に近づく気はないかと囁かれたらどうだろうか。

 危険だがトランプ大統領にとっては独裁者たる金正恩が生きている方が、はるかに体制変換は容易である。

 一方、金正恩にとっては、昨年来の米国による北朝鮮殲滅の意思と能力をいやと言うほど見せつけられた。本当に核兵器まで使うかもしれないという米国大統領を金正恩のみならず、我々も目にしていることを忘れてはいけない。

 中国の習近平国家主席が米国を訪問中にシリアをミサイル攻撃したことは、中国のみならず、北朝鮮にとっても大きな恐怖であったはずだ。

 抑止とは、実際に敵に勝てる意思と能力、すなわち、勝てる戦略と切り札となる装備と予算の裏づけがあって初めて有効になるものだ。従って、米国が北朝鮮を殲滅する意思と能力を見せつけた「金の斧」は無駄ではなかった。

 金正恩は戦わずして負けを認めたのだろう。どうせ負ける戦争で殺されるより、シンガポールで見た繁栄の一端を実現することに生き残りを賭けることは悪くないと思ったのかもしれない。

 金正恩は、一応核保有国になったことにより米国大統領を会談に引きずり出したことで、その時が来たと考えたとしてもおかしくはない。

 いずれにしても、北朝鮮は少し時間をもらい、体面を保ちながら核や化学・生物兵器を滞りなく廃絶に持っていく賭けに出たのかもしれない。


3 北朝鮮の後ろ盾は中国か、米国か

 このような見立てをしている論調はほとんどないが、何人かの論者が筆者と似た意見を持っているようだ。

 それぞれアプローチと観点は違うかもしれないが、この見方であれば合点がいく。平たく言えば、「米朝は握った」のである。

 その時に問題となるのが、中国の逆襲と北朝鮮内部の反乱である。

 まず、そんな北朝鮮の動きを中国は容認するのだろうか。答えはイエスである。

(1)そのような謀反の兆候を見て、中国は北朝鮮に対して軍事行動を起こさないだろうか。起こせないだろう。

 なぜなら、米国を悪者にしようと平和勢力のように振る舞ってきた中国にとって、米国に先駆けて軍事行動を起こすデメリットは計り知れない。そのうえ、米国の経済制裁のもう1つの意味は、中国に軍事行動を起こさせない匕首だからである。

(2)そもそも中国は北朝鮮を憎悪している。昨年の筆者の中国訪問における要人との対話では、「北朝鮮との同盟は変質した」と述べた。

 さらに、北朝鮮の核兵器は中国にも向けられているのではないかとの問いには「平壌を壊滅しなければならない」と吐き捨てるように語っていた。

 中国にとって核兵器などがない北朝鮮の方がむしろ望ましい姿なのである。核の廃棄を進めながら、米国の朝鮮半島からの撤退に結びつけばもっと有難い。

(3)たとえ北朝鮮が米国の経済支援などを受けても、地続きの中国の方が改革・開放の名の下に経済的な浸透が容易である。

 北朝鮮も改革・開放を隠れ蓑にする可能性がある。まして左傾化し反日・反米になりつつある韓国は御しやすく、習主席の方がトランプ大統領よりも長く政権に居続けられることから、いずれ朝鮮半島は中国の傘下に入るだろう、とほくそ笑んでいることだろう。

 もう1つは北朝鮮の内部の問題である。

 これは、体制変換を感じ取った親中派の軍部などが金一族を抹殺することや、自由を得てきた国民がルーマニアやリビアのように独裁者を抹殺することであり、この2つの可能性は大きいかもしれない。

 一挙に昔の北朝鮮に戻る危険性は否定できない。従って、軍事行動の準備は続けなければならない。まさに激動の朝鮮半島である。


4 対中に舵を切った米国、日本はどうする

 このような激動の中で、日本の政治は国内の些細な問題に囚われ、また、とても自由主義国家とは言えない経済政策の推進で、米国や世界の信用を失いつつあることに気づいていない。

 特に中国の「一帯一路」への協力は、トランプ大統領やインド・アジア地域の国々にとって裏切り行為でしかない。

 米国が台湾にも近づき、本気で中国征伐に乗り出したのに、中国の支援に回るとは利敵行為もはなはだしいとトランプ大統領は怒っているだろう。

 日本は中国の離間の計、すなわち日米の分断に自ら協力している。

 その怒りは、韓国と日本が核廃絶のお金を払うだろうという言葉に表れているし、日本に対する制裁関税の解除が遅れているのも、一緒に中国に立ち向かうこともなく、自らを守り切る防衛費も負担しないで笑って済ませようとする日本に対する皮肉であろう。

 米国の中国に対する制裁関税は、知的所有権への侵害に対するものである以上、日本も制裁に参加すべきではないだろうか。また、韓国からの米軍の撤退の希望は本心だろうし、止められない流れとなるであろう。

 米国は、中国に立ち向かうときには、日本は対馬が最前線になることを自覚し、少なくとも自らを守り切り、米国とともに中国に勝てる戦略の下に一緒に戦う覚悟を固め、行動することを期待しているはずだ。

 そうでなければ、やがて日本からも撤収するかもしれない。米軍が、未来永劫駐留すると考えるのではなく、日本を守るために米軍を引き止め、戦わせることを考えることがこれからは必要である。

 北朝鮮のミサイルにすら太刀打ちできない自らを恥じることなく、平和の配当を求め防衛費を削減しようとすることがあるならば自殺行為である。

 いずれにしても、朝鮮半島情勢は一気に流動化し、北朝鮮が米国と中国のどちらに振れようと、中・長期的視点からは日本にとって安全保障上、最も厳しい情勢になることは間違いない。日本は正念場に立たされたのである。

 そして、今年策定される新防衛大綱が手抜きであれば、日本の将来はないだろう。

 日本に求められることは、

(1)本気の対中作戦を考えた「脅威対抗の防衛力」への転換である。

 すなわち、防衛の必要性から、勝てる戦略(共著「日本と中国、もし戦わば」SB新書、中国の潜水艦を含む艦艇を沈め、国土・国民を真に守り切れる装備、態勢、米国を含むインド・アジア・太平洋戦略を提言)と切り札となり、ゲームチェンジャーとなる装備の開発・装備化、そして裏づけとなる十分な予算の配当が必要である。

(2)軍事は最悪に備えることが必要である。このため、アチソンラインが復活することを前提に、南西諸島防衛を手本として五島列島、対馬、隠岐、佐渡島、北海道へ至る防衛線を再構築する必要がある。

 トランプ大統領の、力による平和、力を背景とした外交の効果を理解し、また、日本の力のない外交では北朝鮮すら動かすことができない惨めさを理解したうえで、日本は自らの責任と自覚の下に、敢然と中国に立ち向かう日米同盟へと転換させることが喫緊の課題である。

筆者:用田 和仁

JBpress

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